だったら、♂だったら、何でしょうね?
どれほど西に歩いただろうか、砂の大地、無限に広がっているのかと見まがうほどの荒地を私は歩いていく。
寄り道を交えながら。フードの付いたマントを羽織って歩いていく。
ここは強風もよく吹くので、肌が荒れかねないので出来るだけ早く荒地を抜けたいのだ。
武術一辺倒でそこらへんに疎いと思われているかもしれないが。私だって妖怪といえども女だ。身なりは綺麗に、清潔にしておくに越したことはないし。汚れるのは少し気になってしまう。
まぁ、それも、元々住んでいた場所、人間達が建てた国で暮らしているときに同性の知り合いから良く言われていたことだ。
『貴女は美人さんなんだから、美容を気にかけないと損よ』
私が行きつけだった飲食店の気のいい女性から言われ続けた言葉だ。
そういうものなのかと当時は適当に考えていたのだが、今となるとすっかり美容ということの大切さに気付かされ、できるだけ欠かさず行うことにしている。
………人間というのは、やはり面白い。
妖怪で、昔はかなり尖っていた自分が、すっかり絆され、丸くなったなと感じてしまう。
私の人間に対する見方がかなり変わってきて、今では親近感すら沸いてしまう始末だ。
西へ向かう途中にも、行商人と思わしき集団と何度か接触し、人が多くおり、賑わっている都市の場所を教えてもらった。
オ………オス………なんとか帝国にあるらしい。
一先ず私はそこに向かうために歩き、今もなおその場所へ向けて歩いているのだ。
そんなこんなで、その後も何刻か歩いていると、荒地を抜け、建造物らしきものが見える。
なかなかの賑わいを見せている街であるようで、ここなら、情報収集も可能だろう。
情報収集の定番と言えば、酒場だろう。
そう当たりをつけた私は酒場へと向かった。
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酒場についた私は、店主と思わしき人物に近いカウンター席に座り、一息つくためにまず一杯注文する。
あちらの国では、注文しない客は忌避する傾向にあり、その状態ではまともに情報すら入手することが出来ない。
『注文しないなら出て行ってくれ』
そんな頑固気質な店主が多いのだろう。私の偏見だからどうとは言えないが。
「店主さん、このあたりについて何か教えてもらえませんか?」
そう私は店主に何げなく聞いてみる。
「このあたりについて?なんだお客さん、ここら辺は初めて来たのかい?」
「ええ、東の方からここに歩いてきたのですが、如何せんあまり、このあたりを良く知らないんですよ」
「へぇ、東の方からかい、たった一人で来るなんて大した物好きな人だねぇ」
愛想を交えて親し気に相手に接する。容器に酒を入れながら店主はそう言う。
「そしたら、何しに西まではるばる来たんだい?」
そう、私の目の前に一杯の酒を出しながら店主はそう言う。
「少し、観光の為ですかね」
嘘だ。 本当は強敵と戦いたいがためという理由ではあるが、理由が理由なので伏せておくことにする。
「観光の為に来たのかい、そいつはいい。じっくり楽しんできてくれや」
そう店主は人好きのする笑顔でそう言った。
「夜に出歩くのはあまりお勧めできねぇな。ここらへんにも吸血鬼が出るっていう話だ。」
でも、と付け加えて店主は言った
「吸血鬼?」
「おうよ、人間の血を吸う危険なバケモノさ。嬢ちゃんも気ィつけな。嬢ちゃんみたいな若い娘っ子の血が好みらしいしな」
………なんだその変態種族は。
いや、違う。
『吸血鬼』
初めて聞く種族だ。恐らく人間ではなく、私と同じ妖怪の類なのだろう。
しかし、まったく聞き覚えのないその単語に興味が沸いてきた。
「店主、吸血鬼について、他に知っていることは無いんですか?」
「ああん?ああ、翼が生えてて、空を飛ぶ。力は怪力でなんでも持ち上げちまう。身体能力は人間を大きく超えて、人間の目には捉えられない素早さだそうだ」
「へえ………。人間には太刀打ちできないんですか?」
さらに私はそう自然に質問を投げかける。こうして、新たな情報を聞き出す。
「いんや、吸血鬼にも弱点があるそうで、太陽の光に弱いだとか、聖なる力を恐れるだとかあるそうだ。銀製の武器にめっぽう弱いそうで、それで吸血鬼を殺したなんて話もよく聞くな」
………。銀製の武器に弱い。それで、よく人間に殺されている。
しかし、怪力で素早く、空を飛ぶ。
ますます、不思議な種族だ、吸血鬼。
「いや、でもな、嬢ちゃん」
吸血鬼について思考を重ねていた私に思い出したように声をかける店主。
「いいか、嬢ちゃん。ここから、北西に進んだ先に、険しい山があるんだが、そこを超えようなんて考えんなよ?あそこは何でも強大な吸血鬼が紅魔城っていう所で暮らしてるんだ」
「強大な吸血鬼ですか?」
神妙そうな顔でそう言う店主。強大な吸血鬼という言葉に惹かれ、咄嗟に答えてしまう。
「ああ。その吸血鬼のことなんだがな、………。」
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私は今、険しい山々を登り、目的の場所に向かっている。
場所は『紅魔城』なる所、そこに突然現れた強大な吸血鬼『レミリア・スカーレット』がいるらしい。
『レミリア・スカーレット』
酒場の店主が言うには、これまでの吸血鬼とは違ってどのような武器を用いても身を貫くことが出来ない。
吸血鬼の中でも一際格が違うことで有名らしい。
これまでに何度もレミリア討伐を目的とした討伐隊を結成するも、どの部隊も即座にレミリアによって壊滅に追い込まれている。
しかし、人間が恐れている吸血鬼の中でも最も恐れられているレミリアなる存在に興味が沸かないはずがなかった。
どれほどの腕前の者か。
これまで戦ってきた者達よりも強敵である可能性のある相手に少しばかり高揚を覚えながら、山々を登っていく。
吸血鬼の判別は紅い眼、それと翼である。そして朝には出没せず、夜行性らしい。
であれば、夜に紅魔城へ伺うのが筋だろう。それであったら善は急げだ。
そう考えた私は、昼下がりに酒場を出て、妖怪としての身体能力をいかんなく発揮して大急ぎで紅魔城へ向かっていたのだった。
山を抜け、その先の村も抜け、そしてとうとう紅魔城なる建物が見える頃にはすっかり辺りも暗くなり、かろうじて満月が辺りを照らしている。
『紅魔城』
外装は真っ赤に染めあげられており、目に悪い。
確かに広いが、城というより館。 紅魔館と言った方がしっくりくる。おそらく人間側の方で誇張されていたのだろう。どこか不気味な雰囲気を感じられ、血の様に真っ赤な外装で威圧的に感じる。そんな風に人間達が捉え、まるで『城』の様に感じたのだろうか。
そんなことを考えながら、紅魔城、いや、紅魔館へ歩いていく。
紅魔館の近くにいくと、やはり紅魔館の何か、異質さを感じ取ってしまう。一見時計台付きのただの館。しかし窓が少なく、その分真っ赤な色で塗りつぶされている外装。
周りの外観に対して酷く浮いている。そんな感じだ。
紅魔館の門の前で立ち止まってそんなことを考えていると、紅魔館の入り口から二つの影がこちらに来る。
「おい、にんげ……いや、人ならざる者、紅魔館に何用で参った?」
二つの影がこちらに近づき、姿が見えるところまできて、二つの影の内片方がそう声をかけてきた。
紅い眼と翼、吸血鬼の男女であろうことは理解できるが、気を探ってみるが、たいした実力は持ってないと見た。
雰囲気が剣呑としており、険しい目でこちらを警戒しているので、どう見ても歓迎しているわけではなさそうだ。
「私は美鈴という者です。紅魔館の主、レミリア・スカーレットという御方にお手合わせ願いたく参りました。お目通りを」
「は?」
「ん?」
と私がそういうと、二人は面食らったようにきょとんとした反応を見せ、互いに顔を見合わせている。
「手合わせ?倒しに来たとか殺しに来たとかじゃなくて?」
「はい、手合わせです」
「貴女、女性の方よね?」
「ええ、女性ですけど」
「こんな夜に?」
「はい」
「丸腰で?」
「はい、この身一つで」
「………」
そういうと、二人は押し黙ってしまい、また、二人で顔を見合わせる。
そして、意を決したように顔を赤く染めてこちらを向く
「………申し訳ないけど。お坊ちゃまには、まだ早いと思う。」
「はい?」
今度はこちらが困惑する番だった。
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「ごめんなさいね。なんか変な誤解しちゃって」
「………い、いえ」
何とか説明をして、何とか取り付けることが出来た。
………なんだか変な誤解が生まれたらしい。
男性の吸血鬼の方がレミリアさんに報告しているところで、女性の吸血鬼の方と門の前で待機している状況だ。
適当に彼女と話していると、突如、大きな気を紅魔館の入り口の方から感じ取り、咄嗟にそちらへ向いてしまう。
「ようこそ」
紅い眼、大きな翼、吸血鬼。
「我が紅魔館へ」
薄いピンクのタキシード、同じく薄ピンクのズボン。天に愛されているのではないかと思う程整っている顔、青く、透き通るような綺麗な髪。
「私が、レミリア・スカーレット。この紅魔館の主だ」
まるで、男装の麗人の様に端麗で、不敵な笑みを浮かべた
………子供だった。
「………はえっ!?子供!?」
思わず声が出た。
思っていたよりも、何か、こう、ここまで幼い見た目だとは思わなかった。
人間でいう10歳ぐらいの子供だ。体からあふれ出る威厳とのギャップの差が激しくて、動揺してしまった。
「失礼な。これでも100年以上は生きているんだぞ?」
「あっ!?あ、いや、すみません!」
………失礼ですが、私それ以上生きてます。
心の中でそう思ってしまったが、そこは声に出さないが節度。
あまり、機嫌を損ねてしまったら印象が悪くなってしまう。素直に私の非を詫びる。
「お前が、私と手合わせしたいと?」
「あ、はい、貴方に手合わせを申し込みにまいりました」
しかし、彼から出る威厳とその気、かなりの実力者であるということがわかる。いかに見た目が子供と言えども、油断はできないだろう。
「ふうん」
と彼は美鈴の顔をじっと見つめ、
「いいだろう。受けて立ってやる」
そう言い、御供をしていた二人の吸血鬼を下がらせた。
「私との一騎打ちで、一回でも地面に手をつかせたら、お前の勝ちということにしてやろう」
「………余裕ですね。確かにあなたはお強いかもしれません。しかし武術を身につけた私を相手に――」
「ふん、黙れ。人の術に頼らねば生きていけぬ程度の妖怪如きに、私が負ける、いや、膝すら地に着くことすら能わない」
相手を下に見て、傲慢に取れる言葉を豪語する彼、しかし、その身から出る気、いや、それ以外の何らかの力の波が周囲を飲む。
空気がピリピリと痺れ、彼から放たれる威圧感が体を押し潰すのではないかというぐらい重くのしかかる。
傲慢から出るハッタリじゃない。彼は………本気だ!
「わかりました。その勝負、受けて立ちましょう!」
ふっ!と一息に、その体中にのしかかる重圧をはねのけ、美鈴は構えをとる。
対する相手はごく自然体だ。
「私もお前に合わせて、地上で戦ってやろう。空を飛ぶのは無しだ」
「相当の自信ですね。でも、よろしいのですか?」
相手の一挙一動常に気を配る。常に冷静沈着。心を乱さば、即ち身を滅ぼす。
「自信?いや、お前は同じ土俵でも私に敵わない。私という吸血鬼に敵わない。これは確信だ」
「左様ですか、後悔はなさらないことですね、美鈴、参る!!!」
――レミリアは動く気がない。ならば私から動くまで。
美鈴は地面が抉れるほど、強く踏み込み、レミリアの眼前まで一瞬の内に迫る。
その間に右の拳を引き絞り、眼前で右拳を繰り出す。だが、レミリアは左手でたやすく受け止めた。
辺りが衝撃で揺れる。地に伝わり、草木が辺りの草木が散る。
反撃とばかりにレミリアの右拳が繰り出されるが、それを半身で避け、勢いをのせ、流れるように肘打ち打ち出す。が、それも、後ろに飛び退かれて避けられる。
瞬時に体勢を整え、距離は詰めさせないと追従して迫る。
両手を腰だめに構えて力を込めて両手での掌底打ち、が、これも腕を交差させて防がれる。
渾身の力で叩き込んだ掌底打ちは、レミリアを十数メートルほど地を擦って後退させる。
「………ほう」
打撃の衝撃が収まり、レミリアは自分の前腕を見下ろして、そうつぶやく。
青く腫れている。一瞬腕が動かなくなったため、骨折もしていたのだろう。しかし、吸血鬼の再生能力で即座に治るが、レミリアをここまで傷つけるのは美鈴が初めてだ。
レミリアは強大な吸血鬼である。そのため、本来吸血鬼に弱点である物が通用しない。それは銀製の武器で攻撃されても同様である。
しかし、どうして、美鈴の全力の一撃はレミリアの腕を骨折までに追い込んだのか。
それは、美鈴の武術を極める過程で身に着けた『気』である。
気を纏いながら繰り出す一撃は、強靭なレミリアの腕に骨折を負わせる威力となった。しかし、吸血鬼の再生能力で即座に戻ってしまったが、レミリアが吸血鬼ではなければ、それ以外の相手であればその瞬間勝負が決するといっても過言ではない一撃であった。
それ故レミリアは感心した。
「美鈴と言ったか。いい一撃だ。だが、あまり調子に乗らないことだ!」
吸血鬼の身体能力に任せた乱暴な飛び込み、それは、美鈴以上の速さをみせ、気づけばレミリアは美鈴の近くで右腕を振りかぶっている。
咄嗟に美鈴は左手で受け止め、反撃に転じる、しかし、転じようと動きを見せる前に距離を放され、反撃は不可能となる。
「――――ッ!?」
美鈴は左手の違和感を感じる。青黒く痣が生じており、美鈴の気を含めた再生能力では追い付かないほどの一撃を貰った。
レミリアの魔力を纏った一撃は、美鈴の再生能力以上の威力があった。
次第に、美鈴は劣勢に追い込まれてしまう。初めは左腕が使い物がならない中善戦したといってもいいだろう。しかし、容赦なく繰り出される攻撃に受けざるをえなくなり、左腕が使えるようになるまでには右腕、片足と、ダメージを負ってしまう。
勝負は数分で決した。膝をついて荒い息を吐く美鈴とそれを見下ろして平然としているレミリア。勝敗は既に明らかである。
レミリアの吸血鬼としての格は、美鈴の磨き上げられた武術をもってしても覆すことが出来なかった。
「……参りました。完敗です」
そう美鈴は潔く負けを認めた。
勝者はレミリアだ。
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私は、レミリア・スカーレットに完敗した。
それは、久しぶりの、手も足も出ないほどの完敗だった。
勝敗が決した後、レミリアさんは私を紅魔館に入れ、傷の手当をしてもらった後、客室を与えられて、一泊する様に言った。
――――とてつもなかった。
吸血鬼の乱暴で、激しい攻めに、武術を極めてもなお埋められなかった壁
何もかもが格が違った。あれで未だ、吸血鬼として幼い方であるから凄まじい。
ふかふかのベットに横たわり、あの戦いを頭の中で回想する。
どこで何をしたら良いか、あそこで何をすべきだったのか、自分の中で考えてみるのだが、どう小細工しても勝てそうになかった。
コンコン
「客人、起きているか?」
ドアの向こうでそんな声が聞こえる。レミリアさんだ。
「はい、起きていますよ」
そう声をかけ、レミリアさんを部屋に迎える。
「やあ、傷は完治したようで何より」
「あはは、おかげさまで」
そんな軽口を入れながら、レミリアさんは部屋に入ってくる。
「ご用件は何でしょう」
「単刀直入に言う。美鈴、紅魔館で働いてみない?」
レミリアさんが口調を崩してそう勧誘してくる。
こちらがレミリアさんの素なのだろう。見た目相応でしっくりくる。
「もちろん、お給料は出すし、休暇だってつける。どうかな?」
『紅魔館で働く』正直言ってこの話は興味深い。
レミリアさんが持つ未だ潜む可能性と、計り知れる力を見たいという興味、レミリアさんの元で仕えていれば、飽きさせないだろう。未だ会えぬ強敵にも出会える。そんな気がした。
「それに………
手持ち、もうないんでしょ?」
「あはは………。お世話になります………。」
私の懐は、心もとない。
「美鈴は、名前だけど、苗字は?」
「あ、いえ、苗字は私には無いんですよ。」
「ふうん、じゃあ、美鈴、君には『紅』という苗字をあげる、明日から紅魔館で働くメイド『
そう言って、レミリアさん、いや、レミリア様?、お坊ちゃまが部屋を退出なされた。
――紅美鈴、か。
あれ?待てよ、『紅』?
紅って、赤いことを意味するんでしたよね?
そういえば、お坊ちゃまのお名前はレミリア。
レミリア・スカーレット………。
スカーレット、紅、紅い………。
―――――――ッ!?!?!?!?
―― ………フフッ、そうですか、そういうことですか。
――つまり、そういうことなんですね!!!???
その日はあまり寝付けなかった。
めーりん「ウフフフッ、えへへへへへへ」(モジモジ
ふらん「お兄様との逢瀬が邪魔された、ジャマサレタジャマサレタジャマサレタジャマサレタジャマサレタジャマサレタジャマサレタ」(ジー
めーりん「ファッ!?」
こんなことがあったとかなかったとか。