レミリア様、 ♀はおぜう様だから
♂はおうぜ様
感想のおうぜ様案いただきまして、おうぜ様にします!
「………だんまりですか?」
そう目の前の華人服の女性が厳しい目で此方を睨みつけてくる。
10年以上程、他人と関わらなかった私には、対人能力が皆無らしい。
『魔導書を見せてほしい』
こんな要望を口に出すだけでいいのに、口が私の意図に逆らって閉じたままだ。
「………でしたら、私にも考えがあります」
そう、目の前の女性はゆっくりと動きを変え、いよいよ不味い段階まで進もうとしている。
………不味いわね。いや、これはかなり不味いわね。
自分の対人能力が自身の危機を招く。
なんで今まで、他人と関わっていかなかったのかしら………!
そんな自分に若干の嫌悪感を抱きながら、必死に頭を巡らせる。
………勇気を出すのよ、パチュリー・ノーレッジ!思ったことを口に出すことなんて、容易いものでしょう!
「………………………ぁの」
「この紅魔館に立ち入り、私達に仇なす者はこの私………」
「ここの領主様にお会いしたいのですが!!!」
「この紅美鈴が許しません!!」
「「………はえ?」」
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………びっくりしたわ。
まさか、自分の渾身のお願いがノータイムで断られてしまったかと勘違いしてしまったわ。
今、私は紅魔城、彼女の言葉から察するに紅魔館らしい、の廊下をあるいている。
「いや………あはは、先ほどはご無礼を………」
「………い、いえ」
門前の華人服の女性、紅美鈴という女性が案内として。
先ほどの華人服ではなく、今はメイド服なるものを着用している。
あの後、彼女がこの紅魔館の領主である、レミリア・スカーレットに報告した後、私の要望が聞き入れられて、紅魔館に入れてもらえることになった。
ここの領主に会わせてほしい。とは言ったものの、言った後にここは吸血鬼の住処だということを思い出し、「やっぱり帰ります」と言いたかったのだが、流石に会わせてくれと言った手前、それは失礼にあたってしまう。
機嫌を損ねたら吸血鬼は怖いのだ。それに、そんなことを言う程の度胸はもう私には残っていないのだから………。
若干青い気分で彼女の後に続くように廊下を歩いていく。
廊下を歩く先々に前に歩く紅美鈴と同じ服装をした使用人。
目が紅く、翼が生えている人………、人?
いや、あれが吸血鬼だろう。そんな彼らが怪訝な顔で此方を見ているのだ。
そんな彼らからすれば、人と同じように非力な餌がひっこり紅魔館内に入ってきたような印象なのだろう。
その時の私は言うなれば、虎の群れの中に一人歩く羊のような感じで廊下を歩いている。
…………………嗚呼、もう帰りたい。
幸い、目の前の女性、紅美鈴さんが優しい人で、見れば吸血鬼の様な容貌をしていない。
吸血鬼以外の種族で優しい人が働いていることが唯一の救いだ。
「………領主様は此方にいらっしゃいます。………お客様?」
「………あッ!は、はい………?」
ドアの前に着き、物思いに耽ってしまった私にそう呼びかける美鈴さん。
急に声がしたものだから、ビクッと反応してしまう。
「………入りますよ?」
「え、ええ」
そう言って扉を開けて先に歩く美鈴さん。
その後に続く私。
ドアの先には、先ほどの廊下も広かったが、それ以上に広い広間に出て、両サイドに燭台が灯されている。
「ようこそ」
一言でその場の雰囲気が変わったような気がした。
声は赤いカーペットが敷いてあるずっと先から。
「我が紅魔館へ」
ゆっくりと顔をあげて、その声が発せられている所へ目を向けようとする。
「私はレミリア・スカーレット、高貴な身にして誇り高き吸血鬼」
姿を確認した途端、はっと息をのむ。
その吸い込まれそうなほど紅い眼、廊下で見た吸血鬼達よりも一段と大きいその翼。
声だけでも、感じてしまう程の威圧感。
「歓迎するぞ、御客人」
数段先にある玉座、まるで、王の間と呼ぶにふさわしいほの場所で、頬杖をついているその姿は当に威厳ある領主然としている。
「………はッ………」
口から空気が抜けるように、思わず口を開けてしまう。
………ありえない、ありえない!!
頭が理解しようとしない、いや、理解することを拒んでいるように、その目の前の存在を認識しない。
誇り高き、そして強大な吸血鬼。
かの姿、まさに噂通り吸血鬼に相応しく、その体から発せられる威圧感は吸血鬼の中でも特段力のある、威厳そのものを含んだ尊大な声は当に支配者と同じ。
………でも、まさか、まさか!
それが、10歳ほどの子供から感じるなんて………!!
「はえっ!?………こ、子供………?」
「………………………は?」
理解が追い付いた途端、頭の容量を超え、口から出たその言葉は、辺りを凍らせるのには十分だった。
その後、冷静になった私は、自身のその言葉を振り返り、こう思うのだ。
……………………………もしかしなくても、また何かやってしまったわね。
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「と、とにかく、この紅魔館にようこそ御客人。して、何用で参られたのかな?」
そう、微妙な雰囲気を取りなす様に、レミリアさんはそう言う。
確かに、あのレミリア・スカーレットがこんなに幼い見た目だとは思わなかったわ。
だけれど、これは好機かもしれないわね。
正体はあの恐ろしい吸血鬼だけど、とりあえず、その場で私をどうにかしようとは考えていない。領主として寛大さを擁していることは先ほどのことから認識済みだ。
流石に死んだとは思ったけど。
……………大丈夫。相手は子供、子供よ。
「は、はい、紅魔館にある、本を、お、主に魔導書を、見せていただきたいのですが………………」
おどおどながらも、しっかり自分の主張を言うことが出来た。
「本………それも、魔導書、か。地下の図書館に膨大な量の本はあるし、魔導書も同様に多くあるだろう」
少し考えた後、そのようにレミリアさんは言う、そして「だが」と一言付け加え
「見せることもやぶさかではないが、
「私の今後の魔法の成果をすべて差し上げます。それと、私が今現在持つ知識の全ても同様に貴女に差し上げます」
すらっと頭の中の言葉が口に出た。『魔導書が大量にある』そんな言葉をしかと耳に入れたため、私の中で何かが変わったのだろう。
先ほどまでのどもり様は何だったのかと言いたげに、レミリアさんと横にいる美鈴さんが少しだけ驚いたような表情になった気がした。
「ふーん、数十年の知識と、魔法の成果を、ねぇ?あいにくと、私は魔法などというものはあまり興味g「お兄様……………?」」
そう、レミリアさんの言葉を遮るように後ろの方から声がした。
「フラン?」
「お兄様、そこの人、だれ?」
さっと後ろを見ると、金色の髪をして、紅い瞳、そして、その容貌とお兄様と呼ぶ声から、レミリアさんの妹であるということが見て取れる。
その背から生えている翼は、それまでの吸血鬼とは違ってみたことのない翼をしている。それに、プリズムのようなものが翼から垂れ下がっている。
「いやなに、御客人さ、魔法使いの様で、紅魔館の魔導書を読ませて欲しいと言っているんだ」
「そうなの、魔導書、を、ね」
そうレミリアさんが妹さんにそう言うと、納得したような声を出しながら、私に近づいていく。
「貴女、名前は?」
そう、妹さんが私に名前を尋ねる。声に若干の冷たさを帯びているのは気のせいだろうか。
「ぱ、パチュリー・ノーレッジ…………です」
「そう………。ねぇ、パチュリー、魔法ってどういうことが出来るの?」
「い、色々な事が、できると思いますけど………………」
そう私が言った瞬間、妹さんの雰囲気が少し柔らかい、というより、何かを期待したような。そんな雰囲気に変わった。
「…………洗脳系とか、支配系統の魔法も………?」
そう小声で私に耳打ちする様に問いかける妹さん。
………ん?何かおかしいわね………。
「え、ええ、そういう系統もあります、けど………」
そう言った瞬間バッと妹さん、フランさんが私から離れた。
「お兄様!私、パチュリーに魔導書を読ませてもいいと思う!!」
先ほどの冷たく感じる声はどこにやら、見た目相応の無邪気な声になって満面の笑みでレミリアさんにそう告げる。
「そ、そうかい?フランがそう言うなら………それでいいんだけど」
どこか困惑した様子でレミリアさんが言う。
「じゃあ決まりね!よろしくね!パチュリーさん!」
「あ、は、はい」
「お兄様もそれでいいでしょう?」
「あ、ああ、問題ないけど」
そう、喜んだようにフランさんがそう言う。
………どうして、フランさんは魔法に興味があるのだろう?
レミリアさんと同じく、あまり魔法に興味が無さそうだったのだけれど………。
そこで、ふとフランさんの顔をチラリと見てみる。
………………………ああ、なるほど。
レミリアさんを見る目が、全てを語っていた。
………………………しかし、同性で、姉妹でそういうことってあるのね。
同性?姉妹?
あら?
そう言えば、フランさんはレミリアさんのことを『お兄様』と呼んでいたわね。
………………………ん?
………その後、私は地下室の図書館に居座ることを許された。
私は美鈴さんにレミリアさんの性別について聞いてみたところ。
「あぁ…………」
と何とも言えない顔で納得していた。
男性の方だったのね、レミリアさんって…………………。
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「…………いつまで、この館に居るつもり?」
「…………もう少し、です」
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「まだなのかい?」
「あと少し………」
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「パチェ?」
「もうちょっと………」
「それは前も聞いたぞ」
「前はあと少しだったわよ、レミィ」
「………変わらないけど」
そう何か月も紅魔館に居座っている私、いつまでここにいるつもりかと半ば呆れたように問い続けるレミィ。
最初の頃の威圧を帯びた立ち振る舞いから一転、人付き合いのいいような笑顔で私に接してきたものだから、最初は驚いた。
こっちがレミィの素なのかと思うと納得した。見た目相応、まだまだ子供なんだなと思った。
まぁ、私よりも全然年上なのだけれど。
レミィは何かと世話焼きな性格の様で、しょっちゅう私の元に来て、こうして話しかけてくるのだ。
最初こそは、ギクシャクしたような感じだったけれど、いつの間にか、普通に話せるようになり、『パチェ』『レミィ』と呼び合う関係にまでなった。
私はレミィの様な親友ともいえる人が初めてで、少し新鮮だった。
表情には出さないようにしてはいるが。
それ以外にも、妹様、フランに関してもしょっちゅう私の元に来て、魔導書について講義を受けに来る。
初めから、洗脳魔法系統の魔導書を持ってきたときはどうしようかと思ったが、流石に基礎から始めることは大切だと説得して、渋々納得して受け入れてくれた。
やっぱり妹様の説得にはレミィを引き合いに出した方が楽に進むわね………。
それと、美鈴に関しては、普通に会話する程度までには進展した。
しかし、レミィと同じように頻繁に会うわけでもないので、そんなものだろう。
今では、レミィと呼んで、楽な口調で話し合って、時間を潰すとは最初の頃の私からすれば考えられないものだ。
「しかし、パチェはいつまでもここにいる様でいいのか?自分でいうのもなんだけど、夜にしか行動しない種族と一緒にいては体を壊す。それに、御親族も心配することだろう?」
「本を読むのに昼も夜も関係ないわ。私が住んでた家は借り物のようなものだし、両親は魔女狩りで亡くなったわよ。実家も魔女狩りの被害で焼かれたし」
そういうと、レミィは紅茶を一口飲む。
「じゃあパチェ、私の家に住んでみない? あなたの知識は役に立つ、それに、そんな境遇の友人を放ってはおけん」
「さっきまでは帰れと言っていたのに?」
「いつまでここにいるのか聞いただけだろう?で、どうなんだ?」
そういうレミィ、私はちょうど本を読み終わり、考える仕草をする。
「ええ、ぜひ、お願いするわ」
答えはもちろん決まっている。まだまだ読み終わっていない魔導書は山ほどある。これなら、何百、いや何千年も持つ、それに、ここは居心地がいい。一人でも別に気にしなかったのだけれど。やはり、他人との交流を私は望んでいたようで。帰りたくても、帰れない。体がここにいることを望んでいる。
「そう、歓迎するよ、パチェ」
「改めてよろしく、レミィ」
そう言って私は、紅魔館の一員になった。
余談だが、私、パチュリー・ノーレッジは魔法使いという種族である。
魔法使いは捨虫の術で老化を防ぎ、食事と睡眠の必要のない体になっているわけだ。
『食事』と『睡眠』それは、理性ある生物が持つ三大欲求の内の二つである。
それを生まれつき、捨虫の術で抑制する。
しかし、三大欲求の内、残り一つは?
…………………………つまり、そういうことである。
別に誰とでも、というわけではなく、好意を寄せている相手のみにソレが急激に働く。
妹さまと美鈴、それ以外の従業員には別に作用しない、同性だし。
しかし、異性であり、私の唯一の友人であるレミィ…………………。
私が紅魔館の一員となった後、私は自分自身を抑えるために、また、レミィのお茶会等の誘いを断る度に、別の意味で悶々とすることになる。
それに、もちろんそんな日には誰とも会うことが出来なくなる。
一応、私は地下の図書館を管理することになったため、他者との交流もすることになる。そのため、私の代わりを務める司書役として、使い魔の小悪魔を召喚することになったのは別の話。
今回のおうぜ様は寝起きでパジャマ姿から着替えたものの、ゆったりとした服装をチョイスしたため、女の子の様に見えてしまったというオチ。
異性と愛称で呼び合う親友ポジまでに発展したんだから、好意持ってなければおかしいんだよなぁ?