「そこで!死んだと思ってた奴が、急にひょっこりと突進してきて、私の頬をぶん殴りッ!腹パンッ!アッパーッ!!ひっッッさしぶりに、ボッコボコにされちまったって訳さ!!」
おおっ!!と歓声が沸き立つ、異変時、吸血鬼達が起こした吸血鬼異変時の出来事を熱心に周りに熱弁しているのは一本角の生えた鬼『勇儀』
星熊勇儀であった。前の異変の美鈴との一戦が彼女にとって、久しぶりの熱戦だったのだ。当時のことを思い起こす様にして熱弁している彼女に、その取り巻きの鬼達が思い思いの反応を示す。
流石は姉御!!
姉御!!羨ましいぜ!!
等、勇儀を賞賛する声や、勇儀と戦った美鈴を賞賛する声。
鬼とは皆、喧嘩が好きだ。するのも、見るのも、話を聞くのも好きなのだ。
そんな激戦を鬼の中でも力が強い方である勇儀が熱弁したというならもう止まらない。
しかし、そんな血気盛んで、好戦的な彼らは、次第に人間界では疎まれてしまう存在となる。
昔なら、人間にも骨のある人間はいたものだ。一対一で、肉弾戦を申し込んできて、我ら鬼達は喜んで、そして相手に敬意を表して、相手していたというのに。
最近では、人間達が卑怯な手を使ってでも自分たちを倒そうとしているのだ。
今では地上で過ごしづらくなってしまったため、地底、旧地獄と呼ばれるところに移住していた。
『旧都』という所に移り住み、地上を追われた荒くれ者という名義で鬼達は暮らしている。
「勇儀、それはもう何回も聞いたぞ」
そう呆れたように言うのは勇儀と負けず劣らずの実力を誇り、勇儀と仲がいい二本角の鬼『伊吹萃香』である。
「こいつらは初耳なんさ、勘弁しとくれッ!!」
しかし、興奮状態の勇儀は止まらない。萃香へ目を向けようともせず、その続きを熱弁する。
萃香は確かに耳にタコができるぐらい、勇儀の例の話を何回も聞いてきたため、流石に飽きが来たのも確かだ。だが、その話をずっと聞いている内に、次第に羨ましいという感情が沸き立ち。聞いていられないというのが正しい。
…………私もその異変に一から参加してたってのに・・・
仕方がないとは言え、ズルい。
私も、紅魔館の方に向かっていればよかった。
前線の天狗どもが混乱してなかったら紅魔館まで進んでたはずなのに。
考えれば考えるほど後悔と、羨望の念が沸く。
「………そうかい、じゃあ勝手にしなよ」
「おう!!勝手にするよ!!」
もはや聞いてられん、と萃香はその場からすっと離れていった。
そして、萃香の中にはある考えが出た。
私も、時期を見て地上に出よう。
勇儀だけが血肉沸き踊る激戦をしているというのは何ともズルい。
そう思い、萃香は離れたところでしげしげと杯の酒をぐいっと飲んでいくのだった。
「そこでッ!!びっくりしたもんだから、そいつを見たらなんとッ!!まるで人が変わったようじゃないかッ!!そうさッ!!そいつの名前はッ!!………!!」
一方、萃香がその場から離れた後、勇儀は変わらず、熱弁を振るう。
熱弁を振るって場を盛り上げる勇儀。
その熱意に触れて熱気が移るように沸き立つ会場。
まるで、宴でも行われているのではないかという空間である。
しかし、その雰囲気はすぐに消散し、空気が凍り付くような雰囲気に変わってしまう
「………………あん?」
静かになったこの場に怪訝に思った勇儀は、静かになった周りを見渡し、不思議そうな顔になる。
「はぁ……………」
だが、その原因を見つけると納得したように、何ともいえない声を出すのであった。
目の前からゆっくりと歩いてくるのはピンクの髪をした少女。フリル付きの水色の服とピンクのセミロングスカート、赤いヘアバンドをしている一見普通の少女なのである。
彼女に複数のコードの様な物につながっている目、言わば『第三の目』というものがなければ、だが。
そう、その第三の目というものは、人間にも、妖怪にも嫌われるものの証であるからだ。
「…………あまり、騒がしくするのは容認できません。後始末等、色々面倒なことをするのは私なのですから。少しは自重していただけませんか?」
そういう彼女の顔からは、全く表情をうかがい知ることが出来ない無表情。
言い分的には少女が正しい様に思えるが、その憎まれ口の様に言葉を発する。
「おうおう、了解了解、すまないね、『さとり』」
『さとり』そう呼ばれた少女は『古明地さとり』
妖怪であり、この地底を管理している地霊殿の管理人である。
そんな地霊殿、並びに彼女らを総じて勇儀は『偉そうにしている奴ら』と呼んでいる。
あまりいい印象をもっていないのは確かだ。
その偉そうにしている奴らの一番偉い管理人が出てきたのだ。
勇儀の返答もややぶっきらぼうになってしまう。
「すまないと思っているのならば、尚更態度を改めるべきでは?貴女の謝罪は軽すぎる。貴女が地底で問題を起こすのもこれで何回目ですか?いい加減、悪いとしっかり反省して、自重してくれると私としてはありがたいのですが」
そう言って、憎まれ口を叩くさとり。
周囲で勇儀を囲って勇儀の武勇伝を熱心に聞いていた鬼達はいつの間にか蜘蛛の子を散らす様にどこかへ行ってしまった。
「はいはい、自重は、しとくよ」
「はあ………、全く貴女は、それで、一体何があったんですか?…………………なるほど、紅魔館で門番をしていた『紅美鈴』なるお方と激戦を繰り広げていたから、それを周囲に言いふらしていたと。まぁその程度、とは言いませんが、言いふらすにしても場所を考えてもらいたいものですが」
そう、一人で畳みかけるように言葉を繋いでいくさとり。
それは勇儀にしか知らないこともペラペラと彼女の口から出てしまう。
まるで、勇儀の出来事すべてを把握しているかのように。
そう、『古明地さとり』は心が読める覚妖怪である。
そのせいで、人間達はおろか、妖怪達にも嫌われる妖怪なのである。誰でも、自分の心の内すらも呼んでくる相手に良い気分はしないものだ。
だが、心を読めるということをさとり自身は誇りに思っており、その性から、周囲と馴染めず、地霊殿に実質引きこもっているのだ。
正直で、素直である動物たちをペットとして飼育しながら。
「ああ、もう、私の心を読んで全てを理解してくのはやめておくれ、折角、また熱が入る所だったというのに」
「それはすみませんね。私は別に貴女の武勇伝には毛ほども興味ないので」
まったくつれない。しかし、ノリが悪いわ、憎まれ口を叩くわで、少しだけ苦手なさとりではあるが、鬼であり、実力も鬼の中では申し分ない自分に対して、素直に物を言うのは好感が持てる。
嫌いだが、嫌いではない。
そんな感じだ。
しかし、冷めた空気も酒が不味くなる。何か、話題でも出して、空気を変えてしまおう。それすら、奴は読んでいるのだろうが。
「当然です。覚ですから。……………レミリア・スカーレット。吸血鬼ですか。それも、相当の実力者で、下手をすれば勇儀さんが勝てないかもしれない、と。とんだ化け物なのでしょうね。…………………妹?」
そう、また考えを読んで畳みかけようとしていたさとりだが、ある単語に言葉を止められる。
「そうさ、妹。レミリアに『も』妹がいるのさ。フランドール・スカーレットっていうらしいね。幽香から聞いたよ。なかなかのいい娘だってさ」
「…………………」
そう言うと、さとりはすっかりと沈黙する。
『妹』
それが彼女にとって重大なことなのだ。
「心配しなくてもいい、あんたの妹さんはどこかで良くやってる。きっと見つかるさ」
「……………ええ、………ありがとうございます」
少しだけ、その横顔に哀愁の表情を感じ取った勇儀は、励ます様にさとりを元気づける。
「………とにかく、これ以上、騒ぎを広げるのはやめてくださいね」
「…………ああ、わかった。肝に免じるよ」
お願いしますねと言って、さとりは去っていった。
さとりには『妹』がいる。
しかし、ある事件によってその『妹』は急に行方を眩ませた。それは、さとりをしても行方を判明させることが出来ない。
彼女はずっと『妹』の行方を捜し、心配もしているのだ。
あんな冷徹そうなやつにも、情があるのだ。そこは意外だと感じてはいるし、あそこまで心配していると、同情してしまう。
どうか、『妹』とやらが無事に見つかるといいんだけどね。
そう思った勇儀は飲みなおす様に杯に酒を入れ始めた。
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「…………よし!今日は、ここまでにしよう、『霊夢』」
『霊夢』と呼ばれた少女はその声がかかるやいなや、すぐさま休憩に入る。
呼びかけたのは九尾の狐、紫の式である『八雲藍』である。
現在、博麗神社にて、次期博麗の巫女として『霊夢』が博麗の巫女としての訓練を紫、藍から受けている所なのだ。
吸血鬼異変の様な、いや、あのような異変が何度も来るようでは流石に勘弁物だが、異変に対して、迅速に対処できるように博麗の巫女の訓練をしているのだ。
妖力の使い方。術の使い方、その他様々な事を紫たちは教えていく。
『霊夢』の天性の才能を持っていた。
教わったことをスポンジの様に吸収していく。
この調子ならば。歴代の中でも最高クラスの巫女の素質を備えている。
その分、紫達の期待も大きくなり、訓練にも力が入る。
「…………ん」
「うん?ああ、わかったわかった、お腹も空いているようだから、食事にしよう」
無表情でも、しっかりと主張する霊夢に藍はにこやかに返しながら、食事の準備をするために片づけを始める。
親がいない霊夢にはこうして紫や藍が母親代わりに色々世話をするのだ。
基本的に紫は多忙であるから、藍がその役割を大きく担ってはいる
藍自身は気づいてはいないが。最近の藍は変わった。
式である藍が、また、自分も式を使役したいと申し出て、式として『橙』という猫の妖怪を式にしてから、何かと世話焼きになった。
それは、橙はもちろん霊夢にも、そして、主人である紫にも世話焼きを遺憾なく発揮しているのだ。
『母性』なる物を藍は備えてしまった。
その結果、橙にも霊夢にもある程度は懐かれているのだ。
時々、橙に対して愛情が爆発して、暴走するのは紫としてはやめてほしいところだと供述していた。
「藍?霊夢はどうかしら?」
『スキマ』が開き、そこから紫が顔を出す。
「ええ、上々です。なかなか筋が良くて、教えたことは何でも吸収してしまいます」
そう藍は驚くことなく返す。
「そう」
満足したように、紫は頷いて見せる。
紫が、霊夢の教育に力を注いでいる。
理由は簡単だ。
例の場所の例の吸血鬼が、新しい住人を迎え入れ、メイドとしての教育をしているのだ。まるで、親であるかの様な振る舞いも見せている。
それも、霊夢と同じくらいの子どもに、だ。
それで、紫にも火が付いた。負けていられない、と。
しかし、自分には色々事情も重なって霊夢のことに構っていられる時間が取れず藍に任せている形になってはいるが。
しかし、霊夢には無理な訓練を行って、無理に負担をかけさせるのは良くない。適度に体調管理等慎重に行うべきなのだ。
一応、霊夢には気にかけているつもりだし、大事に思っている。
藍はかなり懐かれているようだけど、一応、私も霊夢との信頼関係は構築されていると思う。
それくらい、あの子と向き合ってきたのだから。
「………ッ!?れ、霊夢!な、なにをするつもりなんだ!!」
「………ん………ようかい、たいじ」
「ッああ!?ち、違う!!だ、駄目だ!霊夢!!た、確かに紫様は妖怪だけれど、ああ!?札を取り出すな!!」
「…………………あ、あら?」
その日、紫はしっかりと霊夢と向き合っていこう。そう感じた。切実に。
さとりん