幻想郷、紅魔館に、新しい風が吹いた。
銀色の髪をした10もまだいってないあどけない少女だ。
名前は十六夜咲夜。生まれた時から、家も両親も、出身も解らず、常に先が見えない生活を強いられていた。
自衛のためのナイフを手に、厳しい世の中を生き抜こうとし、力及ばず死にゆくと覚悟したのも束の間、いつの間にか霧の湖に倒れていた。
そんな少女をレミリアが霧の湖で見つけて、紅魔館に連れて行ってから、彼女の人生が大きく変わった。
今までの生活とは一変、食事に困らなくなり、汚れ事もしなくてもいい環境に置かれた。当初こそは、困惑していたものの、次第に紅魔館での生活に慣れていった。
しかし、ただでというわけにはいかず、咲夜はメイドとして働くことになる。咲夜も、紅魔館での生活と、レミリアの御恩の為に快諾し、紅魔館での初めてのメイドとして働くことになった。
だが、咲夜は学がなかった。それはそうだ、生まれた時から辛い環境に置かれ、親も居ないのだから。
字が読めない、書けない、メイドというのがどういうのかが解らない。
料理、掃除、洗濯の仕方など。
咲夜が独自でも生き抜けるような力すら備わっていない。
ならばとレミリアは一計を投じた。
咲夜が立派な人間として生きていけるように、メイドとして仕事をきっちりこなせるように、「紅魔館のメンバー皆で咲夜を教育しよう!」という物であった。
以下が、咲夜の教育の過程である。
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「もう少し腰を落としてッ!!体重をかけるようにして切りつけないとまともな傷すらつけられませんよッ!!メイドとは言え、自衛の術を、お坊ちゃまの護衛すらこなせないと意味がありませんから!!」
「はあッ!!はあッ!!は、はい!!」
「ええ、そうです!!もう少し、角の掃除を意識して!ええ!そうです!いいですね!!素晴らしいですよ!咲夜ちゃん!」
「は、はいッ!」
「大きさは均一に!火の通りを良くするのもそうですが、大きさ等に差があると食感に違いが生まれて違和感が生まれますから」
「……………なるほど」
「色物と無地のは分けてくださいね、色移りしてしまいますから。繊細な衣服もありますからそれは優しく洗ってあげてくださいね。ええ、そうです、流石ですね!!」
「はい!」
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「…………良し。問題ないわ。日本語、ひらがなくらいはとりあえず書けるようになったわね、じゃあ、次は英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、どれからやりたい?」
「…………え、英語でお願いします」
「…………了解、それが終わったら次は休憩を挟んで霊力の使い方よ、出来るだけ、早く終われるようにするからしっかり取り組みなさい」
「は、はい」
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「身に余る光栄でございます!はいッ!!」
「み、みにあまるこうえいでございます!」
「かしこまりました!はいっ!!」
「か、かしこまりました!」
「どうか、私を解雇してく「それは違うと思います妹様」……チッ!!」
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「!もう読んだんですか!?咲夜ちゃんは凄いですね~!じゃあ、次はどの本がいいですか?」
「……んー、これ、これがいい」
「解りました~!………あっ!ついでに、この本も渡しておきますね~!」
「…………これは?」
「………ウフッ!そ、そうです、メ、メイドさんなんですから、そういった知識も身に着けるべきですよ?フ、フフフッ!!」
「…………………?」
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「…………………」
「…………大丈夫か?咲夜?」
「はい………問題ありません」
「そんな風には見えないが・・・」
美鈴から、戦闘訓練、家事等の教育。
パチュリーから学問や霊力の使い方。
フランからはメイドとしての礼節、礼儀といった教養。
小悪魔からは本の提供による知識の向上。
これを全て一日でこなすことを強いられる。流石に子供の身にかかる負担は計り知れないものになろう。疲労困憊の咲夜を見て、心配そうにレミリアは声をかける。
心配を掛けさせまいと咲夜は残った気力で返して見せるが、流石に疲労の色が見て取れる。
「そうだな、今日は疲れただろう?どうだ?私が何かできることはないか?」
「お、お構いなく…………あ、い、いえ、少し、お願いしたいことがございます」
「…………………?何だ?」
「少し、御身の胸の中に埋めてもよろしいでしょうか?」
「………………まぁ、いいが………ッおぉ!!」
いかに、気丈に振舞っていても、流石に人の温もりが欲しくなる年頃だ。
可愛らしい提案を受け入れられる。
レミリアが承諾するが早いか、素早くレミリアの胸の中に潜り込んだ咲夜。
そのまま、じっくりとレミリアを堪能していく。
「…………よしよし。頑張ったな」
そう言って頭を撫でるレミリア。彼自身、甘えてくる子が1人から2人になった程度、造作もないことなのだろう。
母の様な包容力で、咲夜を包む。
「…………すうっ………すうっ」
そのまま、温もりを感じながら寝息を立てる咲夜、疲労が募って眠ってしまったようだ。
「…………しょうがないな」
そう言ったレミリアはそっと眠る咲夜の頭を撫でながら、優しく微笑み、彼女を寝室まで運んでいくのであった。
………皆に少し手を緩めるよう言っておこう。
そう、レミリアは考えるのであった。
咲夜は紅魔館の生活に適応していき、アメとムチによって立派なメイドになれるように教育を受けていくのであった。
「おぼっちゃま、お背中をお流しいたします」
「!?」
「こたびのしっぱいはわたくしにあります。せきにんはわたくしのからだで」
「!?!?!?!?」
「おぼっちゃま、ほんじつはわたくしのからだでごほーしいたします」
「誰だッ!!!誰がこんなことを教えたァ!!!」
咲夜の教育期間中、鬼の形相で何かを追うレミリアと、何かから隠れるように逃げる小悪魔が紅魔館の日常と化しているらしい。
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一方、博麗神社の方では。
「……そ、そうだ、そうやって、霊力を集中させて…………………。あ、ああ、いいぞ、その調子だ」
「………………ん、次」
「……………あ、あの」
「あ、ああ!…………………そ、そうやって、手の先に集中させるようにだな」
「………それで?次は?」
「……………………………………あの」
「…………………な、なあ、霊夢、もうそろそろ」
「……………ん、早く、次」
「……………あの、お願い、無視しないでッ………………!」
「あ、あぁ!!きょ、今日のところはこれでお、終わろうか!!しっかりふ、復習しておくんだぞ?じゃ、じゃあ私は、少し席を外すぞ?」
「……………ん」
「れ、霊夢………?」
「つーん」
「……………グスッ!」
紫が霊夢と打ち解けるのはまだ当分先になりそうであった。
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静寂な空間に響く。場所は人里のある屋敷の一部屋。
その屋敷は、由緒代々伝わる名家である。
その一部屋に、一人の紫色の髪をした着物姿の幼女が筆を走らせて何かを書いている様子だ。
見た目が幼女で、5,6歳ほどであるのに、達筆な字で、難しい漢字でも顔の表情を変えずにすらすらと書いて見せる。その身から発する雰囲気は、熟練した大人の様な雰囲気すら感じる。
「お嬢様」
そう、外から声がかかる。
「はい」
少女は筆を止めて、外からの声に返答する。
「
「そう、お通しなさい」
「承知いたしました」
そう言って、声の主が離れていく音がして、しばらくするとその音が戻ってきて今度は二重に聞こえてくる。
「こちらになります」
そう、外から声が聞こえ、その後、襖を開く音が聞こえる。
筆を止め、襖の方へと目を向けると、腰まで青のメッシュのかかった銀髪の女性が立っていた。
『上白沢慧音』
人里の守護者であり、寺小屋の教師を務めている女性である。彼女は純粋な人間ではなく、半人半獣、白沢と人間のハーフ(ワーハクタク)という種族である。
彼女は人間を愛し、人間の為にと人里に貢献してくれる聖人の様な人である。そのため、人里中の人間達が彼女に向ける信頼は計り知れないほどだ。
「お久しぶりですね。慧音さん」
「ああ、久しぶりだな、阿弥………、いや、阿求、か?」
「ええ、そう呼んでいただけると幸いです」
『阿求』と呼ばれた幼女。
彼女は人里の名家『稗田家』の人間である。
稗田家は代々、幻想郷に関する歴史や、妖怪への対処法など、長年、何代にもわたって書き続けている。
そう言った稗田家の当主となって、幻想郷に関しての文献を書く二代目以降の稗田家の者達を『
稗田家の著名な作品は幻想郷縁起などであり。今もなお編纂を繰り返している。
稗田阿礼から書き始め、今、稗田阿求の代で九代。
稗田阿求は、慧音とは初対面であった。
そう、阿求として、では。
稗田家は稗田阿礼から始まった。そしてその娘『御阿礼の子』である初代の「稗田阿一」から今代の阿求まで9代続いている。だが、実際は、彼女が稗田阿一本人である。
御阿礼の子は、千年にわたって、転生を繰り返していた。御阿礼の子は、そもそも体が非常に弱く、最高でも30程までしか生きられないという。
しかし、彼らは、代々にわたって文献を書き記すため、転生の儀式を利用して、転生を繰り返すことになる。
転生ごとに性別は変わるものの、今世は女性の様だ。
そう、彼女と慧音は見た目的には想像がつかないが長い付き合いがあるのは確かだ。
「息災なようで何よりだ」
「ええ、慧音さんこそ、何か、人里で変わったことなどありましたか?」
「いいや、ここ最近人里は平和そのものだったさ。強いて言うなら、最近、霧雨店のところの親父さんと、その娘さんが大喧嘩したっていう話は聞いたな。それも、まだ10にも満たない年齢の娘さんだそうだ」
「………それはそれは」
「全く元気があっていいじゃないか、そのくらいの年齢は、元気が一番だ。………………まぁ、勉学の方にもその元気を使えれば、言うことは無いんだが」
「ふふっ」
そう、肩をすくめながらそう言う慧音にクスリとほほ笑む阿求。
その場に和やかな雰囲気が立ち、しばらく彼女たちは会話に花を咲かせた。
「それで、本題に入りましょうか」
「………ああ、先の異変について、もう知っているだろう?」
「ええ、吸血鬼異変、ですね」
「ああ、吸血鬼の長、レミリア・スカーレットとその根城紅魔館、今、霧の湖付近に立ち並んでいるあの場所だ」
急に、真剣な雰囲気になって、話始める。
話題は紅魔館とレミリア。先の異変にて衝撃的な活躍を見せた存在である。
その吸血鬼達が霧の湖付近で移住しているとのことが、異変中、でも人里の方で話題になった。
当時は新たな妖怪の勢力が現れたとのことなので街中は大混乱だった。
「しかし、異変は、講和で終結したはずです。それに、紅魔館は、人里並びに幻想郷に危害を加えないと条件付きで」
「ああ、立ち会ったのが紫とレミリアだったそうだし、紫が紅魔館を挑発するような行為をしない限り危険性はないと明言している。だが、もしものことがある。人里中も警備等の充足を図り、妖怪達に対抗できるようにしていかなくてはならない」
「なるほど」
「最近、妖精たちの悪戯被害も多くなっているから、十分に注意していてくれ」
「ええ、解っています」
「それに、何があっても、紅魔館には近づかないようにな。まだあそこの安全が確証されたわけじゃない」
「ええ、解りましたよ、流石にすぐには死にたくありませんからね。十分注意しておきます」
そう言って阿求は頷いた。流石に転生の術も完備していないため、死ぬわけにはいかない。
紅魔館に興味があるというのも確かだ。だが、命が惜しい。
しばらく、安全であることが解ったら、行ってみよう。
と阿求は考えているのだが、慧音には解らない。
「ああ、そうだ、それに、もう少ししたら、お前も寺小屋に訪れてくれ。色々子供たちに教えることになるだろうからな」
「ええ、その時は、是非ご一緒させていただきますよ」
そして、しばらく彼女たちは再び会話に没頭していくことになった。