咲夜が紅魔館の住人となって早数年が経った。
彼女は、数年ほどで、紅魔館の仕事を完璧に覚え、ほかに恥じない立派なメイドとなった。
戦闘面では、ナイフを主に使い、そこに霊力を交えてナイフの攻撃力を上げたり、身体能力を高めたり、霊力の弾として発射したりと多種多様な攻撃手段を覚え、様々な荒事に対応できる実力を備えることになった。
メイドとしては、家事全般をきちんとこなせるようになり、食事、洗濯、掃除等の仕事ぶりは完璧であった。これにはメイド長紅美鈴も太鼓判を押すほどに成長した。
さらに、数年前まで、無学であった影は見えなくなり、ほぼ、主要語を覚えるようになるまでの学、一通りの計算、そしてメイドとして嗜み、教養を覚えた。特に紅茶に関しては、レミリアが思わず、感嘆の声を漏らすほどになるまで成長した。
彼女の成長は、いかに紅魔館の教育課程がスパルタ並みといえども、目覚ましい成長力で異常と感じるほどである。
しかし、まだ成長の余地がまだまだあるというのだから驚きだ。
今日も咲夜は、自己研鑽のために、はたまた敬愛する主のために、努力を怠ることもなく毎日の仕事に励むのである。
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「はい!今日はこれくらいでいいですよ!咲夜ちゃん!」
「ええ、ありがとう、美鈴」
今日も、紅魔館のお仕事が終わった。
メイドとして働くことになった当初より美鈴とも仲が深まり、自然な口調で会話できるまでに進展したと思う。
まぁそれでも、身分としてはメイド長であるあちらの方が上であるから、形式上、他の目がある上ではさすがに礼節をしっかり守らないといけないが、それ以外の場所ではある程度の仲にまで進展した。
以前の私とは比べ物にならないくらいに成長したという実感がある。
戦闘、家事、言葉遣い、礼儀、礼節、教養、学問、いろいろなことを叩き込まれた甲斐があったというものだ。
これも、紅魔館の皆の絶え間ないご協力のおかげだ。
自分が、メイドとして、生きていけるようになったのはこの紅魔館、そしておぼっちゃまに拾われてなければ考えられなかったことだ。
メイドとしての仕事が終わったら、次はあそこだ。
そう思って、私は図書館に向かう。
廊下を進み、地下へと降りて、図書館へと到着する、私に課されることは、メイドとしての仕事のほか、成人を見越して十分な教養を身に着けることだ。まぁそれ以外にも、まだ学問等のお勉強もあるのだが、基本的には教養を身に着けるためのお勉強だ。
「今日もよろしくお願いいたします。パチュリー様」
「…………………あら、もうそんな時間?」
私は、時間も忘れて本を読みふけっていらっしゃるパチュリー様にそうお声をかけるのであった。
「…………それにしても、以前と見違えるほど、成長したわね。咲夜」
そう、課題に取り組んでいる私にそう唐突に話しかけるパチェリー様。
「いえ、私などまだまだです、日々、研鑽ですわ」
謙虚ではない、ただ純粋な自分の意見である。
私などまだまだ、美鈴のほうがまだいい仕事をする。私も、最低でも美鈴ほどの仕事をこなさなくてはいけない。話はそれからだ。
だから、私などまだまだ甘いのである。
「…………そう謙遜することはないわ。それに、まだ若いのだから」
そうパチュリー様は仰る。パチュリー様によると、私の年齢は身体的に見て現在12歳ほどであるらしい。人間の年齢の観点からしたら、まだまだ若いということらしい。
「それでも、です」
「……………………そう」
年齢が若いとかどうとかは私にとって無意味に等しい。若いうちから、おぼっちゃまに奉仕できなければ、いけない。
人間と妖怪。そもそもの寿命が違うのだから、私が動けるうち、健在なうちはおぼっちゃまのために身を粉にして働かなくてはいけない。それが、おぼっちゃまへの最大限の奉仕であり、敬意の表れなのだから。
「…………咲夜」
「…………はい?」
しばらく間をおいて、パチェリー様が私をお呼びになる。
私が課題に取り組んでいる間。無駄なことは口に出さないはずのパチュリー様だ。
今回は何か、至らぬところがあっただろうか、それとも、気まぐれ化、どちらにしてもパチュリー様にしては珍しいと思いながら返答した。
「…………あなたはまだ若く、そして今後も成長の余地が見られる。それは確かよ。だから、そんなに焦ることはないわ」
「…………ええ」
「あなたはよくやってくれているわ。それはみんなが認めること。美鈴も咲夜の仕事ぶりが素晴らしいとよく私に言っていたし、レミィも咲夜についてしつこいぐらい絶賛していたわ」
「……………………」
「ええ、もう一度言いましょう。咲夜。あなたは、よくやっているわ」
「……………………ありがとう、ございます」
「それに、あなたにはまだ私には到底計り知れない可能性が眠っている。それが何なのか、私たちをしてもよく知らない。もしかしたら、人間の域を超えてしまうほどの可能性を、あなたは持ち合わせているのかもしれない」
「……………………」
「いろいろ言ったけど、あなたはよくやっているし、これから先もあなたに期待している。だから、自分の体には慎重に管理するようになりなさい」
「はい、承知いたしました」
そういって、また本へと目を向けて、話は終わったとばかりに読書に集中なさる。
そして、私はパチュリー様のお言葉に少しだけ、温かい気持ちになってまた課せられた課題に取り掛かっていくのであった。
そして、パチュリー様の課題を終わらせれば、次は自由な時間である。
もちろん行く先は決まっている。お坊ちゃまの所にだ。
心なしか、気分が弾み、廊下を歩く足も速くなっていく。
「お坊ちゃま」
「うん?ああ、咲夜か」
すぐさまお坊ちゃまのもとへと急行して、毎日紅茶を飲んでらっしゃるお気に入りであろう場所へと向かってみると、やはりお坊ちゃまだ。
しかし、思ったより、早く着いた。ふと、腰につけているお坊ちゃまからいただいた懐中時計を見てみる。時間は先ほど、図書館からこちらにくるまで、長い針が5マス分、つまり、5分でこの場についたということだ。
以前は10分くらいであったはずだが、いつの間にかそんなに早く移動できるようになったのだろうか?
体感としてはやはり10分くらいであったのだが。まぁいいか
と少しだけこの現象を不思議だと感じながら、お坊ちゃまへと近寄っていく。
「…………ん、よし、ほら」
「……………ッ!!」
「おう、よしよし」
そういって、いつもと変わらない慈愛の笑みで両手を広げてこちらを待つお坊ちゃま、我慢がきかない、遠慮なくお坊ちゃまの懐に飛び込んでいく。
勢いのついた飛び込みも、お坊ちゃまはしっかりと受け止めて、よしよしと私の頭をなでてくださる。
……………………嗚呼、至福の時…………!!
今回はお邪魔な方がいない。
時々、時間の都合が悪い時があって、お坊ちゃまのもとに先客がいる。
お坊ちゃまの妹様である、「フランドール・スカーレット」様である。
お坊ちゃまの懐を妹様と争うことがある。
「…………どきなさいよ、メイド」
「いいえ、主のお傍に控えるのも従者の務めですわ、妹様こそ、そういったはしたない行動を慎むことを進言いたしますわ」
「……ッこいつ!!私はお兄様の妹だから、兄とのスキンシップはそんなにおかしい?そっちが従者として行動は慎むべきでしょ!」
「いいえ、妹以前に、貴族としての矜持を進言しただけのこと、それに、私は『お傍』に控えているだけです。何か問題でしょうか?」
「問題だらけよッ!!やっぱり、お前とは分かり合えそうにないわね」
「ええ、残念ですが」
そういいながら、にらみ合いを続けると、見かねたお坊ちゃまが私と妹様を同時に迎え入れなさる。
大変、お坊ちゃまの懐の中は心地が良くて、それは妹様も同じであるようで、つい身をゆだねてしまう。
そんな姿を見て、お坊ちゃまは微笑んでこう言われるのだ。
「なんだかんだ言って、二人とも、仲いいじゃないか」
「「仲良くない(ありません)!!!」」
そうだ、決して、妹様と仲がいいだなんてありえない。そう、彼女は敵なのだから…………!!
しかし、今回はそんな邪魔者がいない。ならば、じっくりと存分に堪能するまで。
私は心行くまで、お坊ちゃまを堪能した。
そして、名残惜しくも、そんな至福の時は終わりを迎えることになる、私は自室に向かって、明日の仕事のために体を休めるために睡眠をとらなければいけない。
ああ、一日中動ければいいのに、そう考えに至るのも、これで何回目だろうか。
私は、小悪魔こと、こあから借りた教習本を読みながら、一日を終える。
教習本、小悪魔が言うには、殿方に奉仕をするためのメイドとして大切なことだとして様々な本を私に読むように勧める。
こあが薦める本はいろいろ参考になる。
そう、いろいろ、ね。
そうして、私は紅魔館の平凡な一日を終える。
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ぼんやりと暗くなって、月の光だけがあたりを照らす夜。
私は空を飛んでいる。
面倒な訓練も終わり、その後も基本的に暇であるからこうしてあたりを飛び回っているのだ。
人間から見ると、空を飛ぶということは、霊力でも纏わせないと空を飛ぶことすらできない。かくいう私も人間だ。
だが、私は特別な能力が備わっているそうで、空を飛ぶことは霊力すら必要なしだそうだ。
そんな折角の能力なのだから、存分に利用しないという手はない。
今日は、あっちの方向へ飛んでみようか。
そうして私は森へと飛行を進めていく。
ゆっくり、ゆらゆらと飛行を続けながら暇をつぶしていく。
何もすることがないとはかくも暇なのか。
気だるげに飛行を進めていく。
「……………ッ!!」
突然嫌な予感を感じ、周囲を警戒すれば、突然横から、霊弾、いや、魔弾が飛んできた。
とっさに手に持っていたお祓い棒を持ってそれを打ち消し、発生源へとめを向ける。
「おぉ、あれをかき消すのか、ハクレイってのも馬鹿にできないな」
目の前には箒にまたがって私と同じように空を飛ぶ金髪の少女。年齢も私と同じような年齢だ。
片方だけおさげの金色セミロング。三角帽をかぶり、黒系の服に白いエプロン。本で読んだことがあるような気がする。
そんな服装、箒、ああ、魔法使いだったか。そんな感じの服装だ。
「…………いきなり、何をするかと思えば。何のつもりかしら、白黒の魔法使いさん」
「おや、魔法使いだってわかるか?へへッ!そいつは単純にうれしいぜ!」
心底嬉しそうに笑う白黒。見た目から強気そうな感じは漂ってはいたが、男口調っぽいのは意外だった。
「お前、ハクレイってやつだろ?」
「違うわ。それじゃあ」
「おっと、しらをきっちゃ困るぜ、紅白の巫女服は確かにハクレイだってこと、知ってるんだからな」
「ハクレイか」という問いかけ、面倒なことになりそうだったから否定して、その場を離れようとしたが、服装からハクレイだって確信されたようだ。だったら聞かなくていいでしょ…………。
「で、その博麗様に何の御用かしら?」
「お前、次期のハクレイってもんだから、強いんだってな」
「そうなのかしら?私は弱いほうだと思っているけれど。負け続きだし」
そう、本当だ。博麗の巫女として、訓練を施され、時々、組手等したりする、妖怪である紫と藍に。
まぁ、当然、人間と妖怪じゃあ身体能力に決定的な差があるし、負けて当然だと思うけど、勝ったためしがない。これは嘘じゃない。
「いんや、お前が強かろうが、弱かろうが、そんなことは関係ないね。そこまで言われてることが納得がいかない」
「知らないわよ。そんなこと」
「お前に関係なくても私に関係あるんだ。納得いかない。私のほうが強いんだ」
「ええ、そうね、あなたのほうが強いわ。これで満足?」
「ハッ!!だから、今それを確かめようって話だぜ?少しばかり、痛い目を見て、泣きを見てもらうぜ」
「はぁ…………」
戦闘する気満々の相手にこれ以上話す術なしと判断し、面倒だが、お祓い棒を構えて相手に向き合う。
多少の暇つぶしになれればいいか、と考え、体中に霊力をまとわせる。
「私は、霧雨魔理沙。ただの魔法使いだぜ、おまえは?」
「…………霊夢よ。博麗霊夢、面倒だから早く終わらせなさいよね」
「ああ、心配いらないぜ、すぐに終わるさ。……お前の負けでな!!」
今この瞬間、運命が大きく変わる出来事が今この場で起こった。
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「紫様、少しよろしいでしょうか」
「…………ええ、いいわよ。藍」
マヨヒガで、休憩している紫の元に、今日の霊夢の教育を終わらせた藍が戻ってきてそういった。
「近隣の妖怪たちが危惧していることがあると」
以下、藍がいう、妖怪たちの危惧である。
先の異変、吸血鬼異変にて、多くの妖怪たちが吸血鬼たちに帰順してしまった。
これは、人間を襲うという存在意義を失った妖怪たちが大半で、みな、気力を失ってしまっている。
何とか吸血鬼異変は終結し、我々妖怪たちは、支配されることを免れた、これではいつ同じようなことが起こってしまってはいつも同じように対処できるとは限らない。
そこで、再び私たち妖怪の力が失われないための処置を考えてほしい。
というものであった。
確かに、人間と妖怪のバランスを保つため、両者ともども、幻想郷のバランスを保つために数を増やすことも減らすこともしなくなる。
そのため、幻想郷の妖怪たちは人里の人間達を襲うようなことがなくなり、次第に気力が失われてしまった。そのため、吸血鬼異変では、大量の妖怪たちが吸血鬼に恐れ、帰順してしまう。
そのため、再び、妖怪たちの気力を復活させ、力を失うことなどないような処置が必要だ。
しかし、そう簡単にいい案など思い浮かばない。
妖怪と人間とのパワーバランスを均衡に保つことなど、これ以上難しいことはない。
「そう…………少し、考えておくわ。後でそう伝えておいて」
「はい」
ひとまずは、後々じっくり考えよう
「それで、霊夢は?」
「ええ、今日の訓練も終わり、今は自由な時間です」
「そう」
とりあえず、霊夢のもとに行こう。愛でよう、最近、心を許してくれたのか、存在を認識してくれた。これほどうれしいことはない。
今日もラブリーエンジェルの所に行こうかしら。
紫はそう思って、『スキマ』を開いて、博麗神社につなげる。
「……………………?」
おかしい、いつもこの時間帯なら…………。
「藍」
「はい?」
「霊夢が、いないわ」
「……………………ッえ!?」
その後滅茶苦茶探した。
幻想郷中に『スキマ』を開き、霊夢の姿を探そうと、藍と一緒になって必死で探したのだ。
「藍!あそこ!」
「ッ!?あ、あれはッ!?」
見つけた。魔法の森の近く、紅白の巫女服、霊夢だ。
戦闘中で、相手は白と黒の魔法使いのような見た目をした霊夢と同じような少女。あれは、霧雨魔理沙だったかしら、たしか、父に勘当されて、霧雨店から魔法の森で、暮らしていたが。
「紫様!今すぐ、援護を!」
「……………………いえ」
「紫様?」
紫は眼を奪われる。目の前の光景に。
綺麗な霊力と魔力による弾幕。色とりどりに放たれる弾幕と、時に刺すように素早いレーザー。その幻想的で美しい光景にすっかり目を奪われてしまった。
「……………………これよ」
「え?…………ゆ、紫様?」
「藍、人間と妖怪のパワーバランスを保つための案、それは、あれだわ」
「あれ…………」
紫と藍はその場で、当の答えはあれにあるのだという答えを見つけ、目の前の弾幕の戦闘光景を最後まで見届けたのであった。
その後しばらくして、幻想郷で、かの有名な平和な決闘ルール。
『スペルカードルール』なるものが制定されることになる。