「スペルカードルール?」
レミリアは、テーブルの紅茶を一口、口に含みながらそう言った。
その疑問は向かいに座って対面している女性『八雲紫』に。
「ええ。幻想郷は人間と妖怪とのパワーバランスを保つために、平和的な決闘ルールを定めます、それが『スペルカードルール』」
『スペルカードルール』
通称、弾幕ごっこであり、『遊び』である。
すべては人間と妖怪とのパワーバランスを保つために新たに制定されたルールである。長いこと、闘争のない平和な時代になり、幻想郷では人間も、妖怪も数を増やしても減らしてもいけないという風潮になってしまった。
そのため、闘争がなくなった幻想郷では、妖怪たちが次第に気力を失ってしまったという。
その結果が、皮肉にも吸血鬼異変の惨状である。
そのため、気力がまだ残っていた妖怪たちが幻想郷の賢者『八雲紫』に申し出て、妖怪の気力回復の一手を望んだ。
そのため、これらすべての問題を一気に解消できる打開の一手が『スペルカードルール』である。
遊びとは言っても『本気の遊び』である。
生死をかけて争うのではなく、疑似的に命をかけた戦いができ、妖怪たちの気力も、持ち得る力を衰えさせないための遊びである。
人間側も妖怪を退治しやすくなり、妖怪も人間を襲いやすくなる。
完全な実力主義をなくし、美しさと思念を追求することに勝るものはないものであるとする。
これが、紫の考える『スペルカードルール』なのである。
では、『スペルカード』での勝敗の分け方とは?
まず、弾幕を用いての戦闘を行う。もちろん、相手を死に至らしめる程度の威力ではないものとする。
『スペルカード」でも、同様に、弾幕を用いてその弾幕で美しさを競い合う。
つまり、『スペルカードルール』とは、美しさを競い、互いに争う競技なのだ。
弾幕にあたってしまったら駄目、もし、あたってしまったとするならば、余力が残っているとしてもその者の敗北である。と。
生死を問わず、平和的に争う『スペルカードルール』は、傑作ともいえる策だ。だが、それを受け入れる、浸透させるにはどうすればいいのか?
『スペルカード』での戦闘を周囲に見せてその魅力を伝えればいい。
そう、「スペルカードルール」を大々的に宣伝すればいいのだ。
「それで、その為に紅魔館に来たのか?」
「ええ、数年後、次期博麗の巫女『博麗霊夢』が就任する。ある程度時間を見たら、あなたに再び異変を起こして欲しいの」
「ほう…………」
そう、紫はスペルカードルールを宣伝するために、紅魔館に異変を起こすように申し出たのだ。
その為に、かつて敵であった紅魔館の門を叩いた。
「おや、幻想郷の賢者様が、お一人で、こんなところに来てどうなされました?」
紅魔館の門前で。紅美鈴に警戒という名の威嚇をされ。
「変な動きをしたらすぐに封じ込めるわよ」
いつもは地下で本を読んでいるだけだった魔女が珍しく廊下にいると思ったら、私の周囲に怪しげな魔法陣を構築して脅迫してきたり。
「……………………」
レミリアの妹「フランドール・スカーレット」には、手に持っていた杖だったものを剣へと変化させ、燃え盛る剣を隠そうともせずにこちらの一挙一動見ていたり。
「お坊ちゃまの敵………ッ!!」
突然私の後ろに現れたかと思えば、首筋にナイフをあてがう人間のメイド。
今、レミリアの所まで行って、お客人としてもてなすようにとレミリアが窘めてくれなかったら命まで取るのではないのかというほどの歓迎だった。
…………いくら敵であったとしても、武器も持っていないし、単純に話がしたいと言っているだけなのにそんなに私は信頼ないのかしら…………。
今もなお、人間のメイド、『十六夜咲夜』が後ろで待機しており、変な動きを見せてばすぐにナイフを手に持って殺しにかかるのだろう。
しかし、6年前とは随分『十六夜咲夜』も成長したものだ。
生きる術を備わっていない人間だったのに、そんな姿は見る影もなく。
一端のメイドとして目覚ましいくらいに成長した。
今では、美鈴がメイド長の役目を咲夜に渡すほどの成長ぶりだ。
まぁ、霊夢も負けず劣らずの成長ぶりだけどッ!!
散々手塩にかけて育ててきた…………藍が。
「それで?異変を起こして、博麗の巫女とやらと『弾幕ごっこ』で負けろ、と?」
「いいえ、負けろというわけではありませんわ。逆に勝っていただいても構いませんわ。その時は、霊夢がそれまでだったということですから」
「ほう、まぁ、そうだろうな、力の弱いものに負けるなど、吸血鬼として許さん。もし負けるようにと言われれば、その戯言と同時に突き殺していた所だ」
「この異変は、大々的に『スペルカードルール』を宣伝の名のもとに幻想郷中に広めることが目的です。そこで、今、幻想郷中で、最も力のある紅魔館が『スペルカード』での戦闘を行うことが重要なのですわ」
「私たちを出汁として利用するということか」
「悪く言えば、そうですわね。しかし、あなた方にもこの提案はメリットがありますわ」
「…………何?」
「あなた方は、今もなお、幻想郷中に、特に妖怪の山といった勢力から警戒をされています。そして、外からの侵略者として人里でも、不安の種であると」
「…………」
「紅魔館が、博麗の巫女が制定する『スペルカードルール』にいの一番に従えば、余計な災いを被ることがなくなります。完全に、紅魔館が幻想郷に認められることになるということですわ」
「ふむ…………」
レミリアは紫の提案を受け、少し思考にふける。
確かに、紅魔館は先の異変を起こして、警戒対象になっているらしい。
幻想郷のルールに従えば、ある程度、紅魔館が信頼における存在として認識されるのかもしれない。
それに、咲夜のこともある。
紅魔館のたった一人の人間であり同じ種族とのかかわりが必要になることもある。
紅魔館は、妖精メイド、美鈴、パチュリー、そして私たち吸血鬼と人間ではない種族しかいない。
そろそろ、咲夜も、同じ人との交流が必要になる時期になるだろう。それに、退屈だし。監視されながら散歩するのも煩わしい。
「わかった、いいだろう。その提案。紅魔館、レミリア・スカーレットが受け入れた」
「…………感謝いたしますわ」
「それで、異変といったか、どういったものにすればいい?」
「異変の内容等に関してはあなたにお任せしますわ。ただし、人間へと重大な悪影響を及ぼしてしまうのは遠慮いただきたいですが」
「ふむ、分かった、後々決めておくことにしておく」
「ええ、お願いいたします。では、手はず通りにお願いいたしますね」
「ああ、咲夜、客人の見送りを…………と、必要か?」
「いいえ、お構いなく」
そういって、紫は『スキマ』を使ってその場から消えた。
「お坊ちゃま、よろしかったのですか?」
「ああ、これで退屈する日々がなくなりそうだ」
そういって。レミリアはこれから先起こりうる未来を想像して楽しそうに笑う。
「…お坊ちゃま、紅茶を、淹れてまいりましょうか?」
「ん、ああ、もうなくなってしまったか、頼む」
「かしこまりました」
そういって、空になってティーカップを持って退出しようとする。
今回の紫の提案は紅魔館にとってもいい条件であった。
これで、多少紅魔館の表向きが良くなるだろう。
咲夜が人間達との交流もこれで容易になりそうだ。
咲夜が私以外に関わりを持てるようになれば僥倖だ。
「……変なものは淹れるなよ」
「……………………」
「知っているからな」
「……………かしこ、まりました」
…………ついでに、咲夜のこれも解消してくれればいいが。
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「……………………」
「~~~~ッ!!!」
「あの…………紫様?」
藍は、目の前の、布団にくるまって悶えている主人を見て、そうおずおずと問いかける。
「……………話せたわ」
「…………はい?」
「やっと、話せたのッ!!レミリアとッ!!」
「……………………はあ」
キャーと、さらに悶える紫様。
その姿を見て、何とも言えない表情になる藍。
……………………生娘じゃないんですから。
と、藍は目の前の変わり果てた主人を見て、呆れながらそう思った。
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ザッ、ザッ、と掃くような音が、博麗神社周辺に響き渡る。
霊夢が神社周辺を箒をもって掃いているのだ。
霊夢は、こうして、訓練のない暇な時間にだらだらしたり、掃除をしたりと、のんびりと過ごしている。
霊夢にとってはこの生活が日常そのものであり、少しだけ面倒くさがりな気がある霊夢にとっては案外いいものであるようだ。
だが、そんな生活はすでにどこ吹く風、ある意味、面倒で、退屈しない生活へと変貌を遂げることになる。
そう、天気は快晴で、家でのんびりしているのがいいのに、この時間帯になると……………。
「~~ぉぉぉおおおおおおおおおい!!霊夢ーーー!!」
ほら来た、遠くの方からこちらに向かいながらで私を呼ぶ箒にまたがるはた迷惑な白黒魔法使いさんが。
「……………はぁ、何よ」
「おう!霊夢!今日も面白いもの持ってきたぜ!」
そうにこやかに笑いながらこちらに近づいてくる魔法使い、『霧雨魔理沙』
数年前に難癖をつけて喧嘩を吹っかけてきてからというものの、何が気に入ったのか、博麗の神社まで来て何かしら変なものを持ってくるのだ。
数年前の喧嘩に関しては、お互いに全力をかけて喧嘩をしたが、結果は引き分けという形で終わった。
「…………何よそれ」
「私にもわからん!!」
「はあ?」
「だから、どういう用途なのか、確かめてみようぜ!」
「……………………」
数日前、同じようなことを言って博麗神社周辺を爆発させていた奴の言葉がこれである。まったく懲りてない。
「………せめて、どういう用途なのか解ってから来てくれないかしら?」
「それじゃあ面白くないだろ?」
こっちはどう転んでも面白くないわよ!
少しばかりそんな怒りが沸くが、もはやこうなってしまっては何を言っても無駄である。
こんな変な物を持ってくる暇があるのなら、食べられるキノコでも持ってきてくれればいいのに。
最近、彼女はキノコ集めに熱を出してしまったようで、魔法の森に生えてるキノコを使っていろいろ実験しているらしい。ほんとつい最近なんて『キノコ爆弾』なるものを持ってきて、また数日前の大惨事になりかけたのだ。
いろいろ破天荒な友人に、呆れてしまうが。それでも憎めないし、何かと暇にならない。
……………まったくはた迷惑な友人ね。
そう、霊夢はうんうんと悩みながら持ってきたものを解明しようとする友人を見て苦笑いしながらそう思った。
そろそろ見えてきましたね.