1508年、スカーレットで第二子が誕生した。
父と同じ金色の綺麗な髪をした女の子、紅い瞳を持つ、吸血鬼の女の子である。
しかし、父はその小さな赤ん坊を見るや否や顔をしかめ、難しい顔になり始めた。
『翼』である。
吸血鬼の力の判決材料ともなるそれが、その子には歪な、まるで、枯れ木のような、どこか不気味と言わざる負えない形容をしている。
元来の吸血鬼には見られなかった不気味な翼が、父には異様に見えたのだろう。
そんなことを知ってか知らずか、レミリアは、愛おしそうに赤子を撫でている母に、自分も抱かせてほしいとお願いをした。
赤子を抱かせてもらえたレミリア、その顔を覗き込んでみる。
すると、その赤子はレミリアのことをじっと見つめ、不意に手をゆっくりとレミリアへと伸ばしてくる。
少しだけびくっとしたレミリアだが、心なしか、目を輝かせながら手を伸ばすこの赤子に情が沸き上がり、思わず微笑んでしまう。
「レミリア?貴方はこの子のお兄ちゃんになるのだから、いかなる時でも、この子を守ってあげて?」
と赤子を抱いているレミリアに母は言い聞かせるようにそう言った。
「はい!私が兄として、この子を守っていきます!」
そう元気よく返事をしたレミリア
この赤子は、その金色の髪と、炎のように紅い瞳、
この2つの特徴から名付けられた名前は
『フランドール・スカーレット』
『悪魔の妹』の誕生である。
第二子フランドール・スカーレット誕生という吉報の影で、
レミリアの母が静かに咳をしたのに気づく者は、誰一人としていなかった。
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フラン誕生から1,2年程、レミリアは変わらず、フランを甘やかし続ける、フランもレミリアを「にーに」と呼んで懐いている様子である。
そんなフランが可愛いのだろう、レミリアは毎日の如くフランを可愛がった。
ある日は玩具で
ある日は絵本で
ある日は一緒に遊んで
2人が別々になる日など無いようであった。
しかし、そんな微笑ましい話だけではなく、あまり喜ばしくないこともあった。
レミリアの母がフランを出産後、急激に体調を悪くし、寝込むようになった。
使用人たちが手を尽くすものの、体調は回復せず、次第に悪化していく。
彼女は、我が子であるレミリアとフランと接することができず、自責の念にも駆られていることも、それを後押ししているのだろう。
レミリアの父も、妻の体調を気遣いながら、レミリアとフランと接してはいるものの、どこかフランにはぎこちなく、接触を避けようとしている節も見られる。
そんな日が続く中、訃報がスカーレット家に届いた
母が死亡した。
涙を浮かべるレミリアに、フランをどんな時でも守って、どんな時でもフランの味方になってあげてと遺言を残し、
レミリアとフランを抱き寄せながら、今まであまり遊んであげられなくてごめんなさいねと伝え、ゆっくりと目を閉じていった。
その日は大雨であった。
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1513年、レミリア10歳、フラン5歳の時、2人の父はある決断を下した。
―――フランドールを地下に閉じ込める、今後誰とも接触を禁止する。
スカーレット家の紅魔館中にこの命令が下される。
難色を示したのは、これまでフランを可愛がってきたレミリアである。
しかし、父は「私に従っていればいい」と頑なに一点張りで取りつく島がない。
レミリアは父の命か、フランドールか、どっちを取るか悩んでいた。
悩みに悩んだ結果、レミリアは母の遺言も後押しし、フランドールを取った。
レミリアから見て母が亡くなってからの父はどこか、おかしい。
何かに怯えているかのような素振りを見せたと思えば、憎々しい目でフランを睨みつける。
「これではフランが危ない、父は少しご乱心なのだ。しばらくすれば父も正気に戻られよう。」
こう考えたレミリアは地下に閉じ込められてしまったフランの下に周囲に内緒で隠れるように向かうのであった。
地下に向かったレミリア、それを見つけたフランは喜色満面の笑みで迎える。
こんな天使みたいな妹を疎むなんてやはり父はどうかしてる。
改めてそう思いなおしたレミリア、さぞや不憫であろうとフランに話しかける。
突然の父からの非情な宣言を受けたフランは、父を恨むような素振りも見せず、お父様は少し不機嫌になっているだけ、いつかお父様もわかってくれると健気にもそう言って見せた。
……やはり、父上に異議を申し立てなければ。
と、心の中でそう決心したレミリア。 その夜はフランに絵本を読み聞かせるのであった。
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その後、何度も父にフランの待遇改善を進言したのだが、聞き入れてもらえず、父に隠れてフランの下に行く日々が続いていた。
ある日、ついにそれが父に露見してしまった。
レミリアを不審に思った父が、地下に向かうレミリアの後を付けていたのだ。
その後の父の怒り様はすさまじく、フランの前に立って、フランを守りながら弁明しようとするレミリアを横薙ぎで弾き飛ばし、呆然とするフラン首を掴み、そのまま絞め殺そうとした。
憤怒に表情のまま理不尽な恨み言をフランに言いながら、掴む力を次第に強めていく父
首を絞められ、苦しそうにするフラン
そんな光景を、父への横薙ぎを受けて、ぼやける視界のまま見ていたレミリアであったが、不思議な事が起こった。
見えた、これから起こりうる、偶然が、フランが殺される。フランが助かる。自分が殺される。
そんな数々の偶然が、運命が。
レミリアはそんな数々の偶然の中に生まれたある一つの『運命』を無意識に手繰り寄せる。
「兄として『どんな時でもフランを守って』『どんな時でもフランの味方でいて』」
『フランが助かる』 そんな運命を。
はっと目が覚めるレミリア、目の前の光景は先ほどと変わらず、
フランが首を絞められている。
フランを守る。その意志と共にレミリアは父を止めようとその場から助走をつけて体当たりをする。
多少ぐらつかせることに成功したが、それだけだった。
腕を振るわれ、吹き飛ばされてしまう。
それでもめげずに立ち上がるレミリア、もう一度体当たりをしようと前を向いたその瞬間
破裂した。
破裂音と共に父が、父だったものが。
フランが何か呟きながら、己の手を握り締めた瞬間
確実に父が破裂し、そのまま死んだのだ。
レミリアはその光景に呆然とした。
父上が死んだ?
誰が殺した?
フランが、、、殺した、、、?
急激に頭が冷え、思考が加速していく中、はっと気づいた。
フランが泣き出している。
父を、肉親を殺してしまったことに自責の念に駆られ、泣き出しているのだろう。
『フランは悪くはない』
『フランは父上に殺されそうになったから仕方なく殺そうとしただけだ』
『フランに罪はない』
そんな考えに行きついたレミリアは、泣き出すフランに居てもたってもいられず、ゆっくりと近づき、慈愛と共に優しくあやすようにフランを抱きしめた。
「ごめんなさい」と何度も懺悔するように言いながら泣くフラン
そんなフランを抱きとめ、「大丈夫、大丈夫」と慰めながら
フランを守っていく
そんな自分の決心をより固めていくのであった。
これが、レミリアの『運命を操る能力』の開花の瞬間である。
この話のフラン視点を入れてみようかなと
次の話はフラン視点です。 恐らく
省き省きだった後編の補足とかしていければなぁと思います。
急展開ですいません。