「お兄様、デートしよ!!」
「ああ、いいよ」
ことの発端は、フランの何気なく放ったこの一言と、レミリアの返答から始まった。
吸血鬼、レミリアとフランが起き、二人が朝食を済ませていると、フランが何気なくこの一言を放ったのである。
レミリアは、すぐに快諾した。これは、デートとは言うものの、ただの兄妹の散歩兼、スキンシップのようなものであるとレミリアが勝手に解釈しているのもある。
「えっ!本当に!!??」
すぐに快諾されるということは、少々、フランにとって予想外なものであり、少しだけ、驚いたものの、喜色満面にレミリアに詰め寄る。
「ああ、いいよ。どこに行くの?」
「近くの湖!」
そういって、いてもたってもいられなくなったのだろう、フランがすぐさま自室へと戻っていった。
レミリアは、そんな慌ただしい愛妹の姿をほほえましく見つめながら、未だカップに残っている紅茶を口に含み、食後のティータイムにしゃれ込むのである。
傍に控えていた咲夜が、フラン退出後、また別の日にレミリアと一緒のお出かけを熱望されてしまい、その熱意に押されてついでに咲夜との出かけの予定も組み込まれてしまうことになり、さらに連鎖して美鈴、パチュリーとも約束事をお願いされてしまうのはまだ別の話。
熱意とは言うものの、断ってしまえばあとが怖い、そして、背中に悪寒が走りかけたらしいが。もし断っていたならどうなっていたのだろうか……………?
そんなこんなで、今日はレミリアとフランの兄妹水入らずのデートである。
フランは久しぶりの兄とのデートに天にも昇るような心地で、足が勝手に弾み、ルンルン気分となってしまうのも、仕方ないのかもしれない。
もちろん、傍に控える咲夜も今回はいない。
『兄妹だけでお出かけしたい!』
と、可愛らしいお願いをされてしまえば、兄として断れるはずもないのだ。
「フラン、あまりはしゃぎすぎて転んだりしないようにな」
「えへへ~、だってお兄様と久しぶりにデートなんだもん!嬉しくなるのは仕方ないもん!」
ぱっと一面に笑顔の花が咲き誇るフラン、あっちこっちへうろうろしていることをレミリアに注意をされれば、今度はとレミリアの腕へと抱き着いて歩いていく。
純粋に、レミリアとの二人っきりのこの時間を楽しんでいるのだ。
美鈴も、パチュリーも、煩わしいメイドもいなければ勝手に増えた『私』も出ない。
今、この時間は、確かにフランにとって至福の時そのものなのである。
遠いところから
誰も邪魔するものなどいない、ここにいるのは、私とお兄様だけだ。
今考えてみれば、ここ最近、フランとレミリアが二人っきりになることはなかった。
大体は、その場に、美鈴、パチュリー、咲夜その他がついて回っているため、アプローチともいえる行動がフランには取りづらかったということもあり、今日、勇気を出して誘ってみた甲斐があったものだと、フランは自分で自分をほめたい気持ちになった。
……今日はお兄様に散々アプローチしようっと!
そんな目標をフランはこのデートに立てていたのだ。
そう、フランにとって、この日は最高なのだ。
「やいッ!そこのきゅうけつき!」
そんな声が、二人のゆったりとした空気すらも消し去ってしまうまでは。
声の主は上空、少し顔を上げたその先にその声の主はいた。
青い服装、水色のセミショートヘアーで青い瞳、さらには青い服に、氷の羽根と、見た感じ、妖精、それも、氷を司る妖精であるということは一目瞭然である。
「ここであったがひゃくねん!れみりあ!あたいはあんたを倒すためにたくさんのしゅぎょーをしてきたんだ!」
「チ、チルノちゃん………い、今は駄目だったって」
上空で、啖呵を切りながら、レミリアにそう宣言するチルノに対し、少し後ろでチルノを制するのは緑の髪のサイドテールの妖精。『大妖精』と呼ばれ、チルノからは『大ちゃん』とも呼ばれている妖精だ。
妖精の種族にしては、多少頭が回り、おとなしい性質なようで、後ろで、びくびくとしながら、チルノへ静止の声を呼びかけるが全く聞き入れられない。もはや聞かれていないのかもしれない。
流石に、二人の和やかな雰囲気をぶち壊してしまった自分の『友達』の行動に申し訳なさすら感じているのか、どこか申し訳なさそうな顔をしながらフランとレミリアへと向けている。
「…………お兄様。知り合い?」
「いや、まったく身に覚えがないな」
せっかくの時間を邪魔されて、かなり不機嫌になったフラン。
若干言葉に棘が混じっているように感じるのは気のせいだろうか。
「なにを!さいきょーのあたいをしらないって!?あたいのことなんかどうでもいいっていうのかー!?ふけーだぞ!」
「チ、チルノちゃん……………………」
だって知らないものは知らないのだ。と、レミリアは思うものの、実は先の異変、吸血鬼異変にて、レミリアとチルノは一回、対峙したことがあるのだ、しかしあまりにも実力差が離れすぎており、すぐにチルノはレミリアから認識されることもされずに地面にたたき落されたのだ。
そういった事情を考慮しても。レミリアは知らないのも当然ではあるが、反対にチルノは怒りを募らせていくのだ。
チルノは次第に両手に氷の妖力をまとわせ始めていく。否が応でも戦闘の雰囲気を感じ取り、レミリアとフランはすぐさま警戒態勢に入る。
「……お兄様。フランがやる」
「……フラン、解っていると思うけど」
「……うん、解ってる」
「それなr「お兄様と私の逢瀬の邪魔をしたあいつを半殺し、いいえ、全消しにしてあげればいいんだよね、解ってるよ」……………ん?違うよ?」
思わず突っ込んでしまったが、まぁ、利口なフランのことだから、限度くらいはしっかり理解しているだろう。
あくまで、先に制定されるスペルカードルールのためだ。それに、さらに問題を起こしてしまえば、紅魔館の表向きが一気に悪くなってしまうことだろう。
だから、スペルカードルールの範囲で相手してあげる必要がある。幸い。実力差は見え透いているほどだ。普通にやっても、片手だけでも簡単にひねれるような相手だから。それほど全力で戦わなくてもいいはずだ。
「うわッ!?なんだお前!あッ!いたッ!!ひぎッ!!あぐッ!!や、やめ、やめろぉ!!」
「禁忌『レーヴァテイン』」
「うわッ!?なんだそれッ!!……あつぅぅううう!!??や、ち、近づけるなぁ!!あちッ!あちちッ!、やめてぇ!!」
形勢逆転、逃げ回るチルノを追い回すフラン、そして、その光景をただ眺めることしかできないレミリア。
氷の妖精に燃える剣『レーヴァテイン』はどうかとは思うが。まぁ、そこはフランだからうまくやってくれるだろう。
そう、レミリアは任せるという名の『放棄』をした。
「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません」
とりあえずは、いつの間にか、目の前に近づいて、その場で土下座して許しを請う緑の妖精『大妖精』の対応をしなければ。
「………まぁ、なんだ、いろいろ大変だな、お前も」
「…………は、はい………」
「…………愚痴があるなら、聞くぞ?」
「………………あ、ありがとう、ございます」
その後、滅茶苦茶愚痴を聞いた。
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その後、なんだかんだ言って、フランとチルノとの一戦、(フランの一方的な虐殺ともいう)が終わり、身長的にも、見た目的にも、似通うところは見当たったのだろう。
とりあえずは、顔を知り、ある程度話せるところまで吸血鬼たちと妖精たちとの仲は進展したといってもいいだろう。
フランに関しては、未だ二人の時間を邪魔されてしまったため、まだ不機嫌なままではあるが、チルノのある意味恐れ知らずな行動が功を奏したのか、フランの怒りはある程度静まった。
さすがは氷の妖精。
せっかくのご近所なのだから、仲良くしておくべきである。幻想郷に移住するのならばなおさらだ。
それに、現在の紅魔館の従業員はほとんど妖精だ。
仲良くすることに損はないはずである。
とりあえず、身長、見た目的に同じくらいの子と仲良くなれたことにより、フランの遊び相手が増えたとレミリアは兄ながらに思うのである。
さながら、小さい子の中に一人ぽつんといるお兄さん的なポジションにレミリアは甘んじているのであった。
「アハハハハハハ!!避けないと死んじゃうかもねぇ!!」
「いちちッ!!あいたぁッ!!わっ!わっ!あぶないッ!」
「ふええ~!!チ、チルノちゃんが余計な事言うからぁ~!!」
だから、こうして、フランが放つ弾幕を二人の妖精が必死になって逃げているのも、優しい目で見守っているだけなのである。
だから、フランが妖精のお友達と一緒に仲良く弾幕ごっこをして遊んでいるのも、必死になって逃げている光景をほほえましくレミリアは見守っているのであった。
やっぱり、兄とのデートを邪魔されたから、弾幕に勢いが増していたり、妖精は死なないからって、威力を高めて放ってなんか、フランはしてないだろう。…………多分。
まぁともかく、順調?にフランの友達が増えていくのは喜ばしいことだ。
フランも、当初の目的とはかけ離れてしまったものの、その場でそのストレスを解消できたのがよかった。
遊び疲れて、満足したようだ。
フランは年頃の女の子のように、遊んでいるのであった。
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「おい!れみりあ!今度こそ!たおしてやるからな!またこいよ~!」
「あ、あのッ!ありがとうございました!」
散々遊んで、後ろからのチルノの声と、大妖精の感謝の言葉と共に、レミリアとフランは帰路につくのであった。
「楽しかったか?フラン」
「うん!楽しかった!!」
そう、満面の笑みで答えるフランにそうかとつぶやき、レミリアはフランの頭をなで、紅魔館へと帰っていくのであった。
「……………………あれ?今日って、お兄様とデート………」
「……………………?どうした?フラン?」
その後のフランは終始複雑な表情であった。
このまま、伸びてほしい………………。