「そら、博麗の巫女とやらの実力、見せてみろ」
空高く飛び上がったレミリアは、霊夢に向かって弾幕を放つ。
―――早いッ!
レミリアが放つ弾幕は、比較的他の紅魔館の住人たちよりも一回り大きいものだ。
巨大で早い弾幕は、霊夢の安置を塞いでいくように、そして霊夢自身を狙ってのものだった。
規則的に、かつとどまることがないその弾幕の嵐は序盤では元来繰り出されることがないであろう質の高い弾幕であった。
その分、霊夢もその弾幕に対して集中を高めて避けていく。
かろうじて、反撃という反撃は前方に配置してあった陰陽玉の弾幕による攻撃のみではあったが、まともに戦えているようでもある。
「さて、最初のスペルと行こうか、あっけなく落とされてくれるな」
「神罰『幼きデーモンロード』」
最初に攻勢に出たのはレミリアである。
一枚目のスペルカードを宣告する。
「…………………ッ!!」
すると、周囲に妖気の塊が出現する、それらが何なのかと理解する前にレミリアから眩いレーザーが射出されると同時に弾幕も放たれる。
「………………ッ!?」
霊夢は第一波目のレーザーと弾幕を避けきることには成功したのだが、息をつかせる間もなく霊夢に攻撃が繰り出される。
妖気の塊のようなものが、レミリアから放たれたレーザーを反射するかのように襲い掛かってくるためである。
「チッ!!面倒ね!」
レーザーを避けても反射してきて自分を狙ってくる。大胆に動こうにもそこには弾幕が襲い掛かる。
霊夢は自由に飛び回ることすらできず、回避に専念せざるを得ない。
『ホーミングアミュレット』
霊夢は手に持っているお札を数枚、襲い掛かるレーザーを避けながらレミリアに向けて投げる。
これは、スペルカードではない普通の霊夢のショットであるが、少々特別な作りになっており、お札がホーミング弾となってレミリアへと飛んでいくのである。
「……ふんッ!!」
しかし、そのホーミング弾はいとも簡単にレミリアの横なぎでかき消されてしまう。
「霊符『夢想封印』」
しかし、その一瞬できた隙を狙って霊夢も一枚目のスペルカードを宣告する。
複数の弾幕がホーミング性能を備え、相手めがけて飛んでいき、爆発していくというスペルカードだ。
「む!」
対するレミリアにもそのスペルカードの性能を一目で見極め、即座にその弾幕に対してレミリアも巨大な弾幕にて相殺させる。
相殺された場所は、夢想封印にて放たれた弾幕と、レミリアの弾幕の相殺によって生み出された爆発が響きわたり、その時に生じた煙で相手の姿が見えなくなってしまう。
「……………………!」
レミリアは目の前の光景の変化に即座に気が付いた。
煙の向こう側、すなわち霊夢の姿が消えたのである。
だが、レミリアは慌てることなく、冷静に構える。
霊夢が消えたのではなく、あの一瞬ですぐに行動に移したのだ。
おそらく、予測できるは自身の上空。
レミリアはすぐに上空を見上げた。
『パスウェイジョンニードル』
レミリアの予測は当たった。
レミリアを見下せるほどの上空までに上昇した霊夢はレミリアに向けてまた第二のショットを繰り出す。
霊夢より前方に配置した二つの陰陽玉から針のような弾幕が射出される。
退魔の力を宿した針で、相手の妖気を削いで戦闘能力を衰えさせるショット技である。
「フッ!」
レミリアは上空からの針の弾幕も何のこともなく避けて見せる。
顔には少しばかり笑みを浮かべて。
「獄符『千本の針の山』」
針には針を、と言わんばかりにレミリアは二枚目のスペルカードを宣言した。
大量のナイフの弾幕が放たれ、このナイフの弾幕に若干の見覚えと苦渋を飲まされてきた霊夢にとっては顔を歪ませざるを得ないだろう。
それも、咲夜の弾幕よりも高密度なのだからなおさらたちが悪い。
「……あのメイドにしてこの主人ってわけ!!」
「おや、その口ぶりと顔からするに、散々咲夜のナイフに苦しめられたようだな。それはいいことを知った。」
愉しそうに笑いながらナイフの弾幕を避けていく霊夢を眺めるレミリア。
そんな余裕そうな姿を見て霊夢は少しばかり舌打ちをする。
幸い、時間を停止させる能力をレミリアは持ち合わせていないために、ふいうちのようなことはしてこないようだ。
だが、この高密度のナイフの弾幕群とついでにと放たれている弾幕によってやはり霊夢にとっても苦しい弾幕の様だ。
スペルカードがブレイクしても、霊夢がナイフの弾幕に対してあまりよく思っていないのをいいことに通常の弾幕にナイフの弾幕を混ぜて弾幕を放ってくるようになった。
嫌がらせは見た目相応である。
「ほう、これも避けるか、なら、次はこれだ」
「神術『吸血鬼幻想』」
そしてレミリアは三枚目のスペルカードを切り、周囲に大きな弾幕を発射する。
それだけなら、簡単に避けられるであろう。
「………………ッ、ああもうッ!」
しかし、その弾幕が通った跡に、小さな弾幕が残り、それらが霊夢に向かってくるではないか。
四方八方から自分を狙ってくる弾幕に対して、霊夢は苛立ったように声を出す。
自分の行動を制限すると同時に、自分を追い詰めて、隙あらば被弾させようとしてくるレミリアの弾幕に霊夢は自分のペースの弾幕ごっこに引き込むことができないでいる。
「夢符『封魔陣』」
霊夢もたまらず二枚目のスペルカードを宣告して自身の周囲に陣を形成してむかってくる弾幕を打ち消していく。
霊夢にしては珍しく、受け身でスペルカードを宣告するのみである。
「……ハッ!、ッ!!??」
レミリアの三枚目のスペルカードも霊夢のスペルを使用してブレイクさせた。
と同時にレミリアは突然姿を消した。
霊夢も姿を消したレミリアに対して驚愕一色に顔を変えると同時に、レミリアの行方を探そうと左右へと首や目を走らせる。
「…………後ろだ」
「……………ッ!?」
心底愉しそうな声が後ろから聞こえ、霊夢は直感的にその場を動く。
霊夢が元居た場所からは高速に通り抜ける巨大な弾幕。
霊夢はそれを見た瞬間、第二波が来ることを本能的に理解した。
「……………………ッ!!」
急速に向きをレミリアの方へ向け、レミリアから繰り出されていく高速の弾幕をかろうじて避けていく。
そして、その高速に放たれる弾幕を打ち切ることを見計らって反撃の弾幕、ホーミングアミュレットを放っていく。
霊夢の弾幕が直撃するかと思うほどレミリアへ近づいた弾幕、レミリアに被弾するかと思われたが、レミリアの実体が霧となって消散していった。
「……………なッ!?」
ただ単純に霧となったのではない。
そこから何十羽になる蝙蝠の群が表れ、四方へと飛び回ってく。
何十羽もの蝙蝠に言葉を失って翻弄されてしまう霊夢。
次第に蝙蝠の群が一点に集中していき、だんだんと実体を帯びるようになっていく。
「…………ふむ、さっきは危なかったぞ」
「……………………」
その蝙蝠が集結した瞬間、レミリアが姿を現した。
平然と霊夢の方を見ながら冷静に言い放つレミリアに対して霊夢は驚きを通り越して呆れの表情へと変化していったようだ。
「……………あんた、吸血鬼?」
「む?言っていなかったか?」
「…………………ああそう」
「それより、中々やるじゃないか。博麗の巫女というのもあながち馬鹿にはできんな」
「満足したかしら?なら、異変を終わらせてくれるかしら」
「何を馬鹿なことを、本当に楽しいのはこれからではないか」
「…………………はぁ」
この弾幕ごっこの小休止を挟んで、再び弾幕ごっこの続きへと移行していく。
弾幕を再び放ち始める両者。
「紅符『スカーレットマイスタ』」
レミリアは再びスペルカードを宣告すると、勢いよく霊夢に向かって紅い弾幕が迫ってくる。
霊夢に向かう弾幕のほか、周囲にも同じように弾幕をばら撒いていく。
「ッ!霊符『夢想封印 集』」
霊夢もレミリアの『スカーレットマイスタ』に対抗するようにスペルカードを宣告していく。
レミリアの弾幕よりかは弾速が遅いものの、レミリアの『スカーレットマイスタ』を打ち消すに十分なスペルカードである。
紅い弾幕と、霊夢のお札が相殺されていく。
両者のスペルカードは全くの互角、相殺しあって、とうとう両者のスペルカードがブレイクした。
「…………面白い」
「私は全く面白くはないわよ」
ニイッと不敵な笑みを浮かべながら言い放つレミリアと少々げんなりしたように言う霊夢。
どう見てもレミリアに消耗しているような色は全く見えず、まだまだ万全の状態でやれるということを暗示しているかのようにも思える。
霊夢は、度重なるレミリアのスペルカードをあの手この手で上手く対処しているものの、すべて必死になって対処しているため、かなり疲労の色が見える。
霊夢はレミリアと自分との実力の差をはっきりと感じてはいるものの、顔には出さない。
「さて、ここまで私とやりあえたお前は賞賛に値する」
「……………………」
まだまだ万全であるレミリアは見た目とは裏腹に尊大に言ってのける。
「だが、お遊びは終わりだ。少々本気を出して、お前を潰すつもりで弾幕を放ってやろう」
「………………上等よ」
「せいぜい、無様は晒すなよ?」
そういって、レミリアは懐から一枚、他のスペルカードとは雰囲気や妖気が全く違うスペルカードを取り出す。
そして、レミリアはスペルカードを掲げ、告げる
『紅色の幻想郷』
その瞬間、辺りが紅い弾幕で覆われる、その量と妖気の多さは、レミリアが本気で自分を潰すつもりなのだと、霊夢は嫌でも感じることになる。
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「待ちなさ~い!!」
「待てと言われて待つやつなんていないぜッ!!」
ドカーン、ドカーンと辺りから爆発音が鳴り響く。爆発音からは壮絶な戦闘が繰り広げられているであろうことが予測できるだろうが、実際には違う。
逃げ回っている魔理沙を追うフランによるものである。
ただしかし、フランだけが爆発音が鳴り響く元凶ではなく、逃げ回っている魔理沙にも一因する。
魔理沙がどこからか取り出したマジックアイテムのようなものが弾幕と相殺したり、フランに投げつけたり、フランに破壊されたりといろいろな用途で魔理沙のマジックアイテムが爆発していくのだ。
「……………………」
「……………………」
そう、このパチュリーの大図書館内で。
図書館内にある程度丈夫な結界を施しておいたのに、結果はフランと魔理沙の戦闘によってその結界すら破壊され、図書館内のあちこちが破壊されてしまっているのだ。
パチュリーは何も言えず、その顔からは表情をうかがい知ることができないだろうが、何か悲壮感のような感情が見え隠れしているようにも見える。
拘束されている文も、どこか目に光が入っておらず、死んだ目であるようだ。
図書館の司書を務め、パチュリーの使い魔である小悪魔はといえば、そもそも戦闘向きではないため、フランと魔理沙の弾幕ごっこ?に巻き込まれないように隅に隠れてブルブルと震えている。
使い魔は主を守るのが役目ではないだろうかとパチュリーは心の中でそっと思ったのだが、だが仕方がないと結論に至る。
「…………パチュリーさ、 まッッ!!??」
するとパチュリーの後方から声がかかる。
最初はパチュリーに声をかけようと、その後、目の前の惨状を見て言葉を失ってしまったかのように。
「………………咲夜?」
「…………ハッ!!は、はい、何でしょうかパチュリー様?」
後ろからかかる声はまさしく咲夜のものであると確信をもって、振り返ることもなく相手の名前を呼んだパチュリー。
それに対して、目の前の地獄絵図から引き戻されたように我に返る咲夜。
「…………美鈴を呼んで、そして目の前の馬鹿2人を止めて」
「……………………は、はぁ」
「……………なるべく急いで、図書館内が完全に破壊されてしまう前に」
「か、かしこまりました」
そういって、再び時を止めてその場から退出していく咲夜。
「……………………」
そしてパチュリーは死んだ目で再び現実逃避へと移行していったのである。
手に持っていた魔導書を開く手にも力が無かったが。