紅霧異変解決から一週間後、ある程度は紅魔館が修復され、慌ただしさから解放された紅魔館では、異変に携わった者達同士で宴会をする計画を企てていた。
基本的には異変解決に動いた『博麗霊夢』と『霧雨魔理沙』を招待した。
後者は、目的が魔導書?であり、悪く言えば盗人なのだが、霊夢の親友枠でもあったため、招待しないわけにはいかないだろうとレミリアは判断した。
今日から数日後、紅魔館で宴会を始めるため、再び紅魔館は宴会の準備で慌ただしい生活が始まるのだ。
「一班!ここが終わったら次はエントランス!」
「「はいッ!!」」
「二班ッ!貴方達は紅魔館の未だ修理されていない箇所の修理作業!」
「「「了解ッ!!」」」
「三班ッ!!メモに書いてある食材、飲み物、食器等、買い出しッ!!散会して協力して物事に当たる様にッ!!」
「「はッ!!」」
「四班は……………………」
当然、メイド長『十六夜咲夜』の指揮を中心に、きびきびと妖精メイド達が咲夜の指示を得て行動に移している。
本来、妖精メイド達は、その名の通り『妖精』という種族である。
基本、妖精たちはいたずら好きであり、子供っぽい性格の持ち主が多い。
だが、紅魔館の妖精メイド達は紅魔館の教育を受けて、子供っぽい性格が鳴りを潜め、皆、従者としての自覚と誇りをもって自分の上司である『十六夜咲夜』そして自分たちの主である『レミリア・スカーレット』その他、紅魔館主要メンバーに忠誠を誓っている。
メイドとして、そして戦闘面でも練度が高く。妖精たちの間では、紅魔館の妖精メイドという称号をうらやんでいる者もいるとかいないとか。
とりあえず、妖精たちの中でも妖精メイドという仕事は羨望の的のようだ。
彼女たちは、自分たちの主に崇拝以上の忠誠心を抱いており、吸血鬼異変後から紅魔館に仕えている者達が大半である。
ならば、基本的に新参であるメイド長『十六夜咲夜』に関して何か不満はないかと聞いたら。皆が皆、無いと答えるだろう。
彼女たちは自分たちの主の命令には基本従順である。
さらには、『十六夜咲夜』が稀代の逸材であるということを認め、自分たちよりも能力が上だということを理解している。
ならば、自分たちの上に立っていてもおかしくはない。といった考え方なのだ。
人間である十六夜咲夜の指示に素直に従うのはそういった観点からだ。
もちろん、自分たちの上に立つにふさわしくないと感じたらまた別の話になるのだろうが、ここではどうでもいいことだ。
そんなメイドとしての精鋭である紅魔館妖精メイド達は、様々な仕事に応じて班ごとに分けて物事に取り組んでいる。
一班は掃除、二班は修理、三班は買い出しなど。
その班の中でも妖精メイドの中でリーダー格のような人間が事細かに指示をしている形をとっており、上司である咲夜の命令をくみ取って自分たちで考えてより潤滑に物事に取り組んだり、行動に移す等。
各班で様々な工夫を凝らしているのだ。 …………………社会人の鑑である。
そんな迅速かつ正確な仕事をこなしていく妖精メイド達の様子を見ていきたいと思う。
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ここは、紅魔館のとある廊下の一部分である。
ここの廊下を掃除している妖精メイド達も、班での役割である廊下の掃除を受けてここの掃除を行っている。
「………………ねぇ」
「ん~?なに?」
ここでは、2人の妖精メイドがここの廊下の掃除を担当されている。
彼女たちは紅魔館の妖精メイド達の中では比較的新人である様だ。
「前から思ってたんだけど」
「………うん」
「いっつもそこの窓を掃除しているよね」
「…………うん」
「どうして?」
「……………………」
新人二人、同じ時期に紅魔館に働くことになった同僚二人同士であり、二人は仲がいい。
しかし、毎日無駄口を叩くことすらできない先輩たちの雰囲気に圧されていたために、二人っきりの時にずっと聞きたいことがあったのだろう。
モップをもって廊下を掃除している妖精メイドが、紅魔館の数少ない窓を拭いている友人の妖精メイドへと聞く。
どうやら、窓を拭いている妖精メイドは今日が初めてではないようだ。毎日の掃除でいつもここの窓を拭いているらしい。
「………特別に教えるよ?」
「うん」
「ほら、こっちきて、あっちを見てみてよ」
「うん……………ッ!!??」
さて、二人の妖精メイド達が窓越しに見た光景。
それは、ベランダで、優雅に椅子に座りながら紅茶を嗜んでいる敬愛する主である『レミリア・スカーレット』本人の姿である。
「ねっ!?ここ、ベランダが見通せて、お坊ちゃまの御姿が拝見できるんだよッ!!??」
「………………ホントだ」
二人、一方ははしゃぐように、片方は、予想外の光景への驚きと尊さが入れ混じって茫然としてしまう。
優雅に外を眺めながら、ゆっくりとティーカップと持ち上げて、ティーカップに口付ける姿は正に一枚の肖像画。
ティーカップから口を話し、ほうっ………と息を吐く姿は何とも言えない、忠誠心が鼻から出そうな尊さを感じてしまう。
二人は、その光景に目を奪われ、自分の役目を一瞬忘れて見入ってしまう。
「…………………ねぇ」
「…………………やだよ」
モップで掃除していた妖精メイドが唐突に切り出した。
が、即座に返ってきたのは拒絶の一言。
まだ用件も言っていないが、ある程度、予測ができる。
大方、窓の掃除を変わってくれ、とでも言うつもりなのだろう。または、それと似たようなことを。
拒絶の言葉が放たれた瞬間、その場の雰囲気がピリッとしたものに変化した。
「…………………友達でしょ?」
「……………都合のいい時に、友達という関係を利用しないでくれる?」
「……………………」
「……………………」
スッと、二人は距離を離して、冷たい雰囲気のまま、両者睨みあう。
「いいじゃん!散々皆に黙っていい思いしてきたんでしょ!!」
「やだよ!!ここは私だけの特権!特別に教えてあげたけど、それとこれとは話が別だよ!!!」
「友人に、気を利かせなさいよ~ッ!!!!」
「だったら、友人に、遠慮しなよ~ッ!!!!」
「「む~~~~ッ!!!!」」
二人、エゴとエゴのぶつかりで揉み合う。
その二人の激しい攻防を繰り広げ、また再び距離を離す。
「……………これじゃあ、埒が明かないわねッ!!」
「……………望むところだよッ!!!」
両者、妖気を纏わせて、第二ラウンドが開幕されてしまう。
「こらッ!!そこッ!!何してる!!」
「「!!!???」」
そんな二人が今にも衝突するのではないかというときに、遠くからの怒号の声が聞こえ、二人体を震わせ、一瞬でピシッと背筋を伸ばす。
遠くから向かってくるのは、自分たちの先輩であり、この班を統括して指示する上司である妖精メイド。
己にも他者にも厳しいストイックな性格の持ち主であり、新人である彼女たちの間では、いい上司ながらも怖い人ひとだという認識がある。
「お前たちッ!!休んでいる暇はないだろう!!何してる!」
「はいッ!!すいません!」
「ごめんなさいッ!!」
険悪な雰囲気を醸し出していた二人は、一瞬の内にその雰囲気がかき消され、背筋を伸ばした体で90度の綺麗な謝罪をする。
散々怒られて、次第に身体に染みついた謝罪である。
「手を休ませている時間なんてないッ!ここが終わったのなら次のフロアに行けッ!!」
「「はいッ!」」
「駆け足ッ!!」
「「はいッ!!!」」
先輩の怒号でわたわたと、駆け足で次のフロアへと移動していく妖精メイド二人。
「まったくッ!!」
はあ、とため息交じりにそう言った先輩メイド、おもむろに窓の方を見る。
「………嗚呼、本日も麗しく、尊い御姿…………ッ!!??いかんッ!!!」
窓の向こうにある敬愛する主の姿を惚けた表情で見つめる先輩メイド。
そして、すぐに自分の異常に気が付いて、鼻を抑える。
こんな姿を見られてはいけないと、先輩メイドも急いでその場から離れていくのであった。
紅魔館内では、メイド間で、ある取引がされているらしく、メイド長である『十六夜咲夜』もその取引を黙認しているらしい。
主である。レミリア・スカーレットに内緒で。
その取引されるものの大半が、とある吸血鬼絡みの物であったらしいのである。
果たして、その真実は如何に。
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「………………招待状?」
「ああ、紅魔館のレミリアから、霊夢、お前にだ」
ここは、博麗神社、霊夢と藍が修行を終え、一息ついた時に藍がある一枚の紙、それもしっかりした創りの紙を一枚霊夢に渡した。
「何これ…………宴会?」
「ああ、なんでも、異変解決後に親睦でもどうかとあちらからのご招待だ」
「…………ふーん」
霊夢は、受け取った招待状をまじまじと見つめる。
表面をじっと見た後、今度は裏面に何か書いてあるのかと、用心深く確認している。
ふと、霊夢は気になることがあった。
「…………『霧雨魔理沙』?なんであいつも一緒なの?」
「……………うん?一緒に異変解決に向かわなかったのか?」
「……………知らないわよ。私一人で紅魔館に向かったもの」
招待状の参加者、招待者をぱっと見て、『霧雨魔理沙』の名前があることに霊夢は疑念に思ったのだ。
異変解決に向かったのは、私だけであり道中、魔理沙との遭遇もなかった。
そこで、霊夢の中で一つの考えが浮かび上がる。
どうせ、変な研究ばかりしている変人だ。
紅魔館に何か面白い物を探しに潜り込んだのだろう。
魔法使い兼、盗人のあいつのことだ。
勝手に人目を盗んで侵入したのだろう。
「はあっ……………………」
霊夢はそこまで考えて、改めて自分の友人である魔理沙がいかに厄介者かというのを再認識して、ため息を吐いた。
「それで、どうなんだ?行くのか?」
「……………………」
霊夢は藍の言葉に少しだけ考える。
異変解決で敵として相対したばかりだ。
まぁレミリア自身、あまり気にしない性質なのかもしてないが。その従者とかがどうかは解らない。
霊夢自身も、ある意味ではレミリアを超えるという意思がある以上、一種の敵意の様なものを感じているのかあまり気乗りがしない用件だ。
「……まぁ、誘われたからには、行かないと失礼ね」
「そうか、なら、楽しんで来い」
誘われたからには行かなければ、とは言うものの、霊夢には別の考えがあった。
紅魔館には興味がある。特にレミリアに関して。
少しばかり、レミリアには敵意があるのだが、それとはまた別に何やら落ち着くような、不思議な感覚が最近感じるようになってしまった。
それに、魔理沙も来るんだったらとりあえず何とかなるだろう。そんな確信が霊夢にはあった。
……………それに、毎日油揚げ料理生活にも飽きが来たし。
ここ最近の食生活から脱せるんだったら、受けない手なんてないだろう。
霊夢は、数日後の宴会に期待をはせた。