今日も月明かりが眩いほどに辺りを照らしていく今宵。
その月明かりが、二つの影を捉え、二つの影を照らしていく。
「……な、なぁ?本当に行くのか?」
夜空に空を飛ぶ二つの影、片方の影があまり気乗りしないような口調で相方に問いかける。
「………さっきからしつこいわね。そんなに嫌なの?」
「そ、そういうわけじゃないんだが…………」
「……ほら、見えてきたわよ」
「……………う」
二つの影が目を向ける先には、夜でも紅々しく、見方によっては一種の恐怖を煽ってしまうような見た目である『紅魔館』がそこにはあった。
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「ようこそいらっしゃいました。お客人の『博麗霊夢』様と『霧雨魔理沙』様ですね?」
「ええ」
「………………あ、ああ」
先ほどの空を飛んでいた二つの影、博麗霊夢と霧雨魔理沙が紅魔館の門前に降り立つと、そこには、異変の時の衣装とは違って、パーティにふさわしい衣装を身に着けた『紅美鈴』の姿であった。
「では、早速会場の方にご案内いたします。と、その前に、霧雨様とは初対面ですので、改めて自己紹介をいたします。紅魔館の門番をしている『紅美鈴』と申します」
「あ、普通の魔法使いの『霧雨魔理沙』だぜ………です」
目の前の案内をするといった紅美鈴の綺麗な一礼と言葉遣いに気を抜かれ、その雰囲気に圧せられ、少しだけ変な挨拶を返してしまう魔理沙。
霊夢はといえば、目の前の門番とは二度目ではあるが、初対面時の好戦的な一面とはかけ離れている現在の姿に少しだけ驚いたが、それより目に見えて緊張しているのがまるわかりな魔理沙の姿が新鮮に、それでいておかしく感じられ、少しだけ苦笑を浮かべてしまう。
そんな笑みを見た魔理沙が小声で「な、なんだよ」と気恥ずかしそうに言う姿もなんだか可笑しかった。
「では、会場の方へご案内いたします。どうぞこちらへ」
そう言って、門を開けて、ついてくるように促してくる美鈴。
「ほら、行くわよ」
「う、か、覚悟を決めるぜ…………」
そして、素直についていく霊夢と何やら決心したように霊夢の後ろへついていく魔理沙。
三人は、紅魔館の宴会会場へと足を進めていくのであった。
紅魔館の宴会の招待を受け、宴会に参加することになった霊夢と魔理沙。
この詳細は昨日か一昨日にさかのぼる。
その日は珍しく焦ったような面持ちで博麗神社に訪れる魔理沙の姿からだった。
「な、なぁ、霊夢、これなんだか知ってるか?」
そう言ってこちらに見せつけてくるのは一枚の紙、霊夢には見覚えのある紙だった。
「………ただ単に宴会の招待じゃない。紅魔館の」
「……………だよなぁ」
紅魔館からの宴会の招待の件が書かれてある一枚の招待状。
これに、何やら好ましくない反応をする魔理沙。
「………なぁ、お前も、これ貰って」
「ええ、貰ったし、行くことにするわ。せっかくのタダ飯だし」
「…………そっか」
魔理沙の問いかけにすんなりと答える霊夢。
これに対して大方予想はついていたのか複雑な顔をする魔理沙。
「魔理沙もくるんでしょ?」
「あ、いや!そ、そうだな、わ、私はその日用事が………」
「何言っているのよ、毎日、研究するか、盗みを働くかのどっちかなんだから用事なんてあるわけないでしょ」
「……………う」
「魔理沙も来なさい。せっかく招待状をもらったんだから行かないのも失礼でしょ?」
「そ、それも、そうなんだが…………」
「友人に一人で行けっていうのも酷でしょう?付き合いなさい」
「……………………あ、ああ」
こうして、なぜか渋る魔理沙を説得という名の強制によって紅魔館の宴会に行かせることにこじつかせた。
まぁ、霊夢にとっては、魔理沙のことはよく知っているものだから、どうせ、紅魔館で何やら後ろめたいことでもしてきたんだろうと当てをつけていた。
例え、そうであったとしてもたまには問題児である魔理沙にお灸を据えて貰おうと考えて、敢えて知らないふりをした。
なんだかんだ言って付き合いがいい魔理沙のことだから、こういう風に言っておけば付いてくるだろう。
長年、魔理沙と友人として付き合ってきたわけじゃない。
魔理沙の弱みを逆手にとって利用してやった。
毎度毎度 魔理沙に振り回されている霊夢にとって、今回の件は少しだけすっきりとしたひと時であった。
そんなこんなで宴会当日、やっぱりついてきた魔理沙が道中、何度もやっぱり行きたくない等、何度も言っていたのだが、結局紅魔館に到着してしまった。
それで、何だか意を決したように紅魔館へと入館していくのである。
「到着いたしました。会場はこちらになります」
そう言って、目の前の扉を開いてそういう美鈴。
扉の向こうへと一歩足を踏み入れるとそこは、とてつもなく広い会場だった。
「………ッ」
「…………ふわ~」
霊夢と魔理沙、両者様々な反応をする。
無言だが、少しだけ顔に驚愕の色を出す霊夢と、変な声で感嘆の声を漏らす魔理沙。
目の前の光景は、目を見張るものであった。
目の前は、宴会を一足先に楽しんでいる妖精メイド達。
無礼講の様で、何やら楽し気に談笑しながら、楽しんでいるようだ。
はしゃいでいる妖精メイドもいるにはいるが、ある程度節度を守っている様子が見て取れる。
しかし、大勢の妖精メイド達と、その数えきれないほどいる妖精メイド達全員が入ってもまだまだ余裕のあるこの広い会場。
そんな壮観な見た目に霊夢と魔理沙は驚愕したのだ。
「ようこそいらっしゃいました。『博麗霊夢』様、『霧雨魔理沙』様」
「……………………ッ!」
横から声がかかり、そちらに向いてみると、メイド服の従者。
メイド長である『十六夜咲夜』だ。
「………………あんた」
「主である『レミリア・スカーレット』はこちらでお待ちしております。どうぞこちらへ」
無表情ながら、綺麗な一礼をしてこちらについてくるように言う咲夜。
顔を上げた瞬間、その眼には、霊夢に対する敵意の様なものが紛れ込んでいたのを霊夢は見逃さなかった。
負けじとこちらもその一瞬の内にやり返してやった。
「………………行くわよ」
「あ、ああ」
そう言って咲夜の後をついていく霊夢と魔理沙。
霊夢はこの先に待っている奴の姿を頭に浮かべながら気を引き締める。
魔理沙も別の意味で気を引き締めるのである。
「お坊ちゃま、お客人二名をお連れいたしました」
「………………む、そうか、ご苦労だった」
咲夜の案内に従って、後についていくとそこには他よりも一段と大きなテーブルクロス、霊夢と魔理沙の名前が書かれたネームプレートと空いている2つの席。
その近くで片手に赤紫色の飲み物が入っているワイングラスを持ちながら空を眺ているレミリア・スカーレットの姿であった。
見た目が幼いながらも、優雅にワイングラスを手に持ちながらゆったりと座っているレミリアの姿は、何か背徳感のようなものを感じられてしまう。
咲夜が一声かけると、気が付いたようにこちらへと目を向けるレミリア。
霊夢と魔理沙の姿を確認すると、その場に立ち上がる。
「ようこそ、お客人たち。紅魔館へようこそ。歓迎するぞ」
よく来てくれたといわんばかりに喜色の笑みを浮かべるレミリア。
「………え、ええ」
「………は、はい」
霊夢は、異変の時の強者、言わば覇者のような風格から一変、人好きのする笑みを浮かべてくるレミリアに困惑の色を隠せない。
魔理沙に関しては、驚きの連続でもはや本来の自分の口調ではなく、珍しく敬語口調になって答えてしまっている。
「さ、立っているのも何だ。こちらに座ってはどうかな?」
そう言って 手で二人のネームプレートで示されている席へ座る様に促すレミリア。
別に二人は何の異論もないため、素直に従って席に着く。
「さて、今回は紅魔館が開催する宴会へと足を踏み入れてくれたこと、嬉しく思う。先の異変で知り合った仲なのだから、ここらで交流を深めておくのも悪くはあるまい。紅魔館の祝宴を純粋に楽しんでくれたら嬉しい」
席に座った霊夢と魔理沙に向けてそう言うレミリア。
「ええ、そうするわ」
「そ、そうさせていただきます」
「ところで、アルコール系、酒は飲めるか?」
「ええ、問題ないわ」
「問題ない……です」
確認を取る様に問いかけてくるレミリアに平然と返す霊夢と、おどおどと返していく魔理沙。
普段の魔理沙と今回の魔理沙とは借りてきた猫だ。
「フフッ………そう固くならなくてもいい、普段通りにしていても構わないぞ。魔理沙」
「………あ、はい。ああいや、そ、そうさせてもらうぜ」
過度に緊張している魔理沙をおかしく感じたのかどうかは知らないが、ふっと微笑んでそういうレミリアに対して、顔を赤らめて返答する魔理沙。
そんなこんなで数分、いや、数十秒もしないこの会話の間、いつも間にか霊夢の魔理沙の手元に中身が入ったワイングラスが置いてあった。
赤紫色に透き通る液体。ほのかに香るアルコール。それから編み出したこの液体はワインであるということが理解できる。
「………………ッ」
「………………えッ!!??」
突然現れたワイングラスに若干驚く霊夢だが、よくよく考えると、こういうことができる奴がここにいたなと納得する。
魔理沙に関しては突然出現したワイングラスに対して驚愕の色を隠せず、目を丸くしてワイングラスに目を向けている。
「すまないな、突然ワイングラスが置いてあることに驚くのは無理もない。少々、時を止めれるいたずら好きな私の従者がしでかしたことだ、許してくれ」
「フフ、申し訳ございませんわ」
レミリアが謝罪の言葉を口にする。
目を向けるといつの間にか咲夜が控えていた。
フフッと微笑んでいるその顔は、いたずらが成功したとでも言いたげな笑みだった。
「さて、ワイングラスも渡ったことだし、そろそろ乾杯と行こうか」
そう言ってレミリアは、手に持っているワイングラスを霊夢と魔理沙の方へ向ける。
その言葉を聞いて、霊夢と魔理沙もレミリアの方へ、ワイングラスを近づける。
「私たちにとって、
ワイングラスを近づけながら、レミリアはそういう。
「だが、出会いは異変ではあるが、これも何かの縁だ。ひとまずは、私たちのこの出会いに感謝しよう」
「そして、これからの両者の繁栄と、私たちの友好が今度も続くことを願って」
そう言って、レミリアはワイングラスを掲げる。
霊夢と魔理沙もワイングラスを掲げる。
「乾杯!」
「乾杯」
「か、乾杯!」
そうして、今宵、紅魔館の宴会に霊夢と魔理沙という華を加えた宴会が今、始まった。