吹雪がより一層強く吹き荒れ、辺りがより白で覆いつくされ、それに相乗するかの如く、寒さがひしひしと衣服越しでも肌に感じる。
咲夜は、より活気を取り戻したかのように襲い掛かってくる妖精や毛玉達を相手取る中、迷い込んだところは瘴気を帯びた森『魔法の森』と呼ばれる場所である。
「チッ!!鬱陶しいッ!!」
流石の咲夜も、肌越しに感じる寒さと、襲い掛かってくる妖怪達のより、平静ではいられないようだ。
放つ弾幕にも、やや乱暴さが混じっている様子で、その攻撃を受けた妖怪達は吹き飛ばされて蹴散らされている。
「春ですよ~ッ!!」
「邪魔っ!!」
「へッ!?きゃあッッッ!!!!!」
と、春を告げながら襲い掛かってくる妖精へと一瞥もせずに弾幕で吹き飛ばす。
吹き飛ばされた妖怪は、どんどんと遠くへと離され、かすかに豆粒程度に見える所まで吹き飛ばされたかと思えば、一瞬でその影すら見えなくなるまで吹き飛ばされてしまった。
「全く、こんなに吹雪が激しくなるって知ってたら。もう少し準備していたわ。服の替えも三着までしかないっていうのにッ!」
と、咲夜は思わず一人愚痴をこぼしてしまったが。後悔しても仕方がない。
「この寒さ、お坊ちゃまは…………いいえ、心配するほどのことでもないわね」
そこで咲夜はふと、自分の敬愛する主、レミリアの安否を心配するが、敬愛する主は、寒さというものをあまり感じないらしく、夏でも冬でもそういった暑さや寒さというものを感じにくいらしい。
夏は暖かいと言っていたし、冬は涼し気だった様子から、大丈夫だろうと主への心配を払拭する。
「…………しっかし、この寒さの中に居続けるっているのも少しだけ酷ね。…………貴女は問題無さそうだけどッ!!」
バッと後方へと振り返り、右手に持っていた一本のナイフを投げつける。
ナイフはある大きな一本の樹へと向かって行き、その樹に突き刺さる。
「…………さっきからコソコソとつけてきているようだけど、何か用件があるなら言ってくれるかしら?」
そして、ナイフが突き刺さった樹へ、詳しく言えば、その樹の後ろに隠れているであろう『何か』に声をかける。
「あら、ごめんなさいね。珍しく人間がこの森に来るものだし、何やら物々しい様子だからつい」
と、樹の後ろから一人の女性が現れた。
金髪の髪、ヘアバンドの様に巻かれている赤いリボン。青のワンピースの様なノースリーブにロングスカート。
そして、目を惹くのは雪と同じように映える色白の肌。華奢な見た目と、服装から一見人形なのではないかと錯覚してしまう程の容姿。
「シャンハーイ」
そして、そんな彼女に追従するのは彼女と少しばかり似たような「上海」としゃべる人形である。
「…………使い魔…………?それも人形。それ、貴女が動かしているのかしら?」
「ええ、と言っても、半自動的に動くようにはなっているわ。『上海人形』って言うの。私の自慢の子よ」
「シャンハーイ!!」
咲夜の問いかけに答える少女と、それに呼応して自慢げになる人形。
「…………それで、貴女は何の用なのかしら?私は先を急いでいるのだけど。」
「ええ、そうね。なら、貴女が持ってる『春』を貰えないかしら?魔法の研究に必要なの」
「…………春…………?」
「とぼけないでちょうだい。そこの球体にかなりの量をため込んでいるじゃない」
咲夜は、パチュリーから貰ったマジックアイテムを見る。彼女の言っている『春』というのは良く解らないが。
確かにこのマジックアイテムに関しては不思議な物だと前から薄々感じている。
襲い掛かってくる妖怪達を撃退していると、次第に力を増しているようにこのマジックアイテムが放つ弾幕の濃度が増してきている。
このマジックアイテムについてはかなり助けてもらっているし、パチュリー様が作ったものだからあまり深くは考えない様にはしていたが。やはりそういった効果があったか。
「…………まだあなたの言っていることについてはあまり良く解らないけど、このマジックアイテムをよこせと言うなら拒否させてもらうわ。これはかなり役立つもの」
「…………そう、なら力づくで奪わせてもらうまでよ。あまり手荒なことはしたくないのだけど、仕方がないわね」
そういうと、女性の周囲から上海人形によく似た人形たちが出現する。
対する咲夜も、戦闘の気配を感じ取って、ナイフを数本手に取って臨戦態勢を整える。
「私はアリス・マーガトロイド。貴女には私の子達と踊ってもらうわ」
「ダンスのお誘いかしら?…………十六夜咲夜。紅魔館で働いているしがないメイドよ。貴女は、時が止まっていてもついてこれるのかしら?」
――紅符「紅毛の和蘭人形」
紅毛の人形たちが即時に展開し、四方から弾幕を放ってくる。
少しずつ動きながらこちらを狙い撃ってきているが、咲夜は全て楽々と躱していく。
躱しながら弾幕を放ってくる人形たちを撃ち落としていく。
そうして、弾幕が薄くなってきたところから脱出していく。
可愛らしい人形にナイフを突き刺すというのは何やら罪悪感の様な物を感じるが咲夜はそれを押し殺してアリスの人形たちに応戦していく。
――幻符「殺人ドール」
アリスのスペルカードの効力が切れたと同時にお返しとばかりに咲夜のスペルカードであるナイフの弾幕群がアリスに襲い掛かる。
それと同じく、マジックアイテムからも弾幕を放っていく。
「…………物騒ね」
対するアリスも、今度は武装した人形たちを使役して、次々と向かってくる弾幕を撃ち落としたり、盾をもった人形に防がせて弾幕を防ぐ。
「…………どこから出したのよ、その人形たち」
「企業秘密よ」
「…………企業ではないでしょう」
そんな軽口をたたきながらも二人は油断することなく弾幕を放ったり、躱したりと弾幕の応酬をしていく。
「なら、今度はこの人形たちはどうかしら?」
――咒詛「魔彩光の上海人形」
今度は上海によく似た、というより同じ種類の人形が出現し、弾幕を撃ってくる。
アリスの周囲に展開して弾幕を放ってくるが、先程と比べて弾幕が厚く、避けきるのは難しい。
「貴女、時を奪われる経験はしたことあるかしら?」
「…………?」
――時符「プライベートスクウェア」
咲夜も二枚目のスペルカードを宣告する。
「…………ッ!」
すると、アリスが放っていた弾幕が急に停止する。そして、人形たちも、ピタッと時間が止まったかのように動きを停止させてしまう。
「よそ見していていいのかしら?」
「…………なッ!?」
アリスは人形たちが動きを止めてしまったことに少しだけ目を見開いて驚愕する。
すぐに冷静さを取り戻したのだが、今の咲夜相手にその一瞬の隙ですら命とりだ。
無防備になったアリスに咲夜から多くの弾幕が向かってくる。
それは、球体のマジックアイテムから放たれている弾幕がほとんどである。
「…………上海ッ!蓬莱ッ!」
「遅いわ」
すぐさま人形たちを駆使して対抗しようとするが、その時には既に遅かった。
人形たちが間に合わず、アリスは咲夜の弾幕に被弾してしまった。
咲夜の勝利である。
「…………負けたわね。残念」
「シャンハーイ……」
咲夜は試合が終わった後、残念そうではないアリスと、目に見えて落ち込んでいる上海人形へと近寄る。
「…………貴女の言っている『春』ってこれかしら?」
そう言ってマジックアイテムから取り出す様に手に取ったのは、何やら物体とは言えないような『何か』であり、『春』である。
ほんのりと暖かい『春』を手に、アリスに問いかける。
「…………ええ、それが『春』よ」
「………へぇ、なら、ほら」
「…………いいの?」
「マジックアイテム自体を奪うというなら話は別だけど、春は渡さないとは言っていないわ、これで十分かしら?」
アリスに確認をとった咲夜は手に持っている『春』をアリスに渡そうとする。
「…………ええ、これで十分よ、ありがとう」
「ええ、どういたしまして、なら、用件は終わったようだし、行かせてもらうわね」
そう言って、アリスから背を向けて離れようとする咲夜。
「…………咲夜って言ったわね。この長く続く冬を解決しに来たの?」
「…………ええそうよ、主の命令でね」
「…………それなら、空高く飛んでいくといいわ。上空に、何やらおびただしい量の『春』が集まっている。それが何やら怪しいと思うわ。『春』のお礼よ」
「…………上空?ええ、解ったわ。ありがとう。今度、紅魔館に来て頂戴。我が主の御友人に、貴女と同じ魔法使いがいらっしゃる。気が向いたらでいいから」
「…………そうね、なら、是非今度お邪魔させてもらおうかしら」
「ええ、是非来て頂戴」
そして、今度こそ、アリスと咲夜は別れていく、咲夜はアリスの言葉を頼りに上空へと飛び立っていく。
その背後では、その後姿を見送るアリスと、元気よく手を振って見送る上海人形の姿があったという。
ついに異変の元凶を突き止めることが出来たのだろうか、上空に飛んでいくにつれて次第に暖かくなっているのを咲夜は感じるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「へへッ!これだけありゃ、十分だぜ」
「有り難く幸運にあやからせて貰ったわ」
「…………ふにゃ~、もうこないで~」
ところ変わって場所は『迷い家(マヨヒガ)』
迷い家の家財を狙った2人の盗人に勇敢にも立ち向かった橙であったが、縦横無尽に動き回りながら弾幕を放つ橙の得意技も、弾幕ごっこに関しては人間の中でも随一の実力を誇る霊夢と魔理沙である。
一方は妖怪退治を仕事としている博麗の巫女、一方は弾幕に火力を突き詰め、弾幕ごっこの腕前は霊夢に劣るとも劣らぬ実力の持ち主である魔理沙。
それが二人がかりで向かってきたため、流石に橙であっても多勢に無勢、実力に関しても圧倒的に劣っているため、当然ながら負けてしまい、迷い家の家財を沢山持ってかれてしまった。
これ以上家財を持ってかれてはたまらんと、早く帰ってほしい橙は霊夢と魔理沙に迷い家の帰路を教えて、ようやく霊夢と魔理沙がほくほく顔で帰っていくところである。
「おおッ!見慣れた場所だぜ~」
「やっと出れたわね」
二人は橙が教えた帰路の通りに飛んでいくと、迷い家から出れたようだ。
「…………ところで、異変解決は?」
「…………あぁ、忘れてたわ」
目の前の吹雪の光景を見て本来の自分の目的である異変解決を思い出した霊夢と魔理沙。
しかし、これといって異変解決の糸口を見出すことが出来ず。どうしようもない。
「…………?」
「…………おん?どうした、霊夢?」
ふと霊夢は上空を見上げる。それを不思議に思ったのか魔理沙は霊夢に声をかける。
「…………異変の元凶よ、見つけたわ」
「おお?おいッ!ちょっと!霊夢!待てって!」
そういうが否や、上空へと飛んでいく霊夢と、その後をついていく魔理沙。
「おい!どうしたってんだよ!霊夢~!」
「黙ってついてきなさい!」
「は、春ですよ~!」
「五月蠅い」
「五月蠅いぜッ!!」
「ふえ~ん!やっぱりぃぃ~!!」
どこからともなく現れてきた春を告げる妖精を霊夢と魔理沙は吹き飛ばして上空へと飛んでいく二人。
なんだかんだで霊夢と魔理沙、そして咲夜は確実に異変の根源へと近づいていくのであった。
リリーちゃん不憫可愛い。