次の話も紅い悪魔後半部のフラン視点の予定です
お母様が死んだ。 侍女や使用人たちの懸命な手当ても空しく。
その日の天気は薄暗く、まるでお母様の訃報を表しているかのようだった。
お母様の状態がよろしくないという報告を受けた私たちは、お母様のお部屋に急行した。
そこにいたお母様は、前見た時よりも随分と変わっていた。顔色は青白く、食事もあまりとらなかったのだろう、痩せこけていて、みずぼらしかった。
私たちが来たことに気づいたお母様は、私とお兄様をお母様が寝ているベットに近づけさせて、かろうじて動く腕を精一杯動かして胸に抱くように私たち2人の頭をぎゅっと抱きしめて
「見舞いに来てくれてありがとう。嬉しいわ」
と、慈愛の表情でそう言った。
「母上………」
お兄様が泣きそうな顔でお母様を見る。
………こんな時に不謹慎かもしれないけど、面白くない。
私が難しい顔をしていたからだろうか、お母様が私の頬に手を当ててきた。
「フラン……、そんな顔をしないで頂戴?貴女は笑顔が素敵なんだから、怖い顔をしてちゃ、勿体ないわよ?」
おそらくお母様は勘違いしてる。そんなつもりではないのに………
私がそう考えていると、後ろの方でドタバタと騒がしい物音がしてくる。
―――あいつだ。
息を切らしながら、お母様のお部屋に来たあいつは、恐らく執務作業中に急いで来たのだろう。
着ている服からそう判断した。
「あなた……、ごめんなさいね。もう……長くないのかも」
「おい……おい! なにを勝手なことを言ってるんだ! 冗談でもそんなことを口にするもんじゃない!」
すぐにお母様に詰め寄ってきて、お母様の手を握り絞めてそうあいつは言った。
「お願い……します……ね、あな……た。レミ、リアを……フラ、ンを……みんな……みんな、守ってあげて……くだ、さい」
「レミ、リア……。あな……たは、お兄……ちゃんだか、ら……。フラ、ンを……守ってッ!あげて?い、い?どんな、時でも……必ずッ!フラ、ンの味方でいてあげて?」
「フラ、ン……。ごめん、なさい、ね?あまり、構ってあげられなくて……。で、も、あな、たは強い子だから……、お兄、ちゃんも、あな、たを、守って……くれる。だか、ら、強く、生きて」
そう、お母様はそれぞれにそう言っていく。
一人は、愛する妻の手を握り締め、肩を震わせながら顔を伏せる男性に。
一人は、今にも泣きだしそうに、しかし、兄として、泣くまいと我慢をする少年に。
一人は、お気に入りであろうナイトキャップを深く被り、顔を周りから見えないように隠した少女に。
あるいは任せ、あるいは託し、あるいは懺悔し
言い終わった後、お母様はふと遠くを見つめ始める。目には雫が溜まり始める。
「い、や、ま、だ死にたく、ない、ッ! まだまだ、生きて、いた、かった……。よ、にん、でいっ、しょに、過ごして、いきた、かった……。」
「………ッ!おい………おい!しっかりしろ!!!おい!目を覚ませ!!!目を………覚ましてくれ!」
「………ッ!…うえ………ははうえッ!!!ははうえェェッ!!!!」
そう言って目を閉じるお母様、目にたまった雫はゆっくりと目から頬へ伝っていく。
狂ったように、嘆声のようにお母様に呼びかけるあいつ。
堰が切れたように、泣きながらそう呼びかけるお兄様。
そんな二人の後ろで、被っていたナイトキャップを深く被り直し、肩を震わせる私。
――――――――――――――アハッ!
死んだ。――死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだァッ!!!!!!
ようやく死んだッ!邪魔だったお母様がッ!!来る日も来る日もお兄様にあんな顔をさせていたお母様がッ!!!
もう、居ない。目を覚まさない!二度と、起きないッ!!これが、『死ぬ』!!!
今日で『死ぬ』んだったら、今日ぐらい、お兄様の悲しむ顔を独り占めさせてあげてもいいかも♪
本当は、きっと、悲しいはずなんだろう、泣きたくなるほど哀しいはずなんだろう。
でも、今は……不謹慎だろう、親不孝者だろう、でも、きっと今は!
体中に溢れる多幸感、この先の未来への希望、悦び!
――嗚呼、ありがとう、お母様。
死んでくれて。
最低で、外道で、愚図な私の最大級の悦びの感情が溢れ、とどまることが無かった。
……ゴメンね。お母様、貴女は生む娘を間違えたよ。
――――――――――――――アハハハッ!
その後、落ち着いたお兄様が未だ、深くナイトキャップを隠して、肩を震わして悲しんでいる(様に見える)私を、慰めながら、私のお部屋まで連れて行ってくれた。
あいつはといえば、まだお母様の亡骸に縋っている。
多少は治まってるみたいだけど、そんなの私には関係がない。
お兄様に私のお部屋まで連れて行ってもらい、お兄様と別れた今、ベットの上で、まだ感じる多幸感に酔いしれる。
ふと、カーテンと窓を開けて空を見る。
暗闇のように真っ黒な雲、とどまることをしらない水の礫。
そこから、ひょこっと顔を出した。綺麗な満月。
私は不思議とその光景に見惚れ、思わず手を伸ばしてしまう。
手のひらに水滴が落ちてきたことでようやく引っ込める。
濡れた手をかざし、しげしげと眺めながら、私は悦に浸った。
―――――――どうやら、私は雨が好きみたいだ。
流水は、吸血鬼の弱点とされているのに、ね。
今日は眠れなさそうだ。
次の話はフラン(5歳)の視点。
紅い悪魔(後半)の後半部フラン視点です。