上空に生じていた亀裂のある結界に入り込んだ霊夢たちが見たものは、終わりの見えない石段だった。
「おいおい、これ結構長そうだな、登るのに骨が折れそうだな」
「でも、ここに異変の元凶がいるはずよ」
「…………そうだな。異様な雰囲気がひしひし感じるぜ」
「………おしゃべりしている暇はないわ。早く終わらせるに越したことはないでしょう?」
「あ、あぁ、そうだな。霊夢?」
「…………………」
無駄口を叩かずに二人より先に石段を登り始めている咲夜と、その咲夜に注意を受けて後に続くように石段を登る霊夢と魔理沙。
石段を登り始めていると、上の方から桜の花びらがひらひらと落ちてくる。
「………やっぱり変な場所だな、ここ」
ポツリと魔理沙が漏らす。
彼女たちが入り込んでいる場所は『冥界』
死者が幽霊として過ごす場所であり、到底生きている人間が入っていい所ではないのだ。
しかし、それだけではなく、冥界に集まっている『春』の暖かさが、並々ならない妖気を帯びているようにも感じられ、不吉な何かを感じ取ってしまう。
ポツリと魔理沙が漏らした言葉ではあるが、それは暗に三人の感じている不気味さを代弁しているものである。
「ふぅ、ようやっと着いたぜ」
「………ここまで来てやったんだから、お茶の一杯ぐらいもらわなきゃ釣り合わないわ」
「あら、でも、あちらはあまり歓迎してくれないみたいよ?」
霊夢たちは、石段を登っていくと、やがて石段が途切れ、踊り場のような場所に出た。
周囲には石灯篭が無数に設置してあり、不気味な雰囲気を醸し出している。
辺りには、満開の桜が並び立っている。
霊夢たちは石段を登り切って、一旦そこで止まって足を付けて目の前に立っている『敵』に目を向ける。
「…………………騒がしいと思ったら、生きた人間ですか」
霊夢たちをキッと見据えながら手に刀を持ちながら白髪の少女はそう言う。
白髪のボブカットに、霊魂を模した柄付きの白いシャツに青緑色のベスト
腰に手に持っている刀の鞘と、もう一本の鞘付きの刀を下げている。
油断なくこちらを見据えながら、凛々しい顔立ちで立っている姿はまさしく剣士そのものと言ってよいだろう。
しかし、彼女の人間離れしている色白の肌と、華奢な体つきからは到底検討もつかない。
そんな彼女にふわふわと付き添うように白の物体、言わば『半霊』が浮遊している。
「ここは死者たちの住まう白玉楼。生きた人間が来ていい所ではないはずです。今なら見逃して差し上げましょう。帰りなさい」
一本の刀を手に、いつでも動けるような体勢を取り、淡々と警告する少女。
「そういう訳にはいかないわ、ここに冬がいつまでも終わらない異変の元凶がいるって勘が告げているの。そうやすやすと帰る訳にはいかないわ」
「………異変?…………そうか、ならば、尚更通すわけにはいかなくなった。あと少しで
「そう、なら、力ずくで、通らせてもらうわ」
そういうと、少女はゆっくりと構えを取り、臨戦態勢を取り始める。
対する霊夢と魔理沙も、動けるように臨戦態勢を取り、スペルカードを取り出す準備をする。
「………霊夢、魔理沙。先に行きなさい。ここは私が抑えるわ」
「…………咲夜?」
「…………………」
その二人の前に立って咲夜はナイフを取り出して後ろの2人に先に行くように告げる。
魔理沙は少しだけ戸惑うように、霊夢は無表情で。さまざまに反応を示す。
「見たところ、相手は異変の元凶の従者とか、そんな所でしょう?なら、同じ従者として、思う所があるのよ。ここは私に任せなさい」
「…………いや、でもよ…………」
「ふっ、今は異変の解決を優先するべきでしょう?安心なさい、すぐに追いついて見せるわ」
「………魔理沙、行くわよ」
「……………あ、あぁ」
そうして、霊夢と魔理沙は咲夜の上空を飛び、白髪の少女の上を飛び越そうとする。
「…………ッ!させるかッ!」
当然、白髪の少女も、霊夢たちに先を進ませてなるものかと霊夢たちに弾幕を放とうとする。
「…………………ッ!?」
しかし、霊夢達に放った弾幕は、突如横から割り込むように飛んできたナイフに相殺されてしまう。
「なら…………………!!」
「させないわ」
「…………………なっ!?」
弾幕が無効化されるのなら今度は近接だと、霊夢達に接近しようとするが、突如目の前に現れた咲夜にそれも防がれる。
「…………………ふッ!!」
「…………………チィッ!!」
ガキィィィィン!!と、金属が打ち合う音が鳴り響く。
咲夜のナイフと白髪の少女の刀がぶつかり、けたたましい金属の音と共に衝撃が辺りに走る。
しかし、刀とナイフではリーチ等の面でも断然刀の方が上である。が、咲夜は刀に劣るナイフの差を補うように、マジックアイテムに弾幕の追撃をさせ、距離を詰めさせないように立ちまわる。
堪らず白髪の少女は咲夜から距離を取り、対する咲夜も白髪の少女から距離をとる。
咲夜の後ろには、先へ進もうとする霊夢と魔理沙である。
「…………………せいぜい無様にやられてこないことね」
「…………………あんたこそ、あっけなく負けて面倒ごとを増やさないことね」
背中越しに、咲夜は霊夢へ、負けじと霊夢も咲夜へ掛け合う。
その掛け合いの後、霊夢と魔理沙は先へ、『白玉楼』へと咲夜を置いて進んでいくのであった。
「…………………なんのつもりだ。お前一人で私を相手取ると?」
」
「そうだと言ったら?この状況、私が貴女を足止めして、異変の元凶にあの二人を向かわせることが最善だと判断したまでよ。」
「…………………ふん、私がすぐにお前を倒し、彼女達に追いついてしまえば何ら問題はない。それに、彼女たちだけでは、『幽々子』様には到底敵わない」
「あら?私は人を見る目はいいと自負しているのよ?それに、仮にも博麗の巫女、方やそれと肩を並べる魔法使い。十分に勝機はありうるわ、彼女たちは強いもの」
咲夜は、霊夢のことは快くは思ってはいないものの、その実力は認めていた。
自分で認めてしまうのも癪ではあるが、自分よりも霊夢の方が強いということは理解している。
そして、霊夢と仲のいい魔理沙がいる。
彼女の魔法は火力を突き詰めている制圧力の高い弾幕だらけである。
従って、咲夜はあの二人を異変の元凶に向かわせた方が、最善であるということをすぐに判断を下したのである。
「………それに、昔から時間稼ぎは得意なの」
咲夜は再び、懐からナイフを取り出し、目の前の白髪の少女へと向き合う。
「何せ、時間を止めてでも時間稼ぎができるのだから、ね」
「…………今は一刻も早くお前を倒し、二人を追いかけるが先決」
対する白髪の少女も、ゆっくりと咲夜に向き合い、刀を構えて睨み合う。
「構えろ、人間。私は白玉楼 庭師『魂魄妖夢』」
「紅魔館の従者 十六夜咲夜よ」
「いざ…………」
妖夢と名乗った少女はゆっくりと体を落とし、両足に力を込める。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」
その一声で、妖夢の戦意を高ぶらせ、両足に溜めていた力を一気に解き放ち、その勢いと共に咲夜へと肉壁していく。
「…………………ッ!」
「………………せぇぇぇい!!」
「…………………くッ!!」
ガキィィィィン!!!!と再び金属が打ち合う音が鳴り響く。
ナイフと刀がぶつかり合い、火花が散る。
鍔迫り合いとなるが、武器の差と種族の違いによる贅力の差によって咲夜の方が吹き飛ばされる。
しかし、空中で体勢を整えなおした咲夜は、流れに乗ってナイフを数本妖夢に投げるが、これは妖夢によって全て地面に叩き落されてしまう。
吹き飛ばされた後、ナイフを投げることで妖夢の追撃を止めた形になり、再び両者は距離をとって睨み合う。
じりじりと間合いを取って睨み合うこと数分。二人は同時に動き出す。
咲夜は妖夢にナイフを数本投擲する。
対して妖夢は咲夜へと走りながら投げられたナイフを棟で器用に全て弾き、咲夜への距離を詰める。
その助走の勢いを乗せ、袈裟斬りを繰り出すが、咲夜は身を捩るようにしてその斬撃を躱す。
妖夢はそのまま刀を反し、横薙ぎにして斬りつけようとするが、上半身を逸らして回避される。
咲夜も、反撃として手に持っているナイフを振るうが、それを難なく受け止められてしまう。
そのまま鍔競り合いとなるが、力量差では、妖夢の方に分がある為、それを理解している咲夜は、押し返される勢いで後方へ飛んで距離をとる。
両者、距離を取り、刀を構え、一方ではナイフを自然体に構えて睨み合う。
このまま、両者深く入り込むことが出来ないでおり、膠着状態になっているが、ふと上の方で、力がぶつかり合う気配を感じ取る。
それは、霊夢と魔理沙が異変の元凶も元にたどり着き、戦闘を繰り広げているということを暗示している。
当の妖夢にとっては、これは由々しき事態であり、苦悶の表情になる。
「くっ……………もうこれ以上お前に構っている暇など無くなった。勝負を決めさせてもらう!!」
――獄神剣「業風神閃斬」
ふっ、と妖夢は強く息を吐いて意識を集中する。
妖夢は自身の半霊に、青く、大きな弾幕を撃たせ、周囲にばらまくことで咲夜の動きを制限させる。
そして、刀を振るってその斬撃から弾幕を放つ。
回避しようにも青い大きな弾幕が大胆な回避行動を阻害し、斬撃による弾幕を躱してもまた次の弾幕を放たれてしまうため、徐々に咲夜の可動範囲が狭まり始める。
「…………………ッ」
近づこうにも弾幕を放っている妖夢は、油断なくこちらの動きを見ているため、下手に近づこうものなら即座に対応されて最悪被弾してしまうだろう。
「………これは…………少し面倒ね」
妖夢の斬撃は、そのまま弾幕としてそこに残る。それも起因してか、次々と行動範囲を狭まれてしまう咲夜。
この状況は仕方ないとばかりに、咲夜も一枚のスペルカードを切る。
――幻符「殺人ドール」
妖夢の弾幕をナイフの弾幕で打ち消しながら、妖夢へとナイフの弾幕を撃つ。
「………ッ!!白楼剣ッ!」
迫りくるナイフの弾幕をはじくには楼観剣だけでは受け止めきれない。そのため、妖夢はもう一本腰に下げている白楼剣を抜いてナイフの弾幕を防ぐ。
二刀流となった妖夢は先ほどまでとは一変し、機敏な動きで次々とナイフを弾く。
「…………へぇ、なかなかやるじゃない」
「…………この程度、別に造作もない」
咲夜がそう妖夢に声を掛ける時には、どこも傷の様なものが見当たらない万全な妖夢と、その周囲にナイフの残骸が散らばっているのみであった。
「……………でも、結構高いのよね、それら。事が終わったら賠償でも請求しておこうかしら」
「え!?そ、それはッ!そ、そもそも貴女が投げてこなければいい話じゃないですか!!…………っあ!?」
そんな咲夜の軽口に馬鹿真面目になって思わず口調が元通りになってまで反論する妖夢。
基本真面目な性格である妖夢には、こういった冗談交じりの言葉は有効なのかもしれない。
「……ンン゛ッ!!そうして無駄話している時間なんてないッ!構えなさいッ!!」
「………………やれやれ、骨が折れるわね」
気を取り直す様にして刀を構える妖夢と、ややきだるげに残ったナイフを手に持って構える咲夜。
「「…………ッ!!??」」
突如、異変は起こった。
その身に嫌でも感じるほど、それでいて自分たちを圧していくほどに強く感じる威圧感と妖気。
それと同時に感じる不快かつ痛烈な違和感。
呼吸することすら許さないと妖気が咲夜と妖夢を圧していく。
得体の知れぬ危険、原始的な恐怖
動物のしての本能というべきか、咲夜と妖夢は『何か』から与えられる強烈な『死』を機敏に感じ取り、思わず恐怖に体を震わせた。
「西行妖が満開に………?でも………これは…………」
妖夢は重くなる身体が倒れこまないように必死で耐えながら、そんなことをぽつりと漏らした。
顔には、恐怖の色が見え、顔が青ざめ、冷や汗を流している。
目は焦点が合っていない様子で、荒く息を吐く。
それは、咲夜にも同じようで、得体の知れない『死』に体が圧せられている感覚だ。
(…………これは…………お坊ちゃまと同じ…………いいえ、お坊ちゃまのとは…………違う…………ッ!)
敬愛する主が、紅霧異変の時に発した威圧感と同じような。しかし、あの時のレミリアが放つ威圧感とはまた別の、純粋に『死』のみを告げるような不快な威圧感。
しかし、咲夜は『何か』からの威圧感に必死で堪え、重い体を叱咤して、立ち上がる。
「………一時、休戦………ッ!ね…………私は先にッ、行かせてもらうわ。これは…………普通じゃないッ…………」
咲夜は、妖夢の傍を通り抜けて、その先、霊夢と魔理沙がいるであろう『白玉楼』へと向かう。
「…………ッ、待って、ください…………私も、行きます…………ッ、幽々子様の、安否を、確かめなければ…………ッ!」
妖夢もやっとのことで立ち上がり、咲夜に続くように『白玉楼』へと向かっていく。
その先で、何が起こっているのか、確かめるために。
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「…………………ッ」
「…………ッ………お兄様」
「あぁ……………」
紅魔館のレミリアとフランにも、この強烈に感じる不快感と、無意識的に感じる『死』を機敏に感じ取った様子で、眉を顰める。
レミリアは、窓を見上げ、未だ吹雪が吹いている上空を見上げる。
「…………………嫌な予感がする」
レミリアは、未だ吹雪が吹き荒れている外を、上空を見ながら、そう言葉を漏らす。
それは、異変解決に向かった咲夜の安否を心配するような懸念の表情を帯びているのである。
コンコンッ…………
「…………………入れ」
「失礼いたします………………お坊ちゃま」
開けたドアの先から、妖精メイドが入ってくる。
「どうした」
「御客人がお見えになっております。いかがいたしましょうか?」
「……………客人?この猛吹雪に、か?名前は?」
「………お坊ちゃまの御友人、『八雲紫』様です」
「…………ッ」
その言葉を聞いた瞬間、レミリアの目の色が変わった。
「……………そうか、解った。客室へ案内しろ」
「かしこまりました」
そう言って、妖精メイドは退出する。
「………そういう訳でフラン、ひとまず…………」
「うん………。でも、私も行く」
「…………………解った」
そうして、レミリアとフランは客室へと向かう。
突然の『八雲紫』の訪問、そして、突如感じるこの強烈な不快感。
これは、由々しき事態が起こっているのであろうということはレミリアにもフランにも理解できる。
一体、何が起こっているのか。八雲紫が説明してくれる。
幻想郷で一体、何が起こっているのか。
一抹の不安を抱えたまま、レミリアとフランは歩き出す。