私レミリア♂紅魔館がヤバい!   作:たぶくむ

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二度の初対面

『貴女、人間にしては面白い能力を持っているわね。人の世では疎まれてしまいそうな能力だけれど、辛くはないのかしら?』

 

 

『……………………あなたは?』

 

 

『しがない人畜無害の妖怪さんよ。お嬢さん?』

 

 

『……………わたしを、たべるのですか?』

 

 

『食べるようには見える?こんなに小さなお口をしているのに…………失礼しちゃうわね』

 

 

『フフッ…………人間を襲わないなんて、おかしな妖怪さん』

 

 

『そういう妖怪もいるってことよ。あぁ、挨拶が遅れてしまったわね』

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして。私の名前は………

 

 

これは、過去の断片に残る微かな記憶。

 

 

人間と妖怪、本来交わることのない二つの存在。

しかしそれが何者の記憶なのか、それは誰にも解らない。

 

 

長い年月の中で、人間という存在に興味を示し、今こうして か弱き人間に接触してきた女性の妖怪。

 

 

そして、どこか憂いを帯び、儚い印象を与える一人の少女。

 

 

相容れない関係である二人が、後に親友と呼び合う関係になった発端の一幕であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は、伝統ある名家の生まれであった。

 

容姿端麗、尊げな仕草と息を呑むほどに惹きつけられる動作。

 

 

無意識にも人を惹きつけてしまうその少女は、どこか人外じみた美しさを誇っていた。

 

 

その美しさから、縁談の一つや二つでも来るかと思われたが、その思惑とは反対に、少女は周囲の人間達から恐れられる存在へと変わった。

 

 

少女には、『死霊を操る』能力を生まれながらにして備わってしまった。

 

死した人間を、そして死した妖怪を、もしくはその全てを操ってしまうという少女の存在は周囲からは異形の存在以外の何物でもないのだろう。

それならば、その人外じみた美しさも頷ける。

 

 

『彼女は、その美貌で人をかどわかし、人を殺め、そして死霊として使役するのだ』

 

『彼女が使役する死霊は、全て彼女に殺められた人間達である』 と

 

 

事実無根の噂が、風に流れ、そして尾びれが付くことで。

少女に対する風当たりが強くなる。

 

 

少女は、気丈に振舞っているが、それでも周囲からの陰口、そして貫くように少女を睨みつける双眸に、じわじわと心が痛めつけられる。

 

 

そんな時に出会ったのは唯一の友人と言える存在。

人間にあらず、本来人間が懼れる存在ともいえる妖怪。

 

 

しかし、その容姿は女性の人間と同じで、妖気がなければ普通に人間と錯覚してしまう程似通っていて、そして人間に対して友好的である。

 

 

そんな書簡の中で描かれている人外の恐ろしい存在である『妖怪』の伝承が嘘偽りにすら思える本物の妖怪の出会いは、少女の凍った心を一気に溶かした。

 

 

時に奇想天外な外の物語を、時には海を渡った先にある大陸に通ずる伝承を。

ある日は滑稽噺を、別の日には心揺さぶられ、心が暖まる話を。

 

 

 

やむを得ない境遇ながらも、閉鎖的な空間に自分を閉じ込めている少女にとって、その妖怪との時間は、唯一気が休まる、特別な時間であった。

 

 

 

周囲から疎まれている少女とは反対に、少女の父は多くの人間に慕われていた歌聖と呼ばれる歌人であった。

歌聖である父は多くの人間に慕われている通り人柄が良く、周囲から疎まれている自分の娘を煩わしく思うこともなく、一人の父親としてその少女を愛した。

 

 

周囲から疎まれている少女が心に深く傷を負わずにいられたのは、友人である妖怪によるものが多いが、自分を嫌うこともせずに、愛してくれていた父の存在も大きい。

 

 

少女の心の支えとなった心優しい妖怪と、父。

この心休まる一時は、突如として悲劇へと変わってしまう。

 

 

多くの人間達に慕われ、歌聖である父は病に伏せてしまう。

懸命な使用人たちや医師の看護も空しく、少女の父は永遠の眠りへと誘われた。

 

 

『願わくば花の下にて春死なん、その如月の望月のころ』

 

 

その時に、死期を悟った少女の父は、自身が愛している自然の中で、屋敷の中で見事に咲き誇っている大きな桜の木の下で眠りにつきたいという遺言を残す。

 

 

その遺言通り、少女の父は大きな桜の木の下で永遠の眠りについた。

その死を悲しみ、後を追おうと自害した多くの者と共に。

 

 

しかし、悲劇はそれだけでは終わらない。

人の精気を吸い取ったその桜は、ますます咲き誇り、そしてその美しさは人を魅了する。

その美しさに魅入られ、多くの人がその桜の木の下で永遠の眠りにつく。

 

 

いつしかその桜は、妖力を持つ桜『西行妖』へと変わる。

 

その西行妖の影響を受けて、少女が持つ『死霊を操る』能力が『死へと誘う』能力へと変わっていく。

 

 

心の支えを一人失い、そして自分の能力が人を容易に殺めてしまうという危険性を帯びてしまった心優しき少女は、嘆き苦しんだ。

 

 

父が愛した桜の木が妖怪になり、そして、多くの人たちがその桜によって殺された。

自身の能力も、人を殺める能力へと様変わりしてしまった。

 

 

この事実は、少女の心を深く傷つけるには十分だった。

 

 

少女は耐えきれず、悲嘆と苦念の内に桜の木の下で、父がかつて愛した『西行妖』と、疎ましい自分の能力を自身の命と引き換えに封印し、この世を去った。

 

 

『二度と苦しみを味わうことの無い様に 』

 

 

自ら命を絶つに至らしめた苦悶や悲嘆の内に、彼女は来世へと想いを馳せて散っていった。

 

 

『……………………ごめんなさい、 。このようなことになってしまって』

 

その死に際、少女は誰かへと、消え入るような声で詫びを告げて。

 

 

少女の死と共に、『西行妖』が二度と満開となることがなく、人を殺めてしまうこともなくなった。

 

 

人が寄り付かなくなった屋敷の西行妖の元には、どこからともなく花束が一束手向けられていた。

 

それが、何者の仕業かも解らず。

ある人は、少女の死を悼んだ御仏が。あるいは御神が手向けたのだと噂する者もいた。

 

 

そのような悲劇的な話は、後に人々から同情を誘い。

少女の父が出家時に、富士山を見て歌を詠んだことに捩って『富士見の娘 』として後世に語り継がれ、そして『忘れ去られた』

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……………………」

 

 

女性は、桜の木々が立ち並んで咲き誇んでいる白玉楼で、一本だけ、他の桜の木々よりも一際大きく、しかし、他とは真逆で、桜の花が一本もついていない枯れ木のような桜の木を眺めている。

 

 

「………貴女も一緒に、少しだけ早いけどお花見でもどうかしら?『紫』?」

 

 

しかし、その女性は、突然誰もいない空間へ話しかける。

 

 

「………なら、御一緒させてもらうことにするわ。『幽々子』」

 

 

その空間から裂けめが生じたかと思えばそこから現れたのは幻想郷の賢者『八雲紫』

 

 

亡霊の幽々子と妖怪の紫は、昔から友人関係があり、二人で他愛のない話をしていることはしばしばあった。

 

紫は、幽々子の隣に座って、同じく枯れ木の様な西行妖を眺める。

再封印された西行妖は、膨大な量の妖力を失っている様で、満開であった姿とは見る影もない姿だ。

しかし、花が咲いていないにも関わらず、何か言葉に言い尽くせない、諸行無常の儚さを一心に表しているような美しさはやはり西行妖というべきだろう。

 

 

「…………………ッ?」

 

 

「フフッ、お花見と言ったら、お酒でしょう?ほら」

 

 

少しだけ、西行妖に目を奪われてしまった紫の視界に入ったのは、横から割り込むように映った杯。

 

 

不思議に思って隣の幽々子を見れば、クスクスと笑って杯を差し出してくる。

 

流されるままにその杯を手に取ると、幽々子は別の手に酒器をもって紫の杯に酒を注ぐ。

 

 

紫は杯に注がれた透明に透き通る酒をまじまじと眺め、チラリと幽々子を一瞥すると、幽々子はいつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべ、少しだけ紫が見ていることに気が付くと、少しだけ首を傾げている。

 

 

「………ふっ、そうね。頂くとするわ。ありがとう幽々子」

 

 

「ええ、どういたしまして」

 

 

幽々子に微笑み返すと、紫は杯に口を付けて、クイッと、酒を呷る。

 

芳醇な香りが鼻をくすぐり、酒を飲めば濃醇で深みのある味が身体中にしみこんでいくような感覚を感じる。

 

身体がほんのりと暖まる。紫は一口で飲み干し、ほぅ、と息を吐いた。

 

 

「……………なかなかいいものね、これ」

 

 

「そうでしょう?」

 

 

嬉しそうに笑いながら、再び紫の杯に酒を注いでいく幽々子。

ならばこちらもと、幽々子の杯に酒を注ぎ返す紫。

 

 

二人は他愛のない談笑を愉しみながら、酒を呷っていくのだ。

 

 

 

 

 

 

「…………紫。事情は妖夢から詳しく聞いたわ。迷惑を掛けてしまったわね」

 

 

「ええ、本当に驚いたわ。それこそ、心臓が飛び出てしまう程に」

 

 

「フフッ、でも、そうね。西行妖の封印を解けば、たちまちに死へと誘うなんて…………知らなかったわ」

 

 

「…………封印が解かれなかったからいいものを、本当に封印が解かれてしまえば堪ったもんじゃないわ。もう二度と、こんなことはやめてほしいわね」

 

 

「ええ、今回の件で、西行妖の危険性は十分に解りました。もう二度とやらないわ。…………それに、貴女の好きな幻想郷にまで影響が及ぶなら尚更よ」

 

 

本当に知らなかったという口ぶりの幽々子に、もう二度と西行妖の封印を解いてしまわないように釘をさす紫。

 

 

それには、幻想郷を滅ぼしかけた幽々子に対して、幻想郷の賢者である紫が警告している姿であるが、その他に何かしら私情が混じっているようにも感じる。

 

 

「『富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ、その魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印しこれを持って結界とする。願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ・・・』…………ねぇ」

 

 

「……………………」

 

 

ふと幽々子は、思い出すように、記述の様な言葉を紡ぎだす。

 

 

「西行妖の封印を解けば、この下に『富士見の娘』の亡骸が眠っている…………そして、封印を解けば、彼女が生き返るって、思ったけれど、それもできそうにないわね。書架で見つけた古い記録に書いてあったのだけど…………」

 

 

幽々子は本来、冥界に存在するものは殆ど霊体である。

その為彼女は、冥界の西行妖の下に眠るとされる亡骸に疑問と興味を持ち、それでその封印を解こうと考えた。

 

 

彼女は普段、人や妖怪を死に誘う事しか出来ない。

その彼女が初めて死者を復活させようとしているのである。

 

 

千年の安穏で退屈な時間を過ごしていた幽々子は書架で古い書物を見つけた。

 

そこに書かれていた『富士見の娘』にまつわる記述を見つけ、死者のみがある冥界に実体のある亡骸があることに興味が沸いたのだ。

 

 

しかしこれが、春雪異変へと繋がることになってしまう。

 

 

「……………………」

 

 

紫は、特に何も言わず、いや、何も言えずに沈黙を続けている。

紫は、内に苦悩を宿しているのだ。

 

 

本当のことを言うべきか、しかし、本当のことを告げてもいいものか。

 

『西行妖』と、その『富士見の娘』の関連性について。

いいや、それでは『約束』を違えてしまうことになる。

 

二度と苦しまず、悩む事が無くなるようにと約束したではないか

 

 

「………………紫?」

 

 

「……………ッ」

 

 

幽々子の言葉にはっと我に返る紫。

 

 

不思議そうにこちらを見てくる幽々子の顔。それはやはり過去の面影をかんじてしまう。

 

 

「…………あぁ、少しだけ、余韻に浸っていたわ。…………でも、もう解ったでしょう?封印が解けかけると、周囲の亡霊や死霊を取り込んでしまうって。これ以上、心配を掛けさせないで」

 

 

紫はやはり嘘を積み重ねてしまうのである。

西行妖が幽々子を取り込んだのは確かだ。

 

しかし、冥界の死霊を取り込んだということはまったくない。

取り込まれたのは幽々子のみだ。

 

 

嘘に真実を練り混ぜて、紫は再び嘘を重ねる。

 

 

「…………………妖夢にも言われたわ。それも、大泣きしながらだけど」

 

 

幽々子はポツリと、嬉しそうに話す。

 

 

「それだけ、幽々子を心配していたということよ。………私もね」

 

 

「フフッ、好かれているわね、私は。……嬉しいわ」

 

 

嬉しそうに笑う幽々子。

 

 

紫は微かに昔を思い返す様に遠く。遠い過去へと振り返る。

 

 

『……………紫』

 

 

『…………なッ!?馬鹿な真似はよしなさいッ!!』

 

 

『ごめんなさい、紫。こうするしか、方法はないの』

 

 

『……………いいえ!!まだ…………まだよッ!!まだ解決策はあるッ!!』

 

 

『ううん、西行妖はこのまま力を増して、もっと凶悪になる。それに…………私の能力がどんなに危険なのかも…………』

 

 

『……………………ッ!!』

 

 

『紫、私と、西行妖を、封印して?そうすれば、西行妖が満開にならないで、多くの人に被害が及ぶのを防げるの』

 

 

『……………それじゃあ貴女がッ!!』

 

 

『…………ええ、封印されてしまえば、私の力が人を苦しめることもない。それにね?…………来世では、もう二度と苦しまないで…………生きていきたい』

 

 

『……………………ッ!?待ちなさい!!』

 

 

『……………………ごめんなさい、『紫』。このようなことになってしまって』

 

 

 

 

「……………………」

 

 

忘れもしないだろう。

長い年月を生きていた妖怪であるというのに、単身ではどうすることも出来なかった『西行妖』の存在。

 

私がいち早く、封印結界の術式を覚えていれば、習得していれば、きっと結末は変わっていたはずだ。

 

私は無力であった。自分の力ではどうしようも無いことも解っていた。

力があれば『友』を見殺しにすることもしなかったはずだ。

 

 

『友』は、彼女の希望通り、西行妖と共に封印を施した。

西行妖と共に施した封印と共に、彼女の肉体すらも封印され。

 

転生も消滅もできず、ただ亡霊となって冥界へと彷徨ってしまっている。

彼女は今、冥界の白玉楼で、のんびりと楽しく暮らしているのだ。

 

 

だが、亡霊となった彼女は、生前の記憶は全て忘れ去り、何時までも冥界へと彷徨うのだ。

 

 

もし、西行妖の封印が解かれてしまえば止まっていた時間は止め処なく流れ、それは、亡霊である彼女の『死』へとつながる。

 

自身の復活と共に、その瞬間に消滅してしまうのだ。

 

 

「……………………幽々子。もう一杯、いただけるかしら?」

 

 

「……………………フフッ、ええ、もちろんよ」

 

 

嗚呼、生前の記憶を全て忘れ去ってしまった友『富士見の娘(西行寺幽々子)』よ。

 

そして、亡霊の姫君よ。

 

 

貴女が西行妖が満開に、開花を見ることは決してない。

二度と苦しむことも、悩むこともない。

 

しかし、これで本当に正しかったのか?

 

 

 

 

 

西行寺幽々子が、亡霊となった後でも、『友』であり続けたのはなぜか?

 

貴女を救えなかった贖罪か、それとも、約束を違えかけてしまったことへの償いか。

 

 

いいや、違う。決して違うと紫は言い切れる。

 

贖罪や償いの為などではない。そのような安い理由な訳がない。

 

 

彼女が、『西行寺幽々子』が前と寸分違わない『西行寺幽々子』そのものだから、私は『友』で居続けるのだ。

 

 

失ってしまったものは、『幽々子』と過ごした時間は二度と戻ってこない。

 

 

しかし、失ってしまっても、再び取り戻すことができる。

やり直すことだってできる。

 

 

私にも、いいえ、私にしか出来ないことだ。

 

…………また、あの『言葉』から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………………』

 

 

『あら、亡霊さん、そんなところでぼーっと立っていてどうしたの?』

 

 

『……………?貴女は?』

 

 

『あぁ、そうね…………まずは挨拶から…………ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして』

 

 

 

 

 

 

 

紫は今日も、昔も、嘘を重ね続ける。

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