「貴方がレミリア・スカーレットさん?でよろしかったかしら?」
穏やかに始まった宴会。
ある場所では談笑、交流、論争など皆、様々な用途で場を賑わせている時。
珍しくレミリアがワインを飲んで宴会を一人穏やかに愉しんでいる時に傍らから声が掛けられる。
ゆったりとして、マイペースな印象を与える声だ。
「…………ああ、私がレミリアだが。ミス・サイギョウジ、何か用かな?」
ワイングラスを傾け、声のした方向にチラリと流し目で見やれば、思った通り、先の異変の首謀者である西行寺幽々子からいた。
「いいえ。私が西行妖に取り込まれてしまったときに、色々迷惑を掛けてしまったから、それのお詫びにと」
「いいや、謝罪は不要だとも。異変には付き物だろう?」
「それでも、よ。私の不手際で紅魔館に、いいえ、幻想郷全体が危うくなりかけてしまった罪。じっとしている訳にはいかないわ」
自らが犯してしまった罪、それの責任を取り、そしてこうして宴会の場で改めて謝罪をする白玉楼の主の姿。
どこか掴みどころのない抜けたような性格をしているとは事前情報から聞いていたが、一端の主として、責任を取るその姿はレミリアの目には好印象に映った。
「…………………」
「白玉楼の、そして冥界の管理者として、先の異変にて貴方たちには多大なる御迷惑をお掛けしてしまったわ。頭を下げて許されることではないけれど、ごめんなさい」
そして、深々と頭を下げて謝意を示す幽々子。
「主である者がそう易々と頭を下げていいものではない。…………解った。西行寺幽々子。貴女の罪を私は赦そう」
「………感謝致しますわ。レミリア」
感謝の言葉を口にしながらも、頭を下げたままの幽々子。
それほどまでに自分の過ちを深く反省していることの表れである。
「……陰気臭い話は無しだ。幽々子。今日は宴会、愉しまなくては損だろう。これも何かの縁だ。一杯、お付き合いできるかな?レディ?」
ゆっくりと、頭を下げている幽々子の顎を持ち上げて顔を上げさせる。
そして顔を上げた幽々子の前に新しいワイングラスを差し出し、微笑んでそう告げる。
少々キザな感じになってしまったか?とレミリアは少しだけ気恥しくなったが、それを表には出さないようにする。
「………ふふっ、ええ、喜んで」
少しだけ呆けた幽々子であったが、すぐに微笑み返し、レミリアの誘いを受けたのである。
その後、いつの間にか紫も加わって、さらに主同士の会話に花が咲くことになった。
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「……………………」
レミリアは目を疑った。
まさかこのようなことがありうるのか?と自分自身に確認を取るように問いかけ続ける。
それほど動揺しているのだ。
あり得ない。そんなことはあるはずがない。
そんな否定の言葉が自分の中で廻転し続けるものの、目の前の光景にはそんなレミリアの苦悩を嘲笑うかのような光景が広がっている。
「あむッ!!!んぐッ!!!むぐッ!!!!!!!」
大量の料理を前にして臆することなく次々と料理を平らげていく『
見るだけでも胸やけを起こしそうなほど大量にあった料理が次々と空の皿に変わっていって、幽々子の近くには積み重なった皿の山が大量にある。
「はぁ…………」
「……………こ…………これは…………」
いつもの友の姿に嘆息する紫と、目の前の衝撃的な光景に言葉を失ってしまったレミリア。
いや、レミリアだけじゃない、その周囲も、幽々子の異常な光景に皆言葉を奪われてしまっている。
次々と料理を平らげていく幽々子と、台所とを行き来する妖夢の姿もあった。
幽々子が『妖夢~おかわり~』と告げると、『は~い!!只今~!!』と忙しそうにあっちこっちへと行き来している。
レミリアはそんな妖夢の姿が不憫に映った。
が、忙しそうな妖夢の顔には、喜色が混じっていたため、そういう忠義もあるのだなと一人納得した。
「…………お坊ちゃまも、あれくらいの量の御食事にいたしましょうか?」
「…………やめておこう。見ているだけでも満腹になってしまうよ」
「フフッ、かしこまりましたわ」
「んぐッ!!!あら、それはもったいないわレミリア。一杯食べないと、大きくなれないわよ?」
「……………………余計なお世話だ」
やめろ、その話は私に効く。と自分のコンプレックスともいえる痛い所を幽々子に無意識ながら突かれ、少々心に傷を負ってしまったレミリアだが。
少しだけ夜風に当たろうと席を立って退席するのであった。
食事の量を増やそうか?と宴会後、悩みに悩んだが、小食のレミリアには難しく、やむなく断念したのはまた別の話。
「……………………」
宴会の席から離れ、夜の涼しい風に当たるレミリア。
酒を飲んで火照った身体を夜風が冷ましてくれる。
レミリアはその夜風に当たる心地よさを感じながらゆっくりと目を閉じていく。
……………………?
そして、衣服を、服の裾を引っ張られるような感じがして、不思議に思って目を開けて後ろを振り向く。
「……………ッあ……………………」
後ろを振り向くと見覚えのある白いワンピースを着ている妖精の女の子
レミリアの視線に当てられて、ほんのりと頬を染め、恥ずかしそうにもじもじとしだす。
「…………いつぞやの。確か、春を告げる妖精だったな」
「…………ッ、覚えて、くれていたんですか…………?」
レミリアの言葉に嬉しそうに顔を上げて、目を潤ませる白い妖精。
少女は、春雪異変の時に、春の時期に春を告げる妖精であり、春を告げても誰も見向きもしてくれないと泣き出していた少女であった。
「わ、私ッ!!リ、リリー・ホワイトって言います!!あ、あの!レミリアさんに、あの…………言いたいことが…………あぅ…………」
リリーは、恥ずかしそうに、もじもじと赤面しながら言いたいことを言葉にして告げたくてもその羞恥から言葉が出ない。
「…………あの…………は、春…………です…………」
上目遣いに、潤んだ目でリリーはレミリアに春を告げる。
レミリアに言いたかった言葉を。勇気を出して。
「…………フッ、あぁ、春、だな」
「えへへ…………。一番最初に、レミリアさんに言いたかったんです。レミリアさんに勇気を貰いましたから…………」
少し照れくさそうに微笑みながら、嬉しそうにレミリアに言葉を紡ぐリリー。
ただ、春を伝えるだけの言葉、しかし、春を告げる妖精であるリリーにはその言葉には何か特別な意味が込められている。
「…………そうか」
「ッ!わ、私ッ!!あの、これで失礼します!!えへへ、レミリアさんに、一番に聞いて欲しくて…………春を…………告げる声を…………ッ~~~~~~~~!!!」
レミリアの笑みに見惚れたリリーは、顔を真っ赤に染め上げて、己の羞恥に耐えきれずに、逃げるようにして去っていった。
「………………戻るか」
火照った身体を冷まそうと夜風に当たっていたレミリアであったが、リリーの言葉に、多少なりとも気恥ずかしいものがあった。
ある程度冷めた身体が再び熱くなってしまう感覚に襲われ、いてもたってもいられず、レミリアが決めたのは、宴会の席に戻ろうという判断であった。
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「おい!れみりあ!あたいはとっておきのひっさつわざをかんがえたんだ!!こんどこそ!おまえをたおしてやる!!」
「チ、チルノちゃん…………止めとこうよ…………うぅ、レミリアさん、チルノちゃんがごめんなさい!!」
「………………い、いや、別に気に障ることはないんだが…………」
「………………いいにおいー」
「ル、ルーミアちゃんまで…………」
「おいレミリア~!!!わらひのおひゃけが飲めないってのか~!!??」
「………いやいや!飲んでる!飲んでるとも!魔理沙!!!ちょ!?は、離してくれ!!」
「お坊ちゃまはいつもいつもいつも!!無茶をなさっておられます!!さくやは………さくやは……………聞いておられるのですか!?お坊ちゃま!!!」
「はい!!聞いています!!…………ちょっ!!れ、霊夢!助けt…………」
「………………むぅ…………なんかムカつく…………私も抱き着く…………」
「霊夢!?」
「あらあら~、レミリアさんはモテモテね~、ねぇ?紫?…………紫?」
「…………………………」
「言ってる場合かッ!!!早く助けてくれ!!」
「「「レミリア(お坊ちゃま)!!!聞いてるの(か)(ですか)!!!!」」」
「は、はい!!!!」
「えへへ~、お兄様~ぽかぽかしてる~」
「フラン、くっ付きすぎだぞ…………」
「えへへ、お兄様~。暖かい…………えへへ」
「………………まったく」
「ネェ、ナンデ霊夢達ニ抱キ着カレテタノ?」
「…………………あ………いや」
「オニイサマ?」
「………………助けて…………」
「………………はぁ」
「お疲れ様です。お坊ちゃま」
宴会の席に戻ってきたレミリアを襲ったのは、酔いどれ達の襲来だった。
始めの方こそまだまだ可愛い者であったが、時間が経つにつれ次第に酒に酔った者達の襲来と修羅場である。
当のレミリアは、勧められるがままに酒、特にワインの方を飲んではいるが、元々の種族からなのかまったく酔わない。
ほぼ素面のままで酔いどれどもの理不尽ともいえる絡みにじわじわと精神を傷つけられた。
その中にはレミリアの妹であるフランも混じっていたため、特段吸血鬼であるから酒に強いという訳でなくレミリア自体が酒豪であるらしい。
そんな酔いどれ達を何とかあしらい終えた時、ようやく一息ついていると、美鈴が声を掛けてきた。
「あぁ、美鈴か。いや、全くだ。これほど神経をすり減らしたのも初めてだ」
「フフッ、でも、それほどお坊ちゃまが慕われている証拠ですよ」
「身に余る光栄さね」
肩を竦めて軽口で返すレミリア。
目を向けた先には酔いつぶれて眠ってしまっている者達が映る。
テーブルに突っ伏して眠っている者、辺りに酒瓶が乱雑に散らかって眠っている者様々である。
しかし、彼女たちを見つめるレミリアの瞳には変わることのない慈愛の色があった。
吸血鬼、悪魔として畏れられていたレミリアが、人間や、妖精たちに対して向けるその目は悪魔と呼ばれ畏れられていたレミリアとは全く違ったものであった。
「………………」
思えばレミリアに仕えて長いこと数百年以上にもなる美鈴には、嫌でもレミリアの変化に気が付くものだ。
美鈴たちを初め、パチュリー、咲夜と接していくうちに悪魔の心にも変化が訪れる。
冷徹無慈悲な吸血鬼であったレミリアが、人との関わりを通して人を愛する様になった。
美鈴には、一人の従者として敬愛する主の変化には喜ばしいものがあった。
しかし、反対に寂しくもあった。
「………………お坊ちゃま」
「………………うん?」
「………………一杯、お付き合いいただけますか?」
「………………フッ、あぁ、もちろん」
しかし、お坊ちゃまがどうであれ、お坊ちゃまの命令に従い、そして最期の時までお仕えすることが私にできる全てなのだ、と。
美鈴は杯と数本の酒瓶を手に、レミリアと二人っきりで酒盛りを行うのだ。
…………いつまでも、お慕いしています。
これが、自分が出来る限りの忠義なのだと信じて。
祝宴回は話のネタが少なくなってしまいそうで怖い。