私レミリア♂紅魔館がヤバい!   作:たぶくむ

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従者の朝は早い (咲夜視点)

従者の朝は早い。

 

 

私は今日も早朝に起きて、身支度を整える。

自慢ではないが、紅魔館に仕えて此の方身体が眠気や不調を訴えたことなど一度もなく。

 

 

毎朝、早朝の時間帯にしっかりと起きることが従者としての生活サイクルの一つだ。

それが出来なければ従者として第一歩目から失格だ。

 

 

これから主人の為に、そして紅魔館で仕事を行うのに身体の不調をそのままにしておくなど言語道断、従者としての自覚が足りないのではないかというのは私の持論だ。

 

 

身支度を整え、ふと寝台の傍らに置いてある懐中時計を手に取って時間を確認する。

 

 

………………うん、大丈夫ね。

 

 

一刻にも満たない時間の内に身支度を全て整え、私は妖精メイド達の詰所へと向かうのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「おはようございます!!!メイド長」」」」」」

 

 

「おはよう」

 

 

詰所へ向かえば千に近い妖精メイド達が整列して私の到着を待っている。

 

私の姿を確認すれば、皆揃って挨拶をしてくるので、私も挨拶を返して私達、メイドの仕事が始まる。

 

 

「A班は台所の掃除等、必要ならば給仕の仕事も行うように」

 

 

「はい!」

 

 

「B,C班は掃除。B班は廊下の掃除、C班は個室の掃除を任せるわ。」

 

 

「「はい!!」」

 

 

「D班は…………」

 

 

私は班別に分けてそれぞれの班に命令を下す。

それに対して命令を与えられた者はそれに応じて大きく返事を返す。

 

 

数多くいる妖精メイドの中でも優秀な妖精メイドには班ごとの班長に任命して、命令の詳細は全て班長の指示に任せている。

 

 

従って、班の失敗は班長の失敗ということにもなり得るため、班長に任命された妖精に大きな責任感が生じるし、さらなる能力向上にも役立っている。

 

 

妖精には名前を持たない者が多い。だが、班長に任命された妖精メイドにはメイド長である私、もしくは紅魔館の主であるお坊ちゃまから直々に名前を賜る。

 

 

区別をはっきりさせるための簡易的な呼び名程度の物なのだが、それはお坊ちゃまからの信頼の証にもなり、多くの妖精メイド達からの尊敬の眼差しを集める。

 

 

一般の妖精メイド達は班長に逆らうことなどしない。それはお坊ちゃまに逆らうことと同義なのだから。もちろん、私に対しても。

 

 

紅魔館の妖精メイド達は皆お坊ちゃまへの不遜を良しとしない者達の集まりだ。班長に任命された妖精メイドを謀ろうとするくだらない真似などしない。

 

 

「………………これで、班ごとの命令は出し終えたわね」

 

 

私は、妖精メイド達へ命令を下し、未だ整列している妖精メイド達へ告げる。

 

 

「いいわね?何度も言っているけれど、与えられた任務はきっちりとこなす様に、いかなる理由があっても怠惰は許さないわ。各々与えられた仕事を失敗することは、お坊ちゃまの御信頼を裏切ることと同義と知りなさい」

 

 

シンッ、と静まり返った詰所に、私の声が響く。

 

そうだ、私達は紅魔館でお坊ちゃまのご慈悲によって働かせてもらっているのだ。そのお坊ちゃまの信頼を裏切ってはいけない。怠惰も許されない。

 

 

「貴女達に与えられた任務の全てが、お坊ちゃまへの御奉仕となる。それをしっかり念頭に置いた上で、取り組みなさい。いいわね?」

 

 

「「「「「はいッ!!!!!」」」」」」

 

 

「よろしい、では仕事の時間よ」

 

 

妖精メイド達の心意気は十分。それでこそ紅魔館に仕えるに相応しい従者よ。

 

 

「全てはお坊ちゃまの為に」

 

 

「「「「「「全てはお坊ちゃまの為にッ!!!!」」」」」」

 

 

その言葉を合言葉にして、妖精メイド達は一斉に仕事場に急行していく。

 

ドタバタと慌てるようなことはせず、冷静かつ迅速に。

 

 

私はよく精錬された妖精メイド達に満足感を覚えながら、私もするべきことを為そうと執務室に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「メイド長、今月の食費の予算を纏めてきました」

 

 

「そう、そっちに置いておいて」

 

 

「メイド長!これが紅魔館の維持費で、これが不足品の補充費用です!そしてこれが…………」

 

 

「ええ、後で確認してみるわ、持ち場に戻っておいて。ありがとう」

 

 

「メイド長!!紅魔館周辺にて敵対的な妖怪を確認しました!」

 

 

「直ちに撃退体勢に入りなさい。必要なら私を呼ぶこと」

 

 

「メイド長!!」

 

 

執務室に入った私を待っていたのは積もりに積もった重要書類と、続々と来る妖精メイド達の報告等の対処である。

 

 

基本的に紅魔館の運営は私が一任されている。

時々、お坊ちゃまが執務をなされる時があるが、基本的にお坊ちゃまは私達と違う生活リズムである。

 

簡単に言えば私達とは朝と夜の時間帯が丸っきり反対なのだ。

 

 

お坊ちゃまが起きられる頃には執務室には対応待ちの書類がズラリと並んでいることがざらではない、だからお坊ちゃまの御負担を軽減するために私がお坊ちゃまの代わりにこういった重要書類等の対応を任されている。

 

 

幸い、妖精メイド達は優秀な子達に育ってくれた為、目立ったミスなど見当たらなく。基本的に書類をざっと確認し、印を押すだけの作業になる。

 

この程度ならば、一時間程度あれば全て処理できるほどだ。

まったく優秀な子に育ってくれたものだ。

 

 

……………………あら?

 

 

「………………そこの妖精メイド、ちょっといいかしら」

 

 

「………………ッ!?は、はい!!メイド長!!」

 

 

先ほど執務室に入ってきて、書類を置いて、戻ろうとしている妖精メイドに声を掛ける。

 

 

「あなた……………………」

 

 

「は、はい。な、何か至らぬ点がございましたでしょうか……………………?」

 

 

呼び止めた妖精メイドの子は緊張している様だ。

姿勢を直し、直立不動のまま私の言葉を待っている妖精メイド。

 

顔には何かしてしまったのかと不安顔だ。

 

 

「………………あなた、先月から紅魔館に就いた新人の子よね?」

 

 

「………………ッ!?は、はい!!お、覚えていらっしゃったのですか!?」

 

 

「………………?全員の部下の顔を覚えるのが上司として当然のことでしょ?もちろん、覚えているに決まっているじゃない」

 

 

ごく普通のことを言ったのに、妖精メイドの顔は驚愕に染まっている。

 

 

 

……………………何かおかしなことを言ったかしら?

 

 

これが初めてではなくて、新人の子が執務室に入ってくるたびに聞くのだけれど皆同じ反応をするのよね。

 

 

確かに、紅魔館で働いている妖精メイド達は大勢、それも千に到達するかしないかくらいには多いだろうけど。

 

それでもメイド長として、紅魔館の運営を円滑に進めるためには全員の妖精メイドの顔を覚えているのが普通でしょう?

 

 

少なくとも顔を見れば、何時頃から紅魔館で働いている子なのかくらいは容易に割り出せるものだけど。

 

 

「………………まぁ、いいわ。貴女、紅魔館には慣れたかしら?」

 

 

「あ、はい!!先輩方から沢山お世話になりまして!おかげさまで仕事も覚えれるようになりました!」

 

 

「就任一か月にしては貴女の仕事ぶりがいいって評判よ?これからも頑張って頂戴」

 

 

「はい!!これからも頑張らせていただきます!!」

 

 

「ええ、いい心構えよ」

 

 

満面の笑みで「失礼します!」と一礼して執務室から退出した妖精メイドの子。

 

 

紅魔館全域まで手を行き渡らせるにはまだまだ人手不足だ。

募集を掛ければすぐにでも多くの妖精達が紅魔館で働くことを志願するだろうけど、彼女の様にすぐに仕事を覚えれる妖精メイドは希少な存在だ。

 

 

今後も彼女の様な存在が台頭していってほしいものだ。

 

 

「メイド長!!」

 

 

「あぁ、それはこっちに置いておいて。後で確認するわ」

 

 

そんな期待を胸に馳せながら私は妖精メイドの報告を対応しながら執務を行う。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………………フッ!!!ハッ!!!」

 

 

「………よッ!!いいですよッ!!咲夜さん!その調子です!!」

 

 

執務作業を終わらせた後、私は紅魔館の庭で美鈴に手合わせをお願いしている所だ。

ナイフを手にして美鈴に斬りかかるが、美鈴はひらりと全て舞うようにして躱していく。

 

フェイントなど入れ混ぜて攻撃しているのに、全て対応されてしまう。それも素手で。

 

 

「……………シッ!!!」

 

 

「甘いッ!!」

 

 

ナイフを投げてもそれを叩き落されて無力化される。

完全に打つ手なしだ。

 

 

弾幕での勝負なら私の方に分があるが、肉弾戦になると美鈴に勝てる気すらしない。

だからこそ、美鈴と手合わせすることが一番効果的だ。

 

 

「ふぅ、参ったわ。降参よ」

 

 

「フフッ、お疲れさまでした」

 

 

「やっぱり美鈴には近接戦で勝てる気がしないわ。流石ね」

 

 

「えぇ、これが私の取柄ですからね。でも、咲夜さんも大分筋が良くなってきましたよ?」

 

 

「いいえ、まだまだよ。最低でも、貴女にナイフを掠らせるくらいにはならないと」

 

 

メイド長であり、お坊ちゃまの従者である私は、己の鍛錬を欠かしはしない。

先の異変でも、お坊ちゃまに命の危険を掬っていただいたのだ。

 

 

本来なら従者である私がお坊ちゃまを御救いする立場であるのに、そのお坊ちゃまに逆に救われてしまうということは従者として恥ずべきことだ。

 

お坊ちゃまは気にしなくていいとおっしゃったが、異変解決の命を遂行できなかったばかりか、私の過失でお坊ちゃまに傷をつけてしまったことは決して忘れてはならない。

 

 

 

確かにお坊ちゃまはお強い御方で、まだまだ成長段階であるというのだから今後もさらにお強くなるだろう。

 

お坊ちゃまの従者として相応しく、そしていつでもお坊ちゃまの御要望に応えられるようにならなければいけない。

 

 

そんな矜持にも似た私の決意が私を突き動かす。

 

 

「……………あっ、咲夜さん、そろそろお時間ですよ」

 

 

「あら、もうこんな時間。ありがとう美鈴」

 

 

美鈴がふと時計をじっと見つめた後、そんなことを私に言う物だからつられて私も時計を見上げると、そろそろお坊ちゃま達の起きる時間が近づいているようだった。

 

 

礼を美鈴に告げ紅魔館に戻っていく、美鈴も「いえいえ」と笑顔で紅魔館に戻ろうとする私を見送る。

 

 

紅魔館に戻った私は、『能力』を駆使して汗でべたついた身体を浴室で洗い流した後、再び替えの衣服に着替えてお坊ちゃまの御部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お坊ちゃまの御部屋の前に来た私は、目の前のドアをコンッ、コンッとノックをする。

 

 

「お坊ちゃま?咲夜です。起きていらっしゃいますならお返事いただけますか?」

 

 

ノックをした後、そう向こうにいるであろうお坊ちゃまに問いかける。

返事はない。

 

 

「………では、失礼いたします」

 

 

そう断りを入れてお坊ちゃまの御部屋に入室する。

中に入ると、少しばかり絵画が掛けられているばかりのあまり飾りつけのない部屋なのに、何となく気味が悪いくらいに豪華な印象を受けるお坊ちゃまの御部屋。

 

日の光が完全に入ってこないように窓をカーテンで遮断し、ランプの光がぼんやりと部屋を照らす。

 

 

お坊ちゃまが寝ていられるベットが少しだけ盛り上がっている。恐らくまだ眠っていらっしゃるのだろう。

このベットも、いかにも貴族が使うような豪勢なベットだ。

 

 

紅魔館に拾われた当初は、お坊ちゃまの御部屋は何か神聖な物に感じられて、部屋に入ることを憚られたものだが、今ではすっかり慣れたものだ。

 

 

「お坊ちゃま?もう起きられる時間ですよ?」

 

 

そう言って、ベットの方へと近寄って、眠っているお坊ちゃまに声を掛ける。

 

 

……………………ッ!!!

 

 

ベットに近寄ってお坊ちゃまの御尊顔を拝見するのは、もはや命とりにもなり得るものだ。

御尊顔を確認した瞬間、すぐさま鼻を抑える。

 

 

……………………このあどけない表情でお眠りになられているお坊ちゃまは…………凶器だ…………ッ!

 

 

すやすやと安らかに寝息を立てながら眠っているお坊ちゃまの破壊力に必死に耐えながら、私はお坊ちゃまを起こしにかかる。

 

 

「お坊ちゃま。もう…………朝ですよ。起きてください」

 

 

「……………………んぅ?…………さくやぁ?」

 

 

お坊ちゃまの御身体をゆすって起こしにかかると、ようやくお坊ちゃまが起きられた。

 

…………その御声も…………破壊的です…………ッ!

 

 

「………………ッ!!!はい、咲夜です。もう…………朝ですよ?」

 

 

「…………そう。…………もう、あさ…………」

 

 

ゆっくりと上体を起こして、ぽけー、と眠たげな瞳がぱちぱちと瞬きをしながら辺りを見渡す。

そして、少しした後、私から常温で濡らしたタオルを受け取って御顔をお拭きになる。

 

 

そう、お坊ちゃまは寝起きに弱い体質の御方なのだ。

偶に早く起きられるときもあるが、私がお坊ちゃまの御部屋に来るときは眠っている時が多い。

 

したがってほぼ毎日、私はお坊ちゃまに殺されかけている。

 

 

今この時もそうだ。

濡れたタオルで御顔をお拭きになっている時も、お坊ちゃまの翼がぱたぱたと世話しなく動いているし、垣間見えるきゅっと目を閉じて御顔を拭いている姿も。

 

 

…………………………ッ!あっ………………………………。

 

 

「………………ふぅ、おはよう、咲夜。うん?………………どうした?」

 

 

「いえ、少し。ほんの少し、忠誠心が溢れてしまっただけです…………」

 

 

その後、なんとか溢れ出る忠誠心を必死で押し留めながら、お坊ちゃまに紅茶を淹れたりなど夜までお世話をして、一日を終える。

 

 

 

 

従者の朝は早く、永いのだ。




正直咲夜さんの負担が重い様に感じますが、本人は全然平気らしいです。

基本的に咲夜さんの勤務時間はおうぜ様が起きる時間帯からなので、朝の時間帯は完全に咲夜さんの自主的残業という話。
自由時間を全て仕事と鍛錬につぎ込む従者の鏡。

それを見かねておうぜ様はなんとか休養を与えようとしても固辞して譲らないそうな。 

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