「はぁ~、今日もいい天気だぁ~!!」
燦燦と煌めく太陽の日を光を浴びながら、私はぐいっと伸びをする。
永かった冬が終わり、短いながらも盛大な春の季節ももう終わりを迎えかけたこの時期。
強まる日の光からそろそろ新しい季節が近づいてくるであろうことを身に感じながら、今日も私は紅魔館の門番としての仕事に移る。
「よしッ!今日も一日、頑張りますか!」
紅い紅魔館の門の前に立って、今日も私は門番としての仕事を全うする。
今日はどんな日になるのだろうか、そんな期待を胸に馳せながら、門の前に立つ。
清々しい一日に太陽の日の光を浴びながら、私は最近の門番生活のことをふと思い返してみる。
『レミリアに用事があって来たのだけど、今、お邪魔して大丈夫かしら?』
『あっ、はい!えぇと、紫さんですね!お坊ちゃまは多分起きてらっしゃいますよ!大丈夫です!』
『そう、ならお邪魔させてもらうわね』
『ええ!どうぞ!』
『おーっす!美鈴!今日も邪魔するぜ!』
『魔理沙さんですか!今日もパチュリー様に?』
『あぁ、そんなところだな』
『いやぁ、魔理沙さんは勉強熱心ですねぇ!どうぞ!』
『おーいもんばん!ふらんに会いに来たぞ!』
『そーなのかー』
『ちょっと!チルノちゃん!すいません、美鈴さん。フランちゃんって今いますか?』
『うん、フラン様なら、多分お部屋にいらっしゃると思うけど、入る?』
『あ、いいんですか?すいません、お邪魔させていただきます!ほら、チルノちゃん、ルーミアちゃん、挨拶して!』
『おじゃまするぞ!』
『お邪魔しまーす』
『はーい、どうぞー!』
………………………………大概の私の仕事は軽い接客程度のもので、門番らしい仕事と言えば、手で数えるだけしかないもので、少々退屈だ。
いや、別に手荒な事はしないに越したことは無いけれど、紅魔館を守る立場である門番として、少々襲撃者がいないっていうのも退屈なものだ。
ほぼ毎日、紅魔館に来る客人に対応して、ただ門の前に立っているだけで一日が終わるというのは味気ない。
…………………今日くらい、襲撃者が来てくれないものですかね。
少々ふしだらな考えをしているかと思うが、それくらい暇なのだ。察して欲しい。
…………………いや!この退屈な時間も武を極めるための修行として生かせるかもしれない!
ゆっくりと目を閉じて、深く瞑想をする。
身も心も無にし、精神を統一させて、極みに昇る。
草木が風に揺られてさざめくのを聞きながら、私は瞑想する。
…………心を無に。
………………………そう、心を。
……………………………………ここ…………ろ……を………。
!!??…………………痛ッ!?
額に痛みが走り、目を開ける。
「美鈴。貴女、居眠りとは感心しないわね」
「………………あ、いや、あ、あはは……………」
目の前には、無表情ながら、威圧感を発しながら睨みつけてくる咲夜さん…………。
手には数本のナイフが握られている。
「美鈴?」
「うぅ………すいませんでした…………」
それだけで全てを察し、痛む額を抑えながら、私は咲夜さんに必死で謝ることしかできなかった。
………………………………でも、退屈なものは退屈なんですよ…………咲夜さん。
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パチッ!パチッ!
今、私は何をしているのかというと、趣味の一つであり、私の仕事の一つでもある紅魔館の花壇の手入れをしている。
ガーデニング用の鋏を使って、花壇にある花を手入れして管理しているのだ。
「美鈴さん!あっちの水やりを終えました!」
「あぁ、ありがとう。じゃあ次は、そっちの方の水やりをお願いできる?」
「お任せください!」
最近では、妖精メイドの数人が花壇の手入れのお手伝いに来てくれる。
彼女たちも、花壇の手入れをしている私を見て、お手伝いさせてくださいと申し出てくれた子達だ。
とても心優しい妖精メイド達で、同時に優秀な子達だ。
お願い事を全てその通りにやり遂げてくれるし、私の指示を完璧にこなしてくれている。
流石は咲夜さんが直々に育成していった妖精メイド達だ。
門番として襲撃者の撃退という命令を仰せ仕っている私だが、ここ数十年間全くと言っていいほど紅魔館に害なす襲撃者が現れない。
そんなわけで、暇つぶしの一環として始めた花壇の手入れなのだが、これが妙に夢中になってしまって、今では立派な花畑へと変貌を遂げた。
これがお坊ちゃまの耳に入って、時同じくして花壇の手入れと管理を任されたという訳である。
良かれと思ってやったわけではなかったが、やって来たことを褒められるのは嬉しいものだ。
お坊ちゃまも花畑を絶賛してくれて、今後も頼むと、満面の笑みで私に任せてくれたのだから奮起しないわけがない。
最近では、春雪異変の時に何かの縁でお坊ちゃまと知り合ったリリーホワイトちゃんことリリーちゃんが花壇の手入れのお手伝いに来てくれるようにもなった。
リリーちゃんは春を告げる妖精であり、その『春が来たことを伝える程度の能力』から、花を咲かせたりといったこともできるので、よく手伝ってもらっているのだ。
よく紅魔館に来て、ガーデニングの手伝いをしてくれるため、かなりお世話になっている。
何かお礼をと思って何かできることは無いかと聞いてみると
『いえいえ、春を告げたり、花を咲かせることが私の役目ですから。…………それに、レミリアさんに、喜んでほしくて』
はにかむように笑って、その白い頬を赤く染める可愛らしい少女。
特に最後の方は小声で独り言の声量ではあったが、私の耳にはしっかりと聞こえていた。
リリーちゃんが可愛らしい事を言った後、偶然お坊ちゃまがその場に居合わせて、それに気が付いたリリーちゃんが赤く染まった頬をより赤くさせて、逃げるように去っていったのも記憶に新しい。
…………いやぁ、青春してますねぇ。
妖精に青春があるのかはわからないが、初々しいのは見てて微笑ましく感じる。
仲良くなって聞いた話だが、リリーちゃんには一人姉がいるそうだが、今度、お姉さんと一緒に紅魔館に来て欲しいものだ。
それと、私が花壇の手入れをするようになったのはもう一つ理由がある。
「美鈴!!お手伝いに来たよ!!」
「美鈴、精が出るわね。私も妹様と同じく手伝いに来たわ」
「フラン様!咲夜さん!」
こうして、手入れをしていると、フラン様や咲夜さん、時々パチュリー様と小悪魔ちゃんが手伝いに来てくれたり、見に来てくれたりする。
フラン様と咲夜さんは一見すると毎日お坊ちゃまを巡って争っていらっしゃるが、お坊ちゃまが絡まない所では仲が良い。
咲夜さんは、私の代わりに妖精メイド達に指示を下してくれているし、フラン様も近くの妖精メイド達と仲良さげに談笑しながらガーデニングに勤しんでいる。
私は、この光景を見ることが好きだ。
花というのは不思議なもので、見たものを穏やかな気持ちにさせ和ませてくれる。
花畑を見て癒されるのもそうだが、花のお世話をしているフラン様の笑顔や、時折見せる咲夜さんの優し気な表情を見ていると、やはり花というものがいかに素晴らしいのかを感じ入らざるにはを得ない。
花というのは、人を笑顔にしてくれる。
だから私は紅魔館の庭一面に花を咲かせたい。
そんな少なからず抱いた野望を胸に、私は花壇の手入れに勤しんでいるのだ。
「お、皆して花壇の手入れか?精が出るな」
「あっ!お兄様!」
「あら、お坊ちゃま」
「お坊ちゃま!」
三人でガーデニングをして、数十分した後、庭にお坊ちゃまが顔をお出しになられた。
日傘を差して、ゆっくりとこちらに向かって歩く姿はまるで百合…………というのは殿方であるお坊ちゃまにとっては複雑なのかもしれないが、まるで貴族令嬢の様な尊さを感じてしまう。
その場にいる妖精メイド達も作業の手を止めてお坊ちゃまに一礼したまま静止している。
日傘を差したお坊ちゃまは、そのまま花壇の方に目を向けて、ほぉっと感嘆の息を漏らす。
「いつ見ても素晴らしい花畑だ。美鈴、よくやってくれているよ」
「ありがとうございます!」
「お兄様!こっちに来て!このお花、私が育てたんだよ!」
「おぉ?それは凄いじゃないか。どれどれ…………」
嬉しそうに、お坊ちゃまを呼ぶフラン様、お坊ちゃまも、それに誘われて笑顔でフラン様の元に近寄っていく。
「そうだな、ここで、お茶会でもしようか?綺麗な花畑を見ながら紅茶を飲むのも悪くはあるまい」
しばらく花壇の花を愉しんだお坊ちゃまは、ふとそんなことを口に出す。
「いいね!お兄様!」
「いいお考えですわ、お坊ちゃま」
もちろん、断る理由などない。
満面の笑みで頷く。
「よし、咲夜、悪いがパチェ達を呼んでくれないか?折角の機会だからな」
「かしこまりました」
「そこの妖精メイド達」
「は、はい!」
「お茶会の準備を頼む、私とフランと、美鈴に咲夜、パチェに小悪魔。それと、お前たちの分もだ」
「わ、私達もご相伴に預からせてもよろしいのですか!?」
「あぁ、もちろんだ。お前たちも花壇の手入れをしてくれていただろう?お前たちも相席しなくてどうする」
「あ、か、かしこまりました!ありがとうございます!お坊ちゃま」
お坊ちゃまの御命令でパチュリー様たちを呼びに時間を止めて消えた咲夜さんと、お坊ちゃまの言葉に嬉しそうに飛び出して、お茶会の準備を整えていく妖精メイド達。
フラン様は、お茶会の準備が整うまで、フラン様が育てた花を愛でて、エヘヘと可愛らしく微笑んでいらっしゃる。
「美鈴」
「あ、はい!」
妖精メイド達に指示した後、流し目気味に私の方を見て私の名前をお呼びになったお坊ちゃま。
日傘を差して、影がかかった御尊顔は、どこか妖艶に見え、その紅い瞳は見るものを見惚れさせる。
「こんな素晴らしい花壇を創りあげたこと、大儀だった。礼を言うぞ、美鈴。ありがとう」
「あ、いいえ!そんな、とんでもありません!お役に立てたのなら、それだけで十分ですよ!お坊ちゃま」
「これからも頼む、信頼しているぞ、美鈴」
「はい!お任せください!お坊ちゃまの御期待に沿えるよう、精進していきます!」
「うん。………さぁ、そろそろ準備が整う頃だろう、行こうか。フラン、美鈴」
「うん!」
「はい!」
日傘を差したフラン様がお坊ちゃまの手を取って繋いで、仲良く歩き出していく。
お坊ちゃまは元気なフラン様に困ったように笑いながらフラン様に引っ張られるようにして歩き、その後ろを私が控える。
その後、パチュリー様と妖精メイド達を加えた庭でのお茶会が緩やかに開かれた。
短い時間ながら、その一時は、一生忘れられない一番の思い出となった。