あたしのパパは不滅ときどき爆散   作:GODIGISII

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第五話 「野蛮で困る」

「ごめんなさい。もうここまでみたい」

 

 共に荷車を引く者が繊細な乙女らしいことを野太い声で言う。

 

「グリゴール! もう少しなんだぞ!」

「これ以上はダメなの。アタイがアタイでいられなくなる!」

「……そうか」

 

 いつ狂乱して暴れ出してもおかしくないグリゴールを背後から突き、荷車に横たわらせた。すぐ隣にはカレンとケイ、それと緑色の鳥が並んで眠っている。

 

「これで残るは俺達だけか。大丈夫か? 耐え切れなくなったらいつでも「問題ない」

 

 ミロシュは荷車を引かず、自身も荷物となる代わりに眠り続ける皆を見守って世話をしてくれている。加えて荷車がつっかえないように魔法で地ならしと追い風までも起こしてくれている。

 五百年生ける妖精でさえダメになっているというのに、何たる頑強な精神か。

 

 ドンスタ現象下にいると判明し、今度こそ確実に北を目指してから七日が経つ。

 初めて幻覚幻聴が表れたのは二日前からだが、その日のうちにカレンとケイが脱落した。

 翌日にはラクサも耐え切れなくなり、そして今日、グリゴールまでも眠らせることに。

 

「アレンこそどうなの? 不死者には効果がないとか?」

「んー、俺がまだ経験の浅い三百歳くらいの頃だったら真っ先にダメになっていたかもしれないけどねえ。今となっては登場人物が多すぎてお笑いだよ。お前を殺してやると叫ぶ人の隣で助けてくれと泣き叫んでる人がいるもんだから。右の耳に『死ね』と入ってきて、左の耳に『生きて』と入ってくるんだよ」

「……そう」

 

 この幻は心の底に眠る恐れや消し去りたい記憶、それこそ消してしまった記憶までも呼び起こして狂わせる。真に避けたいものをまざまざと見せつけられるのだ。

 一般人は当然のこと、魔獣と戦えるような心強き者でさえ楽には凌げない。

 それでもまさかケイが先に脱落するとは思ってなかったが。

 

「うちのカレンは十年間の記憶を無くしていてな。その間に何かあったのかもしれない。ケイはどうなんだ?」

「本人に直接聞いて。私からは言えない」

 

 ミロシュはケイの暗い闇を知っていたが何も答えようとはしなかった。

 なので深入りせず、代わりに「君は何が見えるんだ?」と尋ねたところ、

  

「馬鹿馬鹿しいものが見えるだけ」

 

 ただ一言つまらなそうに呟いた。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「――待って!!」

 

 ドンスタ現象の影響下から脱出して、一番最後にカレンが目を覚ました。

 今のは寝言だと思うが一応荷車を止める。

 

「はいはい待ちますよ」

「おはようカレン! もう変なものは見えないから大丈夫だよ! それよりもずっとうなされてたけど悪い夢でも見てたの? 大丈夫?」

「……あ、おはよう。うん、もう大丈夫」

「ならよかった! ところでどんな夢を見てたの?」

 

 カレンよりも激しく幻に苦しんでいたケイであったが、今では何事もなかったかのように復調していた。

 いつもの遠慮なし発言が光る。

 

「別に大した夢じゃないよ。そこまでちゃんとは覚えてないし。あんまり言いたくない」

「じゃあ、最後の『待って』は誰に言ったの?」

「それは……」

 

 二人旅をしていた頃から悪夢にうなされて同じ目覚め方をするのを何度も見てきたが、その内容については頑として話してくれなかった。

 ただ、パパママと呟いていることが多いので、今回も離れ離れになった肉親を求めていたのだろう。

 

「……ンに」

「え?」

「だから…………アレンに待って……って――」

 

 一瞬耳を疑った。

 そして次の瞬間には縮地術を以ってカレンを抱きしめていた。

 

「パパはどこにも行かないからな! ずぅっと側にいるぞ! その先に俺はいるぞォ!」

「ほらぁ! こうなるから言いたくなかったのよ!」

「カレンがおばあちゃんになっても一緒にいてやるからなぁ!」

「あらあら」

「甘えんぼさんだねー」

「……お子様」

 

 愛犬にするように撫でながら頬ずりしていると、温かく見守られているのもあってカレンの顔が急激に赤く熱くなってきたのでそこで離れた。

 少女は今とても難しい時期にいる。深追いは禁物だ。

 

 もうすでに必要はないのだが、ここまで来たら最後までとミロシュ以外の全員で荷車を引いて街を目指し。

 正午過ぎにはその全景が見えてきた。

 

「ねぇ、いまさらだけど本当に大丈夫なの?」

 

 先ほどのアレ以来ずっと目も合わせてくれなかったカレンが袖を引いて尋ねてきた。

 酷く不安げな表情をしている。

 

「何がだい?」

「あの街には魔人がいっぱい住んでいて、あたし達は勇者一行なんだよ?」

「うん」

「街に入った瞬間に襲われない?」

「うーん、どうだろうねぇ。……まぁ、たぶん大丈夫でしょ」

「たぶんって何よ!?」

 

 望んでいたものとは異なる曖昧な答えに反発する。

 仕方がないので納得のいくように一から説明してやることに。

 

「前にも話したが、魔界の生物は暴虐神の眷属だ」

 

 ヴィールタスは中央大陸で匠人族(ドゥーマン)以外を滅ぼした後のことも考えていた。それは共生の道だ。

 魔人はたしかに血の気が多いが気高さと勇敢さを持ち、義に厚い。何を隠そう彼女の兄に似せて創ったからだ。

 

「少しずれるが、未亡人が夫の影を息子に求めたとでも言えばいいかね」

「嫌な例えねぇん……」

 

 だから魔人には理性があるし、ドゥーマンと共生できるということは人族や長耳族との共生も可能だ。俺の師がそうであったように。

 逆にヴィールタスの悪意をふんだんに注ぎ込まれた魔獣に理性はまずない。

 生きるために他を喰らい、他を喰らうために生きる。

 本能に操られて動く正真正銘の獣だ。

 

「もちろん例外はある。人族にだって善人がいれば同じ種族だとは信じたくない極悪人もいるのだから、魔人にも温和で臆病な者がいる。理性と知性を持った魔獣だって極稀にいるぞ。ロジャーが良い例だ」

 

 まぁ、奴は分類上魔獣としているだけでほとんど人みたいなものだが。

 

「そもそも、だ。勇者の顔を分かる奴がそういると思うか? 逆に聞くが、この中で魔王の顔を知っている人は? もちろん俺は知らん」

 

 カレンはケイ達と顔を見合わせたが、やはり誰一人として首を縦に振りはしなかった。

 

「そういうことだ。これで安心できたかい?」

「……うん」

 

 他種族皆殺し令でも下されていない限りはまず襲われる心配はない。

 そこまで言わずともカレンは納得して荷車を引いた。

 

「ちなみにそこまで多くはないが《魔獣(イビルニア)》の横に並べて《魔人(イビルマン)》と呼ばれるのを嫌がる者もいる。彼らは《戦想族(ウォーゲイザー)》を自称しているので言葉には気を付けるように」

「へぇー」

「わたしたちもそれは知らなかったよ」

「……そこに私を入れないで。本で読んだから知っている」

 

 蘊蓄を垂れながらいよいよ都市の眼前にやってきた。

 中央大陸の都市と同じように石造りの城壁があり、鉄の城門があり、鎧を着込んだ門衛が配置されており。

 これだけでも魔人がまともな知恵を有することが分かる。

 

「――そこの五人組、止まれ」

 

 門は開かれているが、やはり素通りはさせてもらえなかった。

 

(どうすんだ先輩、やるのカ?)

 

 ラクサだけでなく、ケイ達もいつでも門衛を切り伏せられるように備えていた。

 ……ったく、これだから人族とかいう種は野蛮で困る。

 

「はいはい何でしょう? 荷物検査でしたらどうぞどうぞ」

「もちろんそうさせてもらおう」

 

 門衛の彼には六本の腕と四つの目があり、我々の荷物をまとめて探り始めた。

 それと使っていない一つの目でこちらを一人ずつ見定めていく。

 

人族(ヒューマン)半長耳族(ハーフエルフ)……それと妖精(クブロウ)か。珍しい組み合わせだが、何用だ?」

「ローランゼンフトゥに行く予定なんですけど、この街で補給をと」

「そうか。……よし、通っていいぞ」

「えぇっ!?」

 

 あっさりと通行を許可されたことにカレンが驚いて声をあげた。

 

「なんだカレン」

「だってほら、こんな簡単に通れるとは思ってなくて。腕一本置いてけとか言われるんじゃ」

「おい。この娘っ子は初めて魔界に来たのか?」

「ええそうなんですよ。よく言い聞かせておきますので」

「娘っ子よ、恥をかかぬよう覚えておけ。人族の土地では我らを害虫のように扱っているそうだが、我らはそのような下卑た真似はせん」

 

 彼はわざわざ腰を落とし目線を合わせて説いた。

 カレンは爬虫類じみた四つ目と六本腕の迫力にいくらかこわばりながらも、最後まで聞いて頷いた。

 

「それじゃ、ごゆっくり」

 

 もう何も言うことはないと、門の側に戻って寄りかかり六本腕を組んだ。

 

「行こうか」

 

 職務を果たした彼に軽くお辞儀をしてから進む。

 それでもまだラクサとカレンは恐る恐る門の先へ踏み入れたが、後ろから襲われることなどなかった。

 

「あー、怖かったぁ……!」

「ねー、いつやられるかと」

「そういった誤解や思い込みが争いを生むのだぞ」

「でもぉ、アタイも正直なハナシ『この先へ進みたくば俺を倒してゆけ』くらいは言われると思ってたわよぉん?」

「それは……あってもおかしくない」

 

 力量差も読めず、というよりか読めた上で昂りを抑えきれずに挑んでくるような阿呆は実際多い。

 ……ったく、これだから魔人とかいう種は野蛮で困る。

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