あたしのパパは不滅ときどき爆散   作:GODIGISII

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第八話 「天の肉」

「これはなんて実なの?」

「これはケッシュウの実と言ってね、食べると三時間後に全身から血を噴き出して死んでしまうんだ」

「うわぁ……」

 

 

 何であれ、カレンの気になったものがあればその場で事細かに教え込み、

 

 

「おや? この種類のキノコは見たことがないな。カレン、これについて分かるかい?」

「わかんない」

「どれ、実食してみよう。……うん、臭みはないしアッサリとしていて美味だね」

「ねぇ、大丈夫なの?」

「あぁ、大丈……ブフッ!」

「アレン!?」

「どうやら即効性の……猛毒を持って……い――」

「アレン!? ねぇアレンってば! 起きてよ!!」

 

 

 千年前には存在しなかった種を見つけるたびに心と臓を激しく動悸させ、

 

 

「ツルをこうやって結べば……これで完成だ!」

「わぁ、すごい」

「そしてあの木で佇んでいる鳥に狙いを定め、決して動くなよと願いを込めて…………はっ!」

「当たった! ……でも、可哀そうだよ」

「そうだ、その気持ちを忘れてはいけない。もう一つ、感謝の気持ちもだ。そしてその気持ちを表すためには獲物を無駄なく使い切る必要があるんだ。それじゃあ早速、捌き方を覚えてみようか」

「……うん」

 

 

 投石具や即席弓の作り方、狩りの仕方、さらには獲物の捌き方なんかを手取り足取り教えているとすぐに腹の音が鳴り出した。

 

 いずれ自立したときのために料理についても教え込んでみるが、やはり筋が良い、良すぎる。

 俺は宮廷料理長の座に立つまでに五十年の月日を要したが、この子はたった数年修行するだけで同じ場所に登ってこれるだろう。

 

「いただきます!」

「召し上がれ。今回は噛み応えのある物が多いから、しっかりよく噛んで残さずに食べるんだよ」

「うん、わかった!」

 

 道中で見つけた切り株をテーブル代わりにして、出来上がったものから次々乗せていく。

 やはりエルフの血が混じっているからか、森の幸づくしの皿に少しばかり昂っているように思える。それに俺が大半を手伝ったものの、自分で作ったからというのもあるだろう。

 

「どうだい? 自分で作った料理はおいしいだろう?」

「うん! すごくおいしいっ! アレンも早く食べようよ! アレン鍋だっけ、まだできないの?」

「もう少しだ…………よし、これくらいでいいだろう」

 

 土の魔法で造形した釜戸の火を消し、そこで煮ていた片手鍋をそのまま切り株の上に移し、俺自身もカレンの対面に腰を下ろした。

 

「では俺も、いただきます」

 

 カレンの皿を少しつつかせてもらったりもするが、俺の主な食事はこの具沢山アレン鍋である。

 この鍋には採取したばかりの新鮮な森の恵みを全て投入しているので、栄養価はすこぶる高い。

 もちろん味の方も満足のいくように仕上げてある。長年の経験と直感を最大限に生かし、甘味と酸味と苦味と塩味を違和感なく混ぜ合わせた。

 とはいえなぜか世間はこのアレン鍋を闇鍋と評するのだが、俺は絶対に認めない。多少ヘドロに似ていたり、濁った虹色だったりするのを闇と形容するのは如何なものかと思う。

 

「それ、すごい色をしてるけど、ちゃんと食べられるの?」

「当然だ。……うん! 美味い!」

 

 今回のアレン鍋は黒ずんだ緑色をしているだけなのに、味の問題以前の問いかけをされるだなんて。

 だから鍋ごと持って豪快に啜り、少し大げさに美味しさを表現してやった。 

 

「へぇ……。あたしも食べていい?」

「もちろんいいとも! あぁそれと、ちゃんと具を確認してから食べなさい。当たり外れがあるからね」

「えっ?」

 

 それだけ忠告してカレンの前に鍋を差し出すと、神妙な面持ちで中身をぐるぐるかき混ぜて、どんな具があるのか、当たり外れとはどういうことなのかを探り始めた。

 

「これって、もしかして……」

 

 そうして救い上げたのは、黄色い斑点を持つ白キノコ。

 死ぬ前に食べたいと言われるほどに美味な食材である。

 

「もちろんそれはオカエシダケさ。うまく当たりの具を引いたね」

「バカなの!?」

 

 カレンはすぐにスプーンを裏返し、それをポチャンと鍋の中に落とした。

 

「馬鹿とは心外な」

「本当にこれを食べる気だったの!? 猛毒なのよ!? 食べたら死んじゃうのよ!」

「あぁそうだ。不味かろうが毒があろうが残さず食べる。腹を満たすために命を刈り取ったからには、責任を持って全て食す。これが不死者の流儀だ」

 

 定命の者にだって毒を食らいはせずとも同じことを大切にする者はいる。それが不死者だと毒まで含まれるだけのことだ。

 

「毒を食えとまでは言わないが、自分で獲った物は責任を持って食べなさい。感謝のおじぎもするのだ! カレン!」

「……はぁ、わかったわよ」

 

 決して間違ったことを言っていないと断言できるのだが、やはり他の者達がしたのと同じように呆れた目で見られてしまう。

 悲しいかな。 

 

「他にも怪しい具が入ってそう……えっ?」

 

 なおもスプーンでかき混ぜて鍋を探っているカレンだが、また何かを見つけたようだ。

  

「何か今、ヘンなのが…………きゃあっ!!」

 

 次いで可愛らしい悲鳴を上げ、驚きの余りスプーンを鍋の中に落としてしまったではないか。

 

「どうした?」 

「ゆっ……ゆゆゆ、指がっ!」

「あぁ、これか」

 

 沈んだスプーンを拾い、恐らくカレンが見たであろうものを掬い上げた。

 鍋の水分を吸って少し膨らんだ干し指である。

 

「何よそれ!?」

「何って、親指だが?」

「親指だが、じゃないわよ!」

 

 なんてことはないただの親指だ。

 昨日の晩に生産した乾燥腕から切り取り、塩と香草をすり込んだものだ。

 これが鍋にはとてもよく合う。

 

「食べないのか?」

「食べないわよ!」

「爪は剥いで食べやすくしてあるし、味付けだってちゃんとしてあるぞ。あぁでも、骨は抜かずにそのままだな」

「そういう問題じゃないでしょ!!」

「小指と薬指も入れてあるから、遠慮せずに食べてくれ」

 

 それを聞いたカレンはより一層顔を曇らせる。

 

 ……はぁ、そんなに人肉を食べるのが嫌なものかね。

 人特有の牛や豚の手足は食えるくせに、人の形をした手足は食えないという習性は、相変わらず勝手がすぎると思う。

 元が何であれ、加工してしまえばタダの肉、貴重なタンパク源だというのに。なぜそれが理解できない。

 ここは教育者として、しっかりと教え込んでやらねばなるまい。

 

「ではそうだね、カレンはこんな昔話を知っているかい――」

 

 昔々ある所に、小さな村が二つあった。

 ある時その地域を大規模な干ばつが襲い、田畑は枯れ果て、野の獣達も死に失せてしまう。

 そうしていよいよ食べるものが底を尽きかけた時、一人の旅人が訪れた。

 空腹のために今にも倒れそうな男は両方の村に寄って、「飯を分けてくれ」と頼んだという。 

 

 片方の村は残り少ない食料を切り崩してその男に分け与えたが、もう片方の村ではその男をすぐに追い出した。さらにあろうことか男を襲って殺し、僅かな金品すらも奪ってしまったのだ!

 

「ひどい話……」

 

 最初に食料を与えた親切な村の人達は、変わり果てた男を見つけると嘆き悲しみ、丁重に埋葬してやった。

 すると後日、不思議なことが起こったという。

 

『畑に作物が実っておる! 天の恵みじゃ!』

『こっちにはいい匂いのする不思議な肉が! これは天の肉だ!』

 

 昨日までカラカラに干乾びていた田畑に農作物が実り、また別の場所では不思議な形の肉が大量に生えていたのだ。

 そして村の人々は気付いた。肉の生えている場所は、あの旅人の男を埋葬した場所だと。

 それからすぐに死体を掘り起こそうとしたが、一体どこへ消えたのか骨の一本すら見つからなかった。

 

『やはりあのお方は神様の使いだったのだ!』

 

 しばらく経って気候は元通りになり、干ばつは収まった。

 もちろん親切な村の人々は皆生き残ったが、もう一つの村は人が消え去り廃村と化していた。

 

「そして今でも世界のどこかで、その親切な村は繁栄しているとさ。……とまぁ、よくある教訓じみた昔話だ」

「ふぅん……。でもこの話って、『人に親切にしなさい』ってことを言いたいだけでしょ? 人肉とは何も関係ないじゃない」

「そう言うだろうと思ったよ。だから予備知識を教えてあげよう」

 

 心温まる昔話が、一転して怪談に変わるかもしれない予備知識を。

 

「一つ、不思議なことに旅人の名は俺と同じ『アレン』だ。二つ、俺はその村を訪れた経験がある。そして三つ、話の原本には天の肉は人の手足に似た形であると記されている」

「ウソ……」

 

 くくく、狼狽えておる狼狽えておる。

 早く受け入れるがいい小童よ、受け入れるしかないのだ。

 これこそが世界の真実なのだ。

 

「ちなみに天の肉はこの話だけではなく、ミギウエ島戦記やスタルバー登山録などといった世界中の伝承・民話にも度々登場する。この意味が分かるね?」

「そんな……」

 

 アレン肉は幾度となく人と土地を救ってきた。

 もはや世界三大作物の一つと言っても過言ではない。 

 

「……だからって食べたりしないわよ! 絶対に!」

 

 しかし少女は俺と鍋から目を背け、自分の料理だけを黙って食べ始めた。

 それから食事が終わるまで、カレンが鍋に触れることはなかった。

 

 やれやれ、お子様の食わず嫌いには困ったものだ。

 

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