あたしのパパは不滅ときどき爆散   作:GODIGISII

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第十一話 「決勝で会おうぜ!」

 真っ先に感じたのは小型の隕石でも落ちたかのような音と衝撃。

 なんとか目を閉じずに観れた光景はそれらと一致していた。

 紅王蠍ほどではないがそれでも鉄よりは硬いであろう四爪魔獣の皮膚が、かかと落としの直撃した場所を起点にぐにゃりと波打ってひしゃげたのだ。

 

「お、おぉ……うぉっ!?」

 

 ほんの少しの浮遊感。

 直後に足元から登ってきた衝撃が脳天まで突き抜ける。

 怪獣ミミズは我々を乗せながら前のめりにノックダウンされた。

 

 巨体が起こした青い砂煙で少しの間何も見えなくなり。

 俺とケイは真の怪物に対して警戒を強めてじっと待った。

 音もなく吹き付けた熱風が砂煙をまとめて払い去り、自身が空けた大穴の側に彼は立っていた。

 

「あの……」

 

 さっきまでの殺気と怒気が消え去っていたので恐る恐る声をかけてみる。

 しかし耳に砂でも詰まって俺の呼びかけが聞こえていないのか、こちらを見向きもせずに地面に飛び降りた。

 そこからさらに開けっ放しのミミズの大口へ入っていったではないか。

 

『なにあの人、敵なの味方なの?』

『さぁ、全く見当もつかん』

 

 要塞の上にいるカレン達と目を合わせても揃って首をかしげるばかり。

 

「ケイ!! 聞こえるか!? 君は皆を守っていてくれ!!」 

「……あ、うん! 了解!」

 

 とりあえずはケイに皆の護衛を任せ、大口の前で待つことにした。

 時間にして五分弱、俺が余裕を持って服を着てから彼は出てきた。

 何故か頭の荒野が森林になっていたが、決して触れないでおこう。

 

「あの、助けて頂いてありがとうございます」

 

 開口一番に感謝とおじぎを。

 

「ん。……あぁ、いいってことよ!」

 

 野生味の溢れる男はあっけらかんと笑い。

 

「コイツがさー、俺の昼寝中に“大切なモノ”を奪っていきやがったんだよ」 

 

 だから何も気にすることはない、恩を感じる必要はねえぜと。

 非常に気持ちの良いことを話してくれた。

 

「ところであんたら人族だろ? こんなところで何してるんだ? 修行か?」

「えぇと、ローランゼンフトゥに向かっている最中でして」

「お! 俺と同じだな! 方角とかちゃんと分かるか? 迷ってるんだったら案内するが」

「いえ、お構いなく。一応地図がありますので」

「ならよかった。それじゃ俺は先に行くよ。こう見えてけっこう忙しいんでな! また会おうぜ!」

 

 彼は名乗ることもこちらの名を尋ねることもせずに北を向いて地を蹴りつけ。

 またしてもズドドドという轟音と砂煙を上げ、嵐のように走り去っていった。

 

「…………なに今の」

 

 長いようで短い沈黙の後、誰もが思っていることをカレンが呟いた。 

 

「分からん」

 

 暴虐神でも智慧神でも誰でもいい。

 あの者が何者かを教えてくれ。

 ここでどれだけ考えようとも俺が千年眠っている間にアレが魔人の平均レベルになったのか、それとも彼が規格外の化け物なのかの判断はつかない。

 だからこれ以上深く考えるのはやめた。

 

「とりあえずは……コイツを調べるか。師匠、やりますよ」

「ん――」

 

 

 

 大怪獣に襲われた日から三日、四日、五日と不毛の青土砂漠を彷徨い。

 ちょっとした山ほどの砂丘を登りきると。

 

「あっ!! あれがそうでしょ!?」

 

 それは見飽きた青ではなく灰色の。砂嵐や水害および魔獣の侵入を防ぐための頑丈な城壁と、その中にある街並みが遠方に現れた。

 視力を上げて見回すと、戦士だったり隊商だったり旅人だったりが都市へと向かっているのが散見される。中にはあのミミズほどではないが、巨大な魔獣の死体を運び入れる者達もいた。

 あれこそが現在の目的地、四将が一人《青土の王者(クレーキング)》ラファーダルの治めるローランゼンフトゥで間違いない。

 

「うん、これならまだミミズ肉が残っているうちに到着できそうだ」

「じゃあとりあえず八本ちょーだい」

「私は十本でいい」

「無理に消費しなくてもいいんですよ?」

「あの街に着くまでずっと食べ続けるもん。ミロシュもそうでしょ?」

「ん」

 

 いくら目視できる距離まできたとはいえ、だらだら進んでいては備蓄を全て食い尽くしかねない。

 だから俺とグリゴールとケイで示し合わせて歩調を速くした。

 おかげでカレンとミロシュがミミズ肉を十キロも消費しないうちに城門に辿り着いた。

 

「混んでるねー」

「そりゃあ四大都市の一つだからな」

 

 着く前からずっと見えていたが、旅人だの商人だの、あるいは戦士だのが複数の列を為して入城の許可を待っていた。

 もちろんローランゼンフトゥが魔界の主要都市だからというのもあるが、今は時期が時期なので平時よりも外からやって来る者が多い。

 

「薬売りか。違法なブツは取り扱ってないだろうな? ……よし、行っていいぞ」

「せんぱーい、あの魔獣デカすぎて通れないっすよー!」

「あー、それは向こうの搬入口から運ばせとけ」

 

 いつもより多めに配備された門衛が忙しなく働く様に元魔王として感心しながら、周りに同族はいないかと探し。

 

「次の者、こっちへ来い。そこの五人組だ」

 

 魔人と魔獣以外見つからないままに我々の番が回ってきた。

 

「……む。よく見れば人族と長耳族か、珍しいな。何しにきた?」

 

 獲物を見る目というよりは毒虫を警戒するような目で我々を睨んでくるが無理もない。

 魔界に来る人族といえば、征伐目的の勇者御一行か中央大陸を追い出された危険人物と相場が決まっている。しかも実際その通りで、現勇者は平和を求めて話し合いに、元勇者は明確な殺意を持って四将の一人を抹殺しに来ている。

 だが、その疑念を払拭する一言を用意してある。

 

「実は大会に出場しようと思いまして」

「おぉそうか! それなら大歓迎だ! 行っていいぞ!」

 

 その言葉を口にした瞬間、一切の警戒を解いて受け入れられた。

 

「ど、どうも」

 

 いくらなんでも物分かりが良すぎて拍子抜けした。

 流石に持ち物検査くらいはしておきなさいと思ったが…………ここは魔界なのでヨシ!

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 ――魔界の統治者は誰か?

 

「魔王!」

 

 それは暴虐神の代行者たる魔王だと、読み書きの出来ぬ子供でさえ即座に答えられるだろう。

 大人であればその下に四人の将軍がいることも常識として知っているはずだ。

 ではどうやって魔王と四将を選出するのか?

 

「投票……とか? それともセシューセイってやつ?」

 

 その問いには一定以上の教養がなければ確信をもって答えられない。

 確信をもてないだけで、実は答えは極めて単純である。

 

「戦って勝てばいい。下剋上さ」

 

 魔界においては腕っぷしこそが絶対。

 強さこそ強さであり、力こそ力である。

 だから四将を下した者が四将となり、魔王を破った者は魔王となる権利を持つ。

 よほどの性格破綻者か無差別殺人鬼でもない限りは、上に立つ者が強いだけで魔人は素直に付き従う。

 人族の世界とは違って、策謀を張り巡らせた醜い権力争いなどは一切起こり得ないのだ。

 

「でもそれだと年がら年中挑戦を受けることにならなぁい?」

「大昔は実際そうだったよ。今は違う」

 

 いくら下剋上で成り変われて血気盛んだとはいえ、自身の力量も測れない弱者の相手を毎日してやれるほど暇ではない。

 仮にも土地と民を管理する為政者であり、戦うだけが仕事ではないのだから。

 なまじ高い地位を得てしまったおかげで好き勝手出来なくなるということだけは我々との共通点だ。

 かといって常に突っぱねて居座り続けることは許されておらず、正式に挑戦する方法が数千年も昔から定められている。

 

「この大会で優勝すればいいんだね」

「その通り」

 

 魔界では北西のローランゼンフトゥ、北東のシバグラスゼンエイ、南西のヨークゼンヴェー、南東のタワシイルゼンゴの、それぞれ四将が治める都市において毎年武闘大会が開かれており。

 そこで優勝した者が挑戦権を得るのだ。

 郷に入ったら郷に従えで、きっちり大会で優勝してラファーダルと話し合いをするために我々はここへ来た。

 もっとも、ラファーダルは戦闘狂らしく毎年律儀に大会に出場しているというので初戦で当たるかもしれないのだが。

 

「それじゃ行ってくるから、信じて待っていてくれ」

「ん」

「嬢ちゃんはしっかり見張っとくから、心おきなくやってくレ」

「みんな頑張ってね!」

「あったりまえよぉん!」

「頑張ってくるねー!」

 

 あくまで今日行われるのは予選なのだが、我々三人は決勝前夜くらいの熱い思いを受け取って。 

 二人と一匹に手を振られながらちょっとした城なんぞ目ではないくらいに巨大な、観客席を含めれば直径五百メートルはくだらない円形闘技場へと足を踏み入れた――。

 

 

「――それではこちらを持って会場で待機していてください」

 

 大会受付で名前と年齢だけの簡単な登録を済ませて。

 チームの番号札を受け取ってから案内板に従って会場まで向かい、

 

「うっわぁ……」

「中から見るととんでもないわねぇん」

「……うむ」

 

 薄暗い通路を抜けて、石ではなく青土の敷き詰められた舞台(アリーナ)に躍り出た瞬間、その広さと迫力に我々は圧倒された。

 本日は予選なので観客は一人もいないが、代わりに三十万近い無機質な観客席が全方位からこちらを見下ろしていて。

 一周するのに歩きで二十分はかかる広大な舞台では、すでに百や二百ではすまない腕自慢の魔人と飼いならされた魔獣がたむろしていた。

 予選はまだ開始されていないのに、今すぐにでもおっぱじめそうな雰囲気の者が数多くいる。というか普通に殴り合っているのがちょくちょく見当たる。

 

「わたしたちは……あそこだね」

 

 無駄に因縁をつけられたりぶつかったりしないよう壁際を歩いて番号で組み分けされた場所へ行き、石のように固まってじっと時を待つ。

 血気盛んな魔人達と目を合わせぬよう三人で円陣を組んで足元を見ていたのだが。

 

 

「――おい」

 

 

 唐突に肩に手を置かれた。

 ……いや、もしかしたらこれは風かもしれない。

 そう信じて小さく跳ねて振りほどいた。

 

「おいって」

 

 そして再び同じ感触を受けた。

 

「無視するなよ」

 

 どうも風でも幻聴でもないらしい。

 

「……私のような路傍の石ころの如き存在に何用でしょうか」

「いや、俺だよ俺。この前会っただろ? とにかくこっち見ろって」

 

 新手の詐欺か何かではないかと疑いつつも、このまま邪険に扱っていては逆上して背骨を引っこ抜かれかねないので、円陣を解いてゆっくりと振り返った。

 

「あっ!」

「やっぱりそうじゃねえか。忘れられちまったかと思ったぜ」

 

 褐色の肌に赤い目の、グリゴールよりも分厚く盛り上がった肉体を持つ魔人が白い歯を見せて笑っていた。

 四爪上位の怪獣を一撃で葬った怪物の顔を忘れるわけがない。

 “なぜか”前回と比べて髪が茶色く変色し、パーマがかかっており、さらには十日と経っていないのに十数センチほど伸びていて肩に届いていたが、きっとあれだろう。

 魔界には超天才的な技術を持った美容師がいるのだろうよ。

 

「いやーまさか、あんたらも出るとはなー。相当腕に自信があるんだろ!?」

「いやいや、それほどでも」

 

 お世辞でも謙遜でもなく事実としてそれほどでもない。

 男として、生物として、目の前の魔人より劣っていると本能が認めているのだ。

 

『まもなく予選を開始いたします。出場者の方は所定の位置でお待ちください』

 

 唐突に、会場の至る所に設置された伝声管からアナウンスが流され、知り合いと駄弁っていたり殴り合いをしていた魔人達が各々持ち場へ戻っていく。

 

「んじゃ、俺はあっちだからまた後でな。決勝で会おうぜ!」

「ええ、お互い頑張りましょう」

 

 俺の経験上、その言葉を言ってしまった者は高確率で予選すら突破できずに敗退するのだが……。

 

「……あの人は、普通に勝ち上がってくるよね」

「間違いなく、な」

「決勝までに当たりたくないわねぇん」

 

 我々は例外なく確信していた。

 あの男は軽々予選を突破し、ともすれば決勝にまで勝ち上がってくると確信していた。

 

 

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