蛇妖怪古代を生きる   作:冬䖵きりな

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シリアスです。
ところで、「シリアス」って、真ん中で分けて出来た二つの単語の意味が同じになりますよね。

ちなみに、主人公ちゃんって、割と性格悪いです。いい意味でも、悪い意味でも、転生後に順応できてるのですね。


昏蒙の蛇

 ──十年。長いようで、しかしあっという間に過ぎた。

 都や地方には武士が台頭し始めている。具体的に言えば、平将門とか、奥州藤原氏とか。まだ頼朝は居ないらしい。

 

 霊紀は巫女として、妖怪退治をする者として、女性として。立派に育っていった。未だ結婚相手は居ないが、すっかり美人になった霊紀のことだ。その内ちゃっかり連れてくるだろう。

 

 私はというと、既に神社からは離れて、都の近くの林を拠点にしている。霊紀には自分が妖怪だと明かしていないから、老いない私が人外であると気づかれると困るから。霊紀は自分の親の仇、妖怪という存在全てを恨んでいる。彼女の為にも、霊紀とは久しく会っていない。

 十年程度では大して老いないと、現代人ならそう考えるだろうが、生憎とここは古代。一般人の平均寿命は、現代から見れば非常に低い。

 

 十年前に友達になった妹紅。彼女は今、行方不明。私は輝夜と別れてから見ていない。無事だといいが。

 

 ……こうして昔を回想しているのは、何もやる事が無いから。霊紀が妖怪を退治するのを遠くから見守る位。だから、短い間でも忘れる事のない様に、何日かに一回昔の事を思い出している。

 

 

 まぁ、『暇』というものは、いつの時代も、何かが起きる前触れなのだが。

 

 

 ◇

 

 

 私が都をほっつき歩いていた時の事。通りすがった陰陽師達の会話を聞いて、思わず叫びそうになった。

 

 その内容というのが、大蛇の征伐。大蛇には心当たりしかない。

 そう、私の事。私は相変わらず、定期的に蛇の姿に戻っている。その周期は少しマシになって、今は三週間に一度くらい。……なのだが、戻る度に体長が伸びている。今は、貴族の屋敷の周りを一周半する位。かなり持て余してしまう。因みに、首は一つだけ。

 そのため、場所を選ばないととにかく大変な事になる。うっかり都の近くで戻ってしまえば、九割九分九厘、ほぼ必ず誰かに目撃される。その目撃者が陰陽師だと、見られた瞬間に攻撃してく

る。まぁ、そのほとんどが雑魚陰陽師。私の体に大したダメージは入らない。

 

 ……でも、私の存在が高位の陰陽師に知られたとなると、話は変わる。

 もしも、安倍晴明みたいな、文字通り最強の陰陽師なんて連れてこられたら私は一巻の終わりだろう。…………陰陽師食べなきゃよかった。陰陽師だけではないけれど、目撃者は極力消す(食べる)ようにしてたから、それが原因かもしれない。

 

 ……そういえば、霊紀は都でも一目置かれている。強力な妖怪が出たら、陰陽師と一緒に退治しに行くこともしばしばあった。

 そして、陰陽師の会話を聞いた限りでは、集められるだけ、強力な人物を集めるらしい。

 

 ……ヤバイ。何がって、それはもう色々と。

 

 

 

 夜。作戦を練ることにした。奴らが来るのは明後日。霊紀も来る。見に行ったから間違いない。

 

 まず、霊紀は殺さず、後に残る傷も残さない。これは当たり前。

 でも、それ以外のを皆殺しにすると、(かえ)って不自然。数人の陰陽師だか何だかは目撃者として残さなければいけない。

 次に、私は人型になってはいけない。霊紀にバレるし、相手は『大蛇』を倒しに来ているのだし、相手の知らない情報を渡す必要は無い。

 戦わないで逃げればいいと思うが、蛇の状態で戦い慣れしておくのも大事だし、折角だから戦っておこう。

 

 ……しかし、これが中々難しい。

 別に、私は殺されてしまってもいいっちゃいいのだけれど、私の命の価値観が軽いのは転生だなんて事が起きたからで、もう一度死ねば、次は無い。私は死なずに、霊紀も出来るだけ傷つけず、他にも数人残さなければいけない。しかし、相手も相当の手練れ揃いだろう。

 

 これは中々、骨が折れそうだ。因みに、人間よりも蛇のほうが骨は多い。

 

 

 

 

 

 襲撃の当日。都は騒がしかった。それもそのはず、名高い陰陽師などがぞろぞろと道を歩いているのだ。静かな訳が無い。

 私は、その中に霊紀が居た事を確認した後、陰陽師どもの目的地である、私がいつもいる林に戻り、蛇に戻って、前日のうちに掘っておいた穴に入る。中の広さは、一軒家が二つ分くらい。

 

 ……本当に生きていられるかなぁ……ざっと数えても十数は居た。酒呑童子ですら一桁なのに、なんで私は二桁なのさ…………

 

 

 陰陽師の行列が見えた。大体二十人くらい。

 勿論、馬鹿正直に全員を相手にする訳はない。流石に数で押し切られるだろう。妖力を貯めて、レーザーで戦力を削ぐ。手も足も無いので、レーザーは口から出る。別に不快感は無い。

 

 

 ……流石は高位の陰陽師といった所か、今ので殺せたのは数人だ。こんなものを撃って、霊紀は大丈夫かと考えてしまうが、彼女の動きの方がレーザーよりも断然早いし、動体視力もぶっちゃけ私よりも良い。私が目で追える程度の攻撃を避ける事なんて、彼女には造作も無いことだ。

 まぁ、レーザーで終わりじゃないし。態勢を立て直される前に、地中から尾を出して、力いっぱいに薙ぐ。ほとんどは反応できずに吹き飛ばされ、林の外に消えていった。

 

 残りは十人程度。何だか懐かしい感覚である。まぁ、後は消化試合だ。ちょっと熱いくらいの石をぶつけてやれば……ほら。うまい具合に、死なない程度のダメージで恐怖を与えられる。

 

 それを繰り返して、気が付けば残るは霊紀だけだった。他の何人かは皆逃げ出した。そんな中、彼女だけは私と戦い続けている。逃げてくれた方が色々と楽なのに。

 傷つけたくはないけれど、私から攻撃しないのも不自然だし、まぁ、多少は我慢してもらおう。

 

 

 

 ……いやにしつこい。もしや、私を親の仇だと思っているのだろうか。何をしても攻撃してくる。尾を出そうが、顔を出して妖力弾を出そうが、瞬きする間に、霊力や札が飛んでくる。その一つ一つが、妖力の塊である我が身をじわじわと削っていく。

 先ほどから、自分の体を起点にして、周りの空気を死の谷(デスバレー)並にしているのだが、彼女に見られた変化は汗ぐらい。他の人間ならとっくに倒れているだろうに。

 

 このままでは埒が明かないだろうから、眠ってもらう事にする。簡単なことだ。頭に触れさえすればいい。脳の温度を下げるだけ。勿論、最大の急所だから、防御は怠らないだろうが、ほんの一瞬、掠りさえすればいい。

 

 身体全体を地中から出す。突然の行動に、彼女に少し動揺が見られるが、そんなことはお構いなしに、私は尾を勢いよく薙ぐ。彼女は飛んで避けるが、予想の範疇内だ。薙いだ時に発生した風を伝い、彼女の足から胴へ、胴から首へ、そして脳へ私の能力を伝播させ、彼女は空中で静かに眠った。

 落ちてくる霊紀に尾を優しく巻き付けて落下を止める。それからゆっくりと地面に降ろす。そうしたら、周りに誰も居ないことを確認し、人型になる。

 倒れた彼女を抱えるために、手を伸ばした瞬間、

 

 

 

 ────勢いよく手が弾かれる。

 

 何に? ……霊紀の腕に、ではない。彼女の体を見れば、うっすらと、結界が張ってあった。妖力を反発させるものだ。私の腕は黒く焼け爛れている。

 

 腕を確認する為に、目線を下に向けた時。横たわっていた筈の、彼女の体が無かった。

 

 立ち上がっていた。その表情は複雑怪奇で、私には全く分からない。唯一つ分かったのは、少なくとも、その表情に、再会の喜びなど、微塵も含まれていない事。

 

「…………なんで」

 

「……さぁ、ね。私にも分からないや」

 

 私にも分らない。判らない。解るのは、このまま、ハイさようならとはいかない事だけ。確実

に、戦う事になるだろうなぁという、諦めにも似た考え。私が恐れていたことが、いとも簡単に起きてしまった。

 

「あぁ……なんで、何で失敗したのかな」

 

「…………」

 

 彼女は沈黙し、ゆっくりと、いつか私が千回位打って、その中で一番上出来だった刀を構えた。彼女に武器として与えたものだ。その刃が、今私に向いている。

 

「出来れば、戦いたくないな」

 

「……無理よ。貴女が妖怪だったなら、私情なんて関係ない。……滅するまで」

 

 私は内心ため息を吐いて、ゆっくりと腰の刀を抜いた。数百の命を刈った、妖刀ともいえる、禍々しく光る刀身は、ただ在るだけで威圧と恐怖を与える。

 その圧に彼女は怯まず、刀を持つ手の力を強くした。

 

 ついさっきまで家族同然だったのに、今はこうして互いに刃を向けている。そして、どこか遠くで鳴いた鳥の声を合図に、その均衡は崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──今になってようやく、命を奪う、という行為の重さを知った気がする。それは、自分から見て相手の命が重かったから。

 では、今までに奪った命は軽かったのだろうか。決してそんな事は無い。全て、必死に生きてきた命。そこに軽重は無い。そう思ってきたから、私は割り切って命を潰してきた。仕方が無いのだと。

 

 しかし、私は未だ、一人の少女を殺せずにいた。私の向けた刃は、とうに彼女の首元に突き立てられていて、彼女の刀は、お祓い棒は、札は、針は。全て弾き飛ばされていて。両腕両足、その他の関節は全て氷に閉じ込められていて。

 それなのに、彼女は絶望していない。悲観的な表情もしていない。きっと、私が、彼女を殺さない、殺せない事を分っているのだろう。しかし僅かながら怒気を感じる。

 

「……ねぇ。殺さなくても、いいよね?」

 

「……分かっていたわ。貴女のその甘ったるい考え。どんな奴だって、敵になって、自分や仲間に危害を加えるなら、容赦はしない。……それが、当たり前ってものじゃなのかしら?貴女は甘いのよ。吐きそうなくらいにね。……殺しなさい、敗者が逃げ延びて、何事も無かったように生活する。……そんなの、私はしたくはないわ」

 

 私は、どうしようもないくらいに、現代日本人なのだ。平和ボケしていて、『話せばわかる』『なにか深い理由があるのだろう』……そうやって、甘ったるく生きていくから、生命の決断を迫られた時に、何も決められない。迷って迷って、最善とは言い難い選択をする。

 

「殺しなさいよ。……早く。動けない私を見て愉しんでいるとでもいうのかしら?」

 

「……違う。私はただ、」

 

「それよ。言い訳して、何とか策を練って、自分にとって都合のいい様にしようとする。私は貴女の玩具じゃない。貴女の思う通りに動かそうだなんて考えないで」

 

「霊紀は……死にたいの?」

 

「死にたくない……と言いたいところだけどね。生憎と、私はどうやら死にたいみたいよ」

 

「そっか…………恨まないでね?私は、それでも自分のやりたいようにやる。……私は妖怪だもの。傲慢で、自分勝手で、愚かで、天邪鬼な、妖怪なの。だから残念、霊紀の願いは叶えられそうにないな。それどころか、ちょっぴり悪戯したくなっちゃったな。だから、もう一度言うね。……恨まないでね?」

 

 ──私は、斬った。他の誰でもない、自分自身の腕を。

 痛い。痛い。けれども、私は、この古代に産み落とされてから初めて、愉悦を感じた。

 

 ……私は、どこかズレていたのかもしれない。自分の血を分け与える行為が、どれ程残酷な意味を持つか知りながら、それを実行して、あまつさえ愉しいなど。

 

 きっと霊紀は許してくれないだろうな。死ぬまで恨むだろうな。霊紀の将来も不安だけど、見た目に変化は無いし、身体能力以外に変化はない。寿命だって、人よりほんの少しだけ長い程度だろう。そうなるように加減した。他ならぬ自分の血なのだから、それ位はお茶の子さいさい。

 

 霊紀は呆然とした表情で固まっている。いや、まぁ関節が固まってるし、動けないのは当たり前だけど。

 

「お誕生日おめでとう、霊紀」

 

 その祝福は、果たしてどんな意味を持つのか。それを言った私にもよく判らなかった。




主人公ちゃんは転生というプロセスを踏んでいて、なおかつ現代日本人なので、生と死、どちらも彼女の中では非常に軽いのです。
簡単に延命させたり、何も思わず殺したり。軽いですね。
本当に、性格の悪い娘です。最初はここまでじゃなかったのですが、書いていく内にいつの間にかこうなってました。
刀についてですが、大した意味はありません。忘れてもらって結構です。

タイトルについて

  • 変えようぜ!
  • このままでいいでしょ
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