蛇妖怪古代を生きる   作:輝里奈

11 / 11
※原作キャラの口調はなるべくゲームでの口調に合わせます。なので、キャラのイメージが違う、ということが起きるかもしれません。


猿の顔、虎の手足、尾は蛇

 

 

 ──ヒョォォォ。甲高い音が何処からか響いている。金属の出す様な得体の知れない音は人々を少し前から人々の心胆を寒からしめていた。私は知識として知っているし、古代とはいえ野山に住む者なら正体は分っているかもしれない。

 

 それは、トラツグミ──『鵺』と呼ばれた鳥の鳴き声である。およそ生物の出す音とは思えないその鳴き声は、神妖の消えた平成の世でさえ人々を恐怖させた。時にはUFO、未確認飛行物体の出す音とさえ言われていた事からも、いかにこの鳴き声が肌骨(きこつ)を驚かせるものであったかが判る。鳴き声の一つで人々の恐怖を煽る小鳥。そこらの妖怪より断然恐れられている存在と言えるだろう。

 

 平安の鵺と言えば、頭、胴、尾と、どの部位も、異なる生物の特徴を持つというキメラである。

 しかし、昔から云われる『鵺』とは、トラツグミの事である。しかし、どちらもまた正体不明であった事に変わり無く、いつしか同一視されるようになった。

 

 二つの存在によって、現在平安京は恐怖のズン……どん底にある訳だが、蛇の特徴を持つという理由一つで、何故だか私への恐れも増えている。それはそれで私の強さも上がるし、あまり気にしていないのだが、『鵺』という妖怪、それに私は非常に興味を持っている。

 

 別に大層な理由は無い。現代日本に伝わる妖怪の中でも、トップクラスの知名度を誇るかの妖怪を一目見たいという、いつぞやの姫様の時と同じ理由。

 そういえば、現代日本で一番有名な妖怪って何だろう。酒呑童子か、鵺か。はたまた、のっぺらぼうか。もしかしたら鬼〇郎かも知れない。あれは完全に空想の産物だけれど、妖怪自体人間の心から産まれた訳だし、大差はないか。

 

 さて、都には弓やら刀やらを持った者が沢山いる訳だが、未だ鵺は仕留められていない。妖怪退治で有名な頼政はまだ活躍していないという訳だ。

 しかし、晴明と頼光は、あれはもう人間ではないと思う。多分私じゃ勝てない。恐怖に打ち勝った人間程怖いモノは無い。私は戦闘狂ではないし、戦うなんてまっぴらごめんだ。

 霊紀は人間でなくなったけど、まだまだ頼光程の実力は無い。当然、あれから会っていないし見ても居ないから分らないが、都で評判を聞くことはすっかり無くなっていた。

 

 ──ヒョォォォ。今度は大分近くで鳴き声がした。見やれば、確かにトラツグミが幾匹か歩いていた。

 

 さらに、近くから人の愉快な悲鳴が聞こえてくる。鵺だと叫ぶ者も居れば、鬼が出たと言う者もいる。大蛇に天狗、怨霊。同一の存在を前にして、人間に見えているモノはどれも違っていた。

 これぞ正しく鵺の特徴。正体不明なのだ。目で見ても、耳で聞いても。ソレは見る者によって全く違う形態をとる。

 私の求めていた鵺の出現に、私はいつの間にか駆け出していた。

 

 

 

 案外にも人の被害は少ない。人々は肉体的にではなく、精神的に痛めつけられているのだ。もっとも、全く被害が無い訳ではないが。

 鵺は、見る者の恐怖の対象の姿を取る。私の目には、いつ対峙したかも忘れた、烏天狗に見えていた。意外と、自覚していなくとも恐怖は植えつけられているモノなのだ。

 しかし、私のもう一つの目には真実が映る。最早蛇の赤外線センサーどころでなく、熱に加えて妖力などの力も見分ける事が出来るようになっていた。そのお陰で、妖術で姿を変えようとも、私には真実の姿が見える。案外便利な力だ。

 

 ……しかし、私は今、非常に困惑している。何故なら、

 

「……女子(おなご)?」

 

「……誰が女子だって!? ……私は正体不明の妖怪、鵺よ!」

 

 その鵺と名乗るモノの正体は、十代前半にしか見えない幼い女子だったからだ。

 

「……まぁ信じてあげる。まずは自己紹介よ。私は咬摘。都で恐れられる大蛇の妖怪よ」

 

「蛇か……私は封獣(ほうじゅう) ぬえ、よ。貴女が思っている程子供じゃないわ。もう二百は生きてるのよ」

 

 そういえば、私の年齢って……

 

「二百、ねぇ……まだまだ子供。私は少なくとも貴女の二十倍は経験豊富よ~。まぁ、十七ですけど」

 

「十七? ……怪しいな。二十倍……四千か。…………って、とんでもない妖怪じゃないの!」

 

「あはは……まぁ、何千年か寝てたけど。だから年を取らない永遠の十七なの。……で、あの鵺がこーんな可愛らしい女子とはねぇ……よし決定。貴女今から私の友達ね。拒否権無し」

 

「はぁ!?…………仕方ないわ。友達とやらになってあげる。その代わり……」

 

「その代わり?」

 

 私はごくりと喉を鳴らして、それっぽく演出する。

 

私と平安京を荒らすわよ!

 

 ……とんでもないヤツ。こんなんだから弓で射られるのでは?

 

「……分かった。私もちょっとイラついてたし、派手にやっちゃいましょ」

 

 

 ──ここに、最悪のコンビが誕生した。

 人でなしの大蛇、正体不明の鵺。後に、平安京を恐怖のどんドコ……底に陥れることになる。多分。

 

 

 

 

 

「ヒィィィィ!助けてくれェーー!」

 

「私の屋敷が!」

 

「死にたくないィィ!……ィギャッ」

 

 平安京は、正に阿鼻叫喚、地獄絵図。たった二人、されど災厄の如し妖怪によって、平安京は荒れ尽くしていた。約四百年後に同じ光景が繰り返されると思うと、ちょっぴり可哀そう。

 まぁ、その二人の妖怪のうち一人が私だし、なんとも言えないけど。というか、自分で災厄の如しって、恥ずかしいな。つい実況者気分で考えちゃった。

 

 ぬえは人々を蹂躙し、私は貴族の屋敷をこれでもかと燃やし尽くす。私の良心によって、内裏は燃えずに済んでいるが。いくら何でも、日本史や記紀神話好きの私にとって、天皇は殺しちゃマズイ存在である。一応彼女にも、内裏には手を出すなと言ってある。納得いかない様子だったけど。

 

 ドサリ。今日で幾百回目の音が、私の後方で鳴った。人が焼けて倒れる音だ。その音を聞く度、私は残虐な気持ちになっていく。理性というタガは今にも外れかかっている。元人間とはいえ妖怪が、人の死んでいく様子を見て興奮しない道理は無い。あぁ、半妖は別として。

 

「さてさてさて……流石にこれ以上やるとマズいかな。人間を狩っても絶やすのはいけないし。そろそろ消火してあげるかな~」

 

 私は軽い冗談のように独り言を呟いて、それから遠くに居るぬえの破壊行動を止め、能力で火災を全部消した。ぬえは相変わらず嫌そうな顔をしているが、流石に自分の糧となる人間が絶えてはいけないというのは彼女も理解しているようだった。

 だが、人間からすれば、ここまで都を荒らし尽くした妖怪を無傷で返す訳にはいかない様で、お札、矢など、遠距離から攻撃を仕掛けてきている。意外にもかなりの人数が生き残っている様で、その中に頼政もいるかも知れないと、私は心の中で一人楽しんでいた。

 

「この程度の攻撃で私を倒そうなんて、随分と自分の力を過信してるのねぇ」

 

 それはあんたもでしょうが。その力を過信しているってのは。

 

「まぁ、油断しないようにね。あんまり甘く見てると、やられちゃうよ?」

 

 私自身は、人間にそこまで恨みつらみは無いし、私に飛んできた矢を投げ返す程度しかしていないが、ぬえは、積極的に攻撃してきた人間に反撃している。ただ、その顔に恨みのようなマイナスの感情は見えず、純粋に人を殺す事を楽しんでいる様だった。人間からすればたまったものでは無いが、妖怪は生憎と他者を労わるという概念は、少なくとも人間相手には持ち合わせていない。妖怪から見れば、人間はいわば家畜なのだから。いや、家畜ですらない。放っておけば生えてくる雑草程度のモノだ。あるいは道端の石ころか。そんなモノに情けをかける人間なぞ居やしない。それと同じ事だ。

 

 そんな石ころ共(人間)が、私の返した矢、或いはぬえの攻撃によって、倒れていく。それでも人間はめげない。必死に私達を討とうとするが、攻撃は一つも通らない。掠りもしないのだ。

 

「そろそろ苛めすぎたし、撤収しない?」

 

「……それもそうね。もっと殺ってもよかったけど」

 

 という訳で、私達は一目散に飛び去る。人の目では追えない速さで。

 

 

 

 ある日の夜。

「妖怪寺?」

 

「そう。何といったかは忘れたけど、何でも妖怪を匿ってたらしいわ。人間の尼が」

 

「へぇ……珍しい奴もいるもんだ。で、それがどうしたの?」

 

「妖怪を匿ってたのがバレて、どっかに封印されたらしいわ。間抜けねぇ。匿われてた妖怪も、皆弱っちかったらしくて、ほとんど屠られたみたいよ」

 

「ふぅーん。別に興味ないからいいや。人間に負ける様な雑魚妖怪なんて気にしてる暇は無いし」

 

「あんた、毎日暇そうじゃないの……」

 

 妖怪寺。弱い妖を人間の尼が匿い、救っていた寺だ。別に共感はできるが、人に実力で負けてしまう様な妖怪は、所詮はその程度だ。まぁ、群れる事で強くする、という目的だったとしても、それでは人間と何も変わらない。

 

 ……私も、考えが妖怪らしく染まってきた。昔は人間の様な思考だったけど。()()から二十年といった所か。すっかり身も心も妖怪になった気がする。

 正に妖怪といえるぬえとはすっかり仲が良くなって、今は行動を共にしている。彼女の正体不明の能力は結構便利で、隠密行動にもうってつけだし、ただ判らなくするだけでも無いらしい。それに関しては見た事が無いので判らないが、とっても凄いモノ、とのこと。是非見てみたいものだ。

 

「前々から気になっていたのだけど、その腰からぶら下げている筒は何?」

 

「あぁ、これはワイン。葡萄を使った酒。ま、もう何千年も中を見てないけど」

 

「酒……呑まないのかしら?」

 

「いや、ね。酒、飲んだことない*1から、ちょっと怖くて」

 

「別に、大したもんじゃないわよ。気分が上がるか下がるか……それは人によりけりだけど、別に飲んでも悪いことなんてないわね。多分」

 

 まぁ、ワインは多分、結構苦いだろうし、あんまり飲む気はしない。いつかは飲もうと思ってるけど。

 

「……酒の話してたら、呑みたくなっちゃった。ねぇ、人間を襲いに行かない?」

 

「また?もう五十回目くらいだけど、襲うの」

 

「飽きないからいいの。さっさと行くわよ」

 

 酒に悪いイメージは無いし、いい機会だから飲んでみようかな。そう決心したはいいものの、まさか酒を飲んだぬえが私に勝負を挑んでくるなんて、この時は全く想像出来なかった。

*1
作者がワインを飲んだことが無い




おめでとうございます!主人公ちゃんはワルな妖怪になりました!





主人公ちゃんの年齢は四千かそこらです。史実より稲作が伝わる時期が大分古くなってますけど、そこは見逃していただけると有難いです。

タイトルについて

  • 変えようぜ!
  • このままでいいでしょ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。