蛇になってから20年程度経っただろうか。何十人もの人を食べたお陰か、今じゃ体もかなり大きく成長し、体長は二十mほどになった。
今は人間の集落もかなり大きくなり、人口は三十人程度だったのが百人ほどにまで増えていた。
生贄は今も変わらず送られている。お陰で今はほとんど狩りをせずとも生きていけるようになった。
……森での生活にはそろそろ飽きていた。明日辺りにでも森を出て旅をしてみる予定だ。
幸いにも、一週間程度であれば人の形を維持できるので、旅には困らなそう。
人間の状態で出来ることを探してみたのだが、どうやら本気で殴れば太さ三十cm程度の木に風穴が空く程のようで、ジャンプは身長の三倍程度、後先考えずに全力で走れば大体百mを六秒弱と超人のような身体能力だった。人じゃないけど。
人になれるようになってからは服飾なんかを練習していた。お陰で着物モドキを作れるようになった。人間の時に手芸部に六年も入っていたお陰かも知れない。
可愛らしいピンク色の服である。花の咲く直前の桜の皮をあれこれして取り出す、実に綺麗なピンクである。
旅に行く準備を始める。取り敢えずは昨日来た人間を細かく切って凍らしたもの。断面がグロテスクである。気にはならない。草の繊維を編んで作った肩掛けカバンに入れておく。
……それだけである。
──10年以上もお世話になった小さな洞窟に一礼をする。
いつか帰ってきたときのために、奥の壁に深い傷跡を付ける。何千年経とうが消えない傷跡。
さぁ、準備は整った。明日の朝日が昇ると同時に、この森からもオサラバである。人間の集落とも、最初に目覚めた方向とも違う、全く見たことのない場所へ、新天地へと。実に、実に楽しみである。
朝日が昇ってきた。
その朝日は、一日の始まり、そして旅の始まりを告げた。
人間の姿に擬態、目的地、どこか。
いざ行かん。
森を抜けた先に在ったのは終わりの見えない草原だった。前を見ても、左右を見ても草以外何もない。
何もないイコールつまらない。走ろう。マラソンをする位のペースで走る。その速度は自転車を軽く超えていた。
妖怪の力ってすげー。とか思いつつ、草原を駆け抜ける。
しばらく走っていると、小さめの山が見えてきた。
一旦止まり眺めてみる。人が生活している気配は無さそうだった。とりあえず登ってみよう。果物かなんかがあったりして。蛇が食べていいのかは兎も角として。
山の麓から少し進んだ所に、見慣れない生き物を見つけた。
狼のような、狼にしては大きすぎるような、独特なオーラを放っている生物。
これは勘だが、あの狼は妖怪だろう。幸い此方に気づいてないので、さっさと逃げる。不要な戦いは避ける。わざわざ喧嘩を売る必要はないだろう。
それに、戦って勝てるかも分からないようなら尚更である。逃げない理由は思いつかない。
山の中腹位まで登った。
そこには山葡萄があった。山葡萄といえばワインだろうか。確か、実を潰し、砂糖を入れて発酵させる。発酵してきたら一日一回ほど撹拌してやれば2、3週間で作れるのだったか。
何故そんなことを覚えているのかは置いといて、酒を飲めるのは良い。実を貰っていこう。砂糖はないが、はちみつなんかを少し入れれば事足りるだろう。
幸いにも近くにハチの巣があるので貰っていくことにする。
……迂闊だった。ハチの巣を取ろうとして刺されない訳がない。
体中ボコボコだ。普通なら死ぬが、まるでギャグマンガの如く、痒い程度で済んでいる。いやぁおそろしい。
山頂に着いた。山頂には目立ったものは無かったが、玉虫を十匹ほど見つけた。
現代だとあまり見られない虫が何匹も目の前を通り過ぎていく。……お、十一匹目。
下山。葡萄にハチミツ。これでワインが作れる。まぁ、入れ物が無いのだが。
どうやら、山に登っている間に夕方になっていたようだ。
街明かりが一切ない為、夜になると一気に暗くなるが、赤外線は普通に見えるし、妖怪の目は暗闇でも良く見える。
まぁ、見えるのは恐らく妖怪だけだろう。人間の目にこの暗闇の先を見通すことは出来ない。
そう考えているうちに日が沈み、夜の世界が始まった。
この時間になると妖怪は活発になるらしく、森でも何匹か見かけた。
といっても、全部狼型とか、形容しがたい形だったりと、あの時のような人型の妖怪は見かけなかった。
恐らく人型である方が強いのだろう。現に弱い妖怪なんかは人間に倒されることもあった。
さすがに今の自分は人間程度に負けはしないが。まぁ、気を付けることに越したことはない。
暗くなってきたし、寝床を探そう。元が人間なので、夜に寝て、朝に起きる生活を続けている。
木の上が良いかな。蛇になれば木登り程度ちょちょいのちょいである。
蛇に戻り、三十mほどの木の上まで登る。ちょうどいい太さの枝を見つけたら、そこに巻き付く。
こんな眠り方は蛇以外にはほとんどできないだろう。大百足とかぐらいじゃないと長さが足りない。
明日は起きたらすぐに出発するので、もう寝よう。
自分の体温を少しさげれば簡単に眠りにつく事ができ──
起床。まだ陽は登っていないが、すぐに出発。
人間に擬態し、服も着る。擬態を解く度に服が外れるのは実に不便である。
赤外線センサーで朝と等しく物を見る事が出来るので問題ない。
「さぁ、旅二日目、始まり始まり~」
……一人でこんなことを言っても空しいだけである。
しばらく走っていると、かなり大きな人間の集落を見つけた。
大きさからして五百人ほど住んでいるだろうか、住居もかなりの数である。
村の広場辺りが賑わっている様子なので、潜入してみる。
人間のまま、髪の毛を黒にし、服も着替える。
まぁ、陰から見るだけだが。
お、近くで見るとかなり賑わっているな。どうやら物々交換をしている様子。中には土器もあった。
土器か。欲しいな。あいにく土器の作り方は存じ上げない。ハチミツなら交換できるだろうか。
……行ってみよう。
「あの……すみません」
「はい? 何ですか?」
「このハチミツと土器を交換したいな~と思いまして……」
「ハチミツ? 何ですかそれ?」
「あ、少し舐めてみてください。甘いですよ」
「ん……甘い!!」
「でしょう? これと土器を交換したいのですが……」
「こんなに!? いいですよ! 好きなのを持って行ってください!!」
「ありがとうございます!」
……成功である。バレなくて安心した。
そこそこ大きい土器を貰えたので、これでワインが作れる。
大きいといっても片手で持てる程度であるが。
まずは集落の外まで急いで戻る。怪しまれない内に。
土器に葡萄を入れ、潰し、ハチミツを混ぜてしばらく置いて発酵させれば出来る。
作るには蓋が必要だ。まぁ、木から切り出せば……
どうやって?
……木から切り出す、温度操作の力をうまく使えばいけるか。
大きな石を砕いて細長い石を作る。作ったら、太さが土器の口と同じサイズの木を探す。石を一瞬だけ加熱し、全力で木を薙ぐ。木の一部分が真っ二つに溶け、断面から上が倒れていく。
……うまく切れたぞ。したら、いい感じの幅にしてもう一度切る。
できた。サイズもぴったり。これでワインが作れるだろう。
石を加熱して刀のように扱う。これは武器として使えそうだ。一回限りなら木の棒でも出来そうだし、便利そうだ。
取り敢えず今できる工程は全部終わった。あとは発酵を待つだけである。割れ物を持ちながら走るのは少々危ないので、ここからは歩きで進む。
2~3週間後にはワインが出来上がるが、こんな適当な作り方で果たして上手くいくのだろうか?
今更後戻りは出来ない。ま、今は旅を続けるだけだ。
もう日が沈んできた。寝る時間になった。
今日は近くにいい感じの場所がないので、地面で雑魚寝をする。
余り寝心地はよくないが、わざわざ歩きたくもないので仕方ない。
寝ようとした、その時。辺り一面が急に真っ暗になった。
確かに元々暗闇なのだが、見えないという事はなかった。しかし、今は目だけで見ることは出来ない。
こんな時のための赤外線センサーである。暗くて見えないような時は非常に便利である。
どうやら背後に人型の妖怪がいるようだった。あくまでも温度しか分からないが、妖怪特有のオーラ?を発しているのでわかる。
相手はゆっくりとこちらに近づいてくる。何が狙いなのであろうか。
──人と勘違いしているのかもしれない。となると、食べられる?
食べられるわけにはいかないが、此方が妖怪であると説明すれば大丈夫だろう。喧嘩になるかもしれないが。
そんなことを考えていると、
「──ねぇ、あなたは食べてもいい人類?」
話しかけられた。食べてもいい人類とは……? 妖怪なら手あたり次第食うものだろうに。
「……私は妖怪だよ。人じゃないから食べられません」
「そーなのかー...じゃなくて、なんで妖怪が地べたで寝ているのよ。妖怪なら今から活動する時間でしょう?それに、貴女からは人間の匂いがするわ」
「変わり者の妖怪もいるさ。人間の匂いは私の持ってる食料からだよ。……一つ食べるかい?」
「いいの? じゃあ、有難く頂戴するわ。……へぇ、凍らして運んでるのね。貴女は雪女か何かかしら?」
「蛇だよ。凍らすだけじゃなくて、温めることもできる。それに、雪女は今起きてたら溶けちゃうよ?」
「そうねぇ、溶けるわねぇ。モグモグ しかし、蛇かぁ、私、蛇はモグモグ苦手なのよね。まぁ貴女は人の姿になれるみたいだけど。……ん、意外と美味しいわね、これ」
「食べながら話さないの。……そうだ! 名前を聞いてもいいかな?」
「ルーミアよ。で、名前を聞く時は先に名乗りなさい」
「それが、まだ無いんだよね……よければ付けてくれないかな?」
「仕方ないわね……蛇なら、〝
「くちなわねぇ……蛇の異称だったっけ。いいね、それ。自分で名前が思いつくまで名乗らせてもらうよ」
「そうしなさい。……しかし、初対面なのによく喋るわね、貴女」
「生まれてからほとんど誰か喋ったことがなくて……嬉しくてね。全く誰とも喋らずに生活するのは寂しかった」
「そう...じゃあ、これからは私と一緒に行動しない?そのほうが色々と楽しいんじゃないかしら」
「そうだね...うん、お願いするよ。よろしくね、ルーミア。……ところで、まだお互いの顔を見ていないのだけれど。この闇はルーミアの仕業でしょ?」
「そうよ。まぁ今は夜だし、解いても問題ないわね」
そう言うと、辺りの闇が晴れ、ルーミアの姿が見えた。こちらより少し身長が高くて、髪の毛はロング。赤い目をした、お姉さんのような雰囲気の女性だった。
「改めまして、よろしくね。口那和」
「こちらこそ、ルーミア」
──旅の仲間が一人増え、にぎやかになった私の旅。まだまだ旅は続く予感。
さぁ、未知なる世界へ。明日から新しい旅が始まるのだと考えると、胸が躍りだす。
「で、私はまだ寝たくないのだけれど。……って、もう寝てるし。」
タイトルについて
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変えようぜ!
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このままでいいでしょ