とかく村には事なかれ、とも言う。
ルーミアと出会ったあの日の夜、直ぐに私は寝てしまった。ルーミアはずっと起きていたらしい。
起きたら軽く叱られてしまった。まぁ、二人の習慣の違い、という事で和解した。
さぁ、二人に増えた旅が始まる。旅、三日目。
現在。何もない平原を歩き続けている。隣には黒い塊がふよふよしている。
──ルーミアには「闇を操る程度の能力」があるらしい。程度ってなんだろう? そんなに弱そうな能力じゃない気がする。
ルーミアはとても眠そうにしていて、さっきから話しかけても相槌を打つだけである。
……ちょっと休憩させてあげたほうが良かったのかな? 夜行性の妖怪だと言ってたし昼間の活動には慣れていないだけだろうが。
しかし本当に何もない。木の一本すら見当たらない。視界の端から端まで背の低い草以外なにも映らない。
走ればすぐにでも何か見つけられそうだったが、ルーミアが追いつけなかったのでやめにする。
ルーミアは空を飛べるらしい。どうやって飛ぶの?とか聞いてもわかんないとしか言われない。
空を生身で飛ぶなんて人間からしたらまずありえない話。空を飛ぶ、という事は古代から数多くの人間が夢見て、夢を捨てきれなかった者達が悩み、考え、機械の力に頼るという形で近代になってようやく実現した。
だがそれは生身で飛んでいるわけじゃない。人類は自由に空を飛ぶことはできなかったのだ。
しかし、妖怪は身一つで空を飛ぶ事ができるという。正直、かなり羨ましかったが、感覚的なものらしいので今は断念する。
しばらく進んでいた内に、大きな人間の集落を見つけた。海や小規模の林に川と隣接しているからか、今まで見た中じゃ一番大きな集落だった。
海の方には帆の張られた筏のような物が幾つか浮かんでいたので、おそらくは離島や大陸と交流があるのだろう。自分の持っている土器は縄文型であったから、縄文時代だろう。海の向こうと交流がある様なので此処は九州辺りだろうか?
……集落には稲が生えていた。米があるという事は、大陸と貿易をしているとみて間違いないだろう。青銅器等の便利な道具もあるかもしれない。いや、あるだろう。
しかし此方には対価になるような物は無い。着物擬きを渡したくはない。
……ルーミアはどうやら人肉を好む妖怪であるらしいので、食料調達と交易品の入手を兼ねて襲ってみるか?私の身体能力だけでも十分なのにルーミアまでいるので、十二分な戦力だろう。
夜になればルーミアもきっと活発になるし、好物が増えるから賛成してくれるだろう。とりあえず夜になるまで観察して、ある程度の地理も把握しておこう。
太陽の出番が終わり、月の仕事が始まる。月の光は妖怪を起こし、人を眠りに誘う。ルーミアもすっかり元気なようで。先ほどの考えを話すとあっさりと賛成してくれた。
米等が保管されている倉庫には見張りは居なかった。まだ平和な時代であることがよく解る。
ルーミア曰く子供の肉が一番美味であるらしいが、さすがに私は元人間として、今は妖怪として生きているが、子供を襲う事には抵抗感があったので、ルーミアと私で分かれて行動することにした。遠慮した時には少々怪しまれたが、好みの違いという事にしておいた。
倉庫の前に立つ。鼠返しを配置する為に入口が高くなっているが、階段が入り口に設置されている為問題なく入る事が出来る。
入口に扉は無く、すんなりと入る事が出来た。中には米が入った土器がかなりの数保管されていた。元日本人の私の食欲をそそる白いそれは、まるで小さな宝石のようにも思えた。一つ持って帰る事にする。次は米以外のものを探そう。
……ひゅっ、という小さな音とともに血の匂いが辺りに漂う。どうやら近くで彼女が獲物を捕ったようだ。少しの嫌悪感と、同時に空腹を覚えながら、倉庫の奥へと進んで行った。
奥には青銅でできた小さな壺や液体を注ぐ用途と思われる容器、銅鐸や青銅の剣等の青銅器が保管されていた。
剣は祭りに用いる物であるからなのか、刃は研がれておらず、指でなぞっても傷は付かなかった。
武器にならないのなら要らない。使えそうな壺を一つ貰おう。正直、中ぐらいの大きさの壺を二つ、液体の入った小さな土器一つを持つのはなかなか大変であるが、そんなときの為に昼間に木の皮で作った背中に背負う大きな籠を作っておいた。
分厚い皮を幾重にも織り重ねた籠は中々頑丈なようで、壺二つをいれても底が抜ける事は無かった。
探索を続けるていると、木でできた箱を見つけた。どうやら中に何か入っているらしい。開けてみるか。ドキドキ、ワクワク。期待の感情を胸いっぱいに孕み、箱を開ける。
……そこに入っていたのは、紛うことなき鉄剣だった。いや、鉄にしては輝きが強い。
何で出来ているのかは分からないが、この時代に製鉄の技術はあったのだろうか?
鉄器が伝わるのは弥生時代から古墳時代あたり。確かに大陸の方は既に製鉄技術が確立していてもおかしくはないが、そんな新しい技術をすぐに持ち出すだろうか?実に不思議だ。
切れ味も良いみたい。指を軽く刃にあて、少し動かすだけで指の皮が切れ、少し遅れて赤い血がじわじわと流れ始めた。
よし。貰おう。盗むといえば悪く聞こえるが、永遠ともいえる寿命が尽きるまで使うのだし、私が持った方が刀も役に立つだろう。
丁度良く箱の中には鞘と、帯に巻くために使えそうな紐が入っているのでありがたく頂戴する。
──これで倉庫は一通り探し終わっただろう、そろそろルーミアの所に行くか。
相変わらず血の匂いがキツイが、どうにかできるわけでもない。匂いから逃げるにはここを出るしかない。
倉庫を出ると、丁度隣の家からルーミアが出てきた。口周りが大分赤い。鱈腹食べてきたのだろう。
「保存用の肉もちゃんととっておいた?」
「もちろん」
「よかった。じゃ、そろそろここから離れよう」
「そう...個人的にはもっと食べたかったけど。ま、十分食べたしね」
ひぃ。まだ食べ足りないらしい。手に持ってる肉の量からして軽く五人は食べているだろうに。ま、少食な人もいれば、鱈腹食べれるような人もいるし。そこまで気にすることでもないか。
取り敢えず、今まで来た道をある程度引き返して、そうしたら行った事のない方角へ進む事にする。
この量の食料があればひと月は持つだろう。米は水さえ確保すれば楽に炊けるから非常にありがたい。正直米は至高の食べ物だと私は思う。
離れる前に、肉を冷凍する。しかし、この温度を操作できる力は随分と便利だ。
ルーミアは「闇を操る程度の能力」って自称してたし、それじゃあ私の能力は「温度を操る程度の能力」?
でも温度....赤外線を視る事も出来るし、「操る」じゃないのかも?
じゃあ何だろう。あんまり長ったらしいのは何となく嫌だし。短く簡潔に纏めるとしたらどう表せばいいのだろう?
「う~ん……」
「……どうしたの? 肉をまじまじと見ながら唸って。食べたいのかしら?」
妙に鋭い眼つきで睨まれつつ声を掛けられ、少しビクッとしつつ我に返る。
「あぁ、違う違う。いやさ、ルーミアが闇を操る程度の能力なら、私のは何だろうなぁって思って」
「温度を操る程度の能力、とかじゃ駄目なのかしら? ……駄目なんでしょうね」
「うん。操る、だけじゃなくて温度を視る事も出来るからね。一概に操るとは言わないのかなぁと。何かいい案はない?」
「……うぅむ。申し訳ないけど、一言で言い表すのは考えつかないわね。ま、温度を操れるなら、視る事が出来ても不思議じゃないと思うけどね」
「そうか……うん、そうだね。確かにおかしくはないかな。まぁ、誰かに名乗ることはほぼ無いだろうし。別に今決めなくてもいいか」
……取り敢えず、この話はこれで決着がついた。いつか考えればいい。そう思うと、少しスッキリした気分になった。
「あ、そうそう」
「何?」
「今日からは私の生活に合わせてもらうわよ。貴女も妖怪なんだし、夜だろうと平気でしょう? 私も少しぐらい寝たいしね」
「あーー、うん。分かった。そうしよう。……と、いう事は。日が昇ったら眠るのか。私にはちょっと違和感があるなぁ」
「ま、そのうち慣れるでしょう。そろそろ朝も近くなってきたし、良い感じのところを探さなくちゃあね」
「私は木の上でも地面でもどこでもいいから。ルーミアに任せるね」
「あらそう……それじゃ、陽の入らない深い森を探しましょう。勿論、貴女のほうが移動は速いのだし、貴女に抱えてもらって、貴女に探してもらうけどね」
「うぅ……確かに速いと思うけど……背中にこんなに物を背負っているのにぃ……まぁ、致し方ない。早く探さなきゃね」
「じゃ、よろしくね~」
そう言うと、彼女は背中を私の胸に近づけて、さっさとしなさい、と言った。……私はバスじゃない。いや、状況からしてトラックのほうが近いかな?
ひょいっ、とルーミアを抱えて、私は走り出した。
──全速力で走って、何とか深めの森を見つけたのは、正に陽が出る寸前。その間にルーミアは眠ってしまっていた。
……結構、寝顔が可愛いなぁ。
村に事あるじゃねぇか!
ネタバレにならない範囲でならどんな質問にも答えますよ!(最低限物語についてのこと)気軽に送ってくださいね!待ってます。
追記:最初の方の記述一部を削除。内容が終盤と被っていました。
追記2:ここまでの話の中で台詞の最後にある句点を全て削除しました。
抜けがあったら教えてくださると助かります。
タイトルについて
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変えようぜ!
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このままでいいでしょ