蛇妖怪古代を生きる   作:冬䖵きりな

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難産の末に出来上がった中盤はいとわろしな展開。
サブタイ付けなおし。合う諺が無かったので四字熟語を。意味は載せないどきます。あんまり合ってないからね。話の内容ではなくこの話を書いていた時の私に対する言葉です。
あ、軽い下ネタ(超軽微)が含まれますが、ほとんど気にならないと思います。


打草驚蛇

 ──意識が呼び起こされる。眠気はもうない。目を開けると満天の星空と満月。どうやら丸一日眠っていたようだ。いつもなら伸びをするが、生憎と今の姿は蛇。伸びをする腕は無い。欠伸も出ない。

 蛇から人型にジョブチェンジする。変身を解除する時に服だけ一緒に消える為、着替えの必要はない。

 枝に掛けてあった筒を肩に掛けて、木から降りる。裸足で降りた為にぺちっと音が鳴った。

 行先は京都。京都に都があったとしたら八世紀後半辺りだろう。出雲大社が本来の姿を保っているし、少なくとも鎌倉時代には至っていないと思う。明確な区切りがある訳では無いが。京都に都が無く、奈良に在ったならそれは平城京だろう。奈良時代という事である。もしかしたら飛鳥京かも知れないが。

 まぁ、行けば分かる事なので、考えていても意味はない。

 早速、私は空へと駆け出す。地上に何があるか分からない以上、走るよりも空を飛ぶ方が安全だろう。

 

 

 飛び続ける事凡そ一時間弱。目線の先には都。形は長方形で、街は碁盤の目の様に綺麗に区切られており、一際目立つ大きな屋敷を基準として左右対称に作られている。大きさ、特徴のどちらをとっても、間違いなく平安京。日本で最も長く政治の中心に在った千年の都があった。日本史が好きな私としては中々の感動ものだ。

 一際目立つ屋敷とは、政治の中心である大内裏だろう。この高さではさすがに朱雀大路を目視する事は難しいが、確りと見れば中心に他の通りよりも太い道が真直ぐと引かれている。

 夜が明ける前に先ずは探検といこう。人が少ない夜は私の様な不審者が彷徨いていても発見されない為好都合。昼の様子を見に行くのは暫く後になるが。

 地面にすたっ、と綺麗に着地を決めてから、見張りが居る門を避けて寂れた右京から入る。

 右京、というと某刑事ドラマを思い起こすかも知れない。右京とは、朱雀門から見て西側に位置する部分。「右」というと「東」と思ってしまうかもしれないが。

 ……今適当に考えた理由は、大内裏から見て右にあるから右京なんじゃないか、という根拠も何もない理由。

 

 右京のイメージとしては有名な文学である「羅生門」の舞台が近いだろうか。京の華やかさとは裏腹に、スラムの様な薄汚く、暗い場所も侵入者にとっては警備が行き届いていない有難い区域。

 そんな場所を早々に立ち去り、朱雀大路へと向かう。

 

 ──何故平安京に侵入し、地理を把握するのか。一つは千年の都の最盛期を見たいと思った事。もう一つは日本最古の物語、謎の多き「竹取物語」。

 平安時代の一つの物語の真偽に興味が有る。それが大きな理由だった。

 現代人は鼻で笑うだろう。陰謀論を信じる方がマシだと。しかし、空想と思われた妖怪に私、元現代人が成ったのだ。どちらも同じ空想なので信じる価値は十二分にある。だが、問題が一つある。物語自体の初出は平安時代頃、舞台は奈良時代と考えられている。

 

 ……これは私の稚拙な考えだが、竹取物語には藤原氏等、体制等に対する批判が随所にある。その批判が現体制に向けたものであると相手にバレてしまえば良くて追放だろう。刑罰等を恐れて前時代への批判とする事で疑いの目を逸らそうとしたのではない

か。馬鹿馬鹿しいが、確率は零では無い。間違っていたり、既に終了した事なら仕方ない事。観光が出来ただけでも万々歳。

 

 ──その考えの正否が判明するのは思っていたよりも直ぐだった。

 朱雀大路に着いてから、暫くの間家主の寝ている家を物色……見学して回っていたが、一つだけ異様な雰囲気を醸し出している屋敷を発見した。外装や立地、大きさの問題ではない。

 

 

 ───何人もの男が屋敷に群がっているのだ。荒い息を立て、顔を紅潮させて。

余り言いたくはないが、股間に膨らみを持つ者も居た。後ろに居る男達は前の者を引き剥がそうとする。前の者は必死に柱や床板にしがみ付く。男達は冷静とはかけ離れた雄の目をしている。

 

 ……うわぁ、気持ち悪ぅ。こいつらのお陰でこの家が何なのか判ったのは良いけど…男ってこんなに気持ち悪いものだったっけ?

 

 ……夜に群がる屋敷なんて一つしかない。そう、「かぐや姫」の住む屋敷。絶世の美女を一目見ようとする者や、姫に惚れて毎晩訪れる者。この光景は物語中で夜這いの語源になったと書かれる程。実際には違うらしいが。

 警察の居る世なら即座に通報する案件だが、生憎警察なんて居ないし、居たとして貴族を捕まえるだろうか?……以前に警官も姫に惚れてしまうだろう。

 

 かぐや姫が実在する事が判った以上、此処にこれ以上居る必要は無くなった。屋敷の場所をしっかりと記憶する為に空へと飛び立つ。碁盤の目で整理されている為記憶する事が容易だ。

 

 現在、京の外れに在る森で食べ物探し中。別に食べなくても死なないが微妙に人間臭い私は何か食べないと気が済まない。米や肉が食べたいとは思うが、別に何でもいい。普通の蛇は小動物を食べる。私は大型の動物や昆虫も食べていた。誰よりも雑食である自身がある。流石に木の葉は食べないが。

 適当に鳥を撃ち落として焼いて食べる。特に下処理もせず、羽毛の付いたまま食べる。私に上品という言葉は似合わない様だ。慣れれば内臓も羽も基本どんなものも食べれる。ソースは私。

 

 さて、このまま寝たい気分であるが、その訳にもいかない。何故かって?このまま寝れば確実に明日の夜まで起きないから。かぐや姫を見てみたいし。急ぐ必要はないが。今は四月から五月頃。かぐや姫が返るまで最低でも四カ月はある。では何故急ぐのか。

 

 ……美女と仲良くなってみたいじゃん。全く下らない理由だな、と自嘲気味になる私。

私の微妙に楽天的な思考もここ迄来ると笑えてくる。抑々会えるのか。五人の男の求婚が許されているのは単に身分の高い者からだろうに。

 

 そんな訳で、ダメ元でも会えないものかと画策する私。ふと一つの案が思い浮かぶ。

かぐや姫の出した五つの難題。その中に「火鼠の皮衣」がある。燃えない布という代物である。それを自作すれば或いは?と考えたのだ。私の能力で温度を固定してしまえば普通の布でも燃えず凍らずの布が出来上がるだろう。出来るかどうかはさておき。

 此の案を考え付いた直後、もう一つ案が浮かんだ。それは私自身が求婚しにいく、という事。……決して私はレズビアンでは無い。歴とした異性愛者である。といっても私の前世に青春のせの字すらも無かったが。恋する事も恋される事も無かった。恋されていないのかなんて分からないが。

 女が求婚出来る訳無い……とも言い切れない。私は変身出来る。昔は女にしか変身出来なかったが、今はどうか分からない。男になれるかもしれない。……と思って男に変身しようとしたものの、無理だった。やっぱり性別は変えられない。そら、ゲームですら性別の変更は殆ど不可能だし。現実で完璧に変えられる事は無い…と思う。

 

 色々と考え事をしつつ、片手間に布を織る。ずっと昔に此の着物を織る為に練習していた程度だけど、スピードなら機織り機よりも少し遅い程度で織れる。……え?布を織る為の糸は何処から出ているかって?そこら辺の草を溶かして一本の糸になる様に冷やせば出来る。質は低いが布切れ一つならこの程度で十分。……勿論、着物に使う糸は別の作り方。

 

 十分程度で布自体は完成した。後は温度を固定する事が出来るか。此方は簡単だった。

火をつけた枝に曝しても燃える事は無かった。取り出して直ぐに触っても全く熱く無い。

 ……作った所で、会えなければ意味が無いではないか。会う方法も考えついていないのにどうやってこの布を見せるのか。無理矢理入る訳にも行かないし。私がそれを持って行っても怪しまれるのではないか。

 ……作ったはいいが、渡す機会が無いのでは?……それじゃこの布を作った意味はないな。

 

 全く意味の無い案だけがポツポツと浮かぶ中、結局私は妙案を思いつく事が出来ずにいた。かぐや姫を見たいだけなら屋敷をこっそり覗いてしまえばいいが、それでは仲良くなる事は出来ないと思う。

 まぁ、仲良くなれなくとも、姿は一目見ておきたい。バレない様、慎重に侵入すれば大丈夫だろう。その為には、陰陽師やらに悟られない様に妖力を隠して気配を殺す必要がある。暫くの間その練習をしておこう。大体あと三カ月はあるからそれまでには終わるだろう。

 

 

 

 

 

 一カ月程練習した頃には、そこら辺の陰陽師のすぐ後ろから刀を突き付けても全くバレる事は無い程度になった。しかし、まだ未熟な為実力者には一瞬で見つかる。その為まだ練習は続いているが、同じ事をやり続けるのは直ぐに飽きてしまうから、練習に飽きてきたときは暇つぶしをする。

 今やっている暇つぶしは、能力を用いた実験。自分や他の生物、物質等に影響する能力の範囲など。辺りには焦げた木や血液だけを氷結させられた兎、自分に対する実験の結果である、どこぞの海賊漫画の敵大将の様に高温で溶けつつも固体として形を保つ左腕。3米程前方に生み出された自分の分身……とはいっても、蜃気楼による実体を持たないものだが。

 重水素なんかがあれば熱核反応も起こせたかも知れないが、流石にそんな技術は無い。私は温度を操れるだけ。物質を生み出す事は出来ない。服も最初は自分で織ったものだし。

 

 色々と実験している内に日は明けていた。流石に明けてすぐに行く事はしないが、日が明けてから少ししたら人は起きるだろう。その少しの間に飯でも食べるか。

 

 そこらの枝を集めて焚火を起こし、先ほど凍らしていた兎を拾って焼く。毛を抜かずに丸焼きにする。凍っていた兎の肉が一気に解け、毛が焦げてパラパラと落ちていく。焼き切れた皮の間から脂が滴り落ち、火が一層燃え上がる。五分も焼けば私が食べるには問題ない程度に焼き上がる。妖怪は肉体的な病気には罹らないというが、少し焼かれた肉の方が個人的には美味しいと思う。

 

 焼き兎を平らげた時には、既に陽が高く昇っていた。京まで飛んでいくと、様々な人が京から出たり入ったりしている。朱雀大路には教科書でしか見たことのない牛車(ぎっしゃ)が通っている。

 相変わらず、かぐや姫の屋敷には覗きが居る。流石に仕事があるのか、通りかかりにちらっと見ているだけの様だが。

 

 屋敷とその周辺を観察している間、特に目新しい事は起きずに夜になった。案の定、屋敷には五人の男達が集まってきた。笛を吹く者や、和歌を詠む者など、少し前の様な覗きではないので見た目の気持ち悪さはないが、歌の内容とか男の顔とかが凄く気持ち悪い。

 心の中で罵倒しながら五人を見つめていると、屋敷から翁が出てきて、男達を中に招き入れた。──恐らく、かぐや姫に難題を出されるのだろう。竹取物語の中盤あたりの出来事。絵本なんかだと帝との話が短いのでほぼピッタリ中盤。原作だと少し前半よりのシーンだ。これは必見。私はすぐさま覗きに向かう。覗きとはいっても、横からではなく上から。ただし、寝殿造のこの屋敷には屋根裏は存在しないので、屋根に少しだけ穴を開けて覗く。音は少々聞えづらいが、全く普通に聞える為特に気にはならない。

 運悪く、かぐや姫の顔を見る事が出来ない位置だったが、移動して再度穴を開けた時に気づかれてしまう可能性が有るので、少なくとも五人が出ていくまで移動はしないでおく。

 

 次々と貴公子に難題が出されていく。示された物は全てが幻の一品。男達もこれには動揺したのか一瞬戸惑っていたが、必ずや持ってきて見せる、と意気込んでいた。難題を出す姫の声はどこか退屈そうで、「どうせ持ってこれない」という思考が伝わってくる。結婚する気なんて全く無さそうだ。本当に持ってこれたとしても別の難題を出して追い払いそう。

 

 難題が出された者は今すぐにでも持ってこようと、話が終わった瞬間に、一目散に屋敷から飛び出していく。私は部屋に誰も居なくなった事を確認すると、今覗いていた穴を更に広げ、頭を突っ込んで姫の顔を拝もうとする。頭の通るギリギリのサイズなので落ちる心配は無い。

 ──姫の顔を見た。それはそれは言葉で表せない程美しかった。だが、問題が一つある。

 

「──覗いていないで、こっちに来なさい、(.)(.)さん」

 

 そう、覗きがバレたのだ。妖怪である事まで。

タイトルについて

  • 変えようぜ!
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