ダメ講師グレン、覚醒。
この報せは学院を震撼させた。今までのグレンはどこに行ったのか。授業に遅れずに来て、しっかり授業をする。さらに、その授業の仕方が今までのやり方とは一線を画すものであり、なによりその質の高さに誰もが驚かされた。
「……時間だな、今日はここまで。あー疲れた」
そう言いながら、使った教材を持ち教室から出ていくグレン。それには目もくれず、板書を取ったり、授業の復習に取り掛かったりする生徒達。グレンの授業のことを誰もが認めているのである。
「まさか、ここまでなんて……」
あのシスティーナですら賞賛している。そんなグレンの授業は別のクラスからも受けたいと願う生徒が出る程であり、実際立ち見の生徒だっている。
ただ、グレンの魔術嫌いな態度は変わらないので、グレン自身はあまり好かれてはいない。本人は一切気にしていないが。
それでも、グレンを慕う生徒はいる。
「先生、それ運ぶの手伝いましょうか?」
ルミアがまさにそうだ。なんだかんだで、ルミアは最初からグレンのことをあまり嫌っていなかったような気がする。ルミアの人を見る目は確かなようだ。
「おっ、悪いな。だが結構重いぞ?」
「大丈夫ですよ」
「そうか……なら少しだけ頼む」
そう言い持っていた教材を数冊ルミアに渡す。そして、僕の方へ向きこんなことを言う。
「おい、トーマ。お前も持て」
何故か僕にお呼びの声がかかる。
「えー……またですか?」
「うるせぇ。暇そうにしてるお前が悪い」
最近、こんな感じで何度も手伝わされている。どうやら、目をつけられたらしい。後、別に暇してる訳ではない。ただ、授業で少し疲れたので、ぐでーっとしてるだけだ。
「というか、なんで僕なんですか?」
「なんとなくだ」
そういった後、グレンは悪い顔をしながら言う。
「おいおい、可愛い女の子のルミアが手伝ってんのに、いつまでもグチグチ言ってていいのか?」
「ぐっ……そう言われると何も言えない……」
僕は観念してグレンから数冊受け取る。そうして、教室から出て行こうとすると、後ろから声をかけられる。
「ま、待ちなさい、私も手伝うわ!」
システィーナだった。おそらく、ルミアが手伝っているのに、自分が手伝わないのは何となく嫌なのだろう。
「ほう?じゃあ頼んだぞ」
そう言って、持っていた残りの本──最初の半分くらいをシスティーナに全部押し付ける。
「きゃあ!ちょっと、いきなり重いじゃない!」
システィーナがそう捲し立てるが、グレンには何処吹く風。
「いやー、楽チンだなぁ〜?」
「なんでこんなにルミアと扱いが違うのよ!?」
「ルミアは可愛い。お前は生意気。以上」
「くぅ〜〜!!!」
グレンとシスティーナのいつものコントを繰り広げる。もはや日常茶飯事になっているので、特に何も言わないでおく。ルミアだって苦笑いしながらも何も言わないし。
とはいえ、システィーナだって歴とした女の子であるはずだ。流石に重いだろう。
というわけで、システィーナが持っている本を半分ほど貰うことにする。
「えっと、半分持とうか?」
「え、いいの?」
「まあ、うん。重い……よね?」
「なんで疑問系なのよ!?……はあ、そう言うならお願いするわ……」
そう言い、本を受け取る。これは結構重い。
「きゃあ〜、流石男の子!トーマ君かっこいい!」
「だったら、先生が男見せて全部もってくださいよ!というか、少しくらい持ってくれません?」
「やーだよ!俺は楽がしたいんだっ!そのためなら、生徒だって顎で使ってやる!」
なんてこと言いやがるんだ。とても講師とは思えない発言である。
まあ、こういう軽口を叩ける気安さ?もグレンのいい所なのだろう、多分。
そんな感じで日々は過ぎていったのである。
ある日の夜、僕は明日の授業の準備をしていた。本来、明日は休校日なのだが、僕達Ⅱ組は担当講師交代のゴタゴタのせいで、登校日になっているのだ。
前任のヒューイが学院を辞め、グレンが来るまで時間がかかった上、そのグレンも最初は真面目に授業をしなかったため、日程が押しているのだ。
この事実を知った時が、今までで一番グレンに対して怒りを感じた。
「これでよし、と」
準備を終え、いざ寝床に入ろうとした時だった。
『我は汝……』
「んぐぅ……!」
突如、頭の中に声が響き、それに伴い頭痛もし始める。
『汝は我……』
「なんだ……これ……っ!」
僕は頭を抑え、蹲る。
『汝、力を秘めし者』
「な、にを……っ!」
誰のものか分からない声は続く。
『契約の時、覚悟を示せ』
それっきり声は聞こえず、頭痛も治まった。
「はあ……はあ……さっきのは、一体?」
謎の声はこう言っていた、我は汝、汝は我……と。つまり、あの声は僕自身ということになるのか?
ダメだ。意味がわからない。僕は僕で、それ以上でもそれ以下でもない。
「……明日も早いし、もう寝よう……」
そうして、僕はベッドに入る。するとすぐに睡魔がやってきた。僕は意識を睡魔に任せ、そのまま眠りについたのだった。
目を開けると、そこは見覚えのある青い部屋だった。確か……ベルベットルームと言ったか?
僕が部屋で立ち尽くしていると、突然声をかけられる。
「ようこそ、我がベルベットルームへ」
いつの間にか目の前に見知らぬ人達がいた。……いや、前にも会ったぞ。そうだ、イゴールとフランだ。なんで忘れてたんだろ?こんなにもインパクトがあるというのに。
「ふふ、とうとう貴方の旅が幕を開けるようだ」
僕の旅?えっと……何が起きるんだろう?
「それは分かりませんが、貴方の運命を大きく変える出来事が起きるでしょう」
イゴールは笑みを浮かべながら続ける。
「それは長く険しい道。私達はそんな貴方の旅路の手助けをする者」
よく分からないけど、手伝ってくれるらしい。
「さて、そろそろお目覚めのようだ」
ここに来てまだ数分だが、もうそんな時間らしい。どうやら時間の流れも違うようだ。
「貴方の旅路、楽しみにしております。それでは、ごきげんよう」
そして、視界が白く染まっていった。
「ん、朝か……」
目が覚めると、自分の部屋の天井が見えた。
ベッドから身を起こし、支度を始める。そして、昨夜の出来事に思いを馳せていた。
「結局、なんだったんだろう?」
謎の声のこともあるが、それとは別に引っかかるものがある。寝ている間に何かあったのだろうか。何故か、体が緊張している……気がする。
「……よくわかんないけど、今日何かあるのかな」
どうしても、それが気のせいとは思えなかった。なので、今日は一段と気合を入れていこうと思う。
しっかりと朝食を取り、食後に冷えたミルクを一気飲み。身だしなみを完璧に整える。少し時間を掛けすぎたが、なんとか始業には間に合うだろう。
さあ、いざゆかん。アルザーノ帝国魔術学院へ。
「バカか僕は……」
朝っぱらから冷えたミルクを一気飲みしたせいで、腹を下してしまった。登校中に腹痛が来たので、一階のトイレに慌てて駆け込んだ。割と始業ギリギリにトイレに行ってしまったため、今は完全に授業中だ。
用を済ませ、体調は万全になった。急いで教室に戻ろうとしたその時だった。
「……」
不意に足が止まった。何故か、昨夜の出来事が頭をよぎったのだ。
何故、今その事を考えたのか。それについては特に理由がある訳では無い。ただ、なんとなくだった。
僕はトイレから出て、周囲を見渡す。とても静かだった。それもそのはず、今学院にいるのはⅡ組の生徒とグレンだけだからだ。
だが、この静けさが不気味でならなかった。心がざわつき、肌にまとわりつくような何かを感じる。
僕は教室へ向かい始める。早く日常に帰りたくて、この不安が気のせいであって欲しくて。
しかし、現実は非常だった。階段に差し掛かり、登りながら上を向く。
その時。
「えっ?」
「……他にもまだいたのか」
一目で不審者だと分かる男と目が合った。
何故ここにいるのか?一体何者なのか?いくつも疑問が湧いてくるが、もっと気になることが起きていた。
「と、トーマ君!?」
ルミアがいたのだ。あまりの事態に思考が停止しかけるが、なんとか踏みとどまる。
分からないことばかりだが、これだけは分かる。今、この学院で何か大変なことが起きている。
そんな中、一番先に言葉を発したのは不審者の男だった。
「ふん、見たところただの学生か」
そう言いながら、左手をこちらに向ける。
「《雷帝の閃槍よ》」
「え──」
視界が光に染る。その時、足を踏み外し間一髪
階段を転げ落ちた先の床には小さく、しかしはっきりと貫かれた穴があった。
「ほう、運がいいな」
「あ、え?」
知っている。今の呪文は【ライトニング・ピアス】、軍用魔術だ。そして、相手はそれを僕に向けて撃ってきた。
つまり、あと少しで僕は死んでいた。そう理解した瞬間、どっと汗が吹き出す。
「お願いします!やめてください!私は抵抗も何もしませんから!」
「……」
不審者の男──レイクは考える。この学生をどうするか。正直、どうでもよかった。ここで殺さずにおいてもどうせすく後に同じ結末を辿ることになる。ましてや、ただの学生に何が出来るというのか。
そう結論づけたレイクはそのままルミアを連れ、階段を下り、トーマの横を通り過ぎて行こうとした。
「待って……下さい」
レイクはその声に足を止める。その声の主へ向くとそこには、身体を震わせながらも、こちらを見つめている少年がいた。
「ルミアを……どうするんですか?」
レイクは少し感心した。つい先程、死にかけたばかりだと言うのにこういう行動に出るとは思っていなかったからだ。
「貴様が知った所でどうなる?」
だが、それが教える理由にはならない。遅かれ早かれ死ぬとはいえ、喋ることではない。
「どうにもならない、けど……このまま見捨てるなんて出来ない」
この時、トーマ自身が何故、この行動に出たのかよく分かっていなかった。ただ、許せなかった。このままルミアを見捨てることが。
「……ふん、青いな」
レイクはそう言うと小さく呪文を唱える。すると、トーマの目の前にゴーレムが現れた。
「っ!?」
「やれ」
レイクはここでトーマを殺すことを選択した。今、目の前の学生は自身の脅威となる存在ではない。ただ、直感したのだ。
そして、トーマを殺すなら、ゴーレム一体で十分と判断し行動に移した。
ゴーレムが拳を振り上げる。トーマはそれを見つめることしか出来なかったが、
「トーマ君!逃げて!」
と、ルミアが叫ぶ。その声に反応して、後ろに飛び退く。そして、さっきまで自身がいた場所は粉々になっていた。
しかし、ゴーレムは止まらない。すぐにこちらを向き攻撃しようとする。
「ヤバいっ!」
すぐにゴーレムから逃げだす。それをゴーレムは意外と素早い動きで追いかける。
「トーマ君……」
「ふん……」
レイクはそれを見届けると、ルミアを連れ歩き出して行った。
「や、ヤバ、もう逃げれない……」
それから逃げ回ったが、次第に追い詰められ、ついに行き止まりに追い込まれてしまった。
「どうすればいいんだよっ!」
ゴーレムはもうすぐそこに来ている。このままでは殺されてしまう。だが、どうしようもない。色んな魔術をぶつけてみたりしたが、特にダメージは入らなかった。かろうじで風属性が効いてたような気がするが、雀の涙程度だ。
「ここで……終わり?」
これから自分が死ぬと考えると、体が震えてしまう。
本当にここで死んでしまうのだろうか?あのゴーレムに潰されて。
──嫌だ。
嫌だ。まだ死にたくない。こんな所で死んでたまるか。
でも、どうしようもない。僕にはなんの力もない。
『それでいいのか?』
っ!?
『目の前の理不尽な現実に、抗いもせず、ただ受け入れるがままでいいのか?』
それは……
『過去に感じた後悔は……屈辱はその程度のものだったのか?』
……違う。そんなものじゃない。何も出来ない自分が情けなくて、悔しくて、どうしようもなく許せなかった!
『力が欲しいか?どこまでも残酷で、理不尽な世界に抗う力が』
欲しいさ!目の前の現実をぶっ壊せる力が!
『いいだろう。ならば、契約だ!』
その瞬間、トーマを中心に風が吹き荒れ始める。その風はゴーレムの足を止めるほどであった。そして、トーマの足元から光が溢れ出す。
『我は汝、汝は我……』
光が集まる。
『己が覚悟を胸に秘め、世界の闇に抗いし者よ!』
光が一枚のカードを形作る。
『強き意志を、その名と共に解き放て!』
そのカードに右手を伸ばす。そして──握りつぶす。
「──ペルソナァッ!!」
青い炎が吹き出し、そして、その炎が人型を作っていく。
『我は汝、汝は我……』
緑のラインが入った白い鎧と兜を身につけ、右手に剣、左手に盾を持つ。
『我は汝の心の海より出でし者』
そして、兜の奥から覗くのは黄色に輝く目。
『破邪の顕正者【ペルセウス】なり』
そして、剣を一閃。その刃はゴーレムの左腕を切り落としていた。
それにたまらず、ゴーレムも反撃、その拳がペルセウスの腹を捉える。
「ぐうっ!?」
自身の腹に凄まじい衝撃が走る。思わず膝を着きそうになるが、なんとか堪えて、ペルセウスに指示を出す。
「<ガル>!」
不思議な事にペルセウスが使える技の事は知っていた。
ゴーレムの回りに風が吹き荒れ、表面を削っていく。そして、ゴーレムを機能停止一歩手前まで追い詰める。
「トドメだ──<スラッシュ>!」
ペルセウスの剣がゴーレムを真っ二つにし、とうとうゴーレムが動かなくなった。
ゴーレムが朽ちていくのを見届けると、ペルセウスは消えていく──否、心の中に帰っていく。
つい先程までの出来事が嘘のような感覚に陥るが、心の中にペルセウスがいることを確認し、嘘ではないと確信する。
そして、自分が目覚めた力に興奮を隠せず、笑みを浮かべ呟いてしまう。
「これが、力。僕のペルソナ……!」
これが僕の物語の始まりであった。
主人公ステータス
〔知識〕Rank.1_平均的
〔勇気〕Rank.1_なくもない
〔魅力〕Rank.1_人並み
〔優しさ〕Rank.1_それなり
〔伝達力〕Rank.1_そこそこ
コミュ無し