ところで皆さんにお聞きしたいことがあるのですが、グラ・バルガス帝国を強化しようか迷っています。また新しくアンケートを設けましたので、そちらにも投票よろしくお願いします。
エジェイ防衛戦 同日夜──
クワ・トイネ公国政治部会
軍務卿からの要請で、首相カナタは緊急の政治部会を開くことに決めた。議題はもちろん対ロウリアの防衛戦争である。
今回は戦況報告が行われる予定で、特に城塞都市エジェイ付近で行われたという戦いに関しては、参加者間でも関心が高かった。
もし同都市が陥落した場合、クワ・トイネ公国は絶望的な戦いを強いられることになるからだ。
「ナウシ殿、戦況は何か聞いておられますか? 間もなく発表されるとは言え、国の存続に関わることなので、状況が気になって仕方がないのです」
東方貴族のミルカンは、横に座る中央貴族のナウシに話しかける。
しかし、ナウシは困ったような顔で答えた。
「…ミルカン殿、私の口からお伝えするより、間もなく発表される軍部の正式発表を待った方がよろしいでしょう。私はその方が確実だと思います」
「と、言いますと?」
「私のもとに入ってくる情報はどれも現実離れしていまして…まあロデニウス沖の海戦もそんな感じでしたが」
「ああ…また日本が関わっているのですね」
貴族の間でも日本の異常な強さは広まっており、ミルカンもまた、ナウシの顔から「また日本が何かをやってくれたのだろう」と察する。
しばらくすると陸軍幹部が壇上に上がり、こちらも彼らと同じように、困った顔をしながら戦況報告を始めた。
「まずはエジェイ防衛戦です。すでにご存知の通り、数日前にロウリア軍の先遣隊がエジェイ西側約5kmの地点に野営地を築きました。ここまではご存知の方も多いと思いますが…」
彼は一息入れ、続けた。
「実は昨日、西部方面師団のノウ将軍と、増援として派遣された陸上自衛隊師団長である大内田様が口論を始めたらしく…何やかんやあって自衛隊だけで敵を撃退することとなったようです」
「「!?!??!!?」」
そんなことは寝耳に水である。いや熱湯をぶっかけられたと表現してもいい。
外交問題になりかねない上に、彼の国の食糧事情からして考えにくいが、最悪、軍事的支援を止められる可能性すら有り得るのだ。
「そ、そんな?! そんなバカな事をしたやつがいるのか?!」
「我らの頼みの綱だぞ! それを邪険に扱う者など…!」
当然、参加者達は怒り狂う。
日本国による支援を失ったら最後、公国はロウリア王国に蹂躙される他ないのだ。
特に会議に参加するドワーフやエルフ、獣人等の亜人達の声は大きかった。
彼らのこのような反応を予想していたのか、陸軍幹部は特に目立った動揺を見せず、咳払いをしてから続ける。
「えー、続けます。そして今朝方、日本国はロウリア王国軍に降伏勧告を発令し、2時間後、それに従わなかったロウリア軍2万人を壊滅させました。同戦いでの捕虜は300名ほどおりますが、全員が難聴等の症状を訴えているようです。中には内臓に損傷が見られる者も」
「「…………」」
「あと肝心の日本軍の損害ですが……驚くべきことに全くありません。彼らは誰も死なず、負傷せずに2万の敵を壊滅させたのです。以上がエジェイ防衛戦の概要となります」
ミルカンはこういう事だったのかと納得した。
なるほど、確かに現実離れし過ぎている。
「…ちょっと質問があるのだが、日本軍はどのような攻撃を行ったのだ?」
「詳細は不明です。城の者に聞くと、いきなり轟音がしたとのことです」
「それは高威力の魔法攻撃か何かかね?」
「それも不明です。城にいる魔導師達はそのような魔力反応は感知していないと証言しています」
「「…………」」
絶句である。もはや何から聞けば良いのかすら分からない。
それは会場にいる誰もが「新手の神話か御伽噺を聞かされたのかな?」と疑問を持つほど、有り得ない戦闘結果だったのだ。
「話は変わりますが…皆さん、お手元の資料をご覧ください」
この調子では話が進まないため、カナタ首相が無理やり話を進ませ、日本から輸入した異常に安く、そのくせ非常に上質な紙に一同は舌を巻いた。
が、彼らが驚いたのは紙の質だけではなかった。
「ロウリア首都鎮圧計画…?!」
「日本はロウリアの首都を強襲し、武装勢力の長…つまりロウリア王を大量殺人罪で逮捕したいと提案してきています。これに反対のものは?」
ここにいる者達の中にも、少なからず日本を毛嫌いする者もいたが、これに反対する者は当然いない。
自分達の代わりに日本がやってくれるのなら、多少勝手でも良いという意見が大半だったためである。
そもそも相手は、クワ・トイネだけでは到底太刀打ちできないようなロウリア王国。それを代わりに倒してくれるなんて、まるで夢のような話であった。
「別にいいのではないか? 我々に損はないし…」
「まあ日本がどうしてもと言うなら…」
政治部会では全会一致で日本軍の国内及びロウリア領での全域における戦闘の許可が決議された。
翌日──
ロウリア王国東方討伐軍 ギム司令部
「東部諸侯団とはまだ連絡が取れないのかぁッ?!」
副将アデムが通信隊を怒鳴りつける。普段から彼は粗暴で嫌な奴だったが、今はそれに拍車がかけられていた。
「はい。魔信を送っていますが、返事がありません」
「飛竜偵察隊はッ?!」
「間もなく現場に着きます」
先遣隊とは言え、2万人もの精鋭で構成される彼らが戦況報告を送る間もなく全滅したとは考えられない。
例え列強の軍が相手であれど、それをする時間くらいはあるはずなのだ。
「…敵は何なのだ?!」
軍内部で流れている噂が真実だとすると、敵に日本という非常に強い国がいるようだが、あんな国が存在する訳がなかった。日本が存在すると言われている場所は、小さな群島しか無かったのだから。
今回の戦争は何かがおかしい。アデムは奇妙な感覚に囚われていた。
「なんだこれは…!?」
エジェイ周辺の偵察を任せられた竜騎士12人は、眼前に地獄が広がっているのを確認する。
すぐさまワイバーンを付近に着陸させ、自分の足でその場所へと向かう。
そこに近付くにつれ、嫌な臭いが辺りを漂った。
「これは…例の先遣隊だよな…?」
「はは…まさかな…」
彼らが見たのは、まるで陣形の真ん中で大爆発が起きたような戦場の跡地であった。
原型を留めている遺体の防具を見ると、それは間違いなくロウリア軍の物である。
腐敗状況から見るに、戦闘は昨日の朝方に行われたのだろう。
中にはまだ熱を持っている物もあった。
「…おい、なんだこの損傷の仕方は?」
確かによく見ると、爆発とは一口で言っても、それとは明らかに違う原因で死亡している者が大半だ。
複数の大魔導師による魔法攻撃の可能性もあるが、爆発を伴う攻撃ならもっと遺体が離散していても良いはずである。
「なんだ…?! これは…!!」
ほぼ全ての遺体が
「こんな攻撃魔法…俺は知らないぞ…?」
おかしいのはそれだけではなかった。
「なあ、敵の死体は? お前ら見たか?」
探しても探しても、敵のと思われる物体が見つからないのだ。
それは死体だけでなく、装備や物資もである。
「………まずは報告だ。帰るぞ」
報告するためと言うより、実際は怖いから早く帰りたいというのが本音であった。
しかし誰もそれを言わない。言ったら何か大変な事が起きるような気がしたのだ。
そして彼らは振り返り、立ち止まった。
「はい、止まってください。動かないで下さいね」
「「…誰だお前!?」」
誰もいなかったはずなのに、彼らの目の前には「誰か」がいた。
その不審な人物の周囲にはこれと言った遮蔽物はなく、この人物が突如としてこの場に現れたのは明確であった。
「えっと…誰だお前は?」
その人物は緑と茶色の斑模様の服を着ており、背中からは透明な羽が4本生えていた。
これには少なからず驚いたが、恐らくは日本国の「魔人」だろう。手には見慣れない素材で出来た槍斧を持っており、どうやら1人だけのようだ。
「私は日本国陸上自衛隊の者です。レーダーに貴方達が映ったそうなので、拘束しに参りました」
「え、はあ…?」
まず彼らが思ったのは、「訳が分からない」だ。
ワイバーンから降りているとは言え、こちらは竜騎士12人。装備は劣るが、全員が短刀で武装している。
もしこの場で戦えば、多少の死人は出るだろうが、疑問の余地なく、絶対に負けようがない。
仮に彼が飛べたとしても、こんな人間大の生き物がワイバーン相手に空戦で勝てるとは思えなかった。
この人数を相手に勝てると思うなら、真性の「バカ」か「化け物」だ。
「あのなあ坊主?ここは戦場で、俺達は敵同士だ。戦力を良く見極めろよ? 勝ち目がない敵に挑むのは、ただの蛮勇だぞ?」
「見極めた上で拘束しに来たのです。今の言葉をそっくりそのままお返しします」
どうやら目の前の敵は本当に頭がイカれているらしく、見逃してくれそうに無いと竜騎士達は判断した。どちらにしろ始末するつもりではあったが。
こちらは短刀しかないが、1人が囮となれば十分な対処ができる数の人員がいる。
「お前ら分かっているな? 俺が囮になる。その間に奴を囲め」
獰猛な竜騎を従える勇猛な竜騎士達。
そんな彼らを束ねる隊長は、人一倍肝が据わっていた。
「「了解…!」」
「いくぞ? 3、2、1…今だ!」
勢い良く隊長が飛び出す。
その隙に他の人達は回り込み──
バチュン!!
「は…ッ?」
敵が武器を振るった瞬間、血と思しき温い液体が顔にかかる。
隊長は胸から上が
「で、次の囮は誰ですか?」
足は自然と止まり、手から武器が落ちる。
空には敵の増援と思しき魔人が多数飛来しており、ブンブンと耳に心地よくない羽音を出していた。
なんて怪力だ。なんて武器だ。
こんなの勝てっこない…。
ワイバーンの所まで辿り着けたなら、いくらか戦いようはあったかもしれない。だが、彼らはあの一瞬で勝ち目がないと悟ったのだ。
「降参だ…。こんなに強いとは思わなかったよ。さあ煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
竜騎士11人はワイバーンを放棄し、降伏。
後に彼らはエジェイに捕虜として収容されているロウリア兵達と出会い、再び日本軍の異常な強さを思い知った。
「なんだって…?! ギム本陣が壊滅?!」
「ああ、そうだ。クワ・トイネの奴らに教えてもらってな…。パンドール将軍も行方不明らしい」
曰く、ギムに駐屯する師団が壊滅したと。
そこにいるワイバーン達は竜舎で休んでいたものも一瞬で全滅し、強大な爆裂魔法のようなものでほぼ全ての兵士が焼かれたとも。
それを知った竜騎士達は何を思っただろうか。
身柄を拘束された竜騎士ムーラは不幸中の幸いとも言える自分の境遇に感謝していた。
「もしかしたら、あいつが助けてくれたのかもな…」
いつの間にか、妻からもらったお守りが消えていることに気付く。
一時期は死を覚悟したが、家族にまた会えるかもしれないと思い、彼は今ある生にこれ以上なく喜んだ。