18話:魔王復活
辺境の地に魔王が復活した。その名はノスグーラ。
はるか古の時代に太陽神の使者によって撃退され、伝説の勇者達によって封印された魔物の長である。
その報に真っ先に反応を示したのはトーパ王国。
魔王が復活したと言う魔物の大陸と、人間の生存圏を隔てる『世界の壁』の管理を任された文明圏外国であった。
中央歴1639年12月5日──
トーパ王国 王都ベルンゲン ニーベル城
「何故…なぜ今になって突然、神話の魔王が復活したのだ…?」
王は頭を抱え、唸るように問う。
その顔は恐怖で引き攣っており、青ざめていた。
よもや自分の治世に……いや、自分が生きている時代に最悪の魔王が復活するとは思わなんだ。
「神話では…魔王ノスグーラは勇者4人のうち3人の命を使用して封呪結界に封じ込められたようですが、この結界は少しずつ弱まっていくと古くから言われていました。それが今になってようやく封印が解かれたのでしょう」
傍に控える宰相が答えた。
古代の文献を元に作られた報告書を見ながら説明する彼に、王は八つ当たりにも近い態度で応答する。
「そんなことは分かっている! 問題はどうやって魔王を討伐するかだ! その軍勢も含めてな…!」
魔王の軍勢とは単体でも非常に強力な『魔王』を筆頭に、伝説の魔獣である『赤竜』や『ブルーオーガ』『レッドオーガ』。そして騎士10人でようやく勝てるというオーク、大地を埋め尽くすほどのゴブリンによって構成された大軍勢の事を指す。
その圧倒的な物量は全ての人工物を薙ぎ倒して進み、非常に強固な防壁であるはずの『世界の壁』をもすでに陥落せしめた。
奴らは本気で大陸を蹂躙する気だ。
「考えたくない話ですが…もしも我が国が落ちれば、神話の如くフィルアデス大陸全土に魔物が拡散しかねません。陛下、これは世界の危機であります。各国に援軍の要請をしましょう」
「う…む。そうだな、そうしよ──」
しかし王の言葉を遮り、宰相の提案に手を挙げたのは騎士団長であった。
「陛下! 恐れながら私は援軍が必要だとは思っておりません。当時に比べればドワーフの技術、エルフの魔術は遥かに向上しております。オークやゴブリン程度であれば、我が国の戦力のみで十分対応可能と思われます」
「そうか……。そうだよ…な?」
「
騎士団長は続ける。
「問題は魔王とその側近です。これに関してはパーパルディア皇国と、日本国に応援を要請しましょう」
もっとも、トーパ王国はつい先日にパーパルディア皇国の要求を突っぱねたので、彼の傲慢な国が援軍を送ってくれるとは思わないが…。
となると、頼みの綱は日本国だけである。
聞く所によると、彼の国の軍は文明圏外の新興国にあらざる強さを有しているらしい。
音速を越える航空機、大地を蹂躙する鋼鉄の魔獣。艦船は誘導魔光弾を配備し、3桁ものワイバーンの大群を跳ね返す戦闘力を持つとか…。
そして、魔力を持たない『魔人』。
彼の国の援軍がいれば魔王なんぞ恐るるに足らず。
「う〜む……だが、日本国は国外に軍を送ることに消極的ではなかったか?」
「確かに彼の国は国家間の紛争に関しての軍隊派遣に消極的ですが…この場合は大丈夫でしょう。相手は人類の敵、魔王なのですから」
「ふむ? では、日本国とパーパルディア皇国に対する援軍の要請を許可する。くれぐれもしくじるなよ?」
「はっ!」
会議は深夜まで続いた。
翌日──
日本国 外務省 応接室
日本駐在トーパ王国大使は、外務省の応接室で頭を抱えて悩んでいた。
昨日、本国から魔王討伐の援軍を願い出るように魔信で指令が来たのだが、その事に関してである。
それは何故か?
日本国は非常に強い軍隊を保有しているのにも関わらず、『自国の防衛以外に軍を送る』ことを異常に嫌うのだ。
「どうしたものか…」
聞けば、パーパルディア皇国はトーパ王国の援軍要請を断ったと言う。
大陸どころか全人類の危機なのに、あそこの異常なプライドの高さは、世界が滅亡しても治らないのだろう。
「──という訳で、我がトーパ王国騎士団は現在、城塞都市トルメスにおいて魔王軍と戦闘中です。雑兵なら我が国の騎士団でも対応可能なのですが、魔王の力が伝承通りなら、我々は
トーパ王国大使は国の全ての命を背負ってるつもりで説明する。皇国が当てにならないとなると、残された頼みの綱は日本国しかいないのだ。
日本国の外務担当は少しばかり考え込んだ。
「その魔王と言うのは知的生命体ですよね? 知的生命体を一方的に虐殺したとなれば、国民感情や対外関係に影響が出る恐れが…」
パ皇もパ皇だが、日本の臆病ともとれる異常な慎重さは世界の危機でも変わらないようである。
それとも、これが世界の危機だと認識できていないのか。
「しかし…魔王及びレッドオーガ、ブルーオーガは人肉を主食としています。それでも保護する必要がありますかね?」
「「……!!!」」
日本国の面々の表情が明らかに変わったのを確認し、トーパ王国大使は後者が正解だったのだなと考える。
「…なるほど。他官庁も絡む問題なので、この件は一旦持ち帰ります。そちらとしても緊急を要するでしょうから、なるべく早くご回答さしあげます」
悪くない手応えに、駐日大使はホッと息をついた。さすがに人類の天敵ともなると、日本も重い腰を上げてくれるようだ。
後日、日本国政府は有害鳥獣駆除の国際貢献として、陸上自衛隊のトーパ王国への海外派遣を決定した。
中央歴1639年12月12日──
陸上自衛隊 トーパ王国特別派遣部隊先遣小隊
「私はトーパ王国特別派遣部隊先遣小隊の小隊長を拝命しました、百田太郎です。それではこれより、今回の派遣の概要について説明します」
百田隊長が数名の分隊長、隊員達、
「今回我々は有害鳥獣駆除の名目でトーパ王国へと派遣されるのですが…。今回の害獣は『魔王』と呼ばれる、知能を持った生物であることが確認されています」
隊員達は配布された紙を見る。
〇魔王は知能を持ち、他の魔獣を配下に置き、組織的に人類に対し害を与えようとする
〇魔王は『古の魔法帝国』によって作り出された生物兵器の1種と思われる。おそらくは遺伝子操作か、それに類似した技術であると思われる。
〇レッドオーガ、ブルーオーガと呼ばれる個体は魔王に比肩しうる知能を持ち、身体能力に優れ、耐久性も頑強。現地騎士団の攻撃が通じないとの報告あり
〇オークと呼ばれる魔獣は全長2.5m程度の巨人のようなものである。知能は低いが頑強な肉体を持つ
〇ゴブリンと呼ばれる魔獣は人間より力が弱いが強暴である。時間を置くとすぐに増殖する
〇本任務の主目的は、魔王及びレッドオーガ、ブルーオーガの駆除である。
これを見た隊員達の意見は様々であった。
(
(ゴジラよりは弱いな…)
(
(俺の方が強いな…)
「──以上です。今回は相手が完全に未知の生物であるため、部隊編成には被手術兵を多めに組み込みました」
概要を見る限りは、劣化版の被手術兵が相手と考えた方が良いのかもしれない。
裏を返せば、トーパ王国の騎士達は前時代的な装備でそれが率いる軍勢に挑んでいるのだ。
(一刻も早く助け出さないと…!)
皆の気持ちは同じであった。
「出発は3日後、各自準備を怠らないように。では解散!」
今回の先遣小隊の派遣目的は、あくまで状況把握である。
目標の弱点、撃破方法など、調べることは多岐に渡るが、
むしろ、撃破する気満々である。
それは派遣隊に編成された被手術兵の人数を見れば分かるだろう。普通の小隊なら多くても10人にも満たず、少ないと1人か2人なのに対し、今回はなんと驚愕の40人である。
自衛隊では小隊の人数は30〜50人。今回の派遣小隊は50人で、百田小隊長と3人の分隊長、車両の運転手以外はほとんどが被手術の戦闘員なのだ。
そして以下は今回の被手術兵の手術ベースの一覧である。
虫類 16名
『
『
『
『
『リオック』
『ドクシボグモ』
『
『イエローファットテール スコーピオン』
『タンザニア
『アマミサソリモドキ』
『ゲジゲジ』
『
『
『
『アシダカグモ』
『ゲンゴロウ』
動物類 9名
『ゴリラ』
『イリエワニ』
『アフリカゾウ』
『リンガルス』
『ハブ』
『オウギワシ』
『ツバメ』
『ナミチスイコウモリ』
『ジャーマン・シェパード・ドッグ』
水生生物類 10名
『タスマニアンキングクラブ』
『ニシキテッポウエビ』
『デンキウナギ』
『テッポウウオ』
『アンボイモガイ』
『ハブクラゲ』
『ウミケムシ』
『ヒョウモンダコ』
『アナサンゴモドキ』
『カツオノエボシ』
その他 5名
『トリカブト』
『ヒカゲシビレタケ』
『カエンタケ』
『ジギタリス』
『ドクササコ』
何ともまあ、殺意増し増しな構成だ。
戦闘力に劣る支援要員を一切排除し、全員が全員戦闘要員という脳筋部隊。中には
そして小隊の隊員の多くはすでに、上層部の意図を感じ取っていた。『調査や捕獲なんて考えず、容赦なくぶち殺せ!』だ。
「鬼ヶ島の鬼退治、『桃太郎様ご一行』ですね」
誰かが呟き、笑いが起こる。
実はこの作戦は『オペレーション・モモタロウ』と名付けられ、部隊指揮官らの名前は太郎、キジ、サル、犬と本当に昔話の桃太郎のような者が集められていたのだ。
「アホぬかせ。これじゃあ『桃太郎と
さらに大きな笑いが起き、隊員達の気が緩む。
だが魔王という生物が一体どれほどの戦闘力を有するのかは一切不明という現状、「
隊員達は自分が負けるとは微塵も思っていなかったが、それなりの緊張感を持ってトーパ王国へと向かって行ったと言う。