日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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23話:安寧の瓦解

 中央暦1639年1月17日──

 日本 東京 首相官邸

 

 

 官邸スタッフが慌ただしく動き回り、閣僚が真剣な表情で報告を受ける。

 防衛省からパーパルディア皇国軍の大艦隊がフェン王国方向へ進行中という情報が入ったのだ。

 

「ついに来たか…!」

 

 諜報員からの連絡によると、約1か月前の皇帝ルディアスが出席する最高会議にてフェン王国、次いで日本国を滅ぼすという方針が決められたらしい。

 皇国は見せしめを多様する。

 生意気な国は圧倒的な武力をもって侵略し、占領した地域の人間を処刑することで、他の国に「逆らったらこうなるぞ」という恐怖心を植え付けるのだ。

 

 今回はそのターゲットにフェン王国(もともとそうするつもりであった)と日本国が選ばれた。特に日本は文明圏外国の多くと友好関係にあるため、皇国は見せしめに最適だと判断したらしい。

 

「どうする?」

 

「フェン王国には多数の日本人観光客が滞在中です。直ちに退去命令を出すべきです」

 

 皇国が日本を滅ぼすつもりなのは前々から知っていた。

 しかし、諜報で得た情報には致命的な弱点があった。

 それは正式な証拠として使えない(大々的に叫べない)ことであり、それは500年経とうと変わっていなかった。

 

 そのためフェン王国への渡航を政府の独断で禁止することは出来ず、治安悪化の恐れがあると注意を呼びかけていたものの、努力は最悪の形となって終わった…。

 

 ──終わってしまったのだ! 

 

「それはもちろんそうする! …が、フェン王国まで電波が届くのか?」

 

 答えはNO(無理)。いくら技術が発達しているとは言え、衛星と電波塔が不在という状況で韓国の首都よりも遠い場所へ電波を届かせるのは厳しい。

 さらに電波を受信する物が民間の携帯電話しかない状況となると、今すぐフェン王国の日本人全員に連絡をするのは不可能となる。

 

「では艦隊を止めるべきです。前々からこうなる事は分かっていたでしょう?」

 

「それは越権だ。日本とフェン王国の間には集団的自衛権を盛り込むだけの法整備はされていない」

 

「外務省は何をしている。相手は止められないのか?」

 

「パーパルディア皇国とはやっと外交チャンネルが開けそうなタイミングだ。まだ正式なルートはない」

 

 武力以外にこの侵攻を止める手段がない。しかし、武力を使ってしまっては越権なのである。

 これが日本の最大の弱点であった。

 

 総理は悩んだ末に、1つの答えを出す。

 

「…何があってもすぐに対応出来るよう、『水空陸機動団』を近くに配備しろ」

 

 何かをされる前に止めるのではなく、何かされてからすぐに止める。

 それが彼の答えだった。

 

 


 

 

 翌日──

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント パラディス城

 

 

 つい先日パーパルディア皇国内での日本の扱いはカイオス率いる第3外務局から第1外務局へ権限委譲され、実質的に外務局監査室が担当することとなった。

 そして外務局監査室のレミールはこの日、日本国の外務担当に対し、「貴国への以降の対応は第1外務局が担当する」「皇宮へすぐに来るように」という内容の命令書を出していた。

 

 パーパルディア皇国駐在日本大使の朝田(あさだ)篠原(しのはら)は書面に見て、すぐに準備を始める。

 2人は不安を抱きつつホテルを出て、皇軍が準備していた馬車に乗り、彼らは皇帝の住まう皇宮パラディス城へと着いた。

 

「はぁ…『すぐに来るように』とは穏やかじゃないな」

 

 朝田は1人で愚痴りつつも、レミールの指定した部屋へと入室する。2人は使用人に促されて部屋中央のソファに着席した。

 

「パーパルディア皇国、外務局監査室のレミールだ。これからはカイオスに代わり、お前たちの相手をする」

 

「日本国外務省の朝田です。急なご用件ということですが、どのような内容でしょうか?」

 

 朝田の質問にレミールは不敵に笑う。

 皇国がフェン王国と日本を滅ぼそうとしているのを知っていたため、彼の背中を冷たい汗が流れた。

 

(まさかな…。もしそうなら、日本人が巻き込まれていなければ良いが…)

 

「いや、今日はお前たちに面白いものを見せてやろうと思ってな。これは皇帝のご意思でもある」

 

 レミールが使用人に合図をすると、水晶の板が貼り付けられた装置が2人の前に運び込まれた。

 

「これは魔導通信を進化させ、音声だけでなく映像まで見れるようにしたものだ」

 

「はぁ…」

 

 ますます嫌な予感がする。朝田は篠原に目配せをし、直ちに本国へ()()を送れるように準備をさせた。

 

「まず、これを起動する前にお前らにチャンスをやろう」

 

 レミールが朝田に紙を渡す。

 

 日本の外交官2人は、その紙に書かれている内容を見て、驚愕した。それには、日本に対する非常に無茶な要求が記載されていたのだ。

 要約すると日本を属国以下の扱い、つまり植民地にしてやるということが書かれており、とてもこの要求を飲むことはできない。

 

「何ですかこれは…?! 我々は民主国家で、そして平和主義国家です。属国にされるいわれもありませんし、攻め込まれるというのでしたら防衛するしかありません。どうか考え直してください」

 

「皇国の力を知らぬ、愚かな抗議だな。お前たちは確かに皇国監察軍を押し返した。しかしそれは指揮官が精神を病んでおり、正常な指揮が取れなかっただけだ。お前たちの実力で監察軍に勝ったのではない。我が国の部内的な問題で撤退しただけだ」

 

 そんなわけはない。海自からの報告では帆を焼いて足止めし、直接的な交渉をして撤退させたのだ。

 パーパルディア皇国は粗野で、野望に満ちた危険な国だったと彼は思い出す。

 

「では問おう、日本人よ。その命令書に従うのか、それとも国ごと滅びるのか」

 

「…我々は国交を開くために来た使節です。全権特命大使ではありませんので、この場での判断はいたしかねます。まずは本国に報告し、対応を検討いたします」

 

 これを聞いたレミールは悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「ほっほっほ…そう言うと思ったぞ。哀れな蛮族、日本国民よ。お前たちは皇帝陛下に目をつけられた。しかし、陛下は寛大でいらっしゃる。お前たちにも更生の余地があるか…再考の機会を与えてくださっている」

 

「どういうことですか?」

 

「これを見るがいい」

 

 レミールが指を鳴らすと、朝田の眼前の水晶板に映像が映し出された。

 

「──なっ?!」

 

「先ほど、フェン王国ニシノミヤコを占拠したと皇軍から報告があってな。住民に紛れていたこやつらは、我が国に対する破壊活動をする恐れがあるため、スパイ容疑で拘束した」

 

 首を縄で繋がれ、1列に並べられる約200人もの人々。

 その服装や顔つきは朝田達のよく知る人種のものであった。

 

「日本人を…!!」

 

「そうだ。お前たちの返答次第で、こやつらを見逃してやってもよいぞ?」

 

 見逃す、つまりは見逃さない場合は、どうなるか朝田も篠原も分かっていた。

 しかし、彼らは冷静である。

 朝田は篠原に目で合図をした。

 

「うっ…! すみません、気分が悪くなったので外の空気を吸ってもよろしいですか?」

 

 篠原は急に口を押さえ、気分が悪そうにする。

 

「あ? 仕方ない、そこの窓を開けてやれ」

 

 レミールは従者に命令し、窓を開けさせた。

 篠原はそこに駆け込み、胸ポケットからとある物を取り出した。

 

「さて、どうする日本人?」

 

 気を取り直し、レミールは質問する。

 

「………どうにもなりませんか?」

 

「ならぬ! さあ、早く選べ! 200人の命をとるか! 要求を飲むか!」

 

 ここで要求を飲めば、ここに映っている人達の命は救われるだろう。しかし日本という国は滅亡する。

 朝田は膝を着き、頭を床に擦り付け、お願いした。

 

「…お願いします! どうか、どうか本国に伝えるお時間だけでも!」

 

「分かっていないようだな…? なら分からせてやるぞ! 5人ほど処刑しろ!」

 

「なっ──!!」

 

 剣が振り下ろされ、映像に映る5人の日本人の首が落ちる。

 朝田は拳を強く握りしめ、爪が食いこんだ手のひらからは血が流れていた。

 

「これが…皇国のやり方ですか…」

 

「そうだ。皇国と貴様らが戦争をした場合、多くの人間の命が落ちる…主に日本人のがな。例え蛮族でも大量に死なれては私も気分が悪い。そして皇国は寛大である、だからお前達が生き残れる道を示してやっているのだよ」

 

 彼女は日本人観光客の命を盾に、拒否権なしの絶対服従を要求しているのだ。

 この要求を飲めば戦争は回避され、皇国、蛮国ともに多くの人命が助かるであろうというのが彼女の意見であり慈悲でもあった。

 

「ちなみに…その要求をここで拒否した場合はどうなりますか…?」

 

「もちろんさっきのようになるぞ? 捕まっている全員がな」

 

「…言質は取りましたよ、レミールさん」

 

「む?」

 

 朝田は深呼吸をしてから、大声で叫んだ。

 

「篠原ァ!!」

 

「もう伝えました!!」

 

 篠原が手に持っていたのは、『偏光発生器』。文字通り強力な偏光を発生させる機械である。

 しかし、偏光の違いというものは人間の目はイマイチ認識できない。

 

 だが1部の動物や虫は違う。

 彼らは大気の層に阻まれて特定の「傾き」に偏っていく『光の波長の偏り』を認識している。

 

 彼はこれを使い、超遠方へと信号を送っていた。

 皇国内に潜んでいた日本の諜報員達が等間隔で並び、自らが電波塔となることで彼の信号はフェン王国付近の洋上へと届いたのだ。

 

 


 

 

 フェン王国付近 洋上

 海上自衛隊『水空陸機動団』強襲揚陸艦 甲板

 

 

「コ・ク・ミ・ン・ゴ・ニ・ン・ガ・シ・ヨ・ケ・イ・サ・レ・タ。日本人5人が処刑されたとのことです!」

 

「上からの命令は待てん! 現場の独断で国外における『日本人非戦闘員退避活動』を敢行する! 被手術戦闘員は全員飛べ! 急げ!」

 

 水平線の彼方から届く僅かな違和感(偏光)を『モンハナシャコ』は視逃さなかった。

 

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