「弾込めー! 狙えーーッ! ……撃てぇぇぇぇえッ!!」
パパパパパパッ!
戦列歩兵による一斉射撃。
パーパルディア皇国では最新鋭の魔導銃は単発式でリロードが非常に長く、精度は劣悪。原理は違うが性能的には地球で使われていたマスケット銃が近い。
これは日本からすれば骨董品レベルの装備、戦術だが、パーパルディア皇国が位置する第3文明圏ではこれが最強の手法である。
しかし相手は異界より来たりし日本国。
皇国からすれば約1000年程先の未来技術を有する、この世界では最強の国力を持つ国である。
「隊長! 魔導銃が効いてません!」
「うるさい! 『魔人』と言えど皇国に逆らったらどうなるか見せてやれ!
「「う…うおおおおお!!!!」」
銃を前に突き出し、仲間が前を走る。
それを難なく殴り、なぎ払い、吹き飛ばす怪力。
銃弾が効かないほどの防御力を持った『魔人』が腕を振るうと、同胞の血と臓物の雨が降り、戦場は地獄の様相を呈す。
まさに一方的虐殺。
「クソっ…! ごめんよ母ちゃん俺──
体に衝撃が走った。
意識が薄れ、後方を走る仲間に身体を以て皇軍の何たるやを教える。
これで少しでも敵が疲弊してくれるといいが…
「栄えある皇国よ! 永遠なれぇえええ!!!」
「「バンザァァァァァァイ!!!!!」」
人が砲弾のように浪費される無謀な突撃。
それらは全て切り札を引っ張ってくるための時間稼ぎに過ぎない。
「魔導砲、ッてぇぇえええ!!!」
皇国が誇る主力兵器、牽引式の魔導砲。フェン王国の城門を難なく打ち破るほどの威力を誇る。
今まではこれと魔導銃があったため、どんな文明圏内国や蛮国の軍も敵ではなかった。
はずなのだが…
「クソっ! 至近弾か! あいつ速いぞ!」
「再装填急げ! 急げぇ!」
残念なことに魔導砲も精度が悪いため、まとまった軍勢になら効果は抜群なのだが、単体で素早く動くような相手には効果がないに等しい。
「敵接近中! すごい速さです!」
「撃て! とにかく撃ちまくれ!」
敵の『魔人』は攻撃力や防御力だけでなく、速度も異常に速いのだ。
「リントヴルムだ! 火炎放射を食らわせてやれ!」
そして皇国の最終兵器、大型魔獣リントヴルム。
こいつは魔導砲を牽引するだけでなく、射程は短いが広範囲に効果のある火炎放射を行うことができる。
これで地面を焦土に変え、敵の接近を阻止することが出来れば、あとは遠距離武器を持っていない『魔人』を遠方から一方的に撃つことができるはずだ。
しかし…
「なっ…! 空を飛びやがった!」
『魔人』が飛んだのである。体の特徴も到着時と同じ姿に変わっており、先程とは違い、細い体付きに腕の部分は鳥のような翼となっていた。
「天異変態…!」
そして空中で何かを呟いたあと、再び先程の『鬼神』のような体付きへと変わる。
「ヴォオオオオ!!!」
リントヴルムは『魔人』に素手で殴られ、昏倒したのか絶命したのか分からないが、倒れる。
下敷きとなった兵士達の断末魔は夢に出てきそうだ。
それも生き残れたらの話になるのだが。
陸将ベルトランはすでに戦死しているらしく、もう統率はないに等しい。
圧倒的な暴力を前に、彼らの脳裏に「降伏」の2文字が浮かぶ。
(いや、散々蛮国の恨みを買った皇国人を彼らが許してくれるのか…?)
しかし彼らの視界に、最後の頼みの綱である、沖合に停泊しているはずの皇国海軍の姿はなかった。
それどころか砂浜からは日の丸を掲げた『鉄の竜』のような物体が上陸しており、それから放たれる光弾に皇国軍が蜂の巣になる。
「──ッ!!!!」
空にはワイバーンロードの姿もなく、斑模様の『空を飛ぶ鉄竜』から敵の兵士と思われるものが紐のようなものに捕まって降下していた。
これではもう…勝てない…!
僅かに残った軽傷もしくは無傷の皇国軍陸戦隊の兵士達は武器を捨て、降伏を選んだ。
日本国自衛隊『水空陸機動団』
損害無し
パーパルディア皇国皇軍陸戦部隊約2800名
死亡:約2600人
重傷:約150人(捕虜も含む)
捕虜:約200人
リントヴルム全頭死亡。
大量の魔導砲、魔導銃は後にフェン王国軍に鹵獲される。
陸戦が始まる少し前──
フェン王国 ニシノミヤコ沖合
超フィシャヌス級戦列艦『パール』の甲板上で将軍シウスは悩んでいた。
フェン王国侵攻のための皇軍は当初の戦力でも十分アマノキをも占領できるはずだった。
実際ニシノミヤコはあっさりと落ちたのだ。
しかし、先程から陸地の方がおかしかった。
魔信で『敵襲! 敵は日本──』と報告を受けてから通信は途絶し、おまけにニシノミヤコでは戦闘が発生しているようだった。
最初は彼もワイバーンロード部隊を地上部隊の支援として発艦させるつもりだったのだが、彼は少し悩んでから、それを辞めたのであった。
ワイバーンは案外デリケートな生き物である。
1回全力出撃をさせてしまえば、パフォーマンス面が万全になるまでに1日単位で時間がかかる。
そのため、彼はワイバーンロードを出撃させることを渋ったのだ。
「まあ皇軍が負ける訳ないしな…」
驕りなどではなく、実際に今までそうであったため、彼は本当にそう信じきっているのだった。
「…いや、何騎か出しておくか。通信兵、竜母艦隊に『ワイバーンロードを何騎か地上支援に向かわせよ』と伝えろ」
通信兵は言われた通りに通信を行う。
しかし、流れてくるのはノイズだけだった。
「竜母艦隊応答せよ! 聞こえるか? 竜母艦隊応答せよ! ………故障ですかね?」
「うーん…」
何故か異様に嫌な予感がする。
竜母艦隊の姿は見えないが、なぜか猛烈に嫌な予感がするのだ。
「まさか全滅したとか…」
「バカを言うな。通信をする間も無く全滅なんぞ、魔帝でも出来ぬわ」
「ですよね…」
しかし彼らはこの後、地獄を見る間もなく即死することとなる。
『南東方向に未確認飛行物体を複数騎確認!! 超速度で向かってきます!!!』
魔信からの報告は耳に入らなかった。
その飛行物体は、すでにシウスの直上にあったのだから。
「あ?」
「は?」
『
文字通り広範囲に電磁パルス攻撃を行う「対多目標」ミサイル。
その弾頭は護衛艦に搭載されている『H・ADS』を広範囲攻撃用に改造したものであり、それは
ピピピ…カチッ──────ブァッ!
戦列艦及び竜母合計223隻。
艦船は無傷なれど、人員の99.9%の死亡を確認。
「う…ん…」
戦列艦『ロプーレ』の船員ライタールは生きていた。彼の艦はミサイルの有効射程ギリギリに居たからである。
そして、彼自身も陽の光が届かないような薄暗い船室にいたという要因も大きい。
「体が…動かない…?!」
彼は普段通り船内を歩いていたら、突然体が一瞬で麻痺したような感覚に襲われたのだった。
ようやく体を起こし、甲板へと続く階段を登る。
船内はひどく静かだった。
「おーい…?」
返事はない。
それどころか甲板に出た彼は、仲間の変死体を目にした。
「なんだこの傷は……? 火傷?」
全身をくまなく焼かれたような火傷跡。
それ以外の外傷はいっさい無く、どんな魔法で死んだのか見当もつかなかった。
マストの上にある見張り台に登ると、他の船の生き残りも発見する。
生き残りの数は彼が確認できる限り、2桁にも及ばなかった。
「皇国軍は…負けたのか」
しばらくするとフェン王国旗を掲げる船が到着し、彼の身柄はフェン王国へと預けられることとなる。
しかし、このような攻撃をしたのはフェン王国ではないと彼は分かっていた。
(まさか…日本国か?)
真相は謎のままである。