日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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26話:我が上の星は見えぬ

 日本国 東京都 東京拘置所

 

 

 地球と違い戦時国際法が存在しない上、皇国と捕虜の身柄の取り扱いに関する規定が定まっておらず、国内法で勝手に裁くこともできないので、元パーパルディア皇国監察軍東洋艦隊所属の特A級竜騎士レクマイアは東京拘置所へと収容されていた。

 ちなみに山形県にはパーパルディア皇国、その他の国との戦争を想定し、刑務所を改装した捕虜収容所が整備されている。

 彼はフィルアデス大陸共通言語と日本語を相互翻訳する電子辞書を片手に、日本の新聞を一言ずつ翻訳しながらゆっくりと読み進めていた。

 

【非道なるパーパルディア皇国、日本人観光客を処刑!!】

【新たな英雄「水空陸機動団」】

【野党、独断で救出作戦を行った英雄を糾弾! 白い目で見るネットユーザー達】

 

 現在、日本ではフェン王国に観光で訪れた日本人観光客を捕縛し、日本人外交官の目の前で5人を処刑するように命じたパーパルディア皇国に憎悪の念を抱くような者が増えていた。

 世論は一気に右傾化し、日本国及び日本人を守る為ならば自衛隊の戦力増強や国外派遣も致し方ないという意見が多い。

 

 自由時間中に「パソコン」というものを触らせてもらったレクマイアはそれを知っていた。

 

「不味いぞ…これは…」

 

 日本という国がこの世界に転移する前、日本には多くのスパイが存在し、政治家は右翼的な発言を許されないというような風潮が流れていたらしい。

 愛国心を持つ政治家は様々な策略にハメられ没落し、マスコミも協力してあたかもその政治家が悪いように報道、糾弾し、日本は内部から徐々に崩壊へと向かっていったという。

 この世界の住民からすれば、「国を守るために武装してはいけない」という意見は理解されず、それはレクマイアも同様であった。

 

 しかし隣国にある、こんな強い国が平和ボケしているならば、皇国としては都合がいい。

 にも関わらず、祖国は長い間まどろみの中で眠っていた日本人を叩き起したのだ! 見せしめという最悪の(いつもの)方法で! 

 

 彼の指先は震え始め、徐々に汗に濡れて行った。

 

 内閣官房長官は「今まで通り対話を試みるが、必要とあらば新たな日本人、友好国の犠牲者を出さないために、我々は武器を持って戦う」と発言し、ネットでは彼の声明に賛同する声が大多数であった。

 後ろ盾をなくした(旧世界に置いて来た)野党議員、マスコミも形式上はそれに賛同するような意見を出し、民の間ではパーパルディア皇国を許すなという風潮が流れ始める。

 

『独断で行われた今回の救出作戦ですが、ネットでは様々な説が唱えられており──』

 

『「プライドの塊」と称されるパーパルディア皇国ですが、彼の国が宣戦布告をしてくる可能性は極めて高く──』

 

『自衛隊への志願者が急増し──』

 

『戦争になった場合、我が国が負けることは間違いなく無いでしょう』

 

 食堂に置いてあるテレビのニュースチャンネルはどれもレクマイアの聞きたくないことばかりであった。

 

「……………祖国は滅ぶのか…」

 

 この国はつい先日、魔帝の『(しもべ)の星』によくよく似たやつを打ち上げたらしく、ザッと調べてみた結果、ワイバーンの飛ぶ遥か、遥か上から皇国は丸裸にされるらしい。

 これは性能も凄まじく、条件が整っていれば宇宙空間から地上にいる人間の毛穴までクッキリ見えるらしい。

 

 これが意味することは、どんな重要な文書も太陽の下に晒した瞬間、まさに白日の下に晒されるということだ。

 おまけに大海の浮かぶ艦隊や広大な領地に散らばる軍勢も位置が丸分かりであり、それらがどう動こうと日本の裏をかくことは出来ない。

 

 …なんだこれ! 勝てないじゃないか! チートだ、チーターだ! (彼は覚えたての言葉を使いたくなったのだ)

 

 さらに絶望の追加情報で、日本国は海上、海中、上空に大量の哨戒機を回らせており、『僕の星』がなくとも上陸は不可能なのだ。

 例え哨戒網を突破したとしても、この地に住む人間はほぼ全員が魔信機をさらに改良したような道具(スマホ)を持っており、通報でもされたらすぐにバレるという。

 

 そもそもその哨戒機という無人の飛行機械もそこそこの戦闘力を持っており…日本がいた世界基準でだが…、皇国の軍船なんぞ浴槽に浮かべた紙の船と変わらない。

 

「まあ何が言いたいかと言うと、皇国は絶対に日本に勝てないっつーことだ」

 

 この声が祖国にいる誰かに届くことを願いつつ、彼は就寝する。

 その胸中は穏やかではなかった。

 

(……そういえば、処刑されたのは5人のはずなのになんで死者数は4人なんだ…?)

 

 


 

 

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局

 

 

 局長の執務室では、今後の日本に対する措置についてレミール、アルデを交えて話し合いが行われていた。

 通常であれば文明圏外の一国家程度に軍の最高司令官や皇族が介入することなど有り得ないのだが、今回はレミールがやけに関心を示すため、このような会議が行われていたのだ。

 

「そろそろ皇国軍がフェン王国の首都を落とす頃ですな…。連絡がつかないというのは、いささか心配ではありますが…」

 

「どうせ魔法通信の故障だ。アルタラス王国から連戦だからな。フェン王国を落としたら休ませてやれ」

 

 と言ったレミールであったが、こちらも内心は穏やかではなかった。

 少しも「してやった」という感じを見せなかった朝田と篠原の顔がやけに忘れられないのだ。

 

(局地戦とは言え…皇国が負けるなんて有り得ない…)

 

 トントントンと指で机を叩く彼女に皇国の重鎮達は「蛮族によほど失礼なことを言われたのだろう」と考える。

 

「レミール様、本当に現地の日本人観光客は処刑してよろしいのですか?」

 

「構わん。蛮族はしっかりと教育せねばならんからな」

 

「承知しました」

 

「で、そのあとのことだが──」

 

 ──コンコン

 

 扉がノックされ、レミールがバッと振り返る。

 

「諸君、待ちに待った吉報のようだ。入れ」

 

「緊急の要件につき失礼します!!」

 

 第1外務局の若手幹部が入室する。

 

「フェン王国に派遣していた皇軍の戦列艦隊、竜母艦隊は全て敵に鹵獲されました! 陸戦部隊も壊滅! 捕虜の数は数百! それ以外は全て戦死したもよう!」

 

「「なっ…?!」」

 

 唖然。

 海軍の3分の1もの戦力が丸ごと敵に鹵獲された? 精鋭であるはずの陸戦部隊も壊滅? 

 

「馬鹿な! 何かの間違いでは無いのか?!」

 

「いいえ! 全て事実であるようです!」

 

「まさか皇国海軍が寝返ったとか…?!」

 

「それもありません! 1部を除いて船員だけが全滅したようです!」

 

「敵はなんだ?! どのような攻撃をしたのだ?!」

 

「敵は恐らく日本国です! 攻撃方法はただいま全力で調査中であります!」

 

 ──パリンッ! 

 

 食器の割れる音がする。

 音の主は鬼のような形相のレミールであった。

 

「蛮族ごときに…局地戦とは言え、この皇国が敗れただと?!」

 

 目は血走り、顔を真っ赤にして激怒するレミール。

 その脳裏では朝田と篠原が静かに「してやった」という表情を浮かべていた。

 

 皇軍が敗れたという事実はすぐに各国に広まるだろう。膨大な数の属国を恐怖で支配していた皇国にとっては、その事実は致命的となる。

 宗主国が弱く見えると、恐怖感が薄れて力関係が崩れてしまうのだ。

 

「おのれぇぇぇッ……蛮族がぁぁあ!!! 殲滅だ!! 列強たる皇国がここまでコケにされたことを、絶対に許す訳にはいかない! 日本国を殲滅だ!! エルトォ!!」

 

「は、はい!」

 

「陛下に許可を貰いに行く、殲滅戦の準備をしておけ! アルデも分かっているな!!」

 

「「承知しましたッ!!」」

 

 レミールは床を踏み鳴らしながら執務室を退室した。

 

 


 

 

 パラディス城 王の間

 

 

「もう報告書は読まれたと思いますが──」

 

 レミールは皇帝陛下に概要を説明する。

 

「──結果、皇軍はフェン王国の攻略に失敗しました。そして元アルタラス王国の王女ルミエスが日本国内で臨時政府の樹立を宣言したようです。他の属領も沸き立っており、このまま日本国をのさばらせておくと皇国の障害になりかねません。よって日本国に対する正式な宣戦布告と同国に対する殲滅戦の許可をいただきに参りました」

 

「…たかが文明圏外の蛮族に列強たる皇国がここまで舐められるとはな。私は不愉快だよ」

 

 皇帝ルディアスは立ち上がり、王の間にいる全ての文官、武官が膝をつく。

 

「今ここに! パーパルディア皇帝ルディアスの名において、日本に対する宣戦布告、及び殲滅戦を許可する!」

 

 列強パーパルディア皇国は日本国に対し、民族浄化を原則とした戦争を行うことを決意した。

 

 地獄の釜が蓋を開く。

 しかし、それはまだまだ序盤に過ぎない──

 

 


 

 

 後日──

 皇都エストシラント パラディス城

 

 

 レミールは先日のように日本国の外交官を呼び出し、座って待っていた。

 会議室に入ってくる朝田と篠原の顔はやはり「してやった」という気を微塵も感じさせず、レミールは顔を歪める。

 彼女からしたら面と向かって舐められるより、裏で舐められる方が頭にくるのだ。

 

「フェン王国での戦いの結果はもうご存知だと思いますが…考え直していただけましたか?」

 

「ふん…もちろん断る。貴様らは我々を舐めすぎた」

 

「そうですか」

 

 ──ブチッ

 

 レミールは激怒しかけたが、これから絶望するであろう彼らの顔を思い浮かべ、なんとか堪えた。

 

「……こちらから伝えることがある。貴様らは皇軍に仇なすだけでなく、我が国からの独立を促す者を保護し、あまつさえその活動を支援するなど、皇帝陛下の怒りを買いすぎた」

 

 彼女は続ける。

 

「貴様らは列強の力を舐めすぎている。そして貴様らの国の意思決定を行う者達は自分たちだけは安全だと思っているのではないか?」

 

「…続けてください」

 

 ──ブチブチッ

 

 今にも噴火しそうな感情を押さえるレミール。

 その表情は静かであったが、顔は真っ赤に染まっており、握りしめる手はプルプルと震えていた。

 

(あーあー、美人がこんなに怒っちゃって…勿体ない)

 

(もう何を言うか知ってるから、勿体ぶらずに早く本題に入ってくれ)

 

「……貴様らとて同じ立場なのだろう? 今殺さないのは我々が寛大で貴様らの政治ごっこに付き合っているからだ。…だが甘いな。貴様らの愚かな認識が自らの国を滅ぼすことになる。貴様らは皇帝陛下の怒りを買ってしまったのだよ」

 

「はい」

 

「ふぅ…! ふぅ…! ふぅ…!!」

 

(もはやマトモに話せる状態じゃないな…)

 

(今だけうちのカミさんにそっくり…)

 

「蛮族よ、よく聞け。我が国は日本国に対し宣戦を布告する。それと同時に全国民を抹殺することを決定した」

 

「わかりました」

 

 予想に反した2人の冷めた返答に、ついに堪忍袋の緒が切れるレミール。

 彼女はバッと立ち上がり、ヒステリックに喚き散らした。

 

「○※□◇#!△!!○!!□☆∓√⊂!!!!」

 

「行きましょう朝田さん。ここに居たら本当に殺されかねない」

 

「そうですね。戦争が終わったらまた会いましょう、レミールさん」

 

 交渉は完全に決裂。

 日本はすでに宣戦布告と殲滅戦を宣言されることを知っていたため冷静であったが、レミールはそんな蛮族の澄ました(呆れたような)態度が気に食わず、彼女の怒りは数日続いたと後世の歴史書に書き記されることとなった。

 

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