中央歴1640年1月30日──
日本国 首相官邸 記者会見室
「間もなく記者会見が始まります!」
先の大戦から約600年。
望まずに突入してしまった他国との戦争に、内閣総理大臣は重い足取りで壇上へと上がる。
宣戦布告を言い渡されたその日からテレビでは連日、戦争に関するニュースが流れ、今回の記者会見に対する国民の関心は高かった。
「我々の外交努力も虚しく、パーパルディア皇国は我が国に対し、宣戦布告いたしました。彼の国は罪の無い日本人観光客の命を盾に日本国に植民地になるように要求し、現場の外交官が彼らを見逃すようにお願いしたものの、非道なことに彼らは、見せしめとして約200人の観光客の処刑を命じ、4人の尊い命が失われました」
カメラのフラッシュがたかれる。
「またパーパルディア皇国は宣戦布告に付随し、日本国民全てを虐殺し、民族浄化を行う意志を表明いたしました。政府を代表し、国民の皆様に申し上げます。私たちは持てる力の全てをかけて、皆様を守ります! 必ず、必ず守り抜きます!!」
この日、日本政府はパーパルディア皇国の宣戦布告に対し、個別的自衛権の発動を宣言。
日本に侵攻してくる敵はもちろん、基地や武器生産工場、その他の敵国の武力行使に直結するあらゆる存在を「国民の安全」のため排除することを発表した。
中央歴1640年2月4日──
東京都 とあるホテルの一室
ムーの技術士官マイラスと戦術士官ラッサンは窓際の椅子に腰掛けて話し合いをしていた。
彼らは日本とパ皇の戦争に先立ち、観戦武官として日本国を訪れていたのだ。
ムーの情報収集、戦力分析力は世界で1番と言われており、彼の国が観戦武官を送ったほうの国が勝つ確率は高く、ムーが観戦武官を送った時点で勝敗は決しているとさえ言われている。
彼らが日本に送られたと知った時のレミールはどうだったかと言うと、当然激怒であった。
そんな話はさておき、観戦武官の2人の会話に目を向けてみよう。
「マイラス…お前の目からは日本はどう見える?」
「どうもこうも、我々より技術が遥かに進んでいるとしか言えません。コンピューターと呼ばれる高性能演算装置の使い方は分かりましたが、原理は全く分からないままです」
分からないとは言いつつも、彼は「子供の道具図鑑」と電子辞書を手に、目を輝かせていた。
「…でもそれ、子供向けの書物だろう? そんなのを見て分かるのか?」
「分からない単語だらけですが、内部構造は1%ほど分かりました! まるで終わりのない迷宮を彷徨っているようです!」
「…」
一方ラッサンは日本の兵器に関する本を読んでいた。
彼らはまだ日本と皇国の戦場に赴いていないが、これらの本に目を通すだけで日本が圧勝する光景が目に浮かぶ。
百発百中の『電磁加速砲』、狙った目標を外さない『誘導弾』、音の何倍もの速度で飛翔する『無人戦闘機』。
『潜水艦』と呼ばれる、海に潜る船。そして海中を進む『魚雷』。
これらはムーにおける科学の延長線上にあるらしいのだが、いくら見ても魔帝の兵器のようにしか思えない。
(進みすぎた科学は何とやら…だな)
日本の書店で見かけた言葉を思い出しつつ、彼は本をパタンと閉じ、布団に入った。
翌日──
東京都 旧カナダ大使館(現ムー大使館) 応接室
「
「ユウヒです、どうぞおかけ下さい。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「実は日本国政府から要望がありまして、貴国は各国に空港を造っていると伺いまして、アルタラス王国にあるこの空港の使用許可をいただきたいのです」
柳田は人工衛星から撮った写真を取り出し、ユウヒに見せる。
「……これが衛星写真ですか…!」
ユウヒはまじまじと写真を見つめる。
非常に精巧な写真。それに写るのはアルタラス王国にある、ムーが建てたルバイル空港。
その精巧さと言ったら、屋根の上の汚れがクッキリと見え、周りの木々は今にも動き出しそうな解像度であった。
「あ、失礼。この空港に関しては、現在はパーパルディア皇国が所有権を有しているので特別許可は必要ないでしょう。拡張や改造に関しても、日本国の責任においてその機能低下を招くことがなければご自由にやって頂いて結構です」
「本当ですか! ありがとうございます!」
その後も様々なやり取りがされ、しばらくしてから日本とムーの交渉は終わった。
これにて、日本国の対パーパルディア皇国戦の戦略方針が決定する。
後日、その第1段階として、アルタラス王国における皇国戦力の完全制圧の命令が下された。
中央暦1640年5月22日──
パーパルディア皇国アルタラス統治機構 海上警備隊
皇国のアルタラス統治機構、海上警備隊の戦列艦5隻はアルタラス島近海を紹介中であった。
「ん?」
旗艦『ヒデル』の魔力感知器を見ていた兵が、哨戒任務中のワイバーンロード2騎が突如消滅したことに気が付いた。
「──なっ?!」
しかし彼が立ち上がると間もなく、隣を航行中の戦列艦が大きな火柱とともに海上から消える。
「敵襲か?! 戦闘配置に──」
衛星から送られてくる情報を元に敵の精確な位置と航行速度、進行方向を検出した護衛艦『たかなみ』に搭載された
パーパルディア皇国 アルタラス統治機構海上警備隊 ハイペリオン基地
アルタラス王国を落とした皇軍は首都占領後、フェンおよび日本国へ進攻するべく東へ転進した。
現地軍の武装解除はすでに済んでおり、時折起こる小規模な反乱を脅威ではないと判断した皇国は監察軍と同程度の戦力を持つ統治機構を置いた。
その戦力は、ル・ブリアスの東側の軍に25隻の戦列艦。少し離れた場所に2000人の兵と20騎のワイバーンロード部隊がいる基地。そして首都から北へ約40kmの位置に人員2000名の陸軍基地がある程度である。
陸軍中将リージャックは仮設の司令棟屋上からアルタラス王国の首都を眺めていた。
「フェン王国に派遣していた我が国の軍は全滅したらしいな。特に海軍はいったい何をやっていたんだ?」
鹵獲された200隻をこえる戦列艦は全て日本の友好国に分配され、9隻の竜母に関しては、そのうち2隻ずつがクワ・トイネ公国とクイラ王国に譲渡され、他は競りに出されたという。
「さあ…そもそも皇軍が負けたこと自体が信じられません。海軍にいたっては、戦う前に降伏でもしたのでしょうか…?」
生き残りは全てフェン王国の捕虜にされたため、真相は謎のままである。
「まあいい…大尉、少し港まで散歩をせぬか? なに、気晴らしだよ気晴らし」
「よろこんで」
2人は基地から出て港まで歩く。
ハイペリオン基地は陸・海・空の3部隊統合基地であり、彼らがいた場所から港まで5分とかからない。
「基地東側のワイバーン用滑走路の敷設はいつ頃になるのだ?」
「明日には完了するかと」
「さすがは皇軍だ」
リージャックたちが港に着くと、見るものに威圧感を与える皇軍の戦列艦20隻が桟橋に並んで停泊していた。
比類なき強さを誇る船が整然と並ぶ姿は壮観である。
「美しいな」
「中将殿は戦列艦がお好きなのですね」
しかし次の瞬間、彼らはとんでもない光景を目の当たりにした。
──ボッ!!!
何か超高速で飛来した物体が戦列艦を貫く。それは1番外側に並ぶ船から順に両方の外壁に穴を開け、最後に海軍基地の建物にも同じような
四散した木片や鉄片が周囲に降りかかり、当たり所が悪かったのか、数隻が爆散した。
積載されていた魔術媒体である粉状魔石が爆発したのだ。
「なっ?! 事故か?!」
「中将殿! お逃げ下さい! どう見ても攻撃でしょうに!」
しかし彼らは逃げた先で理解することとなる。
アルタラス統治機構はそのほとんどの戦力を一瞬の間に潰され、機能を失っていた事に。
同時刻──
アルタラス島
反皇国勢力の地下組織を指揮する軍長ライアルと、その部下であるシュサクは塔の上から事の顛末を見ていた。
港に停泊してある列強の戦列艦20隻が爆散するか沈んだかと思うと、その近くにある基地も超強力な爆裂魔法のような何かで吹き飛んだのである。
黒いキノコのような形状の煙は遠くにある基地の方向からも上がっており、空を乱舞する日の丸が描かれた物体が視界にうつった。
「日本軍?! …ああ、なるほど! そういうことですか
彼はルミエス王女が日本で保護されている事と、それを知った後に届いた魔信の内容を思い出していた。
『明けない夜はなく、日はまた東方より昇る。苦しみの闇を払うように、太陽はより強く輝くだろう。良運はタスの日に訪れる』
「日はまた昇る」と「太陽はより強く輝く」は日本軍の来訪を暗示していたのだ!
そしてタスの日は今日!
彼は魔法通信機を取り出し、力いっぱい叫ぶ。
「時は来た! アルタラス王国を取り戻すぞ! 全軍作戦開始!」
後刻、兵力のほとんどを失っていたパーパルディア皇国アルタラス王国統治機構は一斉蜂起したアルタラス王国地下組織及び、加勢した民衆の前に降伏。
それはアルタラス王国が実効支配を取り戻した瞬間であった。