日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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33話:鳥取砂丘非正規上陸阻止戦

 中央暦1640年8月20日──

 海上保安庁 無人哨戒機司令室

 

 

「…なんだこれは」

 

 日本の周辺海、空域には何万、何十万、何百万もの無人哨戒機による哨戒網が張り巡らされている。

 その紹介網の濃さは世界でも桁違いに高く、旧世界では「日本の領海に入ったら、いつ、どこにいようと監視される」とさえ言われていたほどだ。

 サイバー攻撃や物理的攻撃でドローンの活動を停止させることが出来ればこの紹介網も突破可能だが、裏を返せば、それが出来ない限り海上経由の密輸や密入国は不可能。

 

 しかしパーパルディア皇国はとある手段を用いて、その厳重な警戒網を突破していた。

 

「どうした? パ皇の帆船か?」

 

「いいえ、無人潜水哨戒艦のソナーに巨大な…艦影? 魚影? が写ったようで…」

 

「新世界生物か? それとも報告にあった舞鶴攻撃部隊か? でも敵の兵器に潜水艦はないしな…」

 

「皇国の技術でこんな大きい潜水艦を建造出来るわけがないじゃないですか。シロナガスクジラより大きいんですよ?」

 

「…とりあえず監視はしておけ。用心するに越したことはない」

 

 


 

 

 同時刻──

 鳥取砂丘沖

 

 

「…さあ皆さん、もう少しで目的地へと到着しますよ」

 

 巨大な海魔の口の中で、アデムは不気味な笑顔を浮かべた。

 

「もうそろそろか…」

 

「やっとか…腕が鳴るぜ…!」

 

 パーパルディア皇国の日本本土攻撃部隊の45人は武器を研ぐ。

 当初アデムが言っていた乗組人数50人よりも5人ほど少ないのは、食料やその他もろもろも載せる必要があったからである。

 アデムにとって兵士の命や健康など知ったこっちゃなかったので、戦士の数を減らして食料やその他の物資を載せることに彼は猛反対していたのだが、蛮国からの亡命者の分際で図に乗るなという兵士達の声に気圧(けお)されたのだ。

 

「さあ…そろそろですよぉ…!」

 

 ズズズと海魔が地面を擦る音が聞こえる。

 水かさが減ってきた証拠だ。

 

「まだ……まだだ………いまだ! 海魔よ、口を開け!」

 

 ──ガパァ…

 

「さあ! 殺戮の宴を始めようではないか!」

 

「「ヒャッハァ────!!!」」

 

 魔導銃の先端に短刀をつけ、勢いよく走る兵士達。

 彼らはバチャバチャと海水を散らし、砂浜へと駆ける。

 

 目の前には敵の軍港が……

 

 

 

 

 

 ──あるはずだった! 

 

 

「…………どこだ? ここは…」

 

 彼らの足は自然と止まった。

 目の前には砂漠が広がるばかりだったのである。

 

「この砂丘、ミルキー王国のバムナ砂漠みたいだな…」

 

「俺達は東に向かっていたはずだろ? それなのに第1文明圏まで来てしまったのか? 世界周航かよ」

 

「世界周航なら先に第2文明圏に着くだろうよ…」

 

「いや、第2文明圏より先にグラ・バルカス帝国だろ」

 

 彼らは困惑するばかりであった。

 皇国軍をあっさりと壊滅させられる国家なら、それなりに都会が広がっているのだろうと想像していたのだ。

 

 しかし目の前は砂漠、砂漠、砂漠! 

 現地人らしき人間が数人逃げているだけで、皇都にあるような立派な建築物はおろか、建物すらない! 

 

「…いや、ここは日本で合っているようですが、慣れない海域に海魔が迷ったのでしょう」

 

 六分儀のような物を手にアデムは舌打ちをする。

 久方ぶりに敵国の民を蹂躙できると彼は期待していたのだ。

 

「まあまあ、皇国軍を壊滅させたとは言え、文明圏外国には変わりません。首都である東京はもう少し都会かもしれませんよ?」

 

「サクシード艦長、地図を見る限り私の海魔はこの鳥取砂丘という場所に上陸してしまったようです。舞鶴は東へ100kmほど進んだ所のようですが…」

 

「ですが?」

 

「私の目的は日本国の民を蹂躙することです。兵達に今しがた逃げた蛮族を捕えるように命じてください」

 

 何ともまあ残虐で自己中な奴だとサクシードは思う。

 しかし我々をここへ連れて来てくれたのだから、嫌な奴であろうとその恩に報いらない訳にはいかない。

 

「わかった、ところであそこに突っ立っている老人はどうする?」

 

「あれはいい声で(さえず)ってくれなさそうだから却下だ。殺せ」

 

「…わかった」

 

 サクシードはアデムに聞こえないように兵達に囁いた。

 

「…なるべく苦しませずに殺してやれよ」

 

 


 

 

 アデム達が上陸する数分前──

 鳥取砂丘

 

 

「じい様、あれは何かしら…?」

 

 とある老婦人が夫に問う。

 彼女が指さす先には、沖合。遠浅の海に巨大なナマズのような生き物が出現していた。

 

 しばらくするとそのナマズは砂浜海岸へと乗り上げ、口を開いた。

 その中から現れたのは、誰の目に見ても時代錯誤な武装集団。

 

「まさか…パーパルディア皇国が上陸してきたのか!」

 

「逃げろ──!」

 

 周りの観光客達は蜘蛛の子を散らすように逃げる。

 しかし、彼女の夫は逃げなかった。

 

 

 鮹積(たこづみ) 朝一郎(あさいちろう)(84歳)

 兵庫県生まれ大阪育ち。

 

 十数年前に骨粗しょう症を患い、翌年に脊椎椎体骨折を発症。立っていることさえ叶わない体となってしまい、治療目的で『M.O.手術』を受けること決意。

 手術は無事に成功し、歩くどころか生身で100m走を11秒台で走れるまでに回復。最近の趣味は夫婦旅行。

 

 

「婆さんや、先に逃げとくれ。ワシらが逃げても蛮族に捕まって殺されるだけじゃ」

 

「そんな…貴方はどうするのですか!」

 

「ワシは手術を受けている…多少は時間稼ぎになるはずじゃて」

 

 先の火星生物(テラフォーマー)による日本本土侵略と、『バグズ手術』『M.O.手術』の普及によって日本の法律には多少の変更点が加えられていた。

 そのうちの1つに、『手術を受けた人間による正当防衛戦闘に関する法律』がある。

 その概要は、予期せぬ火星生物(テラフォーマー)もしくは、主に手術を受けた人間で構成される暴徒集団の出現時、その場に居合わせた「手術を受けた一般人」による戦闘活動を正当防衛として合法化する法律であった。

 これが施行された理由は様々だが、1つは火星生物(テラフォーマー)はその場に居合わせた人間を躊躇なく殺害するため、犠牲者を少なくする目的で自衛隊が到着するまでの間の時間稼ぎが必要だから。

 2つ目は先の火星生物(テラフォーマー)による本土侵略時、日本が狙われた理由として「武装した人間」の少なさが考えられたからである。

 

 そしてこの法律が施行されるにあたって、手術を受け、かつ本人が望む場合にのみ、変身薬が1人2本支給されることとなった。(消費分の追加は要相談)

 彼もその例外ではない。

 

「人為変態…!」

 

 

水蛸(ミズダコ)

 世界最大種、最長寿を誇る海の死神。

 全身が筋肉であるためタコでありながらサメをも殺す力を有し、鳥のくちばしのように鋭い口で甲殻類の殻もいとも簡単に壊すことが可能。

 その腕と吸盤が生み出す怪力に人間のダイバーが死亡した例もある。

 

 

 背中から赤茶色の触手が4本生え、砂浜に異形の者が出現する。

 パーパルディア皇国の兵には、日本の『魔人』を見て本国に帰れた者はいない。

 

「あれが日本国の『魔人』か!」

 

「まずい! 総員戦闘配置!!!」

 

 精鋭兵らは機敏に動き、すぐさま陣形を組む。

 皇国の誇る魔導銃が噂の魔人にどれほど効くかは分からないが、彼らは冷静であった。

 目の前の老人が強いようには見えなかったからである。

 

「構え──! 狙えッ!! ……撃て────」

 

 

 ──ブワァ!! 

 

 

 突如、皇国兵の視界が闇に覆われる。

 

「な…なんだッ?!」

 

「魔帝が復活したのか?!」

 

「怖気付くな! 奴が黒い霧のようなものを吹き出しただけだ!」

 

 サクシードは兵達が落ち着きを取り戻すのを確認してから、号令を出した。

 

「掠りでもしたら上出来だ! 黒霧に向かって斉射!!」

 

 パパパッ! パパッパパパパ! 

 

 魔導銃が火を噴き、弾丸が闇へと吸い込まれる。

 43人による一斉射撃。敵が魔人とは言え、これの直撃を受けて生きているはずがない。

 

「どうだ…?!」

 

 手応えは十分。

 

「や…やったか?!」

 

 黒い霧が晴れ、徐々に視界が拓く。

 そこに敵の姿はなく、元通りの景色が広がるだけであった。

 

「やった…のか?」

 

「な訳があるか! 全周警戒!」

 

 彼らはお互いの背中を守るように円陣を組む。

 その中央ではサクシードとアデムが剣を抜いて背中を合わせ、前後を警戒する。

 

 ──シュルルルル!!!! 

 

 突然、砂中から触手が伸び、1人の皇国兵の足を掴んだ。

 

「…え」

 

 彼はそのまま隊列から引きずり出され、空へと投げ飛ばされる。

 

「ギャアアアアアアッ?!?!」

 

「──なッ!?」

 

 悲劇はそれだけでは終わらない。

 追加の触手が3本、隊列を囲うように生え、皇国兵を次々と掴んでは引きずり出し、投げ飛ばす。

 

「うわあああああッ!!!!」

 

「やめろぉぉぉぉ!!!!」

 

 おぞましい叫び声。

 しかし、精鋭達の士気はそれごときでは下がらない。

 

「撃てッ!! 撃ちまくれえッ!!!」

 

 サクシードの号令を合図に一斉射撃が行われる。

 細い的への命中は期待出来なかったが、運良く1発が目標ぶち抜き、切断された触手は麝香(ジャコウ)のような臭いを放ちながらビチビチと(うごめ)く。

 

「…あッ!」

 

 

 ──ズドォン!! 

 

 

 先程の一撃が痛かったのか、3分の1程が切断された触手は地面を打ち付け、そのまま暴れ回る。

 周りにいた兵士達は雑草のように薙ぎ払われ、砂が飛び散る。

 

「くそぉ……いい加減にしろッ!!!」

 

 サクシードは暴れ回る触手に剣を突き刺し、固定することに成功する。

 

「今だ! 刺しまくれ!!」

 

 彼の勇気ある行動に発破をかけられ、短刀を持った兵士達がこれでもかと触手を攻撃する。

 すると、不思議な現象が起きた。

 

「痛ッ!! 痛たたたたた!!!」

 

 戦っていると思しき老人の声がアデムのいる場所から聞こえ、全員がバッと彼の方へと顔を向ける。

 

「え…?」

 

「あれ…?」

 

 しかし敵の姿はない。

 老人は『ミズダコ』の能力の1つである、肌の色だけでなく、体の質感も砂っぽく変え、アデムの足元に隠れていたのだ。

 それを皇国兵が知る由はない。

 

「アデム殿…今のは貴方が…?」

 

「そんな訳ないでしょう? 貴方はバカなのですかぁ?」

 

 いちいち腹が立つ嫌な野郎だが、サクシード達はそれに反応しない。

 

「おい! もう一度攻撃してみろ!」

 

「はい!」

 

 皇国兵の1人が触手に短刀を突き刺す。

 するとアデムの足元の砂が僅かに盛り上がったのを、彼らは見逃さなかった。

 

「砂中だ! 砂の中に敵がいるぞ!」

 

 次の瞬間、全ての触手が引っ込んだかと思うと、足元の砂が飛び散り、老人が姿を現した。

 先程は遠目であったため顔がよく見えなかったが、戦っていた相手は皇国では滅多に見ないほどの高齢であるらしく、サクシードは度肝を抜かれる。

 

「なかなかやりよるな小童(こわっぱ)ども! だが日本は蹂躙させぬぞ!」

 

 背中から生えている触手は3本まで減っていた。

 これも『ミズダコ』の能力のうちの1つの、自切である。

 だがたった1本で人間を投げ飛ばす怪力を持っているため、脅威であることには変わらない。

 

 

 ──バチィ!!! 

 

 

 空気を叩くような強烈な音とともに、鞭を巨大化したような攻撃が行われる。

 サクシードとアデムの体は大きく吹き飛ばされ、鳥取砂丘の砂に埋もれる。

 

「艦長とアデムがやられた!!」

 

「臆するな! 皇国兵の意地を見せてやれ!!」

 

 ここまで近付かれては銃は十分に効果を発揮できない。

 そう判断した彼らは近接武器だけで1人の老人に立ち向かう。

 

 その光景はもはや、戦いではなかった。

 一方的に暴力を振るわれ、理不尽に弾かれる皇国兵。片や老人の方は、その場から1本も動いておらず、背中から生える触手を動かしているだけ。

 

 これが「ただの一般人」であると、その場にいる誰が信じられただろうか。

 

 1分も経たないうちに、鳥取砂丘から立っている皇国兵の姿は消えた。

 …2人を除いて。

 

 ──バァン!! 

 

「むおっ?!」

 

 乾いた銃声とともに、老人の腕が千切れる。

 銃声の主はサクシードであった。

 

「…どうだ! 皇国の誇る片手魔導銃の威力は!! いくら『魔人』とは言え、腕が吹き飛ばされたら失血死するだろう?!!」

 

「いんや?」

 

「…えっ?」

 

 見ると、老人の千切れた腕の断面からは、触手のようなモノがウジュウジュと生えていた。

 これも『ミズダコ』の能力の1つ、千切れた腕の再生である。

 最後の力を振り絞って立ち上がったサクシードは、現実に心を打ちひしがれ、気絶し、砂上に倒れ伏した。

 

「やれやれ…呆気なかったのう…」

 

 変態が解け、彼の姿は元へと戻る。

 しばらくすると警察の機動隊や陸上自衛隊が駆け付け、皇国兵達は拘束された。

 

 パーパルディア皇国日本本土特別攻撃隊

 拘束:44名

 重傷:6名(死者がいなかったのは、下が柔らかい砂地であったからだと思われる)

 逃亡:1名(報告にあった海魔と呼ばれる新世界生物に乗って逃走したと思われる。後に海魔は魚雷で殺処分されたが、人間の遺体は見つからず)

 

 後日、鮹積(たこづみ)の元にマスコミが大勢押し寄せ、彼は一躍有名人となった。

 バラエティなどのテレビ番組にも多数出演し、「救国の英雄」として名を馳せた彼だったが、しばらくすると表から姿を消し、手に入った大金で妻と旅行に明け暮れたそうな。

 

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