日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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36話:悪役の末路

 中央暦1640年9月13日──

 皇都エストシラント 郊外

 

 

「はあっ…! はあっ…!」

 

 太陽はすでに落ち、月明かりの下で裏路地を走る1人の女性の姿があった。

 彼女は路地裏に隠れた後、表通りで兵士達が走り回っているのを覗き見る。

 

「はあっ…! なんなんだ…あれは…!!」

 

 異常に規則正しく走り回る彼らの姿に、彼女は恐怖を憶えた。

 無表情な顔と、生物としての何かを失ったような瞳はまるで人形のようである。

 

「あの首輪と…キノコが原因か?!」

 

 彼らの首には金属の首輪のようなものが装着されており、背中側の穴から生える菌類は胞子のようなモノを放出している。

 住民も何人かが「あれ」に侵されたらしく、兵士達と同じようにレミールを探して回った。

 

 それだけではない。

 皇都にいる全ての者が彼女を捜している。そんな気さえしてくるのだ。

 

「くっ…! なぜこの私が…こんな目に……!」

 

 日本国は激怒し、血眼になって私を捜している。

 捕まれば、待っているのは恐らく「死」。

 その恐怖が彼女を体力の限界以上に突き動かしていた。

 

「アア゛アアアアアアッ!!!」

 

「しまった! 見つかったか!」

 

 屋根の上で叫んでいたのは皇国の兵士。

 仲間を呼ばれたに違いないが、路地裏は非常に入り組んでいるため、彼女の足でも逃げ切れる…

 

 ──はずだった! 

 

 何を思ったのか、屋根の上から兵士達が降ってきたのだ! 

 

 ──ドサァ!! 

 

「な…! その高さから飛び降りるのか!!」

 

 屋根から飛び降りてまで捕まえるなんて、普通の人間ならそんな発想は出てこないだろう。

 しかし目の前にいる奴らは、もはや人間ではなかった。

 

 彼らは『レミールを捕らえる』という命令に従うだけの「ゾンビ」に他ならない。

 

 レミールは逃げ出そうと必死で体を動かすが、恐怖で筋肉が弛緩してしまったらしく、体が思うように動かない。

 数秒後には彼女は腕を捕まれ、悲鳴を上げた。

 

「ああ゛ッ! 痛い!! 痛いィィィ!!!」

 

 人間とは思えない怪力で、彼女の細い腕は握られる。

 兵士(人形)達の体は人間としてのリミッターが外れており、常に「火事場の馬鹿力」並の筋力を発揮しているのだった。

 骨はミシミシと音を立て、レミールは苦痛に悶える。

 

「待て! 力を弱めろ!!」

 

 それを制止したのは、普通の革命派の兵士達だった。

 拘束が解かれ、レミールはヘナヘナと座り込む。

 彼女の腕は真っ赤に腫れており、顔の化粧はスッカリ流れ落ちていた。

 

 皇国を亡国まで追い詰めた大罪人と言えど、彼女の姿を見て同情したのか、彼らは非常に紳士的な振る舞いを見せる。

 

「レミール様、訳あって貴方の身柄を拘束します。乱暴はしないのでご安心を」

 

 そして、1人の兵士が彼女を上着で包んであげた。

 

「なぁ…ヤベェな日本国」

 

「まったくだ。人間を操る魔法なんて聞いたことがないぞ。それも20万人って…いったいどれ程の魔力が消費されたのやら」

 

()のレミールには同情するけどよ。ぶっちゃけ自業自得だよな…」

 

「それもそうだが、こんなヤバい国が文明圏外にあると予想する方が無理だろ。見てみ?」

 

 彼らが振り向くと、どこから湧いたのか、数百人もの操り人形が直立不動で整列していた。

 レミールが無抵抗なのは、この光景を見たからでもある。

 

「まあ、ひとまずは国が残ったことを喜ぶべきか…」

 

「ああ。日本も敗戦からあの強さまで漕ぎ着けたんだ。俺達も負けてらんねーよ」

 

「そうだな」

 

 こうして皇族レミールはカイオスの手に落ち、彼女の身柄は日本国へと引き渡された。

 こうしてパーパルディア皇国と日本国の戦争は完全に終結し、皇国は敗戦国として新たな未来を歩むのだった。

 

 


 

 

 1週間後──

 日本国 東京都 外務省

 

 

「やれやれ、思ったより混乱がなくて助かったよ」

 

 パーパルディア皇国との講和から1週間が経過し、外務省では幹部達が話に花を咲かせていた。

 

「本当ですね。もっとカオスになるかと心配していましたよ。特にキノコの件」

 

 キノコに汚染された人間は全て、講和後すぐに日本国から送られた特効薬によって意識を回復している。

 彼らからすれば「目が覚めたら国が滅んでいた」「おまけに怪我をしている」という状況なので、日本国政府はよくて暴動、最悪は内乱を想定していたが、予想は良い意味で裏切られたのだった。

 特に元々皇国の圧政があった地域の住民は、自分の国を取り戻せたことだけに満足しており、目立った混乱はない。

 

「新皇国軍の上層部は、レミールを捕らえた兵士を表彰するか否かで頭を悩ませているそうですよ」

 

「当たり前だろ。そんなん前世界でも悩むわ」

 

「まあそうでしょうね。ところで、戦勝国の利権はどうするか聞いてます?」

 

「たしか…とある地区の地下資源採掘権だ。今のパ皇に賠償金を払う余裕なんて無いからな」

 

 彼らの雑談は夜遅くまで続いた。

 

 


 

 

 リーム王国 王都ヒルキガ セルコ城

 

 

 第3文明圏国家、リーム王国のセルコ城で、王バンクスは宰相と話をしていた。

 

「──では、我が国はどうあっても、ほぼ全ての分野で日本国には勝てぬというのか?」

 

 怒りと困惑が混じった様子で、王が尋ねる。

 彼は皇国が負けたのは戦力を順次投入したため各個撃破されたのだろうと思っており、列強ではないがそれに準ずる強さを持つリーム王国軍の全力出撃なら日本に勝てると画策しているのだった。

 

「はい、魔法に関しては我が国が圧倒的に優位ですが、決して戦ってはならない相手です。まず武器の性能が違いすぎます。我が国の軍をどう運用しようが、日本軍が相手では1人も倒せずに全滅するでしょう」

 

「武器の性能が違いすぎるとは、どういうことだ?」

 

「例えば日本軍の歩兵が装備している一般的な自動小銃と呼ばれる銃ですが…全ての性能において皇国の魔導銃の上位互換であります。というより、もはや同じ種類の武器ではありません」

 

 宰相は続ける。

 

「特に『対かせい(火星)生物』と名付けられた銃は非常に強力で、たった数発でワイバーンもリントヴルムも、さらには伝説の魔獣であるオーガをも殺せる威力を持ちながら、100発以上を連射できます」

 

 バンクスは、おとぎ話を聞いているような気分だった。

 

「信じられんな。そんなの戦いにならないではないか」

 

「空軍や海軍はもっとすごいですよ。日本の航空戦力は音速の10倍で飛ぶとか、ワイバーンの頭だけを瞬時に焼く不可視の攻撃をしてくるそうです」

 

「10…倍…?!」

 

「海軍に至ってはファンタジーですよ。古の魔法帝国の『誘導魔光弾』に似た兵器を実用化、改良させてますし、それを撃ち落とす術を数百年前に開発しているのですから」

 

 陸軍の時点でファンタジーだわ! とバンクスはツッコミを入れた。

 

「そして日本には『魔人』と呼ばれる軍人が存在しておりまして、これの強いこと強いこと。魔王を素手で完封できる実力を持っているそうです」

 

「…そうか」

 

「あと、魔人の中には飛ぶ事が可能な者もいるらしく、これの侵入を許した軍事施設はもうどうしようもありません。なにせ人間の数倍の身体能力を持っているのですから」

 

「……そうか」

 

「あと、アルタラス王国が鹵獲した皇国の竜母や戦列艦は、実際は日本軍の魔人が海上で移乗攻撃をしかけ、数名を殺害した後に降伏させたようです」

 

「………そうか」

 

 もはや恐ろしいを通り越して、聞くことが苦痛になってくる。

 

「軍事も恐ろしいのですが、日本国はそれを支える技術力や生産力が凄まじく、兵器の新規開発能力も優れているようです。技術力の一例ですが、日本の新幹線と呼ばれる乗り物は最高時速1000kmで走行するようです」

 

「……?!?!」

 

 他にも無人で走る機械動力の車、神聖ミリシアル帝国の「ゲルニカ35型」よりも大きい飛行機械、1秒間に10の100乗回計算できる計算機械などなど、その異常な技術力の高さに、バンクスは吐き気を催した。

 

「すまん、また今度聞く」

 

 一方の宰相はと言うと、荒唐無稽とも言えるリアルチート国家誕生のおもしろさに目を輝かせ、国王の気分なぞ知ったこっちゃないという感じだった。

 

「何言ってんですか国王! 話はこれからですよ!」

 

「やめっ! やめろおおおおお!!!」

 

 宰相の話を延々と聞かされたリーム王国の王バンクスは数日の間悪夢にうなされ、日本に敵対しないことを誓うのだった。

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