日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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38話:先進11ヶ国会議

 中央暦1642年4月22日──

 神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス港

 

 

 カルトアルパスは世界有数の、広大な港湾施設を持つ港町。

 先進11ヶ国会議には各国大使を乗せた船だけでなく護衛の軍艦もやってくるため、それらのすべてを収容できるよう、会場には毎回この港町が選ばれる。

 

『第1文明圏トルキア王国軍、到着しました! 戦列艦7、使節船1、計8隻』

 

『第1文明圏アガルタ法国到着。魔法船団6、民間船2』

 

 港湾管理者の元に続々と到着する各国の軍艦の情報が集約されている。

 

「この辺りのは代わり映えせんな…」

 

 港湾管理責任者のブロントは、この先進11ヶ国会議が大好きだった。

「使者を護衛する」という名目で各国が最新式の軍艦を編成して送り込んでくるため、軍艦が大好きな彼にとって、この催しは仕事であるとともに、お祭りのようなものなのだ。

 

「ブロントさん、今回はどの国に注目していますか?」

 

 新人が聞く。

 

「今回注目すべき国は2つある。グラ・バルカス帝国と日本国の艦船だ」

 

「グラ・バルカス帝国と言うと、単艦でレイフォルを滅亡させた『生ける伝説』を建造した国ですね!」

 

「ああ、楽しみでしょうがないよ。両国とも、一体どんな船で来るのか…」

 

 彼はあまりにも楽しみで寝れず、仕事場に午前3時に到着した程であった。

 

「お、恐らくあれだろう。すごい大きさだな…」

 

 彼の視線の先にはグラ・バルカス帝国の旗を掲げた巨大な船が1隻、港に向かって来ていた。

 それは神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦を見慣れたブロントでさえも絶句する程の大きさであり、その雄々しさに見とれてしまうほどの造形美と、力強さを備えた艦であった。

 

『ブロント局長! 日本国の艦船も到着しました! 巡洋艦1、民間船1、計2隻です!』

 

 ブロントは双眼鏡で沖合を確認する。

 軍艦にしてはやけに派手な真っ白の艦が見え、その後方に大型客船が見えた。

 

「…日本国の船は変わった形をしているな」

 

「あれ? ブロントさん、日本国の船はもう見ないのですか?」

 

「興味が失せた。グラ・バルカス帝国の艦を見る方がよっぽど良い」

 

 確かに『しきしま』と『グレードアトラスター』を比較すると、後者の方が見ていて楽しいだろう。

 さて、日本国政府があれだけ辛酸を舐めさせられたのに、ここで護衛艦隊ではなく『しきしま』を随伴させた理由をお教えしよう。

 

 理由は至極単純で「国際会議の場に軍艦を使用するのはあまりにも失礼ではないか!」とマスコミと野党が騒いだからである。当然、彼らに賛同する者は少なかった。

 もう1つの理由は、神聖ミリシアル帝国の使節達にとっては砲艦外交のような外交方針が当たり前なので、彼らは「外務大臣の道中の護衛と規模は任意で可」としか伝えていなかったからであった。 

 

「まさか、ほとんどの国が戦闘艦を連れてきているとは…平和ボケ(脳内お花畑)共は、この世界の常識を忘れているようだな」

 

『しきしま』の艦長瀬戸(せと)(まもる)は愚痴をこぼす。

 

「本当ですね。パ皇の時のように見くびられなければ良いのですが…」

 

 彼らは会議の行く末を案じる。

 しかし、その不安は最悪の形となって彼らに降りかかるのだった。

 

 


 

 

 神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス 帝国文化館

 

 

 ミ帝の帝都に並ぶこのカルトアルパスは、「港町」という枕詞が不適当なほど大規模な交易都市である。

 そんなカルトアルパスの北部に、ミリシアルの繁栄を象徴するかのような豪華絢爛な建物が構えていた。

 先進11ヶ国会議の会場となる帝国文化館だ。

 

 近藤と部下の井上は自分達の着席位置を確認し、ロビーに戻って持参した水筒のお茶を飲んでいた。

 

(あと少しで始まるな…。どうなることやら。特にグ帝が)

 

(国際会議の場で何かをやらかすとは思えませんが…。ミリシアルの艦隊に()帝の艦隊が接近しているのは確かですからね)

 

(人工衛星と()()()()があるとは言え、もう少しそれを早めに知れたら護衛艦隊でも連れて来れたんだけどなぁ…)

 

(なに呑気な事を言っているんですか! 近藤さんもあの(グ帝の)傍若無人ぶりは知っていますよね?! もしあれがここに攻めて来たらどうするんですか!)

 

(まあ…海保の連中を信じるしかないさ。この世界に来てから実戦に実戦を重ねて、被手術兵の実力だけなら自衛隊を凌駕していると言われているほどの奴らだぞ)

 

 近藤達が話を続けていると、ローブを身にまとった人物が近づいてきたため、2人は脳に埋め込んだチップの電源を切り、立ち上がり、背筋を伸ばした。

 

「御二方は日本国の方──ですね?」

 

「はい、そうです」

 

「私は中央世界北西に位置するアガルタ法国、外交庁に勤めるマギと申します。以後よろしくお願いします」

 

 彼はにこやかに右手を差し出す。

 

「日本国外務省の近藤と申します。よろしくお願いします」

 

「同じく井上と申します。よろしくお願いします」

 

 2人はマギの手をしっかり握り、順に握手を交わす。

 

「ところで…なぜ我々が日本人だと?」

 

「お噂はかねがね。科学文明のみで発展したのにも関わらず『誘導魔光弾』や『魔人』を軍に配備し、あの伝説の魔王や列強であるパーパルディア皇国を完膚なきまでに叩き潰した不思議な国であるとお聞きしています」

 

 近藤たちは『誘導魔光弾』と『魔人』というワードに奇妙な違和感を感じる。

 

「えーと…何をおっしゃっておられるのですか?」

 

「「え?」」

 

「え?」

 

 微妙な沈黙が流れる。

 

「ま、まあ軍事に関しては色々と機密があるのでしょう。それよりも、我々アガルタ法国は日本国に対して非常に興味を持っています。今度、日本国にも伺ってみたいものです」

 

「ありがとうございます。是非一度、日本にいらしてください。歓迎いたします」

 

 好意的な態度に、近藤も笑顔で答えた。

 

『間もなく先進11ヶ国会議を開始します。関係者の方は、席へお戻りください』

 

 館内放送が流れる。

 2人はマギたちに会釈で挨拶し、国際会議場に戻って着席した。

 

 


 

 

『これより先進11ヶ国会議を開催いたします』

 

 議長席が並ぶ舞台を中心として同心円状に席が設えられた場内に、会議の開始を告げるアナウンスが流れる。

 

「これが先進11ヶ国会議かぁ…」

 

 近藤が呟く。

 初参加であるため日本とグラ・バルカス帝国の代表が座る位置は末席であり、舞台からやや遠いが、少し高い位置から場内を見渡せるため、近藤達はここは異世界なのだとつくづく痛感した。

 人間種以外の存在が代表を務める国も多いのだ。

 

 しばらくすると議長席付近に座るエモール王国の代表が手を挙げ、議長の指名によって発言権を得てから起立した。

 

『エモール王国のモーリアウルである。火急の件につき、心して聞いてもらいたい』

 

 彼は一息おいてから、続けた。

 

『…先日、我が国は「空間の占い」を実施した。その結果、古の魔法帝国、忌まわしきラヴァーナル帝国が、近いうちに復活すると判明した』

 

 各国の代表達の顔が青くなっていき、会場がざわつく。

 

「な…なんてことだ!」

 

「あれは伝承ではなかったのか!」

 

 しかし転移国家であるため「占い」のようなオカルト的な事物を信じておらず、それの重大性を理解できていない国があった。

 日本国と、グラ・バルカス帝国である。

 

「くっ…くっくっ…ッハア──ッハッハッハ!!!」

 

 突如哄笑(こうしょう)を始めたのはグラ・バルカス帝国の代表を務める若い女性、シエリアであった。

 会場中の視線が彼女に集中する。それは例外なく、非難の色に満ちていた。

 

『ああ、いやいや失礼。私はグラ・バルカス帝国外務省、東部方面異界担当課長のシエリアだ。魔法帝国だかラヴァーナルだか何だか知らんが、過去の遺物を恐れる諸君ら現地人の程度の低さに、呆れを通り越して滑稽さを感じたものでな』

 

『どこの蛮族かと思ったら、新参のグラ・バルカス帝国か。安心しろ。貴様らのように魔法も知らず、魔力指数の低い人間種のみの国家には期待はしていない』

 

『ふっ…科学を理解できない亜人風情が何を言う』

 

『貴様ァ! 竜人族を愚弄するか!』

 

 会議は紛糾し、せめて乱闘が起きないようにと議長達が走り出す。

 

「なんと言うか…旧世界では考えられないな」

 

「グラ・バルカス帝国も転移国家らしいですけどね。前世界でもあんな風に振舞っていたのでしょうか?」

 

 しばらくして収拾がつくと、ムーの外交官が挙手し、立ち上がった。

 

我が国(ムー)はこの場において、グラ・バルカス帝国に対する非難声明案を提示します。このところ、彼らはやりすぎている』

 

 すると神聖ミリシアル帝国の外交官も挙手し、立ち上がった。

 

『我が国もムーの提案を支持するとともに、グラ・バルカス帝国に第2文明圏からの即時撤退を求める』

 

「「──!!!」」

 

 世界最強の2ヶ国の介入。

 普通ならどんな国であろうとそれをチラつかされただけで震え上がり、剣を納める。

 

 しかしグラ・バルカス帝国がその要求を飲まなかったのは、世界が相手でも勝てる自信があったからである。

 

『1つ、勘違いしているようだから伝えておこう。我が国がこの会議に参加したのは、近隣地域の有力国の代表者が一堂に会するこの機会に、通告しに来たのだ!』

 

 彼女は机の天板をなぐりつけ、ダンッと音を響かせた。

 

『グラ・バルカス帝国帝王グラルークスの名において、ここに宣言する! 我らに従え! 我が国に忠誠を誓った国には永遠の繁栄を約束しよう!』

 

「「…………」」

 

 沈黙、というよりは絶句である。

 あまりにも突然の、あまりにも非常識な発言に、困惑混じりの糾弾が飛んだ。

 当然、日本人の2人も驚愕の表情を浮かべていた。

 

 ──ピピピ

 

 怒号が飛び交う中、日本人2人は脳内のチップで受け取った情報を聞き、再び驚愕する。

 

(近藤さん聞こえるか! 『しきしま』の瀬戸だ! グラ・バルカス帝国の艦隊がミリシアルの艦隊と交戦しているらしい!)

 

(なっ…! 彼女は正気だったのか!)

 

(そっちでも何かあったようだな。動画送るか?)

 

(ええ、お願いします。録画しておいて正解でした。緊急通達で外務省に送ってください)

 

(………動画を確認した。外務省に緊急だな?)

 

(はい、お願いします)

 

 日本の代表がそうこうしている内にも、会議は進んでいた。

 

『まずは尋ねよう! 今、この場で我が国に忠誠を誓う国はあるか?!』

 

 シエリアが叫ぶ。

 各国の返答は当然、「NO(fu○k)」であった。

 

『やはり今すぐ従属する国はないか、まぁ当然だろうな』

 

 シエリアは小さく肩をすくめ、出入口に向かって歩き出す。

 扉の前で振り返った彼女は、その日見せた中では最も真摯な表情をしていた。

 

「帝王様は寛大だ。我が国の力を知った後でも構わん。レィフォル行政府に申し出るが良い」

 

 グラ・バルカス帝国の外交団は退室し、カルトアルパス港からも去っていき、その日の先進11ヶ国会議は波乱のままに終了した。

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