神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス 帝国文化館
港町カルトアルパスはたった14kmの幅の海峡の奥にある。
正確には、カルトアルパスの両脇から南北約60kmの半年がそれぞれ突き出ており、その内側の幅が約14kmなのだ。
そんな港の一角で開かれている先進11ヶ国会議だが、こちらは朝早くから紛糾していた。
『──やはり皆様の安全を考え、早期に移動をお願いしたい!』
昨日からグラ・バルカス帝国への対応はまとまらなかった。
皆を避難させたい神聖ミリシアル帝国と、グラ・バルカス帝国を迎え撃ちたい諸国と、日本のように担当者の一存だけでは決められない国の3つに別れ、議論は一夜明けても平行線が続いているのだ。
近藤達はどちらかと言えば神聖ミリシアル帝国寄りである。
大規模即応戦力のない今、危険だから避難する。そんな単純な事がなぜ分からないのかと、彼はイライラしていた。
しかし、迎え撃つのに賛成する国にもそれなりの事情があったのだ。
各国は日本のように、最低限の戦力で来た訳では無い。彼らは砲艦外交よろしく最新鋭の艦隊を半ば見せびらかすために艦隊を派遣しているため、国家の威信が落ちることを恐れ、戦うべきだと判断したのである。
──ピピピ
(近藤さん! 外務省から連絡だ!)
(瀬戸さん、連絡ありがとうございます)
(そういうのはいい! カルトアルパスから迅速に避難しろとのことだ! もう間に合わない! 早く逃げろ!)
(──え?)
瀬戸の言った通り、彼らは間に合わなかった。
近藤の目にリアージュに耳打ちする人物の姿が映り、彼の顔が苦渋に満ちる。
『皆様、静粛に! これより重要なことをお伝えします!』
場内が静まる。
『先程、我が国の哨戒機がカルトアルパス南方約150km地点を北上するグラ・バルカス帝国の艦隊を発見しました。もう避難は間に合いませんので、各国皆様の〈 臨時連合軍を組織して迎撃する〉案を議長国権限で採択します』
近藤は頭を抱え、せめて出来ることをと考えた彼は「日本国は憲法上の問題から集団的自衛権を認めておらず、自衛のためにのみ戦力を行使するよう規定しているため、可能ならば戦場から離脱する」とだけ伝えた。
(瀬戸さん、せめて乗組員達だけでも生きて帰ってきてくださいね。日本に着いたら奢りますよ)
(ドーンと任せろ! 負けたら骨は拾ってくれよな)
(あれは戦うための船じゃないと言ってやりますよ)
(それで構わん。じゃ、気を付けてな)
『しきしま』は本国から『あらゆる手段を用いて自衛戦闘を行え』『必要とあらば「宇宙作戦隊」による1回限りの火力支援も可』としか言われていない。
つまり、
「……光栄だな」
海上保安庁の有人巡視船『しきしま』は迫り来る『
カルトアルパス港
カルトアルパス港管理局局長ブロントは恐怖と期待が入り混じった感情で空を見ていた。
上空には多目的戦闘型天の浮舟『ジグラント2』が何機も編隊を組んで南の空に消えていく。
視線を港に移すと、世界の強国と言われる国々の艦隊が、陣形を組んで南下を開始していた。
『日本国有人巡視船、出港!!』
ムーのラ・カサミ級戦艦よりも長大な、ミリシアルの巡洋艦並みの大きさの日本国の船は、最初発となる。
戦場では目立つであろう純白の美しい船体もさることながら、1隻のみで派遣してくるあたり、戦闘力に自信があるのだと彼は判断する。
『マギカライヒ共同体機甲戦列艦隊、出港!!』
『アガルタ法国魔法船団、出港!!』
『ニグラート連合竜母艦隊、出港!!』
『ムー機動部隊、出港!!』
日本国だけでなく、列強、中央世界、第2文明圏で名を連ねる強国の艦隊が次々と出港していく。
それはとても壮観な光景であった。
今回の派遣艦隊、臨時連合軍の戦力をまとめると、下記の通りとなる。
〇ムー
戦艦2隻、装甲巡洋艦4隻、巡洋艦8隻、空母2隻
〇日本国
有人巡視船1隻
〇トルキア王国
戦列艦7隻
〇アガルタ法国
魔法船団6隻
〇マギカライヒ共同体
機甲戦列艦7隻
〇ニグラート連合
戦列艦4隻、竜母4隻
〇パンドーラ大魔法公国
魔導船団8隻
〇エモール王国
風竜騎士団22騎
〇神聖ミリシアル帝国
巡洋魔導艦8隻
総勢61隻にも及ぶ、大艦隊である。
しかし列強、特に上位の国々は戦列艦等を戦力として数えていない。
それは『しきしま』も同様であった。
「約600年前の艦船に負けるとは思っていないが、こうなる前に我々だけでも逃げてしまえばよかったな」
「任せろ」とは言ったものの、相手は世界最強の戦艦である大和と全く同じ艦に、空母機動部隊が
それに比べて味方が
「日本という看板を背負っている以上、外交官殿達の顔に泥は塗れませんよ」
「分かってる。それより、支援攻撃の準備はもう出来ているんだよな? ほぼ任意のタイミングで出来るんだよな?」
「もう準備も完了しましたし、時間設定があれば誤差1秒以内でいけるそうです」
「勝ったな」
「どうでしょうね。レーダーで見た限り、敵はあまり固まってないように見え……あ、敵空母と思しき艦が飛行隊を発艦させました」
「まずはそっちか。……200機もいるんだな? なるべく一網打尽にしたい。味方に航空戦力を
「了解しました」
彼らは自らの行く末を憂う。
しかし、負けるなどとは微塵も思っておらず、虫のように冷たい戦意を滾らせていた。
『全特別戦闘員に告ぐ!
続々と港を出港していく世界の強国たる艦隊群。
それらの総数は61隻にも及び、堂々たるその雄姿は港にいる各国の者たちを安心させる。
ムーの機動部隊を指揮する司令官ブレンダスは、ムーの技術の象徴たる戦艦『ラ・カサミ』の艦上で、初のグラ・バルカス帝国との戦いを前にして自信に燃えていた。
彼は横に立つラ・カサミ艦長ミニラルに話しかける。
「敵の規模はどうなんだ?」
「はい、日本国から入った情報によると戦艦2隻、重巡洋艦2隻、巡洋艦2隻、駆逐艦5隻、空母4隻の大艦隊であります。ですが『
「戦艦の単騎突撃ィ? 敵は何を考えているんだ」
技術レベルはグラ・バルカス帝国より低いムーと言えど、戦艦の単騎突撃がどれほど無謀なのかは分かっていた。
相手が木造船ならば問題ないのだが、大口径砲を持った艦船が複数いる中に突っ込むのは狂っているとしか思えない。
「あとたった今日本国から入った情報なのですが、敵空母から200機もの飛行機械が飛び立ったようです。それらは真っ直ぐこちらへ向かってきているとも」
ブレンダスは息を呑む。
「200機か…。よし、戦闘機を発──」
「あ、いえ、待ってください。この通信には続きがありまして…」
「なんだね?」
「『超広空域制圧攻撃を行う。味方を巻き込む恐れがあるため、指定空域からの航空戦力の撤退と、離陸していない航空戦力の一時待機を要請する』と『巨大な波が発生する可能性あり。沿岸部の一般人を高台に避難させよ』です」
「はあああああああ???!!」
神聖ミリシアル帝国、エモール王国などを始めとする「航空戦力」を持つ国の人々は全員、彼と同じように声を荒らげていた。
それも当然と言えば当然だろう。この世界では航空戦力には航空戦力をぶつける他ないのだから。
「おいおい…日本国の戦艦が急加速して行ってるぞ…。我々を置いて単騎特攻する気か?」
「ゲッ…海魔みたいな速さですね。性能と言い、見た目と言い、日本国の戦艦は本当に目立ちますな」
彼らの目線の先には、その大きさからは考えられない速度で白波をたてる、戦場には似合わない真っ白な『しきしま』の姿があった。
「………技術部の連中に日本国の艦は凄まじい性能を持っていると聞いたが、本当に大丈夫だろうか?」
「…どうでしょうね? 敵飛行機械がワイバーンオーバーロード程度に強いと仮定したら、あの数を無傷で凌げる艦なんて、魔帝の『対空魔船』くらいしか思いつきません」
「まあ、あまり期待はしないでおこう。『マリン』をいつでも発艦できるようにしろ」
「了解!」
そのような指示を出したのはムーだけでない。
神聖ミリシアル帝国は近くの飛行場基地に配備されている最新鋭制空戦闘機である『エルペシオ3』をいつでも離陸させられるようにし、エモール王国の風竜騎士団や、その他の航空戦力を持つ国も同様であった。
「日本国はいったい何をするつもりだ…?」
臨時連合軍の兵達は不安と期待の入り混じった思いで『しきしま』の勇敢とも蛮勇ともとれる行動の行く末を見守るのだった。
カルトアルパス南方沖 海上
グラ・バルカス帝国空母機動部隊 第1次攻撃隊200機
グ帝の空母から飛び立った航空機約200機は、針路を真っ直ぐ、港町カルトアルパスにとっていた。
第1次攻撃隊の攻撃目標は、恐らく迎撃をしにくるであろう敵航空戦力の殲滅、異世界の有力国の連合艦隊への適度な攻撃、そしてカルトアルパスへの爆撃である。
だが実際は神聖ミリシアル帝国を打ち負かし、グラ・バルカス帝国の強さを、恐怖を全世界に知らしめるのが主目標であるため、明確な軍事攻撃目標はない。
航空隊第3中隊の中隊長スバウルは、どこまでも広がる青空を見つつ、今日は祖国にとって最良の日になるだろうと確信していた。
「ふ…帰ったら酒の1本や2本くらい開けても良さそうな気がするな。なあ、相棒? あ、お前は燃料しか飲めんかったな」
彼は相棒である『シリウス艦上爆撃機』に話しかける。
当然返事はないが、彼は自分が1人ではないと知っていた。眼前には帝国の誇る『アンタレス艦上戦闘機』が、横には苦楽を共にした第3中隊の仲間が、そして後方には『リゲル雷撃機』が飛行していたからだ。
「しっかし、敵の航空戦力はまだ来ないのか? 戦闘機の連中はさぞかし暇だろうな…」
しかし、次の瞬間であった。
──バチバチバチィ!!!!!
突如機体から大量の火花が上がり、燃料に引火したのか、両翼が内側から爆発する。
それは前や横を飛ぶ機体も同様であり、空が赤色に包まれ、黒く焦げた残骸が落ちる光景は、まるでこの世の終わりのようだった。
しかしスバウルは幸運だった。
彼は爆発に巻き込まれて即死したため、燃えながら落ちる機体の窓から、燃えた蝶のように乱れる友軍機の姿を見る事が無かったからである。
『なんだ! 何が起こっ──ザザザ──……』
『敵はなんだ! どこにいる──ザザザ──…』
かろうじて『
地獄絵図なんて言葉では生温い、最悪の現実がその海域には広がっていた。
しかし運良く生き残ったのか、それとも生かされたのか、何機かは無傷で飛行を続けていた。
『リゲル雷撃機』のみで構成される雷撃部隊30機である。
「助かった……のか…?」
彼らの眼前には雲一つない青空が広がっており、先程見た光景がかき消されそうなほど美しい海が輝いていた。
『おい! 隊長は無事か?!』
『いや、さっき
『とりあえず状況を報告しよう。いくら敵の航空戦力が弱いとは言え、魚雷を積んだまま空戦はしたくない』
『そうだな』
彼らのうち1人が無線機を手に取り、後方に待機している艦隊に報告を行った。