日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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41話:フォーク海峡海戦Ⅱ

 レーダー上に映る200もの点が一気に30まで数を減らした。

 その情報は現在進行形で単騎特攻中の『グレードアトラスター』だけでなく、後方にいる艦隊の各艦長も確認していた。

 全ての艦の艦橋が異様な空気に包まれる中、生き残りの機から通信が入る。

 

『こちらリゲル雷撃隊、突如前方の友軍機が一斉に爆発する現象を確認。その後、機体は無事なのにパイロットだけが死亡する現象も確認しました』

 

「なんだ! なにが起こったのだ?!」

 

 軍属ではないが『グレードアトラスター』に搭乗しているシエリアの、半ばヒステリックな叫び声がキンキンと響く。

 

『異界の気象現象か、敵の攻撃か、偶然が重なりに重なった事故のいずれかと思われます』

 

 しかし彼女以外は冷静であった。

 

「……さて、2つ目の選択肢は除外だな。レーダーに敵らしき姿はないのだろう?」

 

「はい」

 

『グレードアトラスター』艦長ラクスタルは当初、帝国の誇る機体が一瞬で消滅したことに少なからず驚いていたが、最終的に「原因は不明だが、たまたま不運が重なってこうなったのだろう」と判断し、冷静さを取り戻していた。

 

「艦隊司令に第2次攻撃隊を発艦させるように伝えてくれ。生き残りのリゲル雷撃隊はその場で待機、攻撃隊と合流した後、彼らと攻撃に参加させろ」

 

「了解、そのように伝えます」

 

 通信員がボタンを押し、ラクスタルが言った通りの事を友軍に伝える。

 しかし応答はない。

 

「…あれ? 艦長! 連絡が繋がりません!」

 

「『ベテルギウス』応答せよ! 応答せよ! 誰でもいい! 応答せよ!」

 

 しかし流れるのはザーというノイズの音だけ。

 いつの間にかレーダーの画面も真っ白になっており、彼らは妙な違和感を感じる。

 

「…なんだ? 故障か?」

 

 全然違う。

 彼らが知る由もないが、それは日本国のジャマー(電子妨害)であった。

 

 時は少しだけ遡る…。

 

 


 

 

 数分前──

 日本国海上保安庁有人巡視船『しきしま』

 

 

「何機かの雷撃機以外の敵はロックしました!」

 

「よし! 撃て!」

 

 護衛艦だけでなく『しきしま』にも装備されている『H・ADS(ハデス)』が音もなく何もない空間へと向き、電子レンジのような音を立てて起動する。

 

 ──ヴゥゥン…

 

 真っ向から戦うための船ではない『しきしま』はミサイル等は搭載しておらず、総合的な火力性能は低い。

 しかしこの兵器が稼働している限り、ミサイルやドローン等から攻撃を受ける可能性を大幅に下げる事が出来る。

 

 例えそれが、人の乗った航空機だとしても。

 

 水平線の向こう側を飛ぶ敵に「見えない攻撃」が襲いかかる。

『マイクロ波』への対策が十分に施されている兵器なら、これを照射されても電子部品が一時的に狂うだけだが、対策が十分ではない航空機は容易に撃墜される。

 水平線の向こう側を見るレーダーは、『H・ADS(ハデス)』の真価を画面に映し出した。

 

「敵機残り30!」

 

『よし! 特別戦闘隊行け! 1つも残さず()()()落としてやれ!』

 

 瀬戸の合図と共に甲板で待機している特別戦闘団の職員達が各々の変身薬を取り出し、服用する。

 

「「人為変態…!!」」

 

 ある者は背中から薄く透明な羽が生え、またある者は足の形状が大きく変化する。

 

 彼らは軍人でも、自衛隊員でもなく、本来の主任務は戦闘なんかではない。

 しかし軍隊に勝るとも劣らない実力を持った彼らは、何度も実戦を経験した戦闘のエキスパートである。

 

『頼むぜ! お前ら!』

 

「「応ッ!!」」

 

 蟲の群は大空へと飛び去って行った。

 

 


 

 

 生き残ったリゲル雷撃隊30機

 

 

「応答せよ! 応答せよ!」

 

『リゲル型雷撃機』のパイロットであるカースは無線機に向かって懸命に話しかける。

 先程の不可思議な現象後、何故か誰とも通信が出来ないのだ。

 

「……ダメか」

 

 無線機を手元に置き、彼は非常時の小型信号灯を使って仲間に視覚的通信を行う。

 

「こ・つ・ち・も・つ・な・か・゛・ら・な・い…っと」

 

 通信が出来ないのは艦隊だけではない。編隊を組んでいるすぐ隣の機とも無線での連絡が取れないのだ。

 

 こんな現象は今まで聞いたことがない。

 さっきの現象と何か関係があるのだろうか? 

 

「はあ…今日は最悪の1日になりそうだ」

 

 パイロット達は思い思いにコックピット内で愚痴る。

 それらは上に聞かれたら不味い内容ばかりなのだが、こんな状況ならむしろ聞こえていた方が嬉しいくらいだった。

 

「……ん? なにやってんだあいつ?」

 

 突如編隊を組んでいた機体のうち、1つが急上昇を始める。

 よく見ると機体の底の魚雷がなくなっており、何百kgもある重量物から一瞬で解放されたため、勝手に上昇してしまったのだろうと彼は考えた。

 しかしあの機体のパイロットが魚雷を意図的に投棄したのか、それが事故で落下したのかは定かではない。

 

 それが敵襲であると気付いたのは、その機体のエンジン部分から炎が噴き上がるのを見てからの事だった。

 

「あ?! 敵襲か!!」

 

「全機交戦開始(エンゲージ)!」の発光信号が送られ、彼らは編隊を解いて大空へと舞う。

 カースが操る機体はエンジンを大いに唸らせ、翼端が雲を引いた。

 

「…やけに上昇速度が速い!」

 

 機体は魚雷を積んでいるとは思えないほど軽くなり、海面がグングンと遠ざかる。

 空戦では高度を取った方が有利であるため、カースは無我夢中で太陽へと向かっていた。

 

 もはやエンジンの音も聞こえないくらい──

 

「…あれ?! エンジンは?!」

 

 実際は音が聞こえないのではなく、そもそもエンジンが機能していなかったのである! 

 

「うわぁぁああああ!!! クソっ! クソっ!」

 

 幸いにも高度は取れているため、海面に落ちるまで時間はある。

 彼は機体の体勢を持ち直し、それ以上の飛行は望めないため、姿勢を安定させ、滑空状態へと入った。

 

 仲間が「異形の何か」と空戦を広げる中、彼の機体は徐々に高度を下げていく。

 

「…なんだあれは! 人間か?!」

 

 窓から見えたそれは、友軍機のエンジンを次々と破壊し、仲間を落としていってる。

 しかし、それは航空機なんかでは無い。

 

 どう見ても人間だった。

 

「急加速に急停止?! しかもバックにホバリング?! なんて機動だ!!」

 

 恐らく敵と思われる…いや、すでに交戦しているため敵なのだが、彼らは急加速、急停止、バックやホバリングなど、人間の造る飛行物体には不可能な機動で仲間を翻弄している。

 手に持っている「剣」や「槍」で仲間の機体が次々と損傷を負い、すでに自分と同様に戦域から離脱する者が増え始めていた。

 

「どんな業物(わざもの)でも鋼鉄で出来た機体を斬るのは不可能じゃないか?! なんなんだあいつら!!」

 

 おまけに友軍機のほぼ全ては魚雷を強奪されて(?)おり、専用の運搬車がないと運べないほど重いはずの魚雷が、たった数人の羽がついた人間に海面へと運ばれていく様子が見えた。

 

「あ…! 魚雷を海面の仲間に渡している?! 敵の狙いは兵器の鹵獲か!」

 

 エンジンがない(破壊された)ためこれ以上は高度を取ることは出来ないが、操作系統と機銃は機能するはず。

 彼は操縦桿を握り、海面の敵に向かって急降下を始めた。

 

 帝国の技術が敵に伝わり、それを真似されたら祖国の進む道は一層険しくなる。

 彼は命と引き換えに祖国の安寧を選んだのだ。

 

「帝国よ! 永遠なれ!!」

 

 機銃発射のボタンをグッと押す。

 しかし何も起きない。

 

「こんな時に故障か?! クソ野郎が! このまま機体ごとぶつけてやる!」

 

 しかし、彼の目論見は叶わなくなった。

 突如機体のコントロールが効かなくなったかと思うと、両翼が根元からモゲているのに気付いたのだ。

 

 カースは空を仰ぎ、未だ無謀な空中戦(ドッグファイト)を繰り広げる友軍の奮戦を願いつつ、祖国の未来を憂う。

 バランスを失った機体は、パイロットを抱えたまま海面に激突し、木端微塵に砕け散った。

 

 

 

 その後──

 

「よし、ほとんどは無傷で鹵獲出来たぞ。傷物は捕虜と一緒に『しきしま』行きかな」

 

 不時着した機のパイロットを全員ゴムボートに収容した海上保安庁の職員らは、鹵獲した魚雷を海に浮かべ、調査をしていた。

 

「で、これ大丈夫そうか?」

 

「ああ、調べた感じだと、まずは安全ボルトを取って、次に木製のキャップを取ったらスクリューの固定ロックが解除されて………」

 

 調べたところによると、グラ・バルカス帝国が一般に配備している航空魚雷は旧日本軍の『九一式魚雷』とほぼ同等であることが分かった。

 その起動方法も捕虜を尋問したら聞き出せたため、彼らはいつでも魚雷を起動できるようになっている。

 

「じゃあ今言ったことをやったら、後はこれを抱えて泳ぐだけ?」

 

「そうだ。しばらく泳いだら勝手にエンジンが作動するらしいから、後は作戦通りにな」

 

「了解」

 

 瀬戸船長の作戦が上手く行けば、これらは全て無用となるが、作戦が失敗した時用の保険として彼らは複数の人員を残して別れることとなった。

 

 


 

 

 日本国海上保安庁有人巡視船『しきしま』

 

 

「船長、特戦隊が魚雷の鹵獲に成功。操作方法も調査と尋問によって判明いたしました」

 

「よし、これで保険は揃ったな。敵艦隊の通信に割り込め。敵艦同士が連絡できるように、ジャマー(電子妨害)は一旦中止」

 

「…本当にやるんですね」

 

 副船長が苦々しい顔をする。

 場合によっては、これから何千もの命が一瞬で消えることとなるのだから。

 

「『しきしま』だけで巨大な鋼鉄の城を沈めるのは厳しいからな。撤退させるか、少なくとも数を減らしてからでないと俺らが危ないのは理解してくれ」

 

「理解しているつもりですが、やっぱり嫌なもんですよ」

 

「…俺もだ。さっ、降伏勧告を行うぞ。これをやっとかないと色々な団体がうるさいからな」

 

 

 

 旗艦オリオン級戦艦『ベテルギウス』の艦橋に、突如知らない男の声が流れた。

 

『あーあー。こちら日本国海上保安庁「しきしま」の瀬戸です。この通信を聞いているグラ・バルカス帝国の1番偉い人、応答せよ』

 

「「ッ?!?!」」

 

 当然だが、全ての艦の艦橋は騒然とする。

 先程まで全く通信が使えなかったのに、いきなり敵から通信が届くなんて驚かない方が無理だろう。

 なにより、敵に通信を送るなんて自らの位置を曝しているようなものであり、ハッキリ言ってそんなことをやるのはバカしかいないからだ。

 

「司令! 他艦とも連絡がつきました!」

 

「待て! まずは敵と話してからだ!」

 

 瀬戸の通信に最初に返事をしたのは、オリオン級戦艦『ベテルギウス』に搭乗する艦隊司令アルカイドであった。

 

「グラ・バルカス帝国の東征艦隊司令のアルカイドだ。日本国の瀬戸と言ったな。何の用だ?」

 

『ようやく応答してくれたな。全艦撤退しろ。さもなくば沈める』

 

 予想通りと言うか、予想の斜め上と言うか、全員が「こいつはバカなのか?」と全く同じ感想を抱く。

 これで撤退する敵がいるわけないからだ。

 

「ふっ…バカめ! そんなことする訳ないだろう?! 貴様の住む日本国というのは相当な平和ボケ国家のようだな?!」

 

『え〜。殺さないでおいてやるって言ってるのに?』

 

 敵は随分と腑抜けた奴なのだろうとアルカイドは判断した。

 

「烏合の衆で何が出来ると言うんだ? 日本国は我が国と同じように転移国家であるらしいから、少しは期待していたのだが、蓋を開けてみれば小口径の砲を数門しか搭載していないではないか! そんな豆鉄砲で我らに傷を付けようなど片腹痛いわッ!!」

 

 瀬戸は少し考えた後、言い方を変えた。

 見方によっては彼は他の艦を人質に敵を脅すカス野郎にも見えるが、これなら作戦の主導権を握る人は変わり、場合によっては戦わずに済むかもしれない。

 

『じゃあ1隻だけで接近して来てる「グレードアトラスター」聞こえるか? 直ちに回頭し、仲間を連れて帰れ。さもなくばお前ら以外を沈める。これは艦隊司令にではなく、あくまで「グレードアトラスター」の艦長に言っているからな?』

 

「「…?????」」

 

 この通信は『ベテルギウス』だけでなく、他の艦も聞いている。

 いきなり話題を振られた『グレードアトラスター』艦長ラクスタルは困惑しながらも返事をした。

 

「なぜ『グレードアトラスター』だけが接近していると?」

 

『機密情報だから詳しいことは答えねーよ。でも「GA(グレードアトラスター)」だけが真っ直ぐ北上してんのはバレてんぞ。他の艦はその後方、約40kmの所で約5ノットで進んでいるのもな』

 

 瀬戸と言う名の人物が言ったことは全て正解だった。

 

「何が目的だ?」

 

『言ったろ? 「GA」艦長に告ぐ、直ちに回頭し、仲間と共に撤退しろ』

 

「回頭しなかったら?」

 

『「GA(グレードアトラスター)」以外を沈めて、あんたらはお持ち帰りだ』

 

 言葉は通じるのに話が通じない。

 これは何とも奇妙なことであり、滑稽でもあった。

 

「司令に通信は繋がるか?」

 

「いいえ、もう繋がっていません。さっきのも含めて、恐らく日本国の仕業かと」

 

「あくまで私の一存で決めろと言うことか…」

 

 ラクスタルは考える。

 

 もし日本国の言うことが本当ならば、彼が撤退の命令を出さなかった場合、後方にいる艦隊は全滅するのだろう。

 だが、ハッタリかもしれない。

 

 いや、ハッタリだろう。

 日本国は電子系統の技術ではグラ・バルカス帝国よりも優れているのだろうが、軍事的にはそこまで強くないため、我々と戦うことを恐れているのだ。

 

「通信士、日本国に『バカめ!』だ。伝えろ」

 

「は、はい! バカめ!」

 

 通信は終わる。

 それは終わりの始まりでもあった。

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