これもいつも読んでくれている皆様のおかげです!
ありがとうございます!
日本国海上保安庁有人巡視船『しきしま』
『バカめ!』
──ブチッ!
小学生のような悪口を吐かれ、敵との通信は強制的に終了する。
「バカめ!」はつまり「断る!」と同義語であると捉えて良いだろう。
瀬戸は歯痒い思いをしながらも、「支援攻撃」の着弾地点や細かな秒数を入力し、攻撃要請を行った。
「よし、例のあれはダウンロード出来たな? スピーカーに繋げていつでも流せるようにしておけ」
「了解しました…本当に流すんですね、あれ」
「もちろん。機密情報の漏洩防止だよ」
日本国 防衛省 『宇宙作戦隊』本部
二十一世紀初期に創設された自衛隊の新たな宇宙部隊『宇宙作戦隊』。その人数と規模は約500年で比べ物にならないほど大きくなっており、宇宙空間における作戦行動の重要性がどれだけ膨張したかを裏付ける。
彼らの主任務は『
しかし、今日という日は違った。
「司令、『しきしま』から支援攻撃要請です」
「やっぱり来たか。これは最終手段なんだが…人命には替えられん。応えてやれ」
「了解」
複数の職員がパソコンに
現代地球では複数の軍事大国が存在する。その例にはアメリカを筆頭に、中国やロシアなどが上げられる。
当然、この三国やその他の国の仲は良いとは言えず、大戦は起きていないものの、お互いに何百年も砲口を向き合っているくらいであった。
そんな彼らが、技術の進歩と共に開けた、空中、海中に次ぐ新たな戦域を無視しない訳がない。
各国は次々に
しまいには原子炉を搭載した物や、人工隕石を降らせる巨大な物までが実用化される。
人類は宇宙空間すらも戦場に変えたのだ。
しかし日本国は憲法や民意という鎖にガッチガチに縛られていたため、宇宙空間における防衛という分野では他国よりも何歩も遅れていた。
技術的には可能でも、日本国は明らかに他国の領土を脅かすような兵器を配備できない。
衛星に搭載できるとすれば、『対火星生物用』や『必要最低限』を謳った『
しかし当然ながら、これだけでは宇宙空間における日本国の安全は守れない。
そんな中、とある研究者が紅茶を片手に思い付いた。
「武装なんかしなくても、人工衛星自体を兵器にすりゃあええやん!」
まさに逆転の発想から生み出された、現代の『
すぐさま防衛省はこれを承認。
数世紀前に編み出された『徘徊型自爆ドローン』の発想の応用で『
その概要は、世界でもトップレベルの技術力を持ちつつも、敵国への攻撃方法が限られる国にしか真似できない、まさに
『人工
文字通り人工衛星を落下させ、物理的なエネルギーのみで敵国の軍事施設(軍事施設だけとは言っていない)を破壊する兵器構想。
ロケットの技術が発達した現代、打ち上げられる物体の大きさや重量が大幅に増えたことや、宇宙空間での戦闘行為が危惧されるため、ほとんどの人工衛星は巨大化、武装化を経た。
その中でも日本国の人工衛星の大きさや重量、武装の少なさは突出している。
日本国の人工衛星の重量は脅威の100トン。
その重量の90%以上は内部の精密機械を覆う特殊な合金で出来た殻によるものであり、積極防衛を謳う日本国は他国の軍事衛星の攻撃による被害を軽減するための装甲だと説明した。
どれだけハイテクな時代になっても、ただ飛来してくるだけの金属塊がどれだけの脅威かは各国の軍人も理解している。
しかし日本の金属塊はやり過ぎだった。
ザッと計算してみた結果、落下エネルギーは数百年前に広島に投下された原爆に匹敵する。
しかもそれは空中で爆発するのではなく、そのまま落下してくるのだ!
加害範囲は原爆に劣れど、地下鉄や簡易防空壕、地下深くに建設されたシェルターでさえも、これの前では無意味!
おまけに日本国は「それ」の軍事転用の意思は認めておらず、彼の国があれを打ち上げた理由はあくまで気象観測であるため、表立って非難することはできない。
──と言うのが、世界的に噂されているネット都市伝説であった。
しかし火のないところに煙は立たぬ。
日本国はいざとなれば「衛星」を任意の場所に好きな時間で落下させる事も可能だったのだ。
何度も日本を救った『
グラ・バルカス帝国 東征艦隊
『あーあー、再び日本国の瀬戸です。グラ・バルカス艦隊司令アルカイド応答せよ』
しばらくすると、レーダーも無線も使えない艦橋に、再び瀬戸の声が響いた。
アルカイドは「また降伏勧告か?」と顔に笑みを浮かべる。
彼は頭の中で、どんな言葉で断ってやろうと妄想をしていたのだ。
「艦隊司令アルカイドだ。また貴様か、何用だ? 『グレードアトラスター』はどうした?」
『「グレードアトラスター」は俺達の降伏勧告を無視し、北上を続けている。もうあんたらはおしまいだ。1隻も助からない』
またこのハッタリか。と、同じく通信を聞いているラクスタル艦長は思う。
『だから冥土の土産にしちゃあしょぼいが、あんたらの連絡機能を回復させてやる。戦友に最後の別れを告げるが良い』
瀬戸は続ける。
『タイムリミットは…5分だ。ちなみに海洋のど真ん中で出来ねえと思うが、本国への連絡はさせねぇぞ? そこはキッチリと制限するからな。じゃあ、よーい始め』
通信が切れると同時に、他艦との通信が回復する。
やはり日本国は電子技術は帝国より優れている。だが、戦うのを恐れているようだ。
「ふっ…はっ! ハッハッハ!!」
艦橋が笑い声に包まれた。
嘘もここまで堂々としていれば、もはや面白いとさえ思えてくる。
レーダーは相変わらず使えないが、周囲に敵らしき姿はない。
たった5分で空母機動部隊を含む(すでに艦載機はほとんど無いのだが)大艦隊を全滅させるなんて無理に決まっている。
「『グレードアトラスター』艦長ラクスタル
『日本国の重巡洋艦はどうしましょう?』
「あの真っ白な奴か。鹵獲できれば良いが、そんな暇はないだろう。サクッと沈めてくれ」
『了解しました』
彼らは気付いていない。
いや、気付く由もない。
すでに超高空から破壊の火の玉が迫っていることに。
遡る事少し前──
カルトアルパス沖 海上保安庁有人巡視船『しきしま』
敵との交渉が失敗に終わり、カルトアルパス沖で停泊する『しきしま』から、本国の『宇宙作戦隊』に支援攻撃を要請した瀬戸は、双眼鏡でカルトアルパスがある北の方を眺めていた。
「
「ミ帝に繋げました。どうぞ」
彼は魔信器を手に取り、話しかけた。
「こちら日本国海上保安庁有人巡視船『しきしま』船長瀬戸です。神聖ミリシアル帝国艦隊応答せよ」
『こちら神聖ミリシアル帝国南方地方隊の巡洋魔導艦隊司令のパテスだ。戦果を独り占めにしようとする強欲な日本国が何用かね?』
旗艦『ゲイジャルグ』に搭乗する彼の声は、怒りにも呆れにも似た感情を孕んでいた。
「その節は大変申し訳ございません。敵航空機200機は全て撃墜したのでご安心を」
『…本当か? それは素晴らしい』
やはりまだ怒っている。
『ところで沿岸部の一般人は全員避難させたぞ。来るんだな? 高波が』
「はい、世界連合の各艦にも転覆しないよう伝えてください」
『承知した。そこまで言うのならば、日本国の力を見せてみよ』
怒りがある程度期待へと変わり、通信が切れる。
瀬戸はミ帝が言うことを聞いてくれるのか心配していたが、帝国の上層部は思ったよりも優秀なようだった。
「よし、始めるぞ! 気合い入れてけよ!」
「「了解!!」」
彼はマイクを手に取り、すでに近くまで来ている世界連合にもスピーカーの音が聞こえるように音量を調節した。
『これより敵艦隊に攻撃を行う!日本国科学呪文式賛美歌、詠唱開始!!』
そして彼はスイッチを押し、その海域にとある音楽が流れ始めた。