世界連合艦隊 神聖ミリシアル帝国 南方地方隊 巡洋魔導艦隊旗艦『ゲイジャルグ』
日本国の巡洋艦との通信が終わり、ミ帝の魔導艦隊司令であるパテスは、横にいるニウム艦長に問う。
「ニウム艦長、日本国はいったい何をするつもりだと思う?」
「さあ…全く予想がつきません。『超広空域制圧攻撃』なる魔法も初めて聞きました。味方航空機の撤退を促したということは、無差別範囲攻撃でしょうか?」
「でも日本国に魔法は無いと聞いたぞ」
「そうなんですか。じゃあ我々にとって未知の分野となりますね」
日本国は科学だけで発展を遂げてきた不思議な国であるらしい。
科学という分野ならばムーもそうであるため、彼らはムーの艦隊司令に日本国がどのような攻撃をしたのか、そしてするのかを聞いてみたが、失敗に終わった。
曰く、全く見当もつかないと言う。
『超広空域制圧攻撃』に関しては、ムーは日本国の巡洋艦が大量の対空魔導砲のような物で「弾幕」を張ったのではないかと予想していた。
「ムーも分からないとなると、日本国独自の物か…」
「そもそも『超広空域制圧攻撃』で敵の飛行機械を落としたのでしょうか? それとも、これからその魔法が起きるのでしょうか」
「分からんな。それは戦後に聞いてみる他ない」
2人はしばらく雑談を続ける。
それからしばらくすると、日本国の真っ白な巡洋艦から、魔導拡声器のような物で大きくしたと思われる、瀬戸の声が聞こえてきた。
『これより敵艦隊に攻撃を行う! 日本国科学呪文式賛美歌、詠唱開始!!』
「「なッ、なんだそれはッ?!?!」」
それは魔法文明にとっても、科学文明にとっても、完全に未知の物であった。
それもそうである。これはハッタリなのだから。
だが、このハッタリはとんでもない勘違いを起こすと共に、日本国の最終兵器を隠蔽することに成功した。
「かッ…科学呪文? じゅッ…呪文式賛美歌? 聞いた事が無いぞ?!!」
古の魔法帝国の遺産を研究しているため、魔導技術では世界最先端を誇る神聖ミリシアル帝国の人間ですら、そんなものは聞いた事がない。
「呪文や詠唱と言っていることから予想するに、魔法ではないか?!」
「いいや! 科学呪文だと言っていただろう?! 恐らく魔法文明と科学文明が手を取り合ってこそ生まれる「なにか」だと思うぞ!」
「いや、魔力反応が感じられない! やはり完全に科学の産物ではないのか?!」
瀬戸の目論見通り、世界連合に参加している各国の艦隊は
神聖ミリシアル帝国やムーは日本国が『
だが、いくら友好国とは言え、無数の目の1つを失う代わりに空から攻撃できるという最終手段を知られる訳にはいかない。
そのため瀬戸はややこしい言葉を言い放ち、人工衛星の落下という事実を上手く隠蔽しようとしたのだ。
「目論見通りですか? 船長」
「ああ、最高だ。まさかこれほどまでに混乱してくれるとは思わなかったよ」
「人が悪いですね。じゃあ動画を再生しますよ」
「頼む」
脳内のチップとスピーカーを無線で接続し、副船長はダウンロードしておいた動画を再生し始めた。
「ん…? 待て! 何だこの音楽は?」
混乱を極めていた艦隊に、とある音楽が流れ始める。
それは現代日本人なら人生に1回は聞いた事があるであろう、あの曲だった。
『母な〜る〜大地の〜 ふところに〜』
大地讃頌
1962年に、大木惇夫の作詞、佐藤眞の作曲により書かれた「混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』」の終曲である。
「懐かしいなぁ! 中学生の時に歌ったこれを、まさかこんな所で大音量で流すとは思わなかったよ」
「私も歌いましたよ、これ。懐かしいな〜! 我ら〜人の子の〜喜びはあ〜る〜」
『大地〜を愛せ〜よ〜 大地〜に生〜き〜る〜』
未だ流れ続ける未知の曲に、連合艦隊の面々は度肝を抜かれながらも、聞き入る。
それはパテスとニウムも同様であった。
「これは日本国の賛美歌でしょうか? 日本人は神ではなく、大地を愛すのですね」
「まあ日本国には
しかし1つの曲としては良いのだが、呪文詠唱にしては遅すぎる。
神聖ミリシアル帝国ではとうの昔に高速自動呪文詠唱を実用化しているため、違和感は拭えなかった。
「…遅いな。賛美歌と言っていたが、賛美歌自体が呪文なのか?」
「その可能性はあるかもしれません。我々に真似できそうな物ならば、我々も賛美歌詠唱式の魔法を研究するべきでしょう」
世界最先端、世界最強というプライドなどとは言っていられない。
他国に優れた物があるならば、我々も真似をするだけである。
パテスは魔信機を手に取り、問う。
「日本国よ。これは何分ほど続くのだ?」
『ええと…3分です』
「そうか、教えてもらい感謝する」
通信を切る。
「3分か…威力が低ければ研究案はボツだな」
「確かにちょっと長いですね。早める事は出来ないのでしょうか?」
彼らは考察を進めていく。
これから高波が来るなんて事は、すっかり忘れていた。
グラ・バルカス帝国 東征艦隊旗艦『ベテルギウス』
「アルカイド司令、あの…ちょっと来てください。艦長も」
「なんだ?」
このタイミングで海上の観測を行う人物から、着いて来るように言われる。
彼は日本国の艦隊でも来たのだろうと考えた。
だが、まずは自分の目で見ないことには始まらない。
2人は言われるがままに着いて行き、艦橋付近の見張り台に到着した。
「…何も見えないではないか」
「いいえ。司令、上です」
「上ぇ?」
彼は空を見上げる。
彼の視界に燃え盛る火の玉のような、炎を纏う石のような物体が写った。
「なんだあれは? まさか日本国の攻撃ではないだろうな?」
「さあ…? 隕石ではないでしょうか?」
彼らの常識からすれば、隕石を降らすなんて不可能である。
そのため、これが日本国の宣言通りの攻撃だとは判断しなかったのだ。
「段々大きくなっていないか? 付近に落ちたら転覆する可能性もあるぞ」
「そうですね…。一応退艦の用意はさせておきましょう。内部にいるよりかは、助かる確率は高いはずです」
「そうだな。いつでも退艦できるように伝えておけ。他の艦にも発光信号で退艦用意の命令を伝えろ」
「了解」
口にこそ出さなかったが、アルカイドは微かな不安を感じていた。
もし日本国の言う事がハッタリではなく、本当だとしたら?
状況的に考えて、この艦隊は
直接的な被害を受けなくとも、その衝撃波や、引き起こされる巨大な波によって艦が損傷、沈没する恐れさえあるのだ。
艦に直撃した場合、鉄の塊が一瞬で木端微塵にもなるだろう。
「艦長、進路を少しだけズラしておこう。他の艦もだ」
「え? 分かりました…」
グラ・バルカス艦隊は念の為、お互いに距離を取りながら、針路を東に向ける。
それが焼け石に水程度の効果すら無いことは、誰も知らない。
同時刻──
世界連合艦隊
巨大な火の玉の姿は、世界連合も確認していた。
「おい! なんだあれは!」
こちらはグラ・バルカス艦隊とは違い、火の玉が炎を引いているのをハッキリと確認できている。
中にはその姿を後世に残そうと、魔写を撮ろうとする者もいた。
ミ帝艦隊の旗艦『ゲイジャルグ』に搭乗するパテスは、未だ流れ続ける音楽に耳を傾けながらも、驚愕の表情を浮かべていた。
「あれは隕石か?! まさか日本国は隕石を降らす魔法を開発したと言うのか!」
「司令! 落ち着き下さい! そんなことが出来るのは神以外におりませぬ!」
「バカものッ! 賛美歌は神に捧げる歌だろう?! 日本国は神の力を借りて隕石を降らしておるのだ!!」
「まさか……そんなことが…いや、有り得ませぬ!」
彼と同じように考えている者は、他の艦にも居た。
それは日本国のロデニウス大陸における伝説を知っている者ばかりである。
曰く、現地のエルフが祈りを捧げたところ、太陽の印を掲げた太陽神の使者が救いに来た、と。
曰く、彼らは自らを日本国の者だとおっしゃった、と。
日本国は太陽神の使者!
そして彼らは神の力を借りて、隕石を降らしているのだ!
流れる曲は最後のクライマックスに入る。
隕石の放つ光が雲を妖しげに輝かせ、その場にいる全員がその光景に、感動に似た「何か」を憶える。
「ああ…! 神話の到来だ!」
「ラヴァーナル帝国よ! 見てるか! これが太陽神の使者の力だ!」
それに神々は怒り、彼の国が支配するラティストア大陸に大隕石を落とそうとした。しかし彼らは国全体に結界を張り、大陸ごと未来へ転移して隕石から逃れたと神話では語り継がれている。
それはまさに、異界の驕り高ぶった侵略者を打ち払う、神々の怒りそのものであった。
その美しくとも残酷な光景に、ある者は膝をついて祈り、またある者は感動に打ち震える。
豪炎を纏う物が、人工物であるとも知らずに。
「瀬戸さん、あいつら何をやっているのでしょうか?」
「さあ…? この世界の宗教じゃないか? 火星に行った日本人の言葉を思い出すな。ええと名前は…」
〈たとえ火星に神がいなくても、地球にはいる〉
人は天を見て祈る。
そして
象徴的なものでは『塔』や『
「落ちるぞ。総員衝撃に備え」
「おォ…!! 神よ…!」
「なんだあれはッ!!」
「すまない…」
「貴艦に武運を…」
「戦友よ、仇は取るぞ。安らかに眠ってくれ」
流れる曲は最後の締めを迎える。
『稲妻』や『流星』を見て、人々は想った。
神を、先祖を、時に…仲間を──
──ドォォォォォォォォ……………………
世界連合の面々の視線の先が、太陽のように輝き、直後に巨大な水しぶきが水平線の遥か向こうに姿を現した。
それに混じる人工物も、彼らは認識する。
「あれは…軍艦…?」
それは、恐らく日本国の情報にあった敵の空母機動部隊なのだろう。
遠くで轟く爆音と、沈黙だけが海域を支配する。
神の御業を見た後で、陽気に笑える者はいなかった。