グラ・バルカス帝国 『グレードアトラスター』
『総員高波に備え! 貴重品の固定も急げ!』
『外にいる者は内部に避難しろ! 急げ急げ!』
グレードアトラスターは艦内、甲板共にパニックを起こしていた。
日本国の勧告を無視して北上した結果、あろうことか、彼の国は隕石を降らしたのだ。
隕石の大きさやトン数は不明だが、それが後方の空母機動部隊を含む東征艦隊から僅か数十mの地点に落下。
海面は大きくうねり、複数の艦がとてつもない量の水を被り、転覆。何とか転覆を免れた艦も想定を遥かに上回る高さの波に持ち上げられ、揺さぶられ、甚大な被害を被る。
そして未だ被害は受けていないものの、『グレードアトラスター』も津波への対応に追われていた。
「シエリア殿、艦橋も安全とは言えません。どうか安全な所に避難を!」
「わ…わかった!」
艦長であるラクスタルは飛ぶ鳥を落とす勢いで指示を次々に出し、操舵手は波が来ると思われる方向へ艦を斜めに向ける。
その動きの迅速たるや、彼らが帝国の最大最強の戦艦に乗り込む精鋭であることが伺える。
『艦長! 巨大波が来ました!』
「総員衝撃に備えッ!!!」
ラクスタルは手すりに掴まり、水平線を睨む。
そこには駆逐艦を丸ごと飲み込みそうな高さの白波が立っていた。
「波高はッ?!」
「恐らく20m前後かと!」
「20……! 耐えられるのかッ…?!」
波は刻一刻と迫っており、船員達はやれるだけの事をする。
しかし圧倒的に時間が足りない。
「甲板にいる者は全員、艦内に避難させました!」
「各種砲弾の固定強化完了! 安全装置もくまなく調べました!」
ジワジワと壁が迫り来る。
うるさいはずの艦内が、酷く静かに思えた。
「来るぞぉ! 気を付けろ!!」
──ゴゴゴゴゴゴ………
65000トンもある巨艦が持ち上げられ、まるで惑星の重力が狂ったように、船体が傾く。
ギギギと船体が軋むような音が発生し、固定していない備品が床を転げ落ちる。
そして一瞬だけ全員が重力を失い、次の瞬間に床に叩きつけられた。
「…………助かった…のか?」
『次が来るぞ!! 耐えろ!!』
しばらくすると、再び同じことが繰り返される。
次は波の程度が低かったのか、1回目ほど酷くはなかった。
しかし…
『また来るぞ! 捕まれ!』
波は何回も、何回も『グレードアトラスター』を襲い、その度に乗組員達は痛い思いをする。
しばらくして警戒態勢が解かれると、船員達は過度の緊張と恐怖から解き放たれと喜び、ヘトヘトになりながらも立ち上がった。
「助かった…!」
『グレードアトラスター』
乗組員約3600人
死亡:9名
重傷:61名
軽傷:332名
大量の水を1度に被ったため、甲板にあるほぼ全ての備品が破損。
対空砲も何基かが破損。艦の戦闘力に影響無し。
他、目立った損傷無し。
結果:小破
ラクスタルはホッと一息つき、立ち上がった。
運が悪ければ、今ので転覆、もしくは沈没していたかもしれない。
あの高波に耐えるとは、さすが帝国の最新鋭の戦艦なだけはある。
「艦長、東征艦隊は恐らく全滅しました。この海域にいる帝国の戦力は我が艦のみです。どういたしましょう?」
「当初の予定通りに行くぞ。我が艦のみで海峡を封鎖し、世界連合を打ち破る。その後にレイフォリアまで帰るぞ」
「……日本国はどうしますか?」
「この世界では魔法を行使するには魔力が必要らしい。あれ程の大魔法だ。そう何発も行使出来ないと信じよう。それに、奴らはもう我が艦を攻撃できまい」
周りの空気が冷たくなる。
それも当然だ。もう一度あんな攻撃を受けてみろ。どうやっても助からないのは目に見えている。
「…なぜ隕石攻撃はもうないとお考えになられるのですか?」
「じゃあ、なぜ日本国は『グレードアトラスター』ではなく、後方の艦隊を狙ったと思う?
副艦長は少し考えた後、気付いた。
「はっ…! 距離が近すぎるから…!?」
「そうだ。そして今、世界連合の奴らも波への対処に明け暮れているはずだ。そこで疲弊したところを叩く!」
流石はラクスタル。『グレードアトラスター』の艦長に選ばれるだけの事はある。
だが、彼が1つだけ忘れていたのは、
そしてもう1つの誤算は、さっきの波も、世界連合の所に着くまでには、だいぶ威力が弱まっているのだ。
数十年に数回、地球に落ちてきては、世界を震撼させる物に比べれば、かなり小さく、軽く、そして遅いのである。
それでも落下地点付近の被害が甚大になるのは変わりないが、多少離れてしまえば、その被害は微々たるものと言っても良い。
実際、世界連合の面々は高波が来ると聞いていたが、来たのは複数回に及ぶ2m〜5m程の高波。
小舟にとっては転覆するのに十分な高さだが、ある程度まで発展した技術で建造された軍船にとっては、そこまでの脅威ではない。
「ふぅ〜
『しきしま』の船長瀬戸は、津波が思ったよりも低いことに安堵していた。
「津波は水深が浅い所ほど高くなりますからね。ミ帝に沿岸部の避難警報を解除させないように伝えておきましょう」
「おう、頼んだ」
彼はレーダーのスクリーンを見る。
そこに『グレードアトラスター』と思われる点は顕在であった。
「流石にこんくらいじゃあ『大和(もどき)』は沈まないか。しかも、まだ北上を続けているぞ。
「となると…当初の作戦通り行くのですね?」
「そうだ」
瀬戸はマイクを手に取った。
『世界連合に参加する各国にお伝えします。我が国が行った先程の攻撃により、敵は「グレードアトラスター」の1隻のみとなりました』
これを聞いた世界連合の面々は震撼すると共に、上層部に日本国と早めに国交を結ばせようと決意する。
そして日本国から敵艦の正確な位置情報を提供された航空戦力を持つ国々は、追撃戦に移行した。
少なくとも、彼らは「追撃戦」だと考えていた。
相手を手負いの獲物だと思っていたのだ。
「瀬戸さん、なぜ敵の正確な位置を教えたのですか? 彼らが壊滅するのは分かっているでしょう?」
「いやいや、我々だけが戦果を独り占めにする訳にはいかないからな。なんなら彼らに倒してもらえば良い」
これは外務省への配慮でもあった。
もし日本国だけで敵を討ち滅ぼしたとなると、各国から「新参で文明圏外国のくせに強欲」と思われるのは想像に容易い。
それこそ「日本脅威論」なんて出たら最悪だ。
ならば、ここで味方に戦果を譲ってしまおう。
我々は敵を攻撃したが、残っている敵がどれだけ疲弊しているのかは知りません。後はご自由に。
全滅したら骨は拾っておきますよ!
そう、これからグラ・バルカス帝国と戦うことを考えると、彼の国が強いという事を各国に知ってもらわなければならない。
敵はVT信管を使用しているとの情報もあったため、恐らく味方の航空戦力は大打撃を受ける。
そうなったら、功を急いだ世界連合は敵に向かって突撃し、大損害を被るはずだ。
『しきしま』がこの戦場で生き残り、なおかつ日本国の顔に泥を塗らないようにするには、世界連合が疲弊したタイミングを狙って、戦う必要がある。
これから『
「魚雷は鹵獲できましたが…さっきの津波で半分程が勝手に走り始めたと通信が入りました。残った魚雷は15本で、あれを『大和』と同等だと考えると、とても数が足りません」
「沈めるのは無理ってことか? じゃあミ帝やムーにやってもらおうぜ。その方が日本のダメージは少ないだろ」
「いやいや…。あれが『大和』に勝てると思いますか? 衛星からの動画を見るに、中破もいっていないと思いますよ」
「………無理そう」
瀬戸を含む『しきしま』の乗組員達は、日本国の勝手で死んでいく数多の人間に対し、手を合わせる。
政治的な配慮がなければ、彼らが死ぬことはなかっただろう。
それでも、彼らはその道を選ぶしかなかった。
日本が生きる時代、世界は、強ければ良いと言う単純なものではないのだ。
『こちら神聖ミリシアル帝国、敵艦に対し、航空攻撃を行う』
『我がエモール王国も風竜騎士団を発進させようぞ』
『
ムーの空母から複葉機の『マリン』が、ニグラート連合の竜母からは『ワイバーンロード』が、神聖ミリシアル帝国の航空基地から制空戦闘型天の浮舟『エルペシオ3』、爆撃型の『ジグラント3』、そしてエモール王国の風竜騎士団22騎が飛び立ち、『グレードアトラスター』のいる海域へと真っ直ぐ向かう。
「すっげぇ光景だな…」
「ワイバーン」に「風竜」に「複葉機」に「ジェット機もどき」が空を飛んでいる光景は妙にチグハグな感じがして慣れない。
だがこの世界の者にとっては、世界の強国が一丸となって異界の蛮族を叩きに行く、素晴らしい光景に見えただろう。
逆に『グレードアトラスター』からはどう見えただろうか。
「ラクスタル艦長! 敵の航空機約130機、トカゲ約100匹を確認しました! 我が艦に攻撃をするものと思われます!」
未だにレーダーが使えないため、視界を使ってでしか敵の確認ができないこの艦は、敵が接近していることに気付くのに遅れていた。
すぐさま艦内にブザーが鳴り響き、数多の対空砲が空へと向けられる。
『総員、対空戦闘配置!!』
「グラ・バルカス帝国」
『グレードアトラスター』
46cm3連装砲:3基9門
15cm3連装砲:2基6門
3連装高角砲:多数
その他の大量の機銃を確認
「世界連合の航空戦力」
神聖ミリシアル帝国
『エルペシオ3』:45機
『ジグラント3』:15機
他基地から随時集結中
ムー
爆装『マリン』:50機
『マリン』:20機
エモール王国
『風竜』:22騎
ニグラート連合
『ワイバーンロード』:80騎