日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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46話:フォーク海峡海戦Ⅶ

『グレードアトラスター』艦橋

 

 

「ラクスタル艦長、敵が撤退を始めました」

 

「……そうか」

 

 彼はホッと息をついた。

 帝国の技術の結晶である『グレードアトラスター』を誇りにも思うが、それよりも何倍もの敵に打ち勝った事への安堵の方が強かった。

 

「損害は?」

 

「ミリシアルの蒼白いイナズマを引く曳光弾(?)5発に被弾、ムーの巡洋艦にも1発もらいました。全て装甲が弾き返したため艦自体の損傷はほとんどありませんが、爆発によって火災が発生しました。現在消火活動中です」

 

 主砲、副砲も多少の被害を受けたが、未だ顕在。

 対空火器は両舷とも多くが損壊しており、艦の防空力はかなり失われている。だが、修理を施せば直る物もあるので、そこまで悲観することはない。

 

 まだ中破だ。

 あれほどの敵を相手に中破で済んだのだから、まずはそれを誇るべきだろう。

 

「よし…ダメコンが終わったら世界連合を追撃、日本国の派手な巡洋艦も沈めて厄介なレーダー妨害を解いた後、敵航空戦力がいなかった場合のみカルトアルパスに艦砲射撃を行う」

 

「了解しました」

 

 先程の戦闘で日本国の艦は出てこなかった。

 やはり、彼の国は我々と戦うことを恐れている=帝国の方が強い! 

 隕石落としには度肝を抜かれ、一時期は降伏する事も考えたが、ラクスタルはすっかり自信を取り戻していた。

 

『あーあー。「グレードアトラスター」応答せよ』

 

 戦闘指揮所から艦橋に戻ると、もはや聞き慣れた男の声が艦橋に響く。

 ラクスタルは完全に舐め腐った口調でそれに応答した。

 

「おやおや、我々が怖いあまり戦闘に参加しなかった日本国か。で、口だけは達者な貴様らが何用かね?」

 

『え?』

 

(とぼ)けて虚勢を張ろうとしなくて良いぞ? 貴様らは我々と戦うことを恐れ、先程の戦闘に参加しなかったのだろう?」

 

『…いいやそれは違う。俺達は外交的な配慮のため、味方に戦果を譲ろうとしただけだ。断じて腰を抜かした訳じゃない』

 

「そうかそうか。ま、これから死にゆく者の戯言として受け取ってやろう。で、何用かね?」

 

 いつでも倒せる弱者に喧嘩を売られ、瀬戸は怒るを通り越して呆れ返っていた。

 

『内容はシンプルだ。降伏しろ、さもなくば艦内が血の池地獄になるぞ』

 

 ここまで虚勢を張れるとは、日本人というものは相当図太いのだろう。とラクスタルは思う。

 彼の返答もシンプルだった。

 

「言っただろう? 我々の解答は『バカめ!!!』だ!!」

 

 ラクスタルはたった3文字の短い暴言に今までの不満とストレスを全て詰め込み、吐き出した。

 そして相手に反論をさせることなく通信を強引に切らせ、清々しい表情を浮かべた。

 

「ふぅ…」

 

 しかしそれも束の間。

 

「艦長! 前方に未確認飛行物体7機を確認!!」

 

「なっ…! 撃ち落とせるか?!」

 

「無理です! 高度が低すぎて生き残った対空火器では狙えません! そもそも目標が小さすぎます!」

 

「小さ過ぎるゥ?」

 

 ラクスタルは艦橋の窓に駆け寄り、目を細める。

 日の光を反射してキラキラ光る海面に、確かに飛行物体のような物体が見えた。

 

 しかし、違和感。

 

 形状を見る限り、あれは航空機ではない。

 そしてワイバーンでも竜でもない。

 ラクスタルを含め、目の良い者達は最初は見間違いか幻覚を疑った。

 しかし300m程の所で、彼らは確信する。

 

 ──あれは人間だ! 

 

「バカな?! 人間が空を飛んでいるぞ!!」

 

「艦長落ち着いて下さい! そんな事があろうはずがございません!」

 

「いや! 間違いない! まさか艦内に乗り込んでくる気か?!」

 

 そして彼はハッと気付く。

 

〈降伏しろ、さもなくば()()が血の池地獄になるぞ〉

 

 まさかとは思うが、あれは日本国の生物兵器か何かか? 

 …いや、そんな事は有り得ない。彼の国は我々を恐れているのだぞ! 

 

「艦長! 指示を!」

 

「〜ッ! 消火は済んだな?! 総員、艦内に退避! 外へと繋がる全ての扉を封鎖し、臨時的に陸戦隊を編成しろ!」

 

「まさか…! 艦内で戦闘を…?!」

 

「いいや、敵が乗り込もうものならミンチにしてやる…! 主砲発射用意!」

 

 戦艦の主砲発砲時のブラスト圧は、甲板上の人間や搭載航空機などに甚大な被害を与える。

 特に『グレードアトラスター』のモデルとなる『大和型戦艦』の46cm砲発射時の衝撃波は凄まじく、試算の結果、その衝撃波は甲板上のどこにいても人体に致命傷を与える圧力と判明した。

 

「退避完了! いつでも撃てます!」

 

「まだだ…! まだ撃つなよ…!」

 

 窓から敵を凝視し、彼は撃つタイミングを見定めた。

 駆逐艦1隻よりも重いと言われる砲塔がゆっくりと左舷側に回り出す。

 

「まだだ…」

 

 敵は姿がクッキリと見える距離まで近付いてる。

 背中から羽が生えているが、やはりどう見ても人間だ。おまけに、カルトアルパス港で見た日本国の軍人と同じような服装をしている。

 

「──帝国を舐めるなよ! 撃てェ!!!」

 

 

ドドドォッ!! ドドドドドドッ!!! 

 

 9門もの46cm砲が爆炎を噴き、轟音が鳴り響く。

 大量の煙のため視界が遮れられるが、ラクスタルは勝ちを確信していた。

 彼は敵が艦から10〜20mの所まで接近した時に、主砲を発射させたのだ。

 

「はっはっは! ざまぁみろ転移国家の蛮族が!」

 

 これで助からない生物はいない。

 もちろん、爆圧を避けられる生物もいない。

 

 少なくとも、彼はそう思っていた。

 

「艦長! 右舷甲板上に敵複数人を確認! 扉が破壊され、敵が艦内に侵入しました!」

 

「「なんだと?!」」

 

 有り得ない。まさか爆轟に耐えたのか? 

 それとも()()()のか? 

 

 疑問は無限に出てくるが、ラクスタルは理性でそれを抑える。

 

「陸戦隊は編成出来てるな?! 艦内陸戦用意!」

 

 陸戦隊とは海軍内部で結成される、陸上戦闘部隊のことである。

 国や世界にもよるが、海軍艦艇には陸戦武装をし、上陸作戦や停泊場所での警備を担うための部隊が置かれている。

 その呼び名は様々で、「陸戦隊」とも「海兵隊」とも呼ばれるが、グラ・バルカス帝国では陸戦隊であった。

 成り立ちとしてはどちらも同じで、帆船時代に敵の艦船に乗り込み、白兵戦を行った部隊が元である。

 

『グレードアトラスター』にも少数ではあったが、陸戦隊は存在していた。

 だが、彼らはそもそも艦船で戦う事を前提としているため、銃を持っての戦闘は初めてである。

 

 そもそも、彼らは艦内で戦闘を行う陸戦隊など聞いたことがなかった。

 

『艦内陸戦用意! 敵を殲滅せよ!』

 

 陸軍の物よりはある程度短くなっているが、それでも狭い艦内で小銃でまともに戦えるとは思わなかった。

 

 この狭さ、まるで塹壕。

 

 彼らの脳裏に、前世界で数十年前に行われた塹壕戦の様子が浮かぶ。

 銃よりもシャベルや拳の方が強い、泥と血にまみれた殴り合いだ。

 しかし塹壕のように狭いと言っても、やはりここは艦内。どのような戦闘が行われるか、全く予想がつかなかった。

 

 ドンッ! ドドドォンッ!! 

 

 ついに敵との戦闘が始まる。

 開始のゴングは、味方の発砲音からであった。

 

 


 

 

 グレードアトラスター艦内 有人巡視船『しきしま』 特別戦闘隊

 

 

 発砲音が鳴り響き、鉛玉が鋼鉄の壁にぶつかり火花を散らす。

『しきしま』特別戦闘隊の敵艦へ移乗した者達は、艦内へと続く扉を持ってきた指向性爆薬で破壊、艦内に侵入し、敵と銃撃戦を行っていた。

 すでに変態は解け、生身の彼らだが、不審船に突入する訓練では優秀な成績を残しているため、戦闘は概ね順調だった。

 しかし…

 

「あぁもう! 敵が多いな!」

 

「口より手を動かせ! テラフォーマーを相手にするよかマシだろ!」

 

『対火星生物(テラフォーマー) 大口径 反動制御システム短機関銃』の弾丸が物陰ごと敵をぶち抜き、艦内が赤く染まる。

 それでも敵の数は次から次へと増え、死体の山が積み上がり、障害物は増える一方だった。

 

「クソッ! あいつら死体と机を重ねてバリケードにしてやがる! 弾が貫通しにくい!」

 

「爆薬だ! 指向性の奴でも良いからバリケードを破壊しろ!」

 

「艦内で爆弾を投げるのか?!」

 

「戦艦がそう簡単に沈むかよ! 早く!」

 

 爆薬が投げ込まれ、爆風と共にバリケードが木端微塵に破壊される。

 制圧射撃で生き残った敵を掃討し、ようやく少しだけ前進出来たと思ったら、今度は倍の数の敵が待ち構えており、再び戦線は膠着状態となった。

 

「なるほど、死んだ奴の銃を拾って加勢している奴がいるな。だから弾幕の量は変わらないのか」

 

「このままでは(らち)が明かないな…。よし、俺が()る」

 

 彼らのうちの1人が注射薬を取り出し、それを首筋に刺す。

 彼のベースは『鬼蜻蜓(オニヤンマ)』。その機動力と動体視力には目を見張るものがあるが、艦内は狭すぎるため、事故を起こす危険性が高い。

 

 だが火星に赴き、生き残った日本人ボクサーの証言と、最新のシミュレーションによると、『オニヤンマ』の機動力と動体視力ならば艦内でも空戦を行えるとの結論が出た。

 

「人為変態…!」

 

 変身を終え、愛刀を取り出し、彼は敵の射線に飛び出した。

 何人もの敵による弾幕を見切り、回避し、もはや生身の人間では対処不可能な速度で、ドローンにも不可能な軌道で、艦内を縦横無尽に飛行する。

 

 これがこの手術の醍醐味。

 これが各国の軍が「被手術兵」を採用する理由。

 

 数秒後には彼らの周辺から生命が消え、人間だったモノが血の池を構成する。

 グレードアトラスターの陸戦隊は全滅し、その残骸を踏んで彼らは前進を続けた。

 

「…ていうか俺らの目的って何だっけ? 虐殺じゃないよな?」

 

「力の1部を見せ付けて、敵が降伏しやすい状況を作り出すんだよ。…………あッ」

 

 彼らは気付く。

 わざわざ艦内から艦橋まで行かなくとも、彼らには空を飛ぶための羽があるのだ。

 

「い〜こと思いついちゃった…☆」

 

 


 

 

 突然陸戦隊との通信が途切れ、艦橋にいる者達は焦っていた。

 敵はどう見ても改造人間か人外であるが、陸戦隊がそう簡単にやられるはずはない。

 しかし依然として陸戦隊からの応答はなく、冷たい空気が流れる。

 

「陸戦隊応答せよ! 応答せよ! 誰か状況を報告できるやつはいないのか?!」

 

 まさか全滅? 

 こんな短時間で? 

 

「艦長、どうお考えになられますか?」

 

「…航空機や艦船などの兵器ならば、技術差による圧倒は理解出来る。しかし、歩兵は所詮銃を持つか持たないか…それほどまでに力の差はつかないはずだ」

 

 そう、歩兵は銃を持つか持たないか。

 今回の相手に関しては空を飛べるが、それを艦内で出来るとは思えない。

 

 そこまでの差はないはず…

 

 ──ガシャーン!!! 

 

 突如艦橋の窓が割れ、近くにいた将校がガラス片によって怪我を負う。

 その割れた窓から、2人の敵が飛び込んで来た。

 

「──なっ?!」

 

 背中からトンボみたいな薄い4本の羽が生え、眼球は人間のそれとは違う。

 そして片方は刀、もう片方は軽機関銃程の大きさの銃を持っていた。

 

「動くな! 勝手に動かれると命の保証はしない!」

 

 相手の言葉を無視し、即座に何人かの将校が片手拳銃を構え、発砲する。

 しかし2人の敵は一瞬で姿を消し………いや、人間の目には追えない速度で移動し、発砲した将校達は拳銃だけを破壊された。

 

つぎ動いたら殺ス

 

「ヒィッ!」

 

 危うく死にかけた将校達は腰を抜かし、ズボンを濡らす。

 ラクスタルは腰の軍刀に手を当てながら、口を開いた。

 

「グラ・バルカス帝国『グレードアトラスター』艦長ラクスタルだ。貴様らは日本国の者か?」

 

「いかにも、俺達は日本国海上保安庁 有人巡視船『しきしま』の特別戦闘隊だ。今、この場で艦長に降伏を要請する」

 

「…断ったら?」

 

「まあ艦長名義で降伏するまで殺陣が続くかな。演劇じゃなくてガチの方だけど」

 

 ラクスタルは考える。

 

「貴様らは…人間なのか? それとも人外か?」

 

「人間だよ。そんな事を聞いてどうする?」

 

「なぜ人間が空を飛べる?」

 

「変身したからかな」

 

「…!」

 

 彼は考えた。

 敵がここを直接襲った理由は? 

 ずっとは変身していられないから? それとも敵の数が多すぎるから? 

 

 恐らく両方だ。だが、理由としては前者の方が強い。

 彼は自らを人間だと言い、ハッキリと飛べるのは変身したからと言った。

 彼がそういう生物なのではなく、変身したのならば、何かしらの時間制限はあるはずだ。

 

「ふっ…私の返事は『バカめ!』だ! 艦長である私が降伏しない限り、帝国軍人は戦い続ける! 言っておくが、重要防御区画(バイタルパート)の扉は非常に強固だぞ?! いくら貴様らが強かろうとも、あそこの扉を時間内に破壊することは出来まい!」

 

 ちなみにここでの会話は伝声管を通じて各所に聞かれているため、艦長の意図を察した各所長達は、すでに防水扉の封鎖を始め、徹底抗戦の構えを取っていた。

 

「…だそうですよ瀬戸さん。どうしますか?」

 

『困ったなぁ! 平和を愛する日本人としては、これ以上の犠牲は出したくないのだけど!』

 

 今の会話が聞かれていたのか、瀬戸が通信で会話に割り込む。

 

『こちら「しきしま」船長瀬戸だ。艦長さん聞こえる? どうしても降伏しないと言うなら、外見てみ。左舷の方』

 

「あ?」

 

 ラクスタルはゆっくりと左舷が見下ろせる窓に近付き、驚愕した。

 

「……魚雷ッ?!!!」

 

 船体から僅か500mの地点で、7本もの魚雷が白い航跡を引いていたのだ。

 それらは『グレードアトラスター』へと真っ直ぐ向かっており、全てが直撃コースである。

 

「…あれが直撃したら、艦内にいる貴様らの仲間も無事では済まんぞ…」

 

『ああ大丈夫、そいつらはすでに退避させてあるから。魚雷に攻撃されても大丈夫なようにね』

 

 あの量の魚雷が命中した場合、すぐに逆側へ注水を開始しても、間に合わずに転覆、沈没する可能性が高い。

 特に艦内にいる帝国軍人はすでに隔壁を封鎖し、立てこもってしまっているので、ほとんどが逃げられずに溺死するだろう。

 

「………」

 

 彼は生唾を飲み込み、決心した。

 降伏しようがしまいが、もうすぐ魚雷が直撃し『グレードアトラスター』は沈む。ならば、この艦と運命を共にするまで。

 

「……その要求は、ことわ──」

 

「艦長! 魚雷が旋回しています!」

 

「はあ?!」

 

 左舷方向に目をやると、確かに魚雷が旋回していた。

 それも同じ所をずっとグルグルと周回しており、まるで艦長の判断を待っているかのようだった。

 

『言っておくが、降伏すれば魚雷はぶつけない。でも断ると言うのなら──』

 

 瀬戸は一息おいてから、続けた。

 

ぶつけ(撃っ)ちゃうよ? 拾った魚雷(ミサイル)!!』

 

「……くっ!」

 

 名誉か、3500人もの仲間の命か。

 大日本帝国なら迷わずに前者を選んだだろうが、彼はグラ・バルカス帝国軍人。

 

「…グラ・バルカス帝国『グレードアトラスター』は艦長ラクスタルの名において、日本国に降伏する」

 

 フォーク海峡海戦の決着がついた瞬間であった。

 

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