日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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グラ・バルカス帝国編Ⅰ
48話:敗戦国の戦後処理


 フォーク海峡海戦から数日後──

 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府

 

 

 この日、帝都ラグナにあるニヴルズ城の一室で、王(れい)庁幹部職員が冷や汗を流しながら帝王グラルークスにカルトアルパス沖の戦闘結果を報告していた。

 

「──東征艦隊は神聖ミリシアル帝国とムーに鹵獲された旗艦『ベテルギウス』を除いて全滅、『グレードアトラスター』も日本国に鹵獲されました」

 

「なんてことだ」「やはり戦力の個別投入は良くないな」と周りからヒソヒソと会話をする声が聞こえる。

 特に最新技術の結晶でもある戦艦を鹵獲されたのは非常に不味い。技術レベルの程度から考えてムーやミリシアルがすぐに帝国の技術を吸収する事はないだろうが、それでも「技術の塊」が敵の手に渡ったことを看過することはできない。

 

 帝王グラルークスはそれを聞いて怒るわけでもなく下々を導くのも上に立つ者の役目とでも言いたげな表情で鷹揚に話した。

 

「…最新鋭戦艦を2隻も鹵獲されたのは手痛いが、やはりあの程度の戦力では世界最強の連合艦隊を相手にするのは厳しかったか。軍は少々、この世界の事を蛮族だ蛮族だと舐めすぎていたようだな」

 

 あの日戦場にいたグラ・バルカス帝国人は3000人以上が生きているが、全員が捕虜として拘束、収容されているため、今のところ誰一人として帰っていない。

 そのため彼らは、送り込んだスパイ経由で報告書を作成、帝王に報告をしているのだった。

 

 もちろんスパイからの報告だけで十分に正確な報告書が作れるとは言い難い。

 特に今回の主戦場は海であり、スパイも公にされている情報くらいしか知り得ないため、戦況推移の正確な把握は困難を極めていた。

 

「誰でも良い、今回の敗因は何だと思う?」

 

 帝王グラルークスの突然の質問に、会議出席者達は返答に困る。

 そんな中、軍幹部が挙手し、発言した。

 

「今海戦の敗因は敵艦隊の数が多いのに対し、我が方の艦が少なかったからであると愚考します」

 

 確かに東征艦隊はカルトアルパス沖海戦の前に、ミリシアルの艦隊と交戦をしており、損耗していたはず。

 いくら帝国の艦が強いからと言って、そのような状態である程度の技術力を持つ敵を相手に連戦は厳しかったのだろう。と参加者達は考える。

 

「そのようだな。いくら最大最強の戦艦である『グレードアトラスター』がいても、ミリシアルやムー、日本国の戦闘艦が束になってかかって来た場合、帝国艦隊でも負ける事があると知れたのは大きい。この経験を次に活かさない手はないぞ?」

 

 ようするに帝王は「次からは相手を舐めず、徹底的に潰すつもりで戦え」と暗示しているのだ。

 叱責を受けず、むしろ励まされた事に参加者達、特に軍人は感激する。

 

「とりあえずは生き残った捕虜達だ。外交官でも軍人でも誰でも良い。優秀な帝国民を敵の手から救い出すのだ!」

 

「はっ! 仰せの通りに!」

 

 グラ・バルカス帝国はまだ世界征服を諦めていない。

 彼らは新世界の人間を「ただの蛮族」から「舐めてはいけないが所詮は蛮族」というイメージへとシフトさせ、ひとまずは捕らわれた帝国臣民と2隻の戦艦の奪還を方針に掲げることとなった。

 

 


 

 

 後刻──

 ムー国 首都オタハイト 日本国大使館

 

 

 ムーの首都オタハイトにある日本国大使館で朝田は朝のコーヒーを楽しんでいた。

 透き通るような青空が広がり、涼しく乾いた風が吹く。鳥はさえずり、この前の世界会議の1件が嘘のように、人々の平和な日常が始まる。

 

 だが、今日のコーヒーは苦い。

 

 いや、コーヒーは苦い物なのだが、味の話ではない。

 彼は嫌な予感を感じていたのだ。

 そう、休日が無くなりそうな予感が…。

 

 しばらくすると誰かが大使館内をドタドタと走る音が聞こえ始め、朝田は顔をしかめる。

 

「ああクソッ! この世界に来てから何故こうも嫌な予感が毎度毎度的中する?! 魔法でも身につけたか?!」

 

「朝田さん! ムー国より至急の連絡が来ています!」

 

 扉をバタンと開け、部屋に飛び込んできたのは彼の部下だった。

 

「なんだ?! 世界はまた俺の休日を潰そうとしているのか?!」

 

「いえ、オタハイト沖にグラ・バルカス帝国の戦艦1隻が確認されました! その戦艦は戦時外交旗を掲げているらしく、グラ・バルカス帝国大使が乗船しており、訪問目的は日本国外務省に対する用件があるとの事です!」

 

「また俺の仕事か…」

 

 また忙しくなることを覚悟しつつ、朝田はグラ・バルカス帝国大使を日本大使館へ呼ぶよう手配する。

 そして数時間後、朝田達から見たらかなり古い日本車に乗せられて、グ帝の大使達は日本国大使館に到着した。

 

 グ帝の大使達が会議室入ると、すでに8人の男が座っていた。

 日本国外務省グラ・バルカス帝国担当の朝田と、ムー担当の御園(みその)、そしてその他の職員である。

 そしてグラ・バルカス帝国の方は外務省事務次官パルゲールと大使ダラス、ゲスタ、その他の職員であった。

 

「本日は遠い所を御足労いただき、まことにありがとうございます」

 

 これに帝国の面々は拍子抜けしたような表情を浮かべた。彼らはてっきり、先の海戦で勝った日本国は尊大な態度を取ってくるだろうと予想していたのだ。

 本来ならそのような「(いき)がる弱者」を見て楽しむつもりだったのだが、全く逆の対応をされたため、彼らは戸惑う。

 しかし帝国の強さを盲目的に信じ込んでいるため、彼らは日本の礼節を弁えた態度を盛大に勘違い。「ああ、戦うのが怖いから、負けた時に少しでも良い待遇をしてもらうために、こうやって下に出ているのだな」と行き過ぎた妄想をする。

 

「外務省事務次官のパルゲールだ。先の海戦で運良く勝った日本国よ、お前達が我が国の民を捕らえているのは本当だな?」

 

 もはやこういう態度には慣れているため、朝田は表情一つも変えずに返答する。

 

「『むさし』と『ベテルギウス』の乗組員と、シエリアさんを含む外交官達の事ですね? はい、確かに我が国が全員の身柄を確保しております」

 

「ムサシ…? 何を言っておる? 『グレードアトラスター』のことか?」

 

「『グレードアトラスター』の今の艦名です。『むさし』は現在、船籍を海上自衛隊に置いているので、海自の命名規則に従って名前をつけました」

 

 それを聞き、愛国心が異常に強いダラスは怒りを憶える。

 グラ・バルカス帝国海軍の顔とも言える戦艦が、他国の海軍に船籍を置かれているだけでなく、名前をも勝手に変えられていたからだ。

 だが、彼は尊敬するシエリアの身に何かあったらいけないと、ここはグッと我慢した。

 

「では『ベテルギウス』はどうなのだ?」

 

「『ベテルギウス』は現在、どこかに曳航されています。他国の事は分かりかねますので、これ以上は答えられません」

 

「貴国が所有している訳ではないのだな?」

 

「はい」

 

 ポーカーフェイスと言うか、鉄面皮とも言うか、朝田は全く表情を変えない。

 否、この場にいる日本人は誰一人として表情を変えないのだ。

 

「では貴国が拘束しているグラ・バルカス帝国臣民全員の解放と、むさ………我が国の戦艦の返還を要求する」

 

「いいえ。一部の要求はのめますが、戦艦の返還をすることは出来ません」

 

「…その一部とはどういう事か。説明をしてもらおう」

 

 もともと戦艦の返還は無理のある要求だったため、拒否されるのは想定内であった。

 

「我が国は宣戦布告をして来た国の民であろうと、人権を尊重します。そのため軍人ではない、一般人…この場合は外交官ですね。外交官達を貴国に帰す用意をしています」

 

 それを聞いてダラスだけでなく、帝国の面々の顔が一気に明るくなる。

 彼らが身柄を確保されているのは『グレードアトラスター』に搭乗していたからだろう。なら、海戦の詳細もある程度は分かるはずだ。

 

 だが、それでも軍事に詳しい者も欲しかった。

 

「軍属の者はどうするつもりだ? 彼らを返す事は出来ないのか?」

 

「はい、貴国は我が国を含めた全世界に宣戦布告をしました。戦争状態にある国の軍人をどうして返す事が出来ましょうか?」

 

 満足のいく結果ではないが、ここで騒いだりしたら外交官の返還もしてもらえなくなるかもしれない。

 外交官を返してもらえるだけでも良しとしよう。とグラ・バルカス帝国の面々はそう思うのだった。

 

「…分かった。日本国はグラ・バルカス帝国の外交官の全員を祖国に帰す、という事で良いな?」

 

「はい、返還に少し時間はかかりますが、そのへんはご容赦願いたい」

 

「承知した。日本国が話の通じない蛮国じゃなくて良かったよ」

 

 朝田は小馬鹿にされたような気分だったが、ここで噛み付いても色々と面倒なことになるだけである。

 彼はその後、傲慢な態度を増長させていくグラ・バルカス帝国の連中に今までと同じような態度で接し、会議を早々に終わらせた。

 

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