日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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「敵の潜水艦を発見!」
「駄目だ!」
「駄目だ!」
「駄目だ!」




49話:旧太平洋武力衝突事件

 中央暦1642年7月10日──

 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス アルビオン城

 

 

 魔法文明の頂点に立つ神聖ミリシアル帝国。

 その中で最も栄えている帝都ルーンポリスは、科学ではなく魔法の明かりが灯る「眠らない魔都」の異名を持つ大都市である。

 そんな栄華を極めたる都の中心、皇帝ミリシアル8世の居城アルビオン城では、世界の行く末を左右する会議が始まろうとしていた。

 

「これより緊急帝前会議を開催します。まずは皇帝陛下よりお言葉を賜ります」

 

 宰相に促され、老いたエルフの男が口を開いた。

 

「余は…怒りを抑えきれぬ」

 

 冷たい怒気をはらんだ声が会議場内に響く。

 

 皇帝の怒りはもっともであった。

 グラ・バルカス帝国という文明圏外の新興国によって海軍主力艦隊である第零式魔導艦隊が全滅し、主催する先進11ヶ国会議は一時中断され、さらには世界連合の前で世界最強のミリシアル艦隊が沈められたのだ。

 カルトアルパス沖での戦いには勝ったのだが、グラ・バルカス帝国が存在したために、ミリシアルはその威厳を失い、おまけにカルトアルパスの港湾施設は津波によって破壊され(これは日本国の攻撃の余波だが、日本は敵ではなく味方であるため、被害は全部グ帝のせいにした)、ミリシアル8世は憤怒の形相を浮かべた。

 ちなみにカルトアルパスは事前の避難によって津波による死傷者はゼロだが、施設への被害はかなりのものとなっている。

 

「世界の長たる神聖ミリシアル帝国を辱めたあの国、奴らは異世界より出現したと言うが、我ら帝国をずいぶんと見くびっているようだな…! 余は世界の導き手たる神聖ミリシアル帝国の長として、この世界と人類を強烈に侮辱したグラ・バルカス帝国に神罰を下すことを宣言する!」

 

 彼は続ける。

 

「我が国を中心として世界の有力国の主力部隊を結集して『世界連合』を組織し、第2文明圏からグラ・バルカス帝国勢力を叩き出せ! 掃討後、態勢を整えて奴らの本土…帝都を焼き払うのだ!」

 

 前置きがヒートアップして戦闘宣言までやってしまったが、逆に話が早くて都合がいい。

 まずは国防省長官であるアグラが挙手し、起立する。

 

「第1から第3艦隊は魔導連合艦隊として準備を完了しており、陛下のお言葉一つで出撃可能です。戦闘用天の浮舟を運用するための空母も多数配備しておりますので、第零式魔導艦隊の二の舞にはならないかと」

 

 ちなみにミリシアルの最新鋭の艦隊であった第零式魔導艦隊の敗因はエアカバーが無かったことであると考えられていた。

 

「ところで今回の作戦については第3文明圏は外すということでよろしいのでしょうか?」

 

 アグラのこの疑問には、軍務大臣のシュミールパオが応じた。

 

「ええ、今回は早期殲滅という陛下のご意志もあるため、合流するだけで時間がかかる第3文明圏は除外する結論に至りました」

 

 ミリシアル8世もこの点は承認しているが、()()な意味で気になるあの国だけは別であった。

 敵だけでなく、世界をも震撼させた我らが日本国である。

 

「日本国はどうなのだ? 彼の国の『科学魔法』なる物はたった1発で敵の艦隊を壊滅に追いやったと聞いている」

 

 ルーンポリスからも灼熱の炎を引く隕石は見えていた。

 まさかとは思ったが、あれが意思を持った攻撃であると知った時は恐怖を憶えたくらいである。

 

「それに、報告書に書いてある事が事実なら、日本国の巡洋艦は対艦、対空攻撃能力にも優れているらしいではないか。打診だけでもしておいて損はなかろう」

 

 漁夫の利を狙っただけとも取れるが、ミリシアルの魔導艦隊8隻、ムーの艦隊十数隻で勝てなかった相手を単艦で、しかも無傷で降伏させた実力は本物だろう。

 彼の国を敵に回したら恐ろしい事この上ないが、味方となれば頼もしい限りである。

 

「なるほど、あの隕石落下攻撃で支援だけでもしてもらえれば、世界連合の負担もだいぶ少なくなるでしょうな」

 

「うむ。……よもや、敗戦を重ねるような無様はあるまいな?」

 

 皇帝陛下は険しい表情のまま、念を押すように問い、続けた。

 

「この戦いは単に文明圏外国が牙を向けている程度のものではない。列強とそれに反する国の戦いでもない! この戦は魔法すら持たぬ者らの国と、魔導文明の頂点に立つ我が国のものである! 軍務大臣! 決して負けは許されぬぞ!」

 

「はっ! 聖帝ミリシアル8世陛下の御名において、必ずや勝利を!」

 

「「御身に勝利を! 聖都に栄光を!」」

 

 会議出席者が一斉に立ち上がり、皇帝に敬礼する。

 彼らが退室したのち、ミリシアル8世は誰にともなく呟いた。

 

「日本国…グラ・バルカス帝国……。場合によっては、古代兵器の使用も考慮せねばなるまいな」

 

 


 

 

 中央暦1642年10月3日──

 沖縄南東約400km 旧太平洋 海上

 

 

 水面から1本の潜望鏡が覗いていた。

 その視線の先には、正面を向いた小型の艦がある。

 その船は駆逐艦よりやや小さく、形は異様、窓すらなく、どこに人が乗っているのかさえ分からないような船であった。

 だが日本の旗を掲げているため、一目で日本国籍だと分かる。

 

「ふむ…見つけたぞ。日本軍の艦船だ。ずいぶんと小さいが」

 

 グラ・バルカス帝国第2潜水艦隊所属、シータス級潜水艦『ミラ』の艦長は口元を弓なりに曲げる。

 新世界にはグラ・バルカス帝国の力を以てしても把握しきれない数多の無人島があり、グ帝は見つかりにくい位置の無人島に燃料補給のための秘密基地をいくつか作っていた。

 そして潜水艦『ミラ』はその補給所をいくつも経由して、ようやく日本国近海にたどり着いたのである。

 

 ちなみに日本国は人工衛星でグ帝の基地をすでに見つけていたが、これらを攻撃しないのは、まだ調査が進んでおらず「攻撃したら民間人が巻き込まれるかもしれない」「宣戦布告はされたが、まだ明確な攻撃をされていないしな…」という理由だった。

 

「乗っている日本人が哀れですね。いきなり撃沈されれば何が起こったか分からず、さぞや混乱するでしょう」

 

「皇帝の御意思だ、仕方あるまい。我らの矢は東の果てまで届くということを知らしめねばならん。我々はその先鋒となる」

 

 実際にあの船には誰も乗っておらず、これから撃沈されかける哀れな人間は『ミラ』の方である事は、まだ誰も知らない。

 

「ところで、ここは随分と灯浮標(とうふひょう)(海に浮かぶミニ灯台みたいなやつ)が多いですね」

 

「ああ、それにしては小さいがな」

 

「確かにめちゃくちゃ小さいですね」

 

 


 

 

「どこの潜水()か、分かったか?」

 

「無人潜水機のカメラに『日の丸に十字架』が写りました。グラ・バルカス帝国の潜水()と思われます」

 

「へぇ…艦なのか。ところで無人か? それとも有人なのか?」

 

「第二次世界大戦時レベルの潜水艦なので有人だと思われます。エンジン音にほとんど掻き消されていますが、艦内から誰かが歩く音も聞こえてますし」

 

「まじか、こんな遠い所までご苦労なこった」

 

 東京都にある防衛省本部では、敵国の潜水艦への対応が行われている。

『ミラ』の存在は日本側に筒抜けだった。

 

 2日前、南西諸島付近に配置された潜水()音響監視システムが大音量を発する大きめの潜水機を探知した。

 大型所属不明機は沖縄から南東方向約500kmの海域をゆっくりと北上しており、防衛省は政府から国籍を確認するように指示を受け、付近の無人哨戒艇を派遣して対応に当たらせたのだ。

 

「あれだけの大音量を発し、しかもこれだけ至近距離に近付いて潜望鏡深度まで浮上しているのを見ると、隠れるつもりがないのか?」

 

「さあ? 700年も前の潜水()の事なんて分かりませんよ。バレてないと思ってるんじゃないですか?」

 

「そんなバカな…」

 

ビーッ! ビーッ! 

 

 突然ブザーが鳴り、画面に『Attack on Torpedo(魚雷による攻撃を受けている)』と表示がされる。

 そのような通信を出したのは、敵潜水艦への対応に当たった無人哨戒艇であった。

 

「よし、沈まない程度に痛めつけろ。貴重な情報源だ」

 

「了解」

 

 


 

 

 潜望鏡を覗いていた『ミラ』艦長が、日本の艦の異変に気付く。なんと、彼の艦船は『ミラ』の目の前で止まったのだ。(目の前と言っても1km程離れている)

 

「まさか感づかれたか? ふっ…潜水艦の存在に感づいたのに、停船するとはバカめ! 魚雷発射ァ!!」

 

 すでに魚雷発射管に注水されていた海水を押し出すように、魚雷のスクリューが回転し始める。

 無誘導の魚雷が発射され、雷跡を引きながら眼前の敵に向かう。

 

 しかし魚雷が敵船に当たることはなかった。

 

「魚雷、外れました!」

 

「なんだと?! 駆逐艦より小さいとは言え、なんて加速性能だ!」

 

『ミラ』艦長が舌を巻いた。

 副長も同じように目を剥いている。

 

「ん? なんだこの音──」

 

 ──ズズン! 

 

 突如船体に衝撃が走り、各所に浸水、火災が発生する。

 衝撃で転倒し、負傷する者もいた。

 

「なんだ?! 事故か?!」

 

「いえ! 敵の攻撃です!」

 

 攻撃を行ったのは『ミラ』の周りにユラユラと浮かぶ、無数の灯浮標であった。

 

 

『海上浮遊型スマート(賢い)機雷』

 日本近海に無数に浮かぶ、ソナー、レーダー、高性能望遠カメラ、通信機器、小型ミサイル、小型魚雷、防衛用機関砲、AI(人工知能)を搭載した半自律機雷。

 太陽光、風力、波力発電とあらゆる発電機能と大容量のバッテリーも搭載しており、半永久的に稼働し、備え付けられたスクリューとGPSによって自らの位置を修正する事も可能。

 機雷と言っても衝撃を受けたら爆発するのではなく、敵を攻撃する際には搭載している小型ミサイル、小型魚雷を発射する。これらは対無人機を想定しているため、威力は微妙(28世紀基準)。

 領海、空に入った物体が国籍不明でもいきなり攻撃したりはしないが、敵が『火星生物(テラフォーマー)』だった場合、2桁〜3桁のミサイル(魚雷)が飛ぶ。

 

 

「各所浸水! 多数!!」

 

「火災発生! 消火急げ!」

 

「スクリュー大破! 航行不能です!」

 

「6人負傷! 1人は意識不明!」

 

 艦長は今の攻撃が偶然(?)艦尾の、しかもスクリューに当たり、船体への損傷が少ない事に感謝した。

 それと同時に敵が魚雷を持っていた、それも潜水艦に当てられるような高性能の魚雷がある事に驚愕する。

 魚雷を持っている=潜水艦を保有している可能性があるからだ。特に今回の件に関しては、日本国が潜水艦を保有している可能性が極めて高い。

 これが帝国の今後の戦略に大きく影響するのは確実だ。

 

 だが、彼はこの情報を本国に持ち帰れない事を悔やむ。

 

「航行不能となっては…どうにも出来ないじゃないか。仕方ない、浮上しろ」

 

 艦長の命令を受け、乗組員達は涙を呑んで船体を浮上させる。

 甲板に出た彼らを待っていたのは、砲口を向ける、無数の灯浮標であった。灯浮標の数はさっき確認した時よりも増えており、尚も続々と集結中であるらしかった。

 

 しばらくすると先程の小型艦が『ミラ』に接近し、スピーカーで話しかける。

 

『こちらは日本国海上自衛隊です。貴船の国籍と航行目的をお教え下さい』

 

 おおよそ人間の声とは思えない機械の声に彼らは驚いたが、艦長は勇気を振り絞って答えた。

 

「グラ・バルカス帝国海軍、シータス級潜水艦『ミラ』だ。航行目的は…通商破壊だ」

 

『分かりました。皆様を輸送する船を手配しておりますので、しばらくお待ちください』

 

 まるで降伏させることを前提としていたような無機質な声に、彼らは得体の知れない何かを感じる。

 30分もすると今度は小口径の砲が多数搭載された白い船がやって来て、『ミラ』の乗組員達は全員が身柄を拘束された。

 

「これが日本国の軍艦か? 船体の割に武装が心もとないな…」

 

「所々で技術力の高さが伺えますが、こんな小口径砲しか搭載していない艦が『グレードアトラスター』含む東征艦隊に勝てた理由が気になりますね…」

 

 そして彼らは本国まで移送され、後に『グレードアトラスター』の乗組員達と同じ捕虜収容所に連行された事によって東征艦隊が敗北した理由を知り、驚愕する事となった。

 




『ミラ』乗務員による後日談

「日本国は灯浮標をも兵器に転用するのか…(ドン引き)」
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