フォーク海峡海戦より約2週間後──
日本国 東京都
カルトアルパス沖での海戦から約10日後、私を含めた数人の外交官達は、来賓として日本国の実質的な首都である「東京」に来ていた。
そこは帝国の誇る高さ100m以上のビル群がちっぽけに見えてしまうほどの巨大な建築物の数々がそびえ立ち、帝国のそれと比べて乗り心地が非常に良く、しかも無人で目的地まで走ってくれるという先進的なデザインの自動車が高速道路と呼ばれる空中回廊を埋め尽くし、いつか本国で見た超重爆撃機よりも大きそうな航空機が空を飛ぶ(しかもあれは民間機なのだと言う)異世界だった。
自動販売機と呼ばれる無人の購買屋に、新幹線と呼ばれる音速に近い速度で走行する列車(もはや列車と呼んでいいのかすら分からない)、そして『9代目東京タワー』と呼ばれる高さ1200mの電波塔。
東京は他にも想像を絶する数々の物ばかりであった。日本国という国は私が思っていた以上に技術が発達している先進国である。
この国は危険だ。
非常に危険だ。
先日、あの場で全世界に宣戦布告をしてしまった自分を呪いたい気分だ。
神聖ミリシアル帝国やムーならともかく、これほどの技術力に支えられる軍隊と戦ったら、帝国軍がどうなるかは目に見えている。
実際、精鋭揃いの東征艦隊が敗れたのだから全面戦争になったら帝国は確実に負けるだろう。
「どうですかシエリアさん、東京は」
『9代目東京タワー』の展望台から無限に広がっていそうな灰色の風景を眼下に、日本国の外交官である田中が私に尋ねた。
「ふっ…祖国の首都がちっぽけに見えてしまうよ。旧世界でも新世界でも世界1位の大都市に間違いないとは思っていたのだがな…」
仲間の外交官も、日本国のあまりの発展度に言葉が出ないようであった。
ちなみに軍人はこの場にはいない。私達からすれば同じ捕虜でも、日本国からしたら軍人ではない私達はあくまで一般人であるらしい。
そして本国に送り返される前に、少しでも日本国を見て行ってくれという日本政府のよしみで私達は東京観光に勤しんでいるのだった。
拘束された時にはどんな酷い事をされるのかとビクビクしていたが、幸いな事に日本国は敵国の人間に町の観光案内をするくらい、平和ボケしているらしい。
東京から少し離れた場所に収容されている捕虜達は、捕虜なのに艦内よりも良い飯を食わせてもらっていると感激している程だ。
…純粋な優しさか、強者故の余裕か。
少なくとも
それを1面コンクリートの風景が物語っている。
「いい国だな。祖国がここに至るまで何百年かかるだろうか」
「講和に至り、国交を結べば数十年まで短縮する事はできますよ」
「それは残念だな、皇帝陛下がこの場に居てくれたら実現するだろうに」
早期に講和を結べれば、祖国は数十年でこの国に追い付き、追い抜かせる。
だがそれは叶わず、祖国は焼け野原からスタートする事になるだろう。
それが残念で仕方がない。
この日は東京を一通り観光し、映画鑑賞がしたいという私の要望を『T
帝国からしたら非常に画期的な録画媒体であるDVDやBDなる物も日本国では骨董品であるらしいが、将来ムー等の友好国に輸出するために生産ラインやサービスが復活して来ているらしい。
私はホテルのテレビで1晩ぶっ続けで日本国の映画を観賞し、ここでも日本国の技術力の高さに驚かされた。
まずテレビが非常に薄く、画質、音質共にが非常に良いのだ。なにより白黒ではなくカラーであり、画面が途切れたりカクついたりしない。
映画鑑賞を趣味としている私にとって、その夜は最高の夜となった。
「おはようございますシエリアさ…ん? 昨夜はずいぶんとお楽しみになったのですね…?」
危なかった。せっかくの敵情視察の機会が、映画鑑賞で台無しになる所だった。
まさか気付いたら夜明けだったとは、これも日本国の手の策略か?
日本国恐るべし。
「本日は静岡県で行われる富士総合火力演習を見学しに行きます」
「ほう、日本国の陸軍か…」
敵国の首都の視察も重要であるが、やはり何よりも重要なのは軍隊の視察であろう。
海軍の恐ろしさは『グレードアトラスター』の敗北でしっかりと味わったし、この機会に陸軍の強さを測れるのは好都合だ。
一個人としては、自衛隊が本当にゴジラを倒せるのか知りたい所である。
「それにしても一般市民が軍……いや、自衛隊の演習を見れるなんてな。私達にとっては非常に有難いが」
「一般公開は1966年から…まあ700年くらい前からやっていますよ」
「「……………」」
日本国からしたら、我々は1900年代の技術レベルらしい。
つまり、我々はこれから700年後の軍隊の姿をお目にかかるのだ。
そして演習が開始された。
私はその技術差に圧倒され、息を呑む。
戦車、装甲車、航空機、パワードスーツと呼ばれる二足歩行兵器、どれも大きな脅威だ。
歩兵に至っては全員が脳内の電子機器によって、迫撃砲や小銃の異常な命中率を叩き出していた。
特に、ドローンと呼ばれる無人兵器群は驚愕の一言に尽きる。
帝国軍がこれと対峙した場合、それから放たれるミサイルと呼ばれる誘導ロケットに、帝国軍は為す術もなく全滅するだろう。
仮に帝国軍が大量の対空兵器を持ち出してあれらを全滅させても、無人であるおかげで、日本国はパイロットという貴重な人材を失う事がないのだ。
どれだけ短時間で航空機を製造できても、パイロットの育成には非常に時間がかかるため、航空機が無人と言うのは画期的だ。
だが、私には気になる事があった。
「ところで田中殿、『グレードアトラスター』に乗り込んで来た『化け物』はいないのか? 日本国には、あれに似た軍人がいるのだろう?」
そう、応戦した陸戦隊を全滅させたあの『化け物』だ。
後で調べた所によると、全員が異常な切れ味を有する刃物に斬殺されていたらしい。
狭い艦内で無数に放たれる小銃弾を避けながら、それを成し遂げる戦闘力はどんな兵器よりも脅威となる。
それが数人いるだけで、敵の戦艦や空母を無傷で鹵獲する事が可能となるのだ。
「あー『被手術兵』の事ですか。彼らの中にも何人かは居ると思いますよ」
「本当か?! あの中にあの化け物がいるのか?!」
「いえ、種類が違うと思いますよ。少なくともここにいる人達は陸上での戦闘を想定していると思うので、船に乗り込んで戦える人は少ないと思います」
「そ、そうか」
あの『化け物』にも種類があって、中には艦に乗り込んで戦える者もいるが、中にはそれが出来ない者もいると。
これは貴重な情報だった。それでも日本国に勝てるとは思えないが、祖国が強硬手段に出た場合の被害は減らせるかもしれない。
「その『被手術兵』というのは、どれくらいの種類がいるものだろうか?」
「まあ
「「…………」」
これには私だけでなく、他の外交官達も僅かに残っていた戦意をポッキリと折られてしまった。
それ以前に普通の兵器群と戦って勝てる気がしないが、数種ならともかく、数百万種もいるのでは具体的な対策の立てようがない
勝てない、絶対に勝てない。
この日、私達は祖国に帰ったら宣戦布告の取り消しを上に上申する事を心に誓った。
怖気付いた訳では無い、ただ、心の底から祖国の未来を憂いているだけなのである。