日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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とある事情により、52話の内容を大幅に変更しました。
2020年8月8日


52話:小さくて大きな「歴史のif」

 中央暦1643年1月5日──

 神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス

 

 

 日本国の天災攻撃の余波で壊滅的な被害を出したカルトアルパス。

 世界流通の要となるこの港町は、海峡の最奥にあったがために津波の威力が集中し、一時は復興は不可能とさえ言われる被害を出した。

 

 しかし、この港町が失われたら困るという人は多かった。

 激動の1642年が終わり、新年が明けた今でも生々しい爪痕が残っているが、世界各国から集まった人々の努力により、この町の復興は着実に進んでいる。その中には当然、日本国の技術者の姿もあった。

 この町は傷ついた神聖ミリシアル帝国の威信そのものであり、数多の国に助けられる世界最強の姿でもあった。

 

 そして今日、1643年の始まりとともに、反撃もまたここから始まる。

 世界連合艦隊出陣のこの日、町はお祭り騒ぎとなった。

 

 世界の強国が集い、見える範囲だけでも250隻を超える大艦隊が結成される。

 フォーク海峡を一望する両側の山から眺めると、それは実に壮大な眺めであった。

 

『出港──ッ!!!』

 

 艦隊の姿は港に住まう民、港を活動拠点とする人々に勇気を与える。

 世界史上最強の連合艦隊は、西方に展開する異界の軍、グラ・バルカス帝国海軍を滅ぼすために、勇ましく出港していった。

 

 


 

 

 第2文明圏 グラ・バルカス帝国領 レイフォル地区 レイフォリア

 

 

 グラ・バルカス帝国情報局の中に存在する技術部は、敵国の技術水準やそれを元にした戦術に関する研究機関である。

 だが「国家の転移」という未曾有の大事件が起こってからは、この技術部は弱体化の一途を辿っていた。

 理由は至極単純、新世界の敵は非常に脆弱で、分析なんかしなくても勝てるからだ。

 

 だが、情報技官であるナグアノは自分の部署が「穀潰し」だの「税金泥棒」だの何を言われようが大して気にしていなかった。

 いくら軍部から重宝されず、周りから冷たい目で見られても、敵の分析は必要だと考えていたからである。

 

 そして先日のカルトアルパス沖の海戦での東征艦隊の敗北を受けて、彼の部署に大量の仕事が回ってきた。

 彼らにとっては転移以来初の大仕事であり、同時に廃部の危機から部署を救う光明であった。

 

「ナグアノ、ようやく俺達が活躍する時が来たな! まさに我が世の春だ!」

 

「そうだな。だが入ってくる情報が少なすぎる。これはキツい仕事になるぞ」

 

「それもそうだな。まずは……ムーから始めよう」

 

「ムーか。神聖ミリシアル帝国の次に脅威とされている国だな」

 

 机の上に広げられた資料を拾い、ナグアノは真剣な面持ちで写真を見る。

 コーヒーの入ったカップに口をつけながら、彼は分析を始めた。

 

「……ムーの場合、海と空ならさしたる脅威ではないな。だが、現時点で万が一が十分に起こり得る強さではある。何十年か経てば立派な脅威となるだろう」

 

「東征艦隊がこの国の艦船に負けたとは考えにくい。ナグアノ、お前はどう思う?」

 

「砲撃戦の場合、駆逐艦や巡洋艦なら撃ち負ける事もあるだろうな。だが航空優勢はほぼほぼ確実だろうし、この世界で潜水艦と魚雷を持っているのは我々だけだ。その分有利ではあるだろうな」

 

「なるほど。やはり真に警戒すべきは神聖ミリシアル帝国か」

 

 魔法という訳の分からない技術で発達してきた国、神聖ミリシアル帝国。

 科学という分野が通用しないため、ここの分析は困難を極めるだろう。そう考えながら、ナグアノは分析を続ける。

 

 実際に東征艦隊が負けているため、有効な戦術を見つけ出すことが出来れば大手柄である。

 彼らの仕事は責任重大であった。

 

 


 

 

 夕方──

 

 

 影の色が濃くなり、空がオレンジ色に染まる頃、ナグアノの仕事は終わった。

 同僚は先に帰っており、部屋には彼1人だけである。

 

「さてと、そろそろ帰るか──」

 

 書類をまとめ、冷えたコーヒーを飲み干す。

 立ち上がり、帰る準備をしている時だった。

 

 扉が開き、ナグアノはその作業を一旦中断する。

 入って来たのはレイフォルの現地人。情報局が雇ったスパイであった。

 

「ナグアノさん、ムーにある日本国の本屋、紀×国屋書店で興味深い書物を手に入れました。目を通しておいて下さい」

 

 スパイが渡したのは、1冊の本。

 本の題名はムーの言語で書かれており、情報局員であるナグアノも一応は読める。

 本の題名は『武器×兵器の歴史』であった。

 

「日本国? ……ああ、あの国か」

 

 カルトアルパス沖の海戦で他の国の艦隊が多大な損害を被る中、唯一この国の艦だけは無傷であり、しかも後の会議で『グレードアトラスター』を押収した国だ。

 ロデニウス大陸で撮られた写真で艦の武装を見る限り、こんな豆鉄砲にあの最新鋭艦が負けたとは考えにくい。いったいどんな卑怯な手を使ったのだろうか。

 

 隕石を降らした? そんなのはデマか妄想だろう。

 

 とにかく明らかにされている交戦記録を見る限りは、世界が団結して戦おうという時に、漁夫の利を狙うようなクズ国家だ。

 双方が受けた損害の状況を見るに、『グレードアトラスター』を含む帝国艦隊は最初にミリシアルとムーの艦隊と交戦。その後、疲弊している所を日本国の艦に負けたのだろう。

 

 だが、1つ引っかかるのはやはり、艦の武装だ。

 駆逐艦ならあの小口径砲でも十分な損害を被るはずだが、ある程度の装甲を持った巡洋艦や戦艦なら被害を受けこそすれ、沈没は考えられない。

 

「ある程度の戦闘力はあるはずなんだがな…」

 

 彼の国は何かを隠しているのかもしれない。そして、これを読めばその隠された謎が見つかるかもしれない。

 彼は椅子に座り、本を読み進めた。

 

(これは…民間企業の本なのか? 紙は光沢があって上質だし、誌面も妙に洗練されているし…)

 

 めくるページの全てがカラーで、写真や図面は非常に鮮明。ただの雑誌にしては文章も情報量も異常に高品質であり、それとなく技術水準の高さが伺える。

 

「ふむふむ…日本国がいた世界では火薬はこのように作られたのか…。銃の登場で騎士の時代が終わったのは俺達と同じだな」

 

 自分でも気付かないうちに、ナグアノはこの本にどっぷり引き込まれていた。それほどまでに異世界の歴史は興味深く、おもしろかったのだ。

 

 そのため、彼がとあるページを見つけるまでには相当な時間がかかってしまっていた。

 一昔前のグラ・バルカス帝国、もしくは現在のムー国の物に酷似した兵器類が掲載されているページの次の見開きである。

 

「あ…ッ! 『グレードアトラスター』?!」

 

 なんとその見開きには、グラ・バルカス帝国の戦艦である『グレードアトラスター』の写真が載っていたのだ。

 

「な…なぜ帝国の最新鋭艦が?!」 

 

 ナグアノは本を凝視する。その時間がどれほど続いたのか彼には分からなかった。

 

「…いや、()()()そっくりだが『グレードアトラスター』じゃない! まさか──」

 

 震える手で文章を読み進める。

 そして彼は核心に至った。

 

「──日本国艦か!!」

 

 時代は「第二次世界大戦」と表記されており、運用者は大日本帝国海軍。

 艦名は『大和型戦艦1番艦〝大和〟』。

 日本国がいた世界では世界最強の戦艦で()()()らしい。

 

 その事実に安堵しながらも、彼はふと我に返る。

 

「いや待て待て! 落ち着けよ俺…! 日本国もこれ程の戦艦を持っていただと…?!」

 

 新たに湧いて出てくる疑問。

 文面から察するに、この戦艦が存在したのは過去。しかし、この異世界の常識は一通り覚えたナグアノだが、異世界のさらに異世界である日本国の暦だけは未だ知ることが出来ておらず、残念ながら、現状では彼にこれが今から何年前の物なのかを知ることは不可能であった。

 しかし──

 

「過去に存在したのは事実なのだろう。ならばなぜ、日本国は、このような貧弱な武装の巡洋艦しか持っていないんだ?」

 

 日本国艦の写真を取り出し、見てみる。

 何度見てもやはり、武装が貧弱に見えて仕方がない。

 

 そこで、彼は考えられる理由を紙に書いてみることにした。

 殴り書きで書かれたのは3つ。

 

 ①:文面から考えるに、この「世界大戦」以後の日本国は戦争を経験していない。つまり平和な世界になったか、戦う必要性が薄くなった。

 ②:「世界大戦」で敗北し、牙を抜かれた。

 ③:小口径砲ばかりに目が行ってしまうが、実はそれ以上に強い武装が存在する

 

 ①と②はどことなく似ているような印象を受けた彼だが、ここでナグアノはこの2つが矛盾するという事実に気が付く。

 それを説明するにあたり、まずは①ではなく②を解説していこう。

 

 まず②だが、彼はとある事実を知ってから日本国が現在も存続していることを不思議に感じていたのだ。

 グラ・バルカス帝国のそれまでの常識では、戦争に負けた国は問答無用で併合、もしくは植民地、属国化というのが定石である。そのため彼は日本国は「世界大戦」に勝ち、相手国を併合したのだろうと思っていたのだ。

 だが、次のページにグラ・バルカス帝国の『ヘルクレス級戦艦』に酷似している日本海軍の『長門型戦艦』が、かつて敵国であったアメリカ合衆国が行ったという「なんらかの実験」を前に、何隻もの艦船と並べられているのを見、事実が事実と矛盾することに気付いた。

 

 この写真を見る限り、日本国は戦争に負けたらしい。その証拠に、ハッキリと『アメリカを含む連合国に降伏し、戦争に負けた』と記載されているのだ。

 和平なら国が続くのも分かるが、負けたのだ。

 

 戦争に負けたのに、なぜ国が存続しているのだ? 

 

「…考えてても仕方ないな」

 

 過去がどうであれ、日本国が現在進行形で実在しているのは間違いないのだ。

 そのため、彼は②は一旦保留とした。

 

 次に①だが、日本国が「世界大戦」以降は大国同士の戦争を経験していないのも間違いない。

 だが、そうして戦う必要がなくなったかと言うと、これもどうやら違うらしい。

 

 日本国は転移直前までも、隣の大国に領土を脅かされていたのだと言う。

 そのような状況で軍事力を強化しないのは考えにくい。

 

 だが戦争に負けた国が軍事力の強化をするとなると、①と②が相反することになるとも彼は気付いた。

 そもそも戦争に負けたのに国が続いている時点で、グラ・バルカス帝国に生きる者からしたらおかしいのである。

 

「待て…! まずは状況を整理しよう」

 

 再び、彼は鉛筆を滑らせる。

 出た結論はこうであった。

 

 戦争に負けたが、日本国は存在している。その事実から見て日本国が1つの国として独立、存在しているのは間違いない。

 なら、軍事力の強化もおかしくない。

 

「②の選択肢はなくなったな。日本国はどういう訳か戦争に負けたのに国として存続し、おまけに牙も抜かれていない。…何かしらの制限が存在するらしいが」

 

 彼は続ける。

 

「なら①か③だが、①は「隣の大国の脅威」が存在していた事情から考えて、戦う必要がなくなったとは考えにくい。軍事力に制限がかけられていたとしても、最低でも武器兵器の改良、精強化くらいはするはずだよな?」

 

 俺ならそうする。

 ならば③が有力か? 

 

「…とりあえず本を読み進めるか」

 

 現時点では考えていても仕方ないので、彼は再び本を読み進める。

 次のページは、読むだけで寒気がしてくるような話だった。

 

「学徒出陣? ひめゆり隊? 総動員体制? 神風特別攻撃隊……? 帝国も敗北寸前となったら、このような手段を取るのだろうか…」

 

 大量の爆薬を積んだロケットに人間を積め、敵艦に体当たりさせる『桜花』。

『回天』と呼ばれる人間魚雷、特攻艇『震洋』。

 いずれも「非常に強い愛国心」が生み出す狂気の世界だ。

 

 本当にこんな物があったのだろうか? 

 

 この文書の日本人と同じように、グラ・バルカス帝国人も非常に強い愛国心を持っている。

 祖国が危機に瀕したのならば、自ら棺桶に乗り込み、狂気と愛国心と爆薬を抱えて、敵軍へと突撃する事も十分に有り得るだろう。

 

 幸運にも帝国はまだまだ安泰だが、考える気が失せるような話だ。

 

「…『V1(ブイワン)ロケット』? 改良型もあるらしいな。日本国の同盟国が開発したのか」

 

 思わぬ所で棚からぼた餅が降ってきたと、彼は喜ぶ。

 小さいが、それらのエンジンのおおまかな図面もあるので、これは是非とも帝国も実用化を成し得ねば。

 

「対艦型の『Hs293』? これは素晴らしい! 誘導爆弾か!」

 

 他にも次々と出てくる新たな兵器構想の数々に、彼は大出世を確信する。

 すると同時に、再び我に返った。

 

 日本国がこの『Hs293』を配備しているのであれば、東征艦隊が負けたのも頷ける。

 だが、これは航空機から発射される物であるため、帝国艦隊を敗北に至らしめた物はこれではない。

 ③の答えはまだまだ先に存在する。

 

 彼はページをめくる、めくる、めくる。

 

「『近接信管』は日本国の敵国が開発したのか……ん? 『ジェット戦闘機』…?」

 

 プロペラが無く、その姿は神聖ミリシアル帝国の軍用機に似ていると言われれば似ているかもしれない。

 だが機体性能がミリシアルの物とは隔絶している事に彼は目を白黒させる。もし彼の国の戦闘機がこれ程のスペックを有していたなら、例外なく(制空権)はミリシアルのものになってしまうだろう。

 

「魔法と科学の差か? それともこの情報が間違っているのか?」

 

 少し心残りはあるが、とりあえず彼はページをめくり続ける。

 

「気球爆弾? 『超大和型戦艦』? 氷山空母? これはこれは…」

 

 苦笑いをしつつ、めくる。

 

「日本国にも細菌兵器の概念はあるのか。これは要注意だな」

 

 ページをめくる。

 

「潜水艦…?! 日本国も保有しているのか?!」

 

 めくる。

 

「この兵器はおもしろいな。ロマンに溢れている」

 

 めくる、めくる、めくる。

 

 そして遂に、彼は恐ろしいものと対面する。

 

「『原子爆弾』だと…!? まさかこんな恐ろしい物がッ?!」

 

 高濃度のウランやプルトニウムを無理やり合体させ、原子核の分裂によるエネルギーで強力な爆発を引き起こす原子爆弾。

 構造的には単純なこの爆弾は、たった1発で瞬時に数十万人を死に至らしめるという、まさに「恐るべき悪魔の兵器」に違いない。

 

 だが記載されている情報を見る限り、これも③の答え──東征艦隊を敗北させた兵器──では無かった。

 日本国はこの爆弾を2発も落とされたトラウマからか、この兵器類の製造、所有を現在進行形で一切禁じているからだ。 

 

 そして、彼は気付いた。

 

「まだ先があるのか…? これよりも恐ろしいものが…?!」

 

 ページはまだまだ余っているのである。

 

 今までそれらしき物が登場していない事から考えるに、③の答えはこの先だ。

 彼はそう確信すると共に、強い好奇心と恐怖を感じる。

 

 この先は帝国が未だ経験したことのない未知の領域。

 中には『原子爆弾』よりも恐ろしい物も存在するのだろう。

 

 ナグアノの手は異常に冷たくなり、つまんだままの紙面は汗で濡れていた。

 

「……ええいままよ!」

 

 帝国の本であれば紙が千切れてしまいそうな力で、彼は未知の世界へと踏み込む。

 目は無意識に閉じられてしまい、彼が「それら」と対面するには数秒のラグがあった。

 

「………………これは…!」

 

 彼が目にしたのは、兵器を語る上で避けては通れないのが技術の発展。

 高速演算装置『コンピューター』の開発。

 トランジスター、集積回路(LSI、IC)の開発による『コンピューター』の小型化、低価格化。

 ロケット技術の進歩による『スプートニク1号』と呼ばれる世界初の人工衛星。

 

 そしてそれらから生み出される前時代より更に強力で、凶悪な兵器の数々。

『原子爆弾』よりも強力な爆発範囲と威力を持つ『水素爆弾』。これらの爆弾を積んで大陸間を飛び越え、敵国を攻撃する『ICBM(大陸間弾道ミサイル)』。

 

「イージスシステム? 艦による防空戦闘? 日本国がいた世界は航空主兵論が普及したのか?」

 

 そして遂に、彼は核心へと至った。

 

「あ! 『P-15』?! 艦対艦ミサイル…!」

 

 洋上に浮かぶ艦艇から発射され、敵艦へと自ら向かっていく超兵器。他にも空中発射型の物や、地面から発射される物もある。

 

 もし日本国がこれ、もしくは似ている兵器を配備していたら? 

 

「いや、配備しているのだろう。あの東征艦隊が少しの損害も与えられずに負けたんだぞ」

 

 それを裏付ける証拠として、日本国の艦艇を撮った写真の中に、本書の「イージス艦」にかなり似ている艦艇があったのだ。

 前部に一門しかない小口径砲、のっぺりとした船体。

 後方の「ヘリコプター」と呼ばれる垂直離着陸が可能な機を発艦させるための甲板。

 

 これだけ証拠があっては、もはや疑いようがない。

 日本国は技術で帝国を上回っており、このままでは帝国は負けてしまう! 

 

「いや……()()()! ()()()()()()()!!」

 

 ページをめくると後はもう()()()しかなく、ナグアノはそれなりの希望を抱いた。

 本を読む限り、日本国は『水素爆弾』や『ICBM(大陸間弾道ミサイル)』の類は保有しておらず、現状ではそれらを迎撃する(すべ)しかないらしい。

 

 よかった! 本当によかった! 

()()()()()()()()が、これら2つがないのであればまだ勝機はある! 

 

 彼は本を閉じ、大急ぎで報告書の作成に取り掛かった。

 

 

 

 

 ところで、彼がなぜ「十数年の技術差」しか無いと判断したのか解説しておこう。

 それは、本の解説が西暦2000年よりも前で終わっており、ナグアノは日本国の技術はその程度だと思ってしまったからである。なぜもっと先まで紹介しなかったのかは出版社の人間に聞くしかないが、そんな些細な事のために、グラ・バルカス帝国は日本国の力を大きく見誤る事となるのである。

 

 歴史というのは奇妙なもので、時に非常に些細な事が歴史を大きく変えるような事柄へと発展することがあるのだ。

「不死の秘薬の爆発」「幻を神託と信じ、フランスを救った少女」「3日の猶予で新大陸を発見した探検家」「新大陸より伝わった貧者のパン」「僅かな投票数の差で処刑された国王」「金鉱発見による人々の殺到」「運転手のミスにより暗殺された王位継承者夫妻」「美大落ちの独裁者」「1人のトイレ休憩による戦争勃発」などなど。

 グラ・バルカス帝国のスパイが手に取っていた本が、ナグアノに渡った本が現代の日本国に関する事であったならば、グラ・バルカス帝国も勝ち目は無いと見て、早期に戦争が終わっていたかもしれない。

 

 だがそれも叶わず、この日もまた、別の選択肢であれば世界の命運が大きく変わっていただろう「非常に小さく、大きい」事柄が起こっていたのだった。

 


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