グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝国軍本部
旧世界でも、転移した後でもその版図を拡大し続けている大帝国、グラ・バルカス帝国。
その強大なる国の都では、軍の幹部が集まる会議が開かれていた。
会議には「帝国の三将」と名高い
〇帝都防衛隊長 ジークス
〇帝国海軍東部方面艦隊司令官 カイザル
〇帝国海軍特務軍(旧監察軍)司令長官 ミレケネス
も参加しており、特に「帝国の軍神」と呼ばれるカイザルの発言に軍部は注目していた。
彼の意向によっては軍そのものの方向性を修正することも有り得る。それほど彼の影響力は大きい。
「こ、これより会議を始めます」
軍の若手幹部が進行を務める。
帝国人なら知らない者はいないだろう軍神カイザルを前に、彼の唇はカサカサに乾燥していた。
「お手元の資料はご覧いただいたかと存じますが、スパイからの情報によると異界の連合軍が本日、神聖ミリシアル帝国カルトアルパス港から出港しました。旧式艦約250隻に加えて、ミリシアルの空母も数隻確認しています。敵軍は第2文明圏を目指している模様です」
「…大艦隊だな」
先の海戦でグラ・バルカス帝国軍でも精鋭中の精鋭である東征艦隊が世界連合艦隊を相手に敗北した。
相手艦隊のほとんどは戦力に数えられないような旧式艦であったが、最新鋭の戦艦群が負けたのは事実であり、その数を聞いただけで会議室に緊張が走った。
「本来ならば帝国特務軍が対応すべき事案ではありますが…ミリシアルやムーの艦もかなりの数が確認されています。日本国の艦は確認されていませんが、特務軍だけでは荷が重いかと」
「連戦だったとは言え、実際に精鋭揃いの東征艦隊が負けたのだ。主力を出さねば負けるぞ」
敵の主力艦隊、それも最新鋭と思われる艦隊を難なく
世界連合は難無く打ち倒せる「
「海軍東部方面艦隊に西部方面艦隊の一部を加えましょう。西に敵…というか人が住めるような場所はありません」
「そうだな、西部方面艦隊の一部を東部艦隊に編入しよう。そして増強した東方艦隊、特務軍艦隊で敵を叩く。これに異論は?」
異を唱える者はいない。
これにて軍の方針は決まった。
「──そういえば、次の海戦に『グレードアトラスター型戦艦』の
軍を統括する者はカイザルの問い掛けに対し、「待ってました!」と言わんばかりにハキハキと答える。
「はい、グレードアトラスター型戦艦2番艦『クイーン・テンセンス』の実戦投入は十分に間に合うと試算されました」
「「おぉ…!!」」
何の事はない。
『グレードアトラスター型戦艦』は元々、複数隻建造される予定だったのだ。
「では次の海戦の旗艦は『クイーン・テンセンス』にしよう。勝って『
「そいつぁ面白い! 大賛成だ!」
「異議なし!」
たまにそんな冗談を飛ばしながらも、彼らは真剣に会議を続ける。
そんな中、外務省の高官とパイプのある人物が、とある提案をした。
「…そうだ、本国艦隊から一部を引き抜いて、これを別働隊として追加したい。彼らには東部方面増強艦隊が艦隊戦を行っている間に、ムー国首都への攻撃をしてもらう」
「なるほど、各国に対する心理効果を狙ったものですかな?」
「話が早くて助かるな。そうだ、世界連合艦隊を撃破することは…恐らく可能だろう。だが外交的には、もう一手あると好ましい」
「私はその案には賛成だが…都市への艦砲射撃か。なら、
「ああ…『死神イシュタム』か。まあいいんじゃないか? 帝国の力を見せつける良い機会だろう」
転移前の世界ではグラ・バルカス帝国の占領地護衛艦隊であった本国艦隊第52地方隊。通称イシュタム。
占領地に対する他国からの奪還作戦を防ぐ役割を担うのはもちろんのこと、占領地が少しでも謀反を起こせば、戦艦数隻を含む圧倒的な火力を以て鎮圧する。
弱きを一方的に破壊、蹂躙する任を負っているため、指揮官も士官も一兵卒に至るまで、粗暴な者達が集められている。
それが恐怖の部隊「死神イシュタム」。
新世界に転移してからは長らく本来の任務を行えていなかったため、彼らは喜々として任務をこなしてくれるだろう。
何より彼らが沈んでも誰も悲しまない。
「ではそちらの作戦も並行して行うということにしよう。彼らは粗暴だが実力は確かだ。敵の防衛艦隊が出て来るだろうが、ムーの艦隊なら善戦してくれるだろう」
先の海戦では負けたが、戦争には勝つ。
そんな決意を胸に、彼らの会議は終了した。
数週間後──
レイフォル沖 グラ・バルカス帝国海軍 東部方面
神聖ミリシアル帝国が発起人となり、中央世界と第2文明圏の有力国が連合艦隊を組んで、レイフォルへと向かっている。
第2文明圏侵攻の足掛かりとなる旧レイフォル地区は、グラ・バルカス帝国にとって本土と同等の重要性を持つ拠点である。敵連合艦隊の動きを掴んだ帝国海軍は、空母機動部隊による打撃及び、戦艦等の打撃力による艦隊決戦を行うべく、レイフォル西側地区に集結していた。
新たに東部方面艦隊に配属された、帝国でもっとも強力な超大型戦艦『グレードアトラスター型戦艦』2番艦『クイーン・テンセンス』の艦橋で、艦隊司令カイザルは海を眺める。
「…すごいな」
海を覆い尽くさんとするほどの艦艇数がそこにあった。
海軍西方方面艦隊の一部を編入した臨時東部方面増強艦隊と帝国特務軍の連合軍が総力を結集して展開していた。
戦艦19隻、空母18隻、重巡洋艦25隻、軽巡洋艦29隻、駆逐艦200隻近く。そして潜水艦も100隻近くが今作戦に参加している。
「負けるとは微塵も思っていないが、やはり不安だな。ミリシアルやムーはどれほど強いのだろうか」
ここでネタバレになるが、これから起きる海戦でグラ・バルカス帝国は問題なく勝利する。
それも当然、原作での艦数はこれより少ないのにも関わらず、大勝利をしているからだ。もちろん艦艇数が増えれば、この勝利はますます揺るぎないものとなるだろう。
もちろん神聖ミリシアル帝国の空中戦艦『パル・キマイラ』に何隻か沈められるが、それさえ居なければグ帝の被害は微々たるものである。
なのに何故、彼らは過剰な戦力を連れて来ているのか?
カルトアルパス沖海戦の情報があまりにも少な過ぎるため、敵の実力を正確に計測できていないからであった。
「連戦で疲弊していたとは言え、東征艦隊を打ち負かすほどの敵です。司令、どうか油断なさらぬように」
「それはもちろんだ。とは言え木造船や外輪船はさすがに大丈夫だろう。問題はミリシアルとムーだ。今回敵の中に日本国がいないのは幸いだったな」
先の海戦での双方の被害状況を見るに、日本国は初めから漁夫の利を狙っていたのだろう。いや、そうとしか思えない。
そうでなければ帝国の誇る戦艦、しかも2隻を無傷で拿捕するなど不可能だ。
「憶測でものを言うのは何だが…東征艦隊はミリシアルとムーの連合艦隊との砲撃戦に何とか辛勝し、その後に無傷の日本艦隊に打ち負かされたに違いないだろう。1隻と言うのは何かの間違いじゃないかと俺は考えている」
「なるほど…! 卑怯な国ですね。許せません」
「ああ、卑怯だ。だが帝国に勝ったのは事実だ」
そう、腐っても何とやら。連戦で疲弊していたとは言え、『グレードアトラスター』を含む帝国軍艦隊に勝てる程度の実力は持っていることが伺える。
「司令、報告します。艦隊より1時の方向、250km先の海域に敵の大艦隊を発見。第1次攻撃隊、発艦準備に入ります」
「ついに戦闘だな…。気を引き締めろよ」
のちの歴史書に「壮絶な戦い」と記録されたバルチスタ海域の戦い、バルチスタ沖大海戦が幕を開ける。