日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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54話:ムー国オタハイト防衛戦

 中央暦1643年2月5日 バルチスタ沖大海戦の最中──

 ムー 商業都市マイカル とあるホテル

 

 

『ラ・カサミ』をムーへ無事に送り届けるという大事な仕事を終え、海上自衛隊の第4護衛艦隊群の隊員たちはムー国政府が用意してくれたホテルで過ごしていた。

 しかし、彼らはただ、だらけている訳ではない。

 

 来るべき時に備え、英気を養っているだけである。

 

 群司令の三浦(みうら)は本国から人工衛星経由で送られてくる資料を見ながら、ムー国産のコーヒーを口にしていた。

 

「空母機動部隊か…」

 

 偵察衛星が()()()()()の動画には、ムー大陸南端を航行中の空母6隻を含む艦隊が映っていた。

 旗と兵装、そして上空を見上げる()()()()から判断して、グラ・バルカス帝国所属には間違いなさそうである。

 

 敵の目的はムー国首都かマイカルを火の海にすることだろう。

 心理的効果、経済への直接的な打撃を見込める沿岸部の大都市は、艦砲射撃をするには最高の獲物だ。

 

「ん…? 艦隊を2つに分けたか。両方攻撃するつもりか? 欲張りめ」

 

 戦場の最前線で隊を2つに分けるというのは暴挙である。

 作戦遂行にあたって必要な戦力を考慮して振り分けているのだから、これでは目標達成が困難になるのは誰にでも予想できるだろう。

 

「いや…相手の技術レベルを見て、分けても大丈夫と考えたのか? それとも片方が陽動…?」

 

 後者は正解である。

 この世界のグラ・バルカス帝国は現時点では異世界の勢力を雑魚だとは考えておらず、むしろミリシアルやムー、日本を強敵認定していたのだ。

 

 まあそれも、バルチスタ沖の海戦が終わるまでなのだが。

 

「群司令、本国から連絡です」

 

「ああ、もう見たよ。『ムー国マイカル市には多数の日本人が在住し、現地に進出した企業もある。これを守るは自衛隊の責務であり、第4護衛艦隊郡はマイカルの邦人をグラ・バルカス帝国の脅威から護衛せよ』だろ?」

 

「はい、でも…これだとムーの首都が…!」

 

 そう、日本国政府はマイカルを守れとは言ったが、首都を守れとは言っていない。

 しかしそこにはこんな理由があった。

 

「いや、首都は『ラ・カサミ』に任せろってことだろ。これ以上は日本が出しゃばる訳にはいかない」

 

「なるほど…! でも、彼らは勝てますかね?」

 

「勝つさ、ヤバそうだったら支援してやればいい。友軍の火力支援という名目でな」

 

 三浦は冷えてしまったコーヒーをグイッと飲み干し、脳内に埋め込まれたチップを起動した。

 

『悪いが休みはお預けだ! 全艦出港準備!』

 

 その通信はすぐさま全隊員に届き、1時間もしないうちに第4護衛艦隊群はマイカルを出港した。

 

 


 

 

 少し前──

 ムー国南側海上 グラ・バルカス帝国 本国艦隊 第52()()地方隊

 

 

 雲一つない快晴、静かな海。海面はキラキラと輝き、澄んだ青色の中を禍々しい艦隊が黒煙を吐きながら進む。

 艦隊の名はイシュタム。

 帝国の力を全世界に知らしめることを主目的とする艦隊だ。

 

「諸君。今回の任務の主目的はムー首都への艦砲射撃だ」

 

 旗艦オリオン級戦艦『メイサ』の艦橋で、艦隊司令のメイナードは作戦の説明をしていた。

 相変わらず顔色の悪そうな彼はゆっくりとした口調で続ける。

 

「敵は当然、それを阻止しようとするだろう。戦う相手はムー艦隊と予想される。見た目は旧式だが、ミリシアルと協力して東征艦隊を打ち負かした敵だ。油断はできない」

 

「司令、ならば首都攻撃は厳しいのではありませんか?」

 

 その質問を聞いた彼は表情を変えずに、一息ついてから口を開いた。

 

「その通りだ。首都は国の心臓部、敵がここを守らない訳がない。そのため我々は艦隊を2つに分け、片方には首都攻撃に見せかけた陽動をしてもらい、片方は陽動に釣られて防衛の手が薄くなった都市を破壊する」

 

 場が小さくザワつく。

 しかし敵の都市を攻撃するならばこれが最適解に近いように思えるため、ざわつきはすぐに収まった。

 

「司令、攻撃目標は?」

 

 戦艦『メイサ』の艦長オスニエルが小さく手を挙げる。

 メイナードは不敵な笑みを浮かべ、彼の質問に答えた。

 

「ムーの第2の心臓、マイカル。我々は商業都市マイカルを火の海にする!」

 

「くはは……さすがメイナード司令、首都攻撃が陽動なんて…いいですねぇ、えげつないですねぇ」

 

 こうしてグラ・バルカス帝国本国艦隊第52増強地方隊は、ムー国の南側で隊を2つに分けた。

 ムー国に恐怖と破壊をもたらすべく、彼らは北へと進軍するのだった。

 

 


 

 

 ムー国 首都オタハイト

 

 

 第2文明圏でもっとも栄えている国、列強ムー。

 その中でも特に繁栄を築いている街が、首都であるオタハイトであった。

 そんなオタハイトの中心部、王城の近くに建つムー統括軍軍司令部の総司令室は騒然としていた。

 

「敵艦隊の状況は?」

 

「はっ! 日本国からの情報によると敵艦隊は空母6隻を含む計40隻。それがたった今、二手に別れたようです」

 

「別れただと?」

 

「はい、どうやらオタハイトとマイカルを時間差で攻撃するようでして…オタハイトに向かって来ている艦隊は計14隻。戦艦1隻、空母2隻、巡洋艦4隻、小型戦闘艦7隻です。残りはマイカルに向かっているとの事」

 

 司令は少しの間熟考してから、口を開いた。

 

「……マイカルにいる日本軍は?」

 

「はい、参戦する意思を表明しています。彼らなら大丈夫かと」

 

「そうだ──」

 

 その瞬間だった。

 

「空軍から入電! 首都オタハイト東側約200kmの位置において敵艦隊を発見! 大型戦艦1、戦艦4隻、空母2隻、小型戦闘艦7隻の艦隊が首都方向に向けて進行中! なお、大型戦艦は全長200mを超えている模様!」

 

「なっ…!!」

 

 先の海戦は日本国と神聖ミリシアル帝国がいたから勝てたようなもの。

 しかし、今回はそのどちらもいない。

 日本軍もいるにはいるが、彼らはマイカルで手一杯だろう。

 

 …勝てるか? 

 いや、我々は勝たねばならない。

 

 敵艦はムーのものよりも遥かに強く、これに勝つには数を揃えなければならない。

 だが時期が時期だけに、今ムー国にはオタハイトとマイカルを同時に守る戦力はない。例え主力が揃っていても敵艦隊を撃退するのが関の山だろう。

 だが、親切にもマイカルを守る任は日本国が引き受けてくれるとのこと。

 

 ここで我々が負け、首都が火の海にでもされたら、列強としてのメンツが立たない。

 だが日本国は友好国を守るだけでなく、列強としてのムーの立場をも守ってくれているのだ。

 

「首都防衛に全力を尽くせるように配慮してくれているのか…」

 

 司令は周りに目配せをする。

 全員、同じ気持ちであるようだった。

 

「首都付近の全艦隊を集結しろ! 『ラ・カサミ』を旗艦として敵艦隊を撃退する!」

 

 


 

 

 後刻──

 ムー国 マイカル市 東側沖合約100km海上

 

 

 海上自衛隊が所有する史上最大の護衛艦、いずも型護衛艦。その2番艦である『かが』のCICで、幹部が群司令である三浦に報告をあげていた。

 

「首都を攻めていたグラ・バルカス帝国艦隊は『ラ・カサミ改』を旗艦とするムー国艦隊及び航空隊によって撃破されたようです。ムー側の被害は甚大のようですが、首都攻撃はこれで回避されました」

 

 結果的に言えば、ムーは首都防衛戦には勝った。

 戦いは苛烈を極めたとの報告も入っており、グラ・バルカス帝国艦隊の分遣隊は全艦が、ムー側は『ラ・カサミ改』ともう1隻以外は全て水底に帰したとのこと。

 

「死んだ人間たちには申し訳ないが…これでムーの立場は守られた。戦況を聞く限り、バルチスタ沖の海戦でプラマイゼロだけどね。でもこれで第2文明圏はしばらくの間は安泰だ」

 

 安泰とは言っても首の皮一枚で繋がっている状況だけどね、と彼は付け加える。

 

「さて、そろそろやりますか。敵さんに繋いで」

 

「了解しました」

 

 海上自衛隊第4護衛艦隊群旗艦『かが』は、グラ・バルカス帝国艦隊に対し、無線電波を発した。

 

 


 

 

 同時刻──

 グラ・バルカス帝国本国艦隊第52増強地方隊

 

 

「?! こ…これは…!!」

 

 ペガスス級空母『シェアト』の艦橋では、無線通信士が困惑していた。

 軍が使用している周波数帯の回線に、突然他国からの呼びかけがあったからである。

 

『こちら日本国海上自衛隊、グラ・バルカス帝国艦隊応答せよ』

 

 艦橋に聞き慣れない人間の声が響く。

 その場にいる人間は当然、混乱した。

 

「メイナード司令! 『日本国海上自衛隊』を名乗る男から無線が!」

 

「慌てるな! 敵はわざわざ自分の位置を教えるようなアホだ。私が時間を稼ぐ! その間に敵の位置を割り出せ!」

 

 それからメイナードはひとつ咳払いをし、返答をした。

 

「私はグラ・バルカス帝国本国艦隊、イシュタム本隊艦隊司令メイナードだ。日本国よ、要件はなんだ?」

 

『やっと応答したか。手短に伝えるからよく聞け、直ちに引き返せ、さもなくば撃沈する』

 

 メイナードも日本国の存在は知っていた。

 先の海戦で損害無しで『グレードアトラスター』を鹵獲するという奇跡を起こした国だ。

 どんな卑怯な手を使ったのかは想像もつかないが、大方他国の艦隊との殴り合いで疲弊したところを狙ったのだろう。

 

「はっ! 漁夫の利で勝利した腰抜け国家が我々を沈める? なんと滑稽なことだ! 手負いの戦艦を倒す実力はあるようだが、我々は26隻の大艦隊。貴様らに負けるつもりなどない」

 

『漁夫の利…? 貴殿らは何か勘違いをしているようだ。「グレードアトラスター」と「ベテルギウス」以外の艦船を沈めたのは我々だ。断じて漁夫の利ではない』

 

 声の持ち主は続ける。

 

『あと、「グレードアトラスター」を降伏させたのは海上自衛隊ではなく海上保安庁という警察組織の船だ。貴殿らの最新鋭戦艦は自衛隊より戦力に劣る警察に負けたのだ。これが分かったらさっさと引き返せ』

 

 もはや嘘もここまで堂々としていれば面白いものである。

 警察組織が所有する程度の船に戦艦が負けるはずなどない。

 

「ふっ…! 断る!!」

 

 メイナードによって強引に通信が切られ、交渉は決裂した。

 


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