変更後の内容はグラ・バルカス帝国の今後に大きく関わって来るので、まだ変更後の話を読んでいない方は、是非。
「号外!! 号外!!」
のちの歴史書に「壮絶な戦い」と記録されたバルチスタ海戦の翌日。
その日の朝、各国で出回った号外は世界の人々を震撼させた。
『世界連合軍敗北』
世界最強と謳われる神聖ミリシアル帝国と、それに次ぐムーを含む世界連合艦隊が、文明圏外に位置するグラ・バルカス帝国の艦隊に敗北したという前代未聞の大事件。
それは人々を一瞬困惑させた後、彼らの顔を見たことのない青に染め上げるのに十分な衝撃であった。
「おいおい…嘘だろ…!」
「あの神聖ミリシアル帝国が…負けた…?」
民衆を青ざめさせたのはそれだけではない。
ミリシアルはその数少ない切り札である古代兵器『
これが偶然なのかどうかはさておき、『クイーン・テンセンス』とはレイフォルを単艦で滅ぼした『
それが今度は古の超兵器をも倒したともなると、もはやこの艦に勝てる国など、この世界には存在しないように思われた。
当初はグラ・バルカス帝国を「思い上がった蛮族の国」と侮っていた人々も、その認識を大きく変えることとなる。
恐れ、恐怖、畏怖。
もしかしたらグラ・バルカス帝国によって世界が滅びるかもしれない。
最強の国が負けるとはそういう事なのだ。
「な…なぜだ!! この前は勝ったじゃないか?!!」
「空中戦艦もムーもいたのに…! グラ・バルカス帝国はそんなにも強いのか?!」
正史では損害状況だけを見れば痛み分けで終わったこの海戦だが、この世界線ではそうは行かなかった。
グラ・バルカス帝国が出撃させた艦艇数は正史の約1.7倍。増強された艦艇は空母や戦艦の割合が高く、これは彼の国が異世界の人間を「未開の蛮族」と侮らなかった結果であった。
フォーク海峡海戦で最新鋭の艦を含む東征艦隊が敗北したという事実が、かえってグラ・バルカス帝国の人々に警戒心を抱かせ、裏目に出たのである。
もちろんミリシアルやムーが敵を侮っていたと言う訳でもない。
フォーク海峡海戦でたった1隻相手に多大な損害を出したこの二国も「敵は強い」と学んでおり、少しばかり急だったものの、全力で敵を屠る準備をしていたのだ。
…にも関わらず、世界の導き手たる列強が、文明圏外の国を相手に敗北した。
両国の上層部が受けた衝撃は大きかっただろう。ミリシアルに至っては古代兵器を2隻も出撃して負けたのだから、何人か倒れて病院送りとなっていても何ら不思議ではない。
そして今回の海戦で「世界最強」が敗北した事を受け、世界で初めてグラ・バルカス帝国に降ることを決定した国が第2文明圏で出たという。
それ程までに世界連合艦隊敗北の報が与えた衝撃は大きく、世界各国に恐慌の波は伝播して行く。
その波に呑まれたのは、日本国も例外ではなかった。
「人々の不安を煽る事に腐心する機関」は毎日のようにバルチスタ沖の海戦で大切な人を亡くした(真偽は定かではない)遺族の元へと殺到し、果てはデッチ上げのストーリーを作り上げて人々の涙を誘う始末。
SNSがとうの昔に普及していた時代だから良かったものの、歪曲されていない事実を知ることのできる媒体がなければ日本経済は大きく乱れていただろう。
それでも一部の情弱層はこれに動揺し、各地でトイレットペーパーや非常食を大量に買い溜めるという現象が発生したと言う。
第2文明圏 ムー 日本国大使館
第2文明圏の東側に位置する列強序列2位であるムー国。
在ムー日本大使館では、緊急の会議が開かれていた。
その会議の内容はもちろん、「バルチスタ沖大海戦」についてである。
「先日行われた異世界連合、グラ・バルカス帝国間で行われた海戦についてですが、双方の損害状況は配布資料の通りです」
新世界連合
〇第2文明圏竜騎士団約700騎 喪失
〇世界連合艦隊(ムー含む)約315隻(全艦艇数の3分の2に当たる) 喪失
〇神聖ミリシアル帝国艦隊
・約120隻(ミリシアル艦隊の9割) 喪失
・空中戦艦1機 喪失
・航空戦力 90%以上喪失
グラ・バルカス帝国
〇艦艇 約50隻 喪失(このうちの45隻は空中戦艦による被害)
〇航空兵力 300機以上(全て空中戦艦による被害) 喪失
〇潜水艦の損害無し
双方ともに大きな被害が出ているが、世界連合の被害の方が断然大きい。おまけにグラ・バルカス帝国側の損害のほぼ全てが空中戦艦によるのだと言う。
ミリシアルがこの兵器を投入していなかったら、グラ・バルカス帝国の損害状況は完全にゼロか微々たるものになっていたのだろう。
「なんと言うか……これは戦いと言うより一方的な虐殺ですね。連合艦隊は壊滅に近いのに…グラ・バルカス側は被害が少ないですし、被害の9割以上がミリシアルの
「この世界の人々は『
『
テラフォーマーズ12巻に登場する中国の中型有人戦略宇宙艦。
名前の通り9本の触腕型のフレキシブルアームを備えており、広範囲制圧用のレーザーキャノンが付属。クラスター爆弾による空爆も可能であり、極めて高い火力を有する。奥の手として中性子兵器「
地球と火星間を往復することが可能な移動能力を持つため、地球上なら補給無しでどこへでも行けると思われる。
(分からない人は『テラフォーマーズ 九頭龍 画像』で検索!)
「じゃあ自衛隊なら
「問題なのは
その通りである。
ミリシアルの切り札的兵器──実際は古の魔法帝国の兵器なのだが──である空中戦艦でしかまともな戦果が挙げられていないのは大問題であった。
異世界からの来訪者である日本国やグラ・バルカス帝国はともかく、この世界の人間で古の魔法帝国を知らない者はいない。
最強の代名詞である魔帝。ミリシアルはその威を借りているだけなのだが、その兵器でしか戦果が挙げられず、あまつさえそれが撃墜されたとなると、人々はどう思うだろうか?
この損害状況が表すのは「
グラ・バルカス帝国はミリシアル艦隊を壊滅させ、古の魔法帝国の兵器をも撃ち落とした。
「グラ・バルカス帝国は古の魔法帝国よりも強い?」
こう思う人が出て来ても何ら不思議ではない。
実際、ミリシアルですら勝ち目が無いと思ったのか第2文明圏の1国がすでにグラ・バルカス帝国の軍門に降ったのだ。
「世界の敗北」という強い不安がミリシアルの栄光を地に追いやり、小国は藁にもすがる思いで強国の庇護という安心を求める。
彼らは海戦の結果を受けて、ミリシアルよりもグラ・バルカス帝国側についた方が得だと考えたのだ。
「これからグラ・バルカス帝国側に付く国も増えるでしょうね。我が国も宣戦布告を受けているのですから、早めに参戦しないと大変な事になりますよ?」
「…かつてヒトラーの増長を促したのはイギリスとフランスの弱腰な宥和政策のせいだ。戦うのが怖くとも、戦うべき時に武器を持たないといけないのは上層部も分かっているはずだ」
「…となると、我々が出来ることは上からの指示を待つのみですね」
「そうだな。日本政府を信じるしかない」
会議は微妙な空気を最後に終わった。
これから忙しくなるのは間違いないのだが、上からの指示がない限り勝手に動くことは出来ないのである。
だがやはり、公式な会議では無いため多少適当でも構わないのだが、会議がこんな短時間で終わるのは示しがつかない。
「ところで『空中戦艦』が自衛隊でも十分対処可能と仰ってましたが──」
それを見兼ねたのか、若手の新人が口を開く。
「自衛隊
「ああ! 確かにそうですね、それこそ議論すべきでしょう。それで…そんな国います?」
部屋にいる全員が今回の海戦に関して最も詳しい者に目を向ける。
目を向けられた男性は資料を片手に、まずは
「ええと…まずは皆さんの誤解を解かねばなりません。結論から言いますと、グラ・バルカス帝国が
「「????」」
一同の頭の上に「?」が浮かぶのを見て、彼は説明しておいて良かったと安堵する。
大昔に古の魔法帝国が開発し、現在は神聖ミリシアル帝国が研究、配備している『
防衛省からの情報によるとこの艦艇(?)は海面数百メートルを時速200km以上で飛翔する円盤型の有人兵器であり、数百年前のイージス艦に搭載されていた『CIWS』や『単装速射砲(艦砲)』に近い兵装を複数基配備している。
おまけに現在の自衛隊が有する『改良型燃料気化爆弾』に匹敵する威力の爆弾(超大型魔導爆弾ジビル)を複数搭載しており、水平線の向こうにいる敵艦隊へと真っ直ぐ向かっていたのを見たところ、レーダーかそれに近い物も装備しているとの事だ。
「そして防衛省が人工衛星からの映像をさらに解析したところ、この『空中戦艦』はそれなりの装甲があり、魔法によるシールドも張るため、第二次世界大戦時の対空火器のような小口径砲は全く効かない事が判明しました」
とまあこの世界の技術水準からしたら、スペックを見る限りは攻防ともに非常に強力で優秀な兵器である。
そう簡単に落とされるはずが──
「──にも関わらず1隻が撃ち落とされた…と」
ある程度軍事に関心がある職員が呟く。
「はい、戦闘中に件の『空中戦艦』がグラ・バルカス艦隊へと無謀な接近をしたらしく…近辺のグ帝艦隊を総動員したと思しきつるべ打ちを食らい、超たまたま偶然奇跡的に『クイーン・テンセンス』が放った砲弾が命中したそうです。さすがに46センチ砲には耐えられなかったようで、空中で木端微塵になりました」
そうだ。
いくら『
にも関わらず、今回は奇跡的に当たってしまったのだ。
この砲弾が当たっていなければ、グラ・バルカス帝国側の損害は何倍にも膨れ上がっていただろう。もしかしなくても、世界連合軍が勝つ事は十分に有り得たのである。
「この前のムー国新聞見ました? 『新たな伝説の誕生か!?』と書かれてましたよ」
「俺もそれ見ましたよ。連中、よっぽどショックだったようで──」
──バタン!!
会議室の扉をノックもなしに開け、大使館員が飛び込んで来る。
よほど急いで来たのか、額には汗が滲んでいた。
「会議中失礼します! ムー国外務省の課長が大至急、大使にお会いしたいとお見えになられました。可能な限り早く会いたいとも…」
本省職員の課長級がアポなしで直接来訪する。
そのような前代未聞の事態が緊急でない訳がなかった。
「…恐らく
外交官