日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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58話:民間船舶の防人

 中央暦1643年2月17日──

 第2文明圏 ムー大陸東側海上

 

 

 どこまでも続く青く広大な大空。

 気持ちの良い潮風が吹く大海原に、白く延びる1本の航跡。

 

 今日のような日には船の甲板で日光浴でもしたくなるだろう。

 しかし、日本国籍の大型自動車運搬船『DRIVE NEW WORLD』の操舵室はピリピリとしていた。

 

「間もなくムーに到着するが、油断はするな。引き続き対水上監視を(げん)となせ」

 

 船長の山口(まさる)が船員に呼びかける。

 問題なく作動しているレーダーは付近に艦船が存在していないことを示すが、それでも気を緩める訳にはいかなかった。

 その理由はいくつかあげられるが、最たるものは何と言ってもやはり、グラ・バルカス帝国の存在だろう。

 

 この国の説明をするのは簡単だ。

 日本国民の間では俗にG11(Gイレブン)と呼ばれる世界会議で全世界に対して宣戦布告をした頭のおかしい国である。

 ネット上では「まだパーパルディア皇国の方が立場を(わきま)えている」と揶揄されるくらいだ。

 

 そんな日本人には舐められまくりのグラ・バルカス帝国だが、一応の事ながら世界を相手に戦える程の力はあったらしい。

 ネットニュースで「バルチスタ沖海戦 世界連合艦隊 敗北」の見出しを見た衝撃は今なお忘れられない。

 

 しかも両陣営の損害比を見る限り、グラ・バルカス帝国が圧勝したのは誰の目にも明らかであった。

 世界会議で世界連合が勝てたのは、世界最強と言われる神聖ミリシアル帝国でもムーのおかげでもなく、日本の巡視船がいたからだったのだ。

 少なくとも、日本がこの世界に存在しなかったらグラ・バルカス帝国の世界征服も十分可能だっただろう。

 

 とにかく、グラ・バルカス帝国が海戦で圧勝したことでこの世界に元からいた列強国家の権威が落ち、海賊行為が急増したのは言うまでもない。

 そのほとんどは木造の帆船であるため、ミリシアルやムー、日本の船なら大抵の場合は大丈夫だろうが、その一方でそれ以外の要因で消息を絶った民間船も増えているのは無視できない。

 

 その要因とは何か。

 

 グラ・バルカス帝国の「潜水空母」による航空攻撃である。

 日本国の人工衛星がその姿をハッキリと捉えた事によって判明したことであった。

 

「──レーダーに反応が現れました! 例の『潜水空母』が海面に浮上したのだと思われます!」

 

 レーダーを見ていた船員が叫ぶ。

 画面を見ると、先程までは何も存在しなかったはずの海域に、1つの光点が表示されていた。

 

「レーダーの反応が増えました! 航空機と思われる反応が1つ! 時速約450kmでこちらに接近中!」

 

 しばらくしてから再び、船員が叫んだ。

 グラ・バルカス帝国の『シータス級潜水艦』から水上戦闘機『アクルックス』が飛び立ったのだ。

 

 この恐ろしい知らせを聞き、船員達はパニックに──

 

「狼狽えるな! 急いで『(はじめ)警護』の者に報告しろ!!」

 

 ──ならなかった! 

 

 

『株式会社 (はじめ)警護』

 テラフォーマーズ第18巻にて解説される日本企業。

「個人から国家まで契約者の財産を力ずくで(まも)る」ことを理念とする。

 一昔前の時代では、秘密裏に存在していた「地球警備部」という部門が地球に潜伏する『テラフォーマー(火星生物)』の駆除を行っていたが、その脅威が無くなった今では民間警備会社では珍しい「手術を受けた警備員」による警護で名を馳せている。

 過去に何度か日本を救っているため、その知名度と信頼度は非常に高い。

 

 

 日本とムーの両国政府は二国間の活発な交流、交易を強く望んでおり、今後も日本政府によるムーの優遇は続くだろう。

 

 だが、この世界は地球よりも広大で、ムーへの道のりは非常に長い。

 海運業会はシーレーン(海上交通路)の防衛強化を切実に願っており、それは日本政府も重々承知していたが、この世界が広すぎるために海自の手が回っていないのが実情だ。

 

 そこで、日本政府の出した結論はこうである。

 

『道中の安全は(はじめ)警護を頼ってくれ』

 

 なるほど確かに、金さえ払えば契約者の財産を力ずくで守る彼らは船の防人には打って付けだ。

 おまけに雇われる警備員は手術と戦闘訓練を受けているため、その能力面でも安心である。

 その実力や如何に、ドクロの旗を掲げた帆船、ワイバーン程度なら過剰防衛の域だ。

 

「まあ、戦う相手が航空機とは聞いてないがな……」

 

 船内から出てきた黒いスーツを着た屈強な男達が呟く。

 グラ・バルカス帝国の航空攻撃によって沈んだ民間船は多いが、彼の国の航空機による日本国籍を有する民間船への攻撃は今回が世界初の事例だったのだ。(『しきしま』は例外とした場合)

 

「──人為変態…!」

 

 各々が変身薬を取り出し、首筋から薬液を体内に押し込む。

 

 彼らは武器の携帯、所持をしていない。

 出来ないのではなく、その必要がないのだ。

 

 簡単な攻撃ではビクともしない硬い外皮。

 素手で猛獣を圧倒する怪力。

 人間の生み出す機械では再現不可能な機動力を生み出す()

 

 それに多種多様な生物の持つ能力が合わされば、武器を持たずともヒトは一騎当千の兵器(つわもの)となる。

 

「頼んだぞ…! (はじめ)警護!」

 

 羽を広げ、大空へと飛び立つ警備員。

 その後ろ姿は非常に頼もしく、船員たちは大きく腕を振って彼らの武運を祈った。

 

 


 

 

 後刻──

 

 

 潜水艦から飛び立った1機の特殊攻撃機『アクルックス』は海と空の青色に挟まれて洋上を飛行する。

 それを操縦するパイロット、アストル・ヒースコードは自分がつけられた役職に不満を抱いていた。

 

「クソがッ!! なんで俺がこんな所で!!!」

 

 どこに行こうが窮屈で狭く、澱んだ空気から逃れられない潜水艦の中は否が応でもストレスが溜まるものだ。

 彼は常日頃から溜まっていた鬱憤を全て吐き出すように、大空で1人寂しく怒鳴り散らした。

 

「ああ、クソ…!」

 

 飛行機乗りになれたのは良かった。

 良かったのだが、まさか戦闘機ではなく通商破壊が主任務である水上偵察機のパイロットに配属されてしまうとは…。

 

 今の自分がやっている事と言えば、暗い潜水艦の一室でひたすら待機し、敵の民間船が発見されたら航空攻撃で撃沈するだけだ。

 これでは単なる「弱いものいじめ」ではないか。

 

 敵との華々しい航空戦はどこへ消えた? 

 つい先日起こったというバルチスタ沖の海戦では、ミリシアルの『空中戦艦』なるものに味方のパイロットが大勢犠牲になったと聞くが、戦闘機乗りを全うして逝った彼らが羨ましい。

 

 それでも帝国軍人たるもの、皇帝陛下より授けられし機体(期待)を無下にする訳にはいかない。

 

「……悪いが覚悟しろよ!」

 

 翼下に取り付けられた2発の60kg爆弾。

 帝国の軍艦はおろか、ミリシアルやムーの軍艦が相手でも威力が不足気味なのは(いな)めないが、今回も爆撃目標は民間船舶だ。

 いつも通り、汚い花火を噴き上げて沈んでくれるだろう。

 

 彼はそう思っていた。

 

「────なんだッ?!」

 

 自機に真正面から突っ込んでくる「何か」を発見し、彼は脳が判断するよりも速く、操縦桿を折れるほどに傾けた。

 

 鉄が軋む音と共にコックピットの視界は瞬時に反転する。

 今まで見えていた大空は大海原へと変わり、彼は今の一瞬で機体が軽くなったのを感じていた。

 

「フロートが無い! まさか破壊されたのか?!」

 

 体勢を立て直して旋回しつつ、彼は状況確認で機体下部のフロートが根元から無くなっている事に気が付く。

 

 この機体には特殊攻撃機『アクルックス』なんて大層な名がつけられているが、元々は『アンタレス型艦上戦闘機』にフロート(浮舟のような艤装)をポン付けしただけの機だ。その強度はたかが知れている。

 敵の攻撃、もしくは今の急な機動でフロートが外れ落ちてしまったのだろう。

 これでも飛行は可能…というより、むしろ空中での速力や機動性は上がるので戦闘面に関しては何も問題ない。

 

 問題なのは、これでは着水ができない事だ。

 着水自体は可能なのだろうが、胴体部分のフロートが無い状態で着水なんかをすると、折りたたみ式の両翼が折れ、大惨事になるのは目に見えている。

 

「……ありがとよ。邪魔な荷物を取り外してくれて」

 

 アストルは爆弾を空中で投棄し、コックピット内で呟いた。

 

 すれ違ったのは間違いなく敵だ。

 一瞬しか見れなかったが、その全容も把握した。

 

「まさか最初で最後の航空戦の相手が『空を飛ぶ人間』だとは思わなかったぜ。だがな……負ける気はしない!」

 

 もう潜水艦に戻ることすら叶わない身だ。

 なら最後くらい、華々しく散っても良いだろう? 

 

 ──ヴゥゥゥウン!!! 

 

 フロートを失ったことで軽くなった機体は本来の高い機動性を取り戻し、エンジンはパイロットの気持ちに呼応するかのように猛々しく唸る。

 4基の機銃が弾丸をばら撒き、曳光弾を混じえたそれは光線のように空へと消えて行く。

 

 お互いに鋭い軌道を描いて乱舞する航空機と人型の影。

 現実には絶対にありえない光景だが、ここは『竜』と『レシプロの複葉機』、同じく『レシプロの単葉機』、『ジェット機に似た魔法の航空機』と『本物のジェット機』、そして『改造人間』が乱戦を繰り広げる異界の空。

 一瞬の油断も隙も許されないこの大空の戦いでは、参加者(パイロット)参加者(パイロット)はお互いを死地へと落とし合う。

 

 少しのミスも許されない空戦は永久(とわ)に感じられた。

 

「────!!!」

 

 とは言え、人間の作り出す航空機では再現不可能な軌道で飛行する相手に、前に飛ぶことしか出来ない前時代的な航空機で挑むのは無謀もいい所であった。

 

 失速したのを見逃すまいと、羽の生えた人間はアストルの操縦する機体に肉薄し、コックピット前部に取り付く。

 そして取り付いたまま腕を引き──

 

 ──パリンッ!! 

 

 防弾仕様のガラスを()()()貫いた。

 おおよそ人間の成せる業では無いが、骨質の外殻のようなもので覆われた鋭利な手はガラスのコックピットを難無く打ち貫き、アストルの胸に深々と突き刺さる。

 

「あ…ガっ…?」

 

 胸を貫かれたと言うのに、アストルは酷く冷静だった。

 アドレナリンの出過ぎで痛みを知覚出来なかったのもあるだろう。

 それ以上に、夢にまで思い描いていた航空戦を繰り広げる事が出来た事への喜びが強かったのだ。

 

 そして、彼は最後まで帝国軍人であった。

 

「お前も…道連れだ…!」

 

 両腕に万力の様な力を込めて、彼は己を貫いた腕を掴んで離さないまま、操縦桿を足で蹴り倒して機体を急降下させる。

 祖国の敵を己の命と引き換えに滅ぼす事が最大の誉れだと言わんばかりに。

 

 再びエンジンが大きな唸りを上げ、ドップラー効果によってその音は甲高く海上に響き、機体は海面に向かって真っ逆さまに飛翔する。

 

「祖国よ永遠なれ!!」

 

 叫び終わるや否や、海上に大きな水柱が立ち上がった。

 

 


 

 

 ──しばらくして海面に無惨な姿となった飛行機の残骸が浮かび上がり、それらの回収が行われた。

 大きな損傷を受けてはいるものの、何とか原形を留めているパイロットの遺体も回収されたとの報告も上がった。

 

「いつだって敵にしたくないね…。ああいう……死んでまで戦う理由のあるヤツはな…」

 

 落ちる直前まで腕を掴まれていた(はじめ)警護の警備員が呟く。

 すんでのところで拘束を振り解けたから良かったものの、落ち()く機体から離脱するのが少しでも遅かったら、彼も無事では済まなかっただろう。

 

「最初は俺たちの空戦能力の高さを見せつけて…大人しく降伏でもしてくれないと考えていたが……。忘れていたな、俺たちの先祖も圧倒的な国を相手に玉砕覚悟で戦っていたのを…」

 

 いつの時代でも、戦っているヤツらはそうなのだろう。

 圧倒的な強者を相手にしても臆さず立ち向かい、勝つまでやる(戦う)、死んだら呪う。

 人類にとって闘争とは単なる「今の自分の生存の為」ではない。

 

 世界は違えど、戦っているヤツらは皆そうなのだ。

 

 そして結果だけ見ても、あのパイロットは国同士の戦争で大きな役目を果たしていた。

 

「潜水艦の方は潜航して逃走したか…。こりゃあ、航空機と『改造人間』の戦闘記録が敵に流れてしまったなあ…」

 

 (はじめ)警護の手術を受けた警備員とは言え、戦闘機との戦い方は知らない。

 彼らは先程の空戦で時間を稼がれ、一部始終を見ていたであろう潜水艦に逃げられてしまったのである。

 これからグラ・バルカス帝国にもたらされるであろう情報が彼の国にとって良くも悪くも非常に大きなものになるのは言うまでもない。

 

 これによってグラ・バルカス帝国が「日本国には勝てない」と和平交渉でもしてくれれば万々歳だが────

 

「最悪の気分だ…」

 

 勝てないと分かっていても、戦うヤツらは多いのだ。

 

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